昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説<手術室から>(7)美人眼科医(3)

2015-08-02 03:48:27 | 小説・手術室から
 ところが検眼鏡越しに秀三の右目をチェックしだすと、先生はとたんに今までの冷静さを欠いたかのように息づかいが荒くなって「ハーッ!」とか{フーッ!」とかしきりにため息をつきだした。
 

 ・・・よほど悪いみたいだ・・・
 秀三は先生が興奮する割には冷静で、どうせ見えない目だしとそれほど気にならない。
「どうなんですか?」
「ひどい白内障ですね。放っておくとたいへんですよ」
「どうせ見えない目なんだから・・・」
 秀三は捨て鉢ぎみに言った。

「進行すると緑内障になって、レンズが溶けて血管に入るとそれは痛いんです!」
「レンズが溶ける?」
「吐き気がして苦しんで救急車で内科に運び込まれて原因が分からなくて、よく調べてみたら目が原因だったことがよくあるんです!」
 

 先生はきれいな顔をゆがめて素直でない患者を脅す。
 秀三は予想される回答を思い浮かべながら訊ねた。
「それでどうしたらいいんでしょうか?」
 優しい先生は頭を少し後ろに引き、愛情のこもった深い眼差しで包み込むように彼を眺めると、眉を寄せて気の毒そうに言った。
「手術をしたほうがいいと思いますよ・・・」

「手術はこちらで?」
 ・・・まさかこの品のいい先生があの野蛮な手術などに手を下すとは・・・
 彼はそう思いながら訊いた。
「いいえ、この辺りではS総合病院が全国的にも有名な眼科医をそろえていらっしゃるので、そちらにお願いしたらと思いますが」
「どなたかいい先生をご紹介いただけますか?」
 医者もピンからキリまでいる。キリに当たったら災難だ。
「もちろん実績のある先生をご紹介いたします」
 
 彼はまだ現実を直視しようとしていなかった。
  優しくて美しい先生の顔をじっと見返していると、待合室で長時間待っている他の患者のことなど、もうどうでもよかった。

 ─続く─ 

 <好奇心コーナー>
 

 暑中お見舞い申し上げます! <昭和のマロ>こと私めは、今何をやっているのか? ご支援いただいている方々に感謝を込めながら報告致します。。
 *文芸社から「レロレロ姫の警告」の第3刷、および第2作の「雪舞う日」(認知症、介護施設の問題をテーマとしている)に関して出版するよう奨められていますが・・・。

 *取り敢えず従来より執筆していた作品を整理し、まとめて別な公募に出品しました。

 第3作「マロよ翔べ!」(うらなり瓢箪、軟弱者の主人公マロは、高度経済成長時代に就職した小さな商社で挫折し、どう対応したのか?)
 第4作「仮面のツアー」(魅力的な女性に翻弄される男性のイタリア旅行記)
 第5作「なるほど!と思う日々」(先人の知恵に<なるほど!>と納得、日々書き連ねる。若き人たちに伝わることを期待しつつ)