昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説<手術室から>(12)村上晶先生(4)

2015-08-12 03:22:59 | 小説・手術室から
 一瞬そんな記憶に耽っていたせいか、秀三はうっかりして検眼鏡のあご当てを越えてあごを突き出してしまった。
 
「これは何のためにあるのか分からないの!」
 先生は何か不機嫌になる原因を引きずっていたのかいきなり患者に冷たくあたった。

 無言で検査し終ると、さらに追い打ちをかけるように言った。
「それで? 手術をされたいのですか?」
       
 秀三は、すぐにでも手術をしたほうがよろしいですね、という言葉を当然こととして予期していたのでそのどうでもいいような冷たい言い方にショックを受けた。

「このまま放置すると危険があるということなら、しなければと思っていますが」
 彼はいささかムッとして答えた。
「そうですね。お年をとってからの手術はたいへんですし、緑内障に移行しないとも限りませんから・・・」
 患者の言葉のうちに怒りが潜んでいるのを感じたのだろうか、先生は先ほどのぶっきらぼうな口調を少し訂正するようにしゃべった。
「来週眼底の検査をさせていただきましょう」
 ・・・来週? さんざん待たせたあげく、なぜ今日ではなくて来週になるのだ・・・
 秀三の腹の底からまた怒りがこみ上げてきた。

 しかし、診察室を出て待合の患者の数を眺めると、しかたないのかなと納得せざるを得なかった。
 
 ─続く─

 <好奇心コーナー>
 

「日本を責める前に自ら反省を」
 韓国で慰安婦問題とともに自らの軍のベトナム虐殺を問題にしている平和団体が、被害を受けたベトナムのラン氏、ダン氏を招いた。
 ・・・これまでの韓国に対するイメージががらっと変わった。