さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

中国リングで衝撃の番狂わせ 木村翔、ゾウ・シミンを上海に沈める

2017-08-02 05:08:05 | 海外ボクシング



今頃なんですが、先週の上海における衝撃の番狂わせについて、雑感。


木村翔の試合は、拙ブログでも一度取り上げたことがあります。
昨年11月、住吉スポーツセンターにて行われた、坂本真宏との試合について書きました。

予備知識は何もなく、一見した印象だけですが、スピードがあり、手数が出て、
果敢に攻めるものの、その反面、防御が甘く、よく打たれもする。
一発のパンチでは坂本だが、それをスピードと攻めのリズムで抑えた、という試合に見えました。

しかし、その後タイ遠征などを経て、ゾウ・シミンに挑戦すると知ったときは、
思わず声ならぬ声が出てしまうほど驚いた、というのが正直なところでした。

驚き、というのにはいくつかありますが、まずあの試合ぶり...
攻めは良い反面、甘い防御が、8回以降さらに崩れ、無防備に近い状態にさえ見えた、
いかにもキャリア不足の選手が、仮にも世界戦に出るのか、ということ。

そして、中国市場向けの作られたチャンピオンとはいえ、五輪連覇の経歴を持つスター選手に、
こんな甘いカードを組むことを、トップランク社が許したのか、というのがもうひとつ、でした。
思えばWBO王座獲得戦も酷いマッチメイクではありましたが、またしても...という。


試合当日は仕事で忙しく、久田哲也戦の観戦もならず、この試合のことは忘れていました。
翌朝、ネットで結果を知って、またしても声ならぬ声を出してしまった次第です。


動画をチェックすると、最初から木村が果敢に出て、ゾウが捌く展開でした。

木村は左フックや右ストレートをボディに送り、上にも思い切り良くフックを飛ばす。
ゾウは左右に身体を翻しながら、左右をカウンターして捌く、という流れでしたが、
動きにもパンチにも切れがなく、木村の攻勢を食い止められず、徐々に後退一方に。

ゾウは当てる巧さは見せ、楽な構えでアッパーを含め、あれこれ当てはするものの、
右目周辺の出血をものともせず、前進を続ける木村に押されっぱなし。

攻めに回ると手数が良く出て、ボディも打てる木村は、少々打たれても構わず、
空振りしても手数を出すことを厭わず、間を詰め続け、ゾウに全く楽をさせませんでした。

11回、右ヒットから猛攻し、最後はラッシュしてゾウを倒し、KO勝ち。
上海の大会場が静まりかえる結果となりましたが、試合自体はファイタータイプによる
ボクサータイプ攻略、攻め落としの流れで、ほぼ完勝と言えるものに見えました。

右瞼の出血、ゾウの当て勘の良さも、木村を苦しめはしたでしょうが、食い止めるに至らず、
木村は終始、果敢に出て攻める流れを手放しませんでした。
その勢いを終盤になっても落とさず、それどころがさらにペースアップして倒しきった。
おそらく相当な練習を積んでいたでしょうし、この一戦に賭ける気迫が、ひしひしと伝わってきました。

この試合は当日、ライブ映像がネットで見られたらしく、見逃したことはまさしく不覚でした。
新チャンピオン、木村翔の見事な勝利に拍手、そして脱帽です。


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敗れてしまった、中国の国家的スポーツ・ヒーローたるゾウ・シミンについては、
試合後、知らなかったことも含め、あれこれと聞こえてきました。

トップランクとの契約が知らない間に切れていて、中国の「業者」とも離反していて、
今回の試合は自分がプロモーターも兼ねていた、などなど。
ああ、そういうことだったのか...と思ってしまう話でした。

ゾウはプロ入り後、はっきりスタイルを変えていて、短いラウンドをスピードと手数で埋める、
という感じから、パワーアップを計った面があり、それが充分に出来ているか否かはともかく、
トップランクが用意したトレーナー陣、またはフレディ・ローチにフィジカルを鍛えられたのか、
フライ級にしては、がっちりした厚みのある身体を作っているな、と試合の度に思っていました。

もし井岡一翔が対戦したら、全体的な巧さでは井岡も負けないとしても、あの体格に押され、
打ち負け、押し負けるのではないか、と思ったりもしたものです。

ところがこの日のゾウは、その体つきに締まりがなく、見るからに調整不足でした。
体重を作ることを優先した、急ごしらえのボクサーの身体だな、と一目見て思いました。
おそらく上記した周辺事情も、その一因だったのだろう、と思います。

