昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説<手術室から>(23)息子の手術(2)

2015-08-29 01:15:51 | 小説・手術室から
 名刺の威力は絶大だった。
 すぐ若い医師がすっ飛んできた。後で俊から聞いたところによれば、彼はこの病院のオーナーを継ぐべき二代目だそうだ。
 大学の附属病院副院長と若いオーナー医師は、廊下の片隅でしばらくひそひそ話をしていた。
 権威者は笑顔で接していたが、若僧は恐縮の極みのように頭を下げっぱなしだった。
 

 池田は秀三にその結果を簡単に説明した。
 感染症に罹っている可能性があり、このままでは顔に傷跡が残るかもしれない。もし菌が目に入ったりしたら大変なことになるという。
「転院する算段をとりましょう・・・」
 池田はつぶやいた。
 秀三夫妻はわざわざご足労いただいた池田に対し、単なる友人ではなく、社会的権威ある地位に対して深く頭を下げた。

「そういわれれば、この病院ってずいぶん不潔よね。患者に使ったタオルが廊下に干してあるし、リンゲル液の容器までいっしょにぶら下がっていたわよ。あんなものは普通使い捨てじゃないの? 洗ってまた使うのかしら? 信じられない」
 帰りの車の中で咲子が興奮気味に言った。
 

 ─続く─

 <好奇心コーナー>
 

 街中ではめずらしい群生する百日紅が満開となった。
 これから文字通り九月にかけて長い間赤く咲き誇る。