ステージおきたま

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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

『壁20xx』って芝居を作った。

2020-04-07 09:05:01 | 演劇

 昔の話しだ。8年ほど前のことか。

 高校演劇の台本として、『壁20xx』という作品を書いた。

 舞台には、高い壁がそそり立ち、頑丈な鉄扉がただ一つ、入り口を固く閉ざしている。忍び寄る者たち、突如扉が開き、防護服に身を包んだ兵士たちが現れる。威嚇射撃を繰り返しつつ、一体の遺体を放り出し、慌てて退却する兵士たち。

 身ぐるみ剥ごうと近寄る影。放り出されたのは、若い女。辛うじて息がある。たじろぐ影の者たち。リーダーと思しき者の指示で女を助け起こし闇に消える。

 こんな出だしで始まる話しだ。致命的な疫病に襲われ、外部からの感染を防ぐため、ロックダウンした街、いや、そこからはじき出された者たちの物語だ。

 少しだけ時代を先駆けていたかな。他国からの入国禁止を打ち出す各国の状況、それを究極の形に凝縮した構図だ。埋葬処理できず、戸外に運び出されている遺体の映像なども、見通している感じだ。もっとも、ロックダウンは町から人々を家屋の中に追い込んで逼塞さているし、まだ重傷者を救うべく必死の努力がはらわれているから、そこは芝居とは大きく隔たっている。危惧されている医療崩壊がついに行き詰まり、感染者を隔離、さらには排除、除去にたどり着いてしまった世界だ。

 そこでは、当然、それまで一部にとどまっていた差別と排斥の行動があからさまに荒れ狂う。これは、もう始まっている。水商売の従事者を補償の対象から外す(幸いネットで大きく批判を浴び撤回されたが、松本人志なんかは傲然その差別感を発言している)とか、外国人労働者は対象から外すべきだ、など、国会議員の中からさえ、こんな差別発言が飛び出している。さらに感染が広がり、パニックが荒れ狂えば、芝居に描いた高く強固な壁が築かれないと限らない。

 作品ではじき出された影の者たちとは何か。それは、反社会的で放埓な活動を繰り返す若者グループと高齢者施設に放置された年寄りたち、そして、ロックダウンに反対した女、感染者の介護に奔走し自らり患した女。ほほう、これまた、来るべき世界を捉え切っているんじゃないか。あまりに暗い予感だが。

 廃墟となった高齢者施設。そこに取り残された年寄りたち。つかの間の平和。肩を寄せ合って暮らす無頼の若者たちと年寄りたち。しかし、そこにもじわじわと感染が広がり、つぎつぎに仲間が死絶えていく。壁に向かって、開門を叫ぶ若者たち。静まり返り拒絶する堅固な壁。絶望した若者たちは、ついに、無謀な突撃を敢行する。機関銃の連射。死に絶える若者たち。

 完全なディストピア!

 これを書いたのは3/11の翌年だ。疫病は放射能もイメージしていた。

 期間困難区域の、ほんとちっぽなスポットが除染され、明るく街の復興を喧伝しいる。が、それは、その外側に、今も避難生活を余儀なくされる人たちをはじき出し、無視し続けることの裏返しだ。

 人間は、差別意識に弱い。苦しくなれば、他を排斥し、他に責任を押し付けて自分を守ろうとする。歴史はすでに幾つもの実例を持っている。ナチスのユダヤ人迫害、関東大震時の朝鮮人虐殺・・・

 ぎりぎりの事態を招かねば、その悪魔は底の底にじっとしている。だが、コロナのよう、福島のように、究極の局面を迎えししまえば、すぐに我がもの顔で立ち現れてくる。その突きつけられた選択の刃をどう払いのけて行くのか、世界が問われ、国が問われ、社会が問われ、そして、一人一人が問われている。

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