トシの読書日記

読書備忘録

孤独の三重奏

2008-01-10 20:22:28 | あ行の作家
絲山秋子「海の仙人」読了

今まで何冊か同作家の小説を読んできたが、ベストといってもいいくらいの作品でした。

敦賀で、一人で古い借家を借りてきままに暮らす主人公に二人の女がからむというストーリーなのだが、みんな孤独なんですね。心が通い合っているかのように見えても実は「孤独」という玉を抱えているんです。

読んでてちょっと悲しくなりました。でも、それだけで終わらないところがこの作家で、主人公の恋人が乳がんで亡くなったり、主人公自身も落雷で失明したりと、話はどんどん悲惨な方へいくんだけど、ラストに近づくにつれて、明るい光が射し込むような、そんな温かい気持ちにさせてくれる小説です。

今年は、1月からおもしろい小説を立て続けに読むことができて、幸せです。


美は罪

2008-01-10 20:04:56 | さ行の作家
桜庭一樹「少女七竃と七人の可愛そうな大人」読了

今、非常に気になる作家で「私の男」というのが話題になってるのだけど、先日ブックオフに行ったらこれがあったので「まずこれを読んでから」と思って買ってきた次第。

最初の部分は、なんだかやたら説明的でもったりしてて「桜庭一樹って、いうほどおもしろくないじゃん」なんて思いながら読み進めていったところが、それは、あまりにも」的外れな感想であったと思い知らされた。

すっごくおもしろいです。読ませます。

主人公の七竃がとびっきりの美人であるのは、母親がいんらんだったからであると、そこでまず「ん?」と思うわけですね。
母親は25の時分に1ヶ月で七人もの男と寝るわけですが、それで生まれたのが七竃で、七竃の幼馴染の桂雪風とは、実は兄弟であるようなことも示唆されていて、物語の興味は尽きません。

舞台が北海道の旭川というのもこの物語にしっくりくる感じだし、会話が妙に古風なのもおもしろかったです。

新年早々、すごい本に出会いました。

12月のまとめ

2008-01-10 19:35:52 | Weblog
12月に読んだ本

山本文緒「プラナリア」
モブ・ノリオ「介護入門」
中村文則「土の中の子供」
阿部和重「グランド・フィナーレ」
三崎亜記「となり町戦争」


12月も5冊でした。ほとんど休みもない状態で、よく読めたものです(苦笑)

12月は、押しなべて不作でしたねぇ。これといってずば抜けた小説はありませんでした。強いていうなら「グランド・フィナーレ」でしょうか・・・

来月に期待です。

失うことの悲しみ

2008-01-10 19:34:22 | ま行の作家
三崎亜記「となり町戦争」読了

第17回小説すばる新人賞受賞作

以前に読んだことがあって、再読になるのだが、文庫にするにあたって、特別書き下ろしサイドストーリーを収録とあったので、興味を惹かれて手に取った次第。

「バスジャック」もそうなのだが、この作家の持ち味は非日常的なとんでもないことを、わりと淡々と描いて読者をその世界に引きずり込むということなのだが、本作品も「戦争」という、あまりにも非日常な出来事を普段の生活にうまくすべり込ませることで、独特な世界を築いている。

なにしろ「戦争」ではなく「戦争事業」ですからね。町の発展のために戦争を始めるという、とんでもない発想からスタートしてます。

なかなかおもしろかったです。サイドストーリーも楽しめました。

死を凌駕する精神

2008-01-10 18:45:25 | な行の作家
クリスマスから年末年始と、かつてないような人手不足に悩まされ、ブログどころではなく、今日やっと更新ができます。

中村文則「土の中の子供」読了
第133回芥川賞受賞作。

幼いころ両親に捨てられ、親戚に預けられてそこで虐待の限りをつくされ、あげくのはてに山中の土の中に埋められ、あやうく死ぬところを自力で出てきたという過去をもつ男の話です。

暗い暗い話です。車谷長吉を思い出させます。

主人公は、過去に異常な体験を持つがゆえ、死に対して常人とは全く違った感覚を持っており、それが物語に暗い影を落としている。

生きていくことの意味を、普通とはまた違った角度から捉えた意欲作といえると思う。