トシの読書日記

読書備忘録

失わていくものへの哀惜

2017-12-19 16:38:20 | ら行の作家



フリオ・リャマサーレス著 木村榮一訳「黄色い雨」読了



本書は今年2月に河出文庫より発刊されたものです。姉から「面白い人見つけた」と言って貸してくれたものです。



何の予備知識もなく読み始めたのですが、なかなかよかったです。この全編に流れる荒涼感、すごいですね。しかし、この陰々滅々とした空気は好みが分かれるかもしれません。シチュエーションは全く違うんですが、ポール・セローの「極北」にも似た世界を感じました。


スペインの山奥の寒村で、一家族、また一家族と彼らは村から出ていく。最後に「私」と妻のサビーナ、そして雌犬一匹だけが残される。しかしサビーナは淋しさに耐え切れず、自ら命を絶ってしまう。犬一匹と「私」はそこで何をすることもなく何年も暮らすわけですが、自分に死の影が近づいていることを知り、犬を猟銃で撃ち殺し、自らもベッドに横になってじっと死の訪れを待つ。


こんなあらすじなんですが、昔はやった「やおい」というのを思い出しました。この作品もヤマはないし、オチもない。がしかし、意味はあると思います。雨のように降りしきるポプラの枯葉。これがタイトルに象徴されているわけですが、この枯葉が死のメタファーになっているわけで、このシーンは度々登場します。しかし、そのもろく、壊れやすい枯葉=命というものを著者は、かけがえのないものとして慈しみ、作中でそれを慈愛に満ちた眼差しで捉えていると思います。


読むほどにこころにじんわり響く小説でした。

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