ステージおきたま

無農薬百姓33年
舞台作り続けて22年
がむしゃら走り6年
コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

芝居はエンディングで決まり!『焼肉ドラゴン』

2019-09-17 09:27:40 | 演劇

 すまん!今日も本ネタだ。鄭義信(チョンウィシン)の『焼肉ドラゴン』(角川文庫)小説版だ。

 この作品、まず舞台中継で見て、強烈な衝撃を受けた。その後、脚本も読んで圧倒された。じゃあ、映画も、と思って、アマゾンビデオではウオッチリストに上げてあるが、その前に、小説版も読んでおこう。案の定、感動した。なんか小泉パパみたいだが。涙の個所と量は減ったが、今回も随時にこみあげるものがあった。

 1969年から70年、日本全体万博ではしゃいでた頃だ。あっ、もちろん、こちとら見向きもせずに斜に構えてたけどな。大衆的な全共闘運動が先鋭な政治闘争へと変貌して行った時期だもの、当時の大学生としちゃぁ。

 大阪の場末に暮らす在日朝鮮人や、出稼ぎ韓国人、それと下積みの日本人たちの怒涛のぶつかり合いが描かれている。恋に不倫に離婚にいじめに住居立ち退きをめぐる役所との対決などなど、凄まじい罵声と嘆きのエネルギーの中で進行する。

 本も映画もすぐに手に入るはずだから、あらすじの説明は略。

 今日書くのは、エンディングの見事さだ。誕生の際は狐憑きのように飛び跳ねて喜んだ息子は、いじめ自殺?で今はなく、激しく恋情をぶつけ合った3人の娘たちもそれぞれが行き先を見つけ、長年一家ばかりか周辺の人たちの暮らしを支えてきた焼き肉屋の店も、土地収用されてもはや、屋根の一部と『焼肉ホルモン』の看板を残すのみ。

 馴染みの客たちが名残りを惜しみつつ去り、娘たちもそれぞれに再開を期しつつ、北朝鮮へ韓国へ他の土地へと去って行く。残された夫婦の会話。

   「うちら二人だけですな・・・」

   「故郷と、故郷の家族を捨てたときから、わしら故郷と家族に見放されてしもた・・・」

   「すすんで捨てたわけやないです」

   「それがおまえの八字(宿命)で、わしの運命や・・・」

       どこからか桜の花びらが舞い降りて来る。

    ・・・

   「春の風に桜が舞うとる・・・えぇ心もちや・・・こんな日は明日が信じられる・・・たとえ、昨日がどんなでも、明日はきっとええ日になる・・・」

 オープニングで、息子と屋根の上で夕景を見ながら交わした言葉が、出発の心を奮い立たせる言葉として使われる。その前を向いた面立ちに救われる。そして、

       家の中に入り息子の写真をかき抱き、ろうそくの火を消す母ちゃん。

    「カプシダ(行こう)」

       お父ちゃんがリヤカーの前に回って、柄をつかむ。リヤカーの後ろに腰をおろす母ちゃん。

    「押すんやないのか」

    「うちは足が悪いんです」

    「いつからや?」

    「チャー、チャー、バリカブシダ、ヨボ(ほら、さっさと行きましょ、お父ちゃん)」

       明るく声をかける母ちゃん。

    「アラッソ、ヨボ(あいよ、お母ちゃん)」

       父ちゃんはリヤカーを引いて坂道を駆け上がる。屋根の上で手を振り続ける息子。

 ずっと本を読み通し、舞台を見続けて来た人には、このシーンの素晴らしさがググッと迫って来るはすだ。ここにはラストシーンの意味の大きさがすべて凝縮されている。登場人物たちの行く末がすべて語られ、過去の悲痛な出来事が思い起こされ、そして、その苦難を乗り越えて走り出す明るさがある。芝居の基本構造がぎちっとはめ込まれているんだ。

 こういうラストを描かなくっちゃな、ってつくづく思い知らされた。どうだい?『流れ旅 真っ赤な夕日の』。あれでいいのか、エンディング。真っ赤な夕日に立つ幻の兵士。一人、切なく「宵待ち草」を歌い続ける娘。まるで不明瞭だぜ。その後の展開についての示唆も一切なし。もちろん、希望なんて微塵も見つからない。

 なんとか書き足すべきなのか?この小説の読後、しばらく思い悩んだ。以前、井上ひさしさんから言われた言葉、「幕はセリフで下ろさないと」を思い出す。またもや、今回もイメージで終わりにしようとしている。まだまだ、劇の構想力もセリフの発想力も足りないってことだな。も一つの井上さんの助言、ラストシーンが固まってから書き始める、これはずっと守ってきてるんだが、この情緒的なエンディングは、もう俺の本質そのものなんだろう。

 もう一つ思い出した。高校時代、国語の先生から、論理を進める前で止めている!って。見事、中心をグサッ!だったな。

    

 

 

 

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 埋もれた歴史に光る人生!『... | トップ | 稲刈り、天気待ち! »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

演劇」カテゴリの最新記事