今回の木村、そして指名挑戦者の五十嵐俊幸と、日本人挑戦者に連勝すれば、
さらに自身の人気が高まる、という目論見もあったのでしょうが、結果は無残なことになりました。

試合後、スポーツマンライクな態度で、木村の健闘を称えていたゾウは、
再起して木村との再戦を目指す、と表明したそうです。
おそらく、万全に仕上げたら自分が勝つ、勝てると思っているのでしょう。
実際、巧さでいえばゾウの方が上でしょうし、それを支える体力面を整えられれば、という。

その見立て自体は、正直に言って、その通りなのだろうなぁ、と思ったりもします。
しかし、一度結果として出た勝敗というものは、理屈を越えた影響をもって、
再度相まみえたときに、両者の命運を分けるものでもありましょう。

正しいと見えることが、必ずしもその通りの結果になるとは限らない。
それもまた、ボクシングの真実です。今回の試合がそうだったように。


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それにしても上海の会場、相当大きくて、良く入ってました。
雰囲気も華やかでしたし(お客さんはゾウに対する心配モード一色ではありましたが)、
相手が日本人だからといって、試合運営やレフェリングにも、特に妙なことはない。

加えてゾウの試合ぶりが、苦しい展開続きなのに概ねクリーンだったこともあり、
見終えて、すっきりした印象だけが残りました。

もし今回ゾウが勝っていたら、次は五十嵐が遠征していたのかもしれませんが、
日本のボクサーにとり、アマチュアで世界王者を擁する中国のリングもまた、
これから魅力的な舞台になっていくのかもしれない、と思ったりもしました。




※皆さん、当然あれこれご覧になっていることでしょうが、一応見た動画を。





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4 コメント

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Unknown (R35ファン)
2017-08-03 12:39:19
最初木村君の名前出た時、「誰だっけ」と思い、その後さうぽんさんのブログの過去記事を拝見してやっと思い出しました。その事から、この挑戦自体「下手したら事故にならないか」と感じましたし、本来木村君は日本ランクレベルのはずでしたからね。
それが意外や意外。勿論ゾウシミンのパワーレスと状態の悪さに助けられましたが、多少かわされようが相手のパンチ貰おうが構わず手を出し続けて行く作戦が見事にハマりましたね。
頭で分かっていても実際初めての大舞台、完全アウェイでこれをやり切れたのは素晴らしいです。
敗れたゾウシミンも、これまでの経緯やこの日の試合振りから、必ずしも世界王者にふさわしいとは思ってなかったですが、相手をきちんと称える姿勢は立派でした。
さて木村君の今後も注目ですがそれ以上に五十嵐さんが一位というのに驚きました。王座陥落後それにふさわしい試合は全くしてないし、こないだの試合でたしかバッティングの傷が酷くて今後の予定どころではないという話でしたので。
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2017-08-04 00:32:09
>R35ファンさん

過去にもいろいろ、えー、ホンマにやるの、やってええの?と思ったカードはありましたが、そのどれもが生易しく感じるレベルのミスマッチだ、というのが正直な感想でしたね。予想もワンサイドで打ちまくられて、まあ倒されはしなくとも大差だろうと。それがこうなった理由はいろいろあるでしょうが、木村の側が持てる力を全部出し切らねば、相手どうでも勝てはしなかったでしょうし、そこはもう脱帽ですね。

五十嵐の1位は、確認したら確かにそうなってました。トップランクや帝拳が政治力を行使というか乱用したというか、それがWBOフライ級ランキングの近況と言えるでしょうが、そこに木村の戴冠が波乱を起こしたわけで、木村には何ならもうひと暴れしてほしいものですね。ゾウとの再戦も可能性としてはあるのかもですが。

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Unknown (元ま)
2018-01-29 02:21:24
ゾウしみんはうまいし5回までならさばけれるんだろうが
プロは12回だからね
ダメージの蓄積も回を追うごとに効いてくるし
プロはやはりパンチ力もないとだめだな
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コメントありがとうございます。 (さうぽん)
2018-01-29 06:56:36
>元ま さん

この試合ではずいぶん不調でした。出せるスピードを巧く配分できれば、12回でも何とか保つのでしょうが、プロ仕様の闘い方を完成させることは出来ていなかった、と見るべきなのでしょう。
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