スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

門&意志論と自由論

2022-07-25 19:29:41 | 歌・小説
 『彼岸過迄』はいわゆる修善寺の吐血から生還を果たして最初の連載小説でした。その前に朝日新聞に連載されていたのは『門』です。
                                        
 この作品は,『三四郎』,『それから』と合わせて三部作と呼ばれています。つまり『それから』が『三四郎』のそれからを意味するとすれば,『門』は『それから』のそれからということになります。もちろんこれらは独立した作品であって,たとえば『三四郎』と『それから』の間に,直接の繋がりがあるわけではありません。それと同様に『門』も『それから』と直接的に繋がっているわけではないです。ただし,『三四郎』と『それから』の間の繋がりに比べれば,『それから』と『門』の間にある繋がりは,より強固なものがあると僕は感じます。
 『それから』の物語は,かつて自分が好きだった女が友人と結婚し,時を経てその女を友人から奪い返すというものでした。『門』の主人公である宗助は結婚していますが,結婚相手の御米は,宗助の親友であった安井から奪ったという設定になっています。『それから』の平岡と三千代は結婚していたのに対し,安井と御米はおそらく内縁関係で,最初に安井から御米を紹介されたときも,安井は御米のことを自分の妹と言っているように,はっきりとした相違はあるものの,『三四郎』における三四郎と美禰子の関係を,『それから』の代助と三千代の関係に当て嵌めることは難しいのに対し,代助と三千代の関係は,宗助と御米の関係には当て嵌めやすくなっています。
 『門』というタイトルは,小説を連載するにあたって漱石の弟子が勝手につけてしまったもののようですが,漱石はそれらしい内容にしています。というのも物語の中に,宗助が寺院の門を叩いて座禅を組むというプロットが挿入されているからです。しかしそれが何か物語に重要な影響を与えるのかといえばそうではありません。むしろ『門』の物語はきわめて日常的なものであって,ダイナミズムには欠けているといっていいでしょう。

 スピノザがあらゆるものに恣意的な自己決定という意味の意志voluntasの余地を認めていないことは,意志そのものという観点からは第二部定理四八を,またそれが個物res singularisだけにではなく個物以外のもの,それは事実上は神Deusを意味するので,神にとっても適用されるという観点からは第一部定理三二系一を参照してください。
 これらのことは意志論の範疇に入るのであって,自由論とは異なります。ですがスピノザの哲学において自由libertasを論じる場合は,この点を押さえておかなければなりません。これを理解しておかなければ,自由論を開始することができないといってもいいでしょう。なぜなら第一部定義七は,自由と必然は反対概念ではないことを示すという戦略的な意味を含んでいるのですが,それは同時に,自由であるか自由でないかは意志によって決定されるのではないという意味を含んでいるからです。なぜなら,それ自身によって決定されるということは自由意志voluntas liberaによって決定されるということであり,ほかのものによって決定されるということは自由意志によって決定されていないということを,少なくともスピノザの時代には意味していたのであり,スピノザはそれを否定しているのだからです。
 したがって,自由とは自由意志であるということをスピノザは否定しているのです。他面からいえば,哲学上の趨勢は,自由とは自由意志のことを意味するのです。ですから自由意志を否定するnegareことと,自由を否定することとは,趨勢からは同じことを意味します。当然ながらスピノザはそのようにすることもできました。つまり,あらゆるものに対して自由意志を否定したのと同じように,あらゆるものに対して自由を否定するということができたのです。これは意志と自由を両方とも否定するということであって,一般的な意志と自由の理解の仕方からは,適切と考えられるような処理の仕方であるといえます。
 ですがスピノザはそのような手法は採りませんでした。その代わりに自由の概念notioを新たに作り直したのです。だからこの点を理解しておかないと,スピノザの哲学における自由論をスタートさせることができないのです。ということでここから自由論を始めます。

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