スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

国元の事情&観念の原因

2018-04-24 19:01:25 | 歌・小説
 奥さんは先生との同居を決定するときに,単に先生が下宿人として適しているかだけでなく,の結婚相手として相応しいかという観点からの面接をしたのは間違いないと思います。しかし一方で,それは財産目的というのとは違っていたと解します。そう解さないと,先生と静の結婚をKに告げたときの状況を先生に尋ねられたとき,Kの「私は金がない」ということばを嫌味とは受け止めなかったがゆえに先生に包み隠さず話したという解釈が成立しないからです。結婚が財産目的であったなら奥さんはそれを伏せる筈なので,財産目的ではなかったということは前提でなければならないと僕は考えるのです。
                                     
 ただし,次のことはいえます。奥さんの面接は先生の記述では身元や学校や専門についていろいろと質問したことになっています。そしてたぶんこのとき,Kが同じ面接を受けていたとしたら,合格しなかった可能性はあると思います。端的にいえば,奥さんは将来的に困窮にあえぐ可能性があるとみた人物を静の結婚相手としては選ばなかったでしょう。ですからこのような意味でそれが財産目的であったというなら,それは財産目的ではあったのです。ただ,奥さんは面接をした時点で,どれほどの財産が先生にあるのかということについては確たることを知っていたわけではないと思います。実際に先生は身元について質問されたとはいっていますが,それは財産についてであったとはいっていません。先生は長男の悲劇を味わっているので,それを質問されたらきちんとそう書くし,そもそもそのようなところで下宿する気にはならなかっただろうと思います。
 このことは下十五からもある程度は確かめられます。先生はそれまで国元の事情について多く語らなかったけれど,あまりに求められるから話したと書いています。ということはそれまでは奥さんも静も,その事情を何も知らなかったのです。
 財産があることは結婚にはプラスに作用した筈です。でも最初の時点で結婚相手として合格したのは,財産そのものとは異なった事情であったと僕は思います。

 それが真の観念idea veraか十全な観念idea adaequataかの相違は,観念を外来的特徴denominatio extrinsecaからみるか本来的特徴denominatio intrinsecaからみるかという,いってみればこれも観点の相違にすぎないといえるのに,なぜこの相違の方を僕が重要視するのかという理由は,ふたつの論点から説明することができます。ひとつは観念の原因という論点であり,もうひとつは観念が真理veritasであることの根拠という論点です。僕がこれを論点という語で説明するのは,少なくともスピノザの哲学は,スピノザ以前の哲学と比較したときに,このふたつの点において明瞭な相違があるからです。
 まず原因の論点から説明しましょう。
 観念が外来的特徴からみられ,それが観念されたものideatumと一致するとき,この観念は真の観念といわれます。このとき,スピノザ以前の哲学では,基本的に観念されたものが観念の原因であると規定されていました。つまりあるものXが知性intellectusの外にあって,そのXが知性によって認識されることによってXの観念がその知性のうちに生じるとみなされていたのです。結果は原因がないと存在し得ませんから,この場合でいえばXが存在しなければXの観念,Xの真の観念は存在し得ないとみなされていたのと同時に,原因は何らかの意味で結果に先行しなければならないので,Xの真の観念があるためには,Xが事前に知性の外に存在していなければならないともみなされていたのです。
 ところがスピノザはこれを否定します。第二部定理五は,ごく簡単にいえば,観念の原因は神Deusの思惟の属性Cogitationis attributumであるといっています。しかるにXが知性の外にあるなら,それは当然ながら思惟の様態cogitandi modiではあり得ません。いい換えれば思惟の属性の外にあるものです。つまりスピノザは,観念の原因が観念されたものではあり得ないということをこの定理Propositioで主張したことになります。さらに第二部定理九は,この場合のXを物体corpusであると規定するなら,物体Xの観念の原因はそれとは別の物体たとえば物体Yの観念であるということをいっています。そしてこの場合,第二部定理七により,物体Xの原因が物体Yであることになるのです。要するに物体Xの観念の原因は,物体Xではなく,物体Xの原因である物体Yの観念なのです。
コメント
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