スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

それから&第五部定理二一

2017-02-04 19:09:11 | 歌・小説
 夏目漱石の小説の主人公の男は,コキュよりも逆に寝盗る男の方が多くなっています。ただ,主人公が寝盗るのであれば,寝盗られる男も物語の中に存在することになります。コキュというのを寝盗られる亭主という意味に解した場合には,最も典型的なのが『それから』の平岡でしょう。
                                     
 主人公の長井代助は,中学時代からの知り合いであった平岡に三千代という女を周旋してやりました。その後ふたりは関西に転勤になります。3年ぶりに東京に戻った三千代と再会した代助は,実は自分が三千代を愛していたということを自覚し,三千代もまた自分のことを愛しているのだと確信します。このとき経済的に困窮していた平岡は,代助に対して,悪くいえば脅迫まがいのことまでするようになっていて,かつて代助が知っていた平岡からは変貌を遂げていました。これは平岡が『明暗』の小林の前身たり得るように変貌していたという意味です。代助は自分の気持ちに素直になるべきであると考え直し,三千代が平岡と別れて自分と一緒になることを提案。最終的に平岡から三千代を奪うことになります。
 これは表の物語で,その背後には代助という名前が象徴するような戦前の家父長制や明治時代の民法の規定もまた物語に組み込まれていることはすでに紹介しましたからここでは重複は避けましょう。ただ,経済的に余裕がある,といっても代助はこの一件を機に仕送りを停止されるので,その後は余裕があるとまではいえなくなる筈なので,困窮しているとまではいえないといった方がいいかもしれませんが,そういう代助と貧困状態にあるといえる平岡との三千代を巡る関係は,お嬢さんを介した『こころ』の先生とKの間の関係ともリンクするかもしれないと僕は思っています。そちらについてはいずれ僕の読解を説明しましょう。
 平岡は典型的なコキュですが,寝盗られ願望はまったくないといっていいと思います。漱石の小説には,反対にコキュとまではいえないけれども寝盗られ願望があるかもしれないと思える人物が登場する小説もあります。それについてもいずれ説明します。

 『エチカ』の中で,ここまでの僕の考察の確証をさらに強くする定理Propositioとして,意外と思われるかもしれませんが,第五部定理二一があると僕は考えています。
 「精神は身体の持続する間だけしか物を表象したり・過去の事柄を想起したりすることができない」。
 僕は想起memoriaを表象の種類のひとつと規定しますので,この定理は身体corpusが現実的に存在する場合にのみ精神mensは事物を,この事物には現実的に存在している自分の身体や精神も含まれますが,そうした事物を表象するimaginariという意味です。
 まずこの定理は,人間の身体が外部の物体corpusから刺激を受けるafficiのは,身体が現実的に存在する場合だけであるということを意味します。これは表象imaginatioというのは身体が外部の物体に刺激を受けるという様式の下に発生するのだから当然です。それと同時に,これと完全に同一の様式の下に,人間の精神は共通概念notiones communesを有するのです。いい換えれば,人間はある事物を表象したとき,この場合には外部の物体を表象したときと限定する方がよいでしょうが,必然的にnecessario共通概念も形成するのです。したがって,人間が共通概念を形成するのは,人間の身体が現実的に存在する場合だけであるという意味も,この定理の中に見出すことができるでしょう。
 共通概念による事物の認識cognitioは,精神の能動actio Mentisに属さなければならないのでした。したがって,現実的に存在する人間は必然的に精神の能動によって事物を認識するcognoscereということもこの定理から帰結させることができます。そしてこうした共通概念による認識のことが,スピノザの哲学では理性ratioによる認識といわれるのですから,これは現実的に存在する人間は必然的に理性的な認識をするという意味でもあります。よって第四部定義八でいわれている徳virtusというのは,現実的に存在する人間にとっての徳であり得ることになります。
 このことは現実的に存在する人間であれば性別を問われることはありません。つまり男にとっても女にとっても妥当します。したがってこの定理自体が,男だけが,あるいは女だけが理性的であり得るということを否定し,男も女も同じように理性的であり得るということを含意させられると僕は考えるのです。
コメント
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