さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

ギャップを生かしたトリックにどう対するか 井上尚弥、タパレス戦迫る

2023-12-24 08:02:41 | 井上尚弥




あっという間に、井上尚弥、マーロン・タパレス戦が火曜日に迫って来ました。
来日の報から、双方の公開練習、そして世界中から予想あれこれと、記事だけでも膨大な数が出ていますが、とりあえず、自分なりに試合前、予想というか思うところを書いておこう、と思います。



マーロン・タパレスは一度、直に試合を見ています。
京都での大森将平戦、第一戦の方でした。
時のWBOバンタム級王者プンルアン・ソーシンユーへの挑戦権を賭けた試合で、長身サウスポー大森を2回にTKO。
初回早々から左クロスで打ち込んで倒し、2回は「釣り」のパンチを使っての右フックを決めるなど、手練れぶりを見せての圧勝でした。


あの試合、始まって早々に、タパレスの射程に大森が捉えられている、と感じて、「いかん、危ない」と思わず口から出たものです。
しかしタパレスと向かい合っている大森に、そのような感覚はなさそうで、程なくタパレスの左クロスが飛び、大森は甚大なダメージを受けました。

今から思えば、リーチはあるが小柄なタパレスは、相手が思うよりも遠くから打てる選手であり、そこに加えて、低い重心や広めのスタンスを取ることで、相手の感覚にギャップを生じさせ、それを最大限に生かすのが、勝ちパターンなのでしょう。


では、井上尚弥がこのギャップを生かしたトリックに引っかかって打たれるかというと、基本的にどうも、そういうことにはならなさそうだなあ、と思います。
相手の特徴について、映像で子細に研究はしないらしいですが、タパレスの主要試合は日本でも見られましたし、父の真吾トレーナーはじめ、周辺が当然のこととして、把握していることでしょう。
また、井上の方も、遠目の間合いから強打する位置を取る移動の速さに驚異的なものがあり、なおかつ打ち終わりを外す周到さがある。
間合いを間違えて打たれる、というような「絵」は、まず見られないのでは、と...逆に言えば、もしそうなったら大変、ということでもありますが。


両者のコンディションについては、122ポンド二戦目の井上がどう仕上げてくるか、です。
前回の試合後、体重の「戻し」などに改善の余地あり、と言っていました。
あの快勝のあとでもまだ、そんなことを言うのか、とその冷静さに感嘆したものですが、今回もまた、万全に仕上げてくることでしょう。
予想有利による油断については、今に始まったことでもないですし、今更心配することでもないでしょうね。

タパレスの方については、大森将平との再戦における体重超過以降、転級しても良い状態にはなかったようですが、岩佐亮佑に敗れたのち、陣営を一新してショーン・ギボンズ傘下に入り、以来好調を維持しているようです。
勅使河原弘晶戦で、その復調振りに驚いたものですが、さらに、いくら相手が不調だったとは言え、あのムロジョン・アフマダリエフに競り勝って、全世界注目の井上戦に辿り着いたのですから、彼としては心身共に最高潮の状態にある、と見て良いでしょう。



とはいえ、その実力、技量力量自体が、井上尚弥に及ぶものかどうかというと、やはり疑問です。
先日、再起したアフマダリエフの復調ぶりを見ると、この調子であったらまずタパレスに負けることはなかっただろう、と思いました。
四団体統一戦、というお題目、というか、実際そうではあるんですが、そういう試合で井上尚弥の対角線に立つ選手としては、タパレスはやはりラッキーボーイだと思ってしまいます。
二団体のタイトルホルダーに対して、失礼かもしれませんが。

あと、低い重心、広いスタンスで懐深く使うというのは、ボディに弱点があるが故、というのも、過去の試合で露呈しています。
岩佐亮佑戦もそういう傾向はありましたが、最初のWBOバンタム級王座戴冠戦、プンルアン戦でボディ攻撃を受けた際の「大わらわ」は、強く印象に残ります。
あそこから逆転した勝負強さは見事でしたが、あんなだからこんな構えなのか、と納得した場面でもありました。
もちろん世界上位レベルの話ではありますが、井上尚弥に、前に出たレバー打たれたら、とか、ボディジャブで攻められたら、とか想像すると...割と容易に「ピン留め」出来てしまう的なんじゃないかなあ、と。



ということで予想は、当然井上の勝利です。
万が一、タパレスの左の軌道が、井上の防御センサーをかいくぐるものだったりしたら、話は違うのでしょうが...。
元々、対サウスポーを苦にしないどころかむしろ得意?で、左ジャブリードも右ストレートリードも両方出来て、右回りを左フックで邪魔するのみならず、それで効かせてしまうし、ボディ攻撃も強烈...タパレスにパーネル・ウィテカー級の防御感があれば、これらの武器を何とかすることも出来るかもしれませんが、そうではないので。


結局、この試合を見る興味は勝敗そのものではなくて、井上がタパレスの持つ特徴にどう対するのか、どういう過程を経て攻略がなるのか、という点です。
丁寧に道を塞ぎ、詰めていくのか、それとも細かい手順など関係なく、一気に打ち崩すのか。
タパレスという選手は、他の日本選手との対戦があることも含め、身近に感じる部分があるので、その辺により興味を持ってしまいますね。



==========================



ということで、師走の風物詩たる全日本新人王決定戦も終わり、井上の「決戦」で今年も終わりか、という感慨が押し寄せてきました。
DAZNサウジ興行のライブ配信PPVは購入せず、後日アーカイブが置かれるなら見てみよか、くらいの構えで、決戦の週に突入です。
実際、WOWOWなら録画放送で済ませていたレベルのカードが8つ並んだとて、それが何ほどのことか、と言えばそれだけの話ですし。


それよりも、U-NEXTとDAZNの両方でライブ配信(U-NEXTの方が日本語コメンタリーがつき、画質も圧倒的に良かったです)していた、ムエタイのラジャダムナンスタジアム、暫定スーパーフライ級タイトルマッチの方が、よほど重要というか。
吉成名高、2回KO勝ちで、一度敗れた相手シューサップ・トー・イッティポーンに雪辱し、三階級制覇達成。

前に伸びる右フックリード、インサイドへのローキック、ボディへの前蹴り、膝蹴り、全ての攻防で圧倒した末、怖いくらい切れる左ストレートによるフィニッシュ。
スローで見ると、顔の真ん中を切るように決まった左で、シューサップが倒れる途中、すでに反失神状態にあるのがわかります。
まるで古い映像で見た海老原博幸のような。ひとこと、戦慄、でした。

昔日の感慨を持ち出すのが無意味になってしまうような、今の時代のトップスターといえば、世間では圧倒的に大谷翔平であり、次いで井上尚弥もその枠内でしょうが、キックの世界でもこういう凄い人がいる。
ムエタイ改変競技のスターとは一段違う、と見るべきスーパーチャンプ、吉成名高の見事な勝利でした。




コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ダウン応酬の後、再逆転許す... | トップ | 「挑戦者」の意気込みが見え... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

井上尚弥」カテゴリの最新記事