土曜日までに何かひとつ、事前に予想なり、思うところなり、ということで、とりとめもなく。
村田諒太を紹介する映像などを見ていると、五輪で金メダル、プロでも世界の頂点に立ち、という言い方がよく目に付きます。
形式上はWBAタイトルを獲得しているのですから、事実ではあります。
しかし、Amazonプライムのプレビュー動画の中でも、改めて触れられていたように、最初の戴冠後、村田諒太ははっきり、自分の口で、自分より上に王者がいる、と認めました。
それ以降、ロブ・ブラント戦に敗れたが雪辱し、防衛も果たす中で、より積極性を増して、その攻撃力が目に見える形で発揮されるようになったところで、世界をコロナパンデミックが覆い、2年以上のブランク。
そして今回、調整試合も防衛戦も挟まず、ゲンナジー・ゴロフキンへの「世界挑戦」が実現するわけです。もちろん、待望の一戦です。
ただ...この2年間、フライやバンタムの日本人タイトルホルダーが、その間にも海外のリングで闘うなどしているのに、仮にもミドル級のタイトルホルダーが、日本のリングでしか闘わない、という前提で動き、その都度、試合の機会を失うという繰り返しを見せられると、本人が心身共に、厳しい忍耐の日々を過ごしてきた、と述懐しても、どうしても割り引いた感情が生まれてしまう。それも事実です。
しかし、普通のボクサーとは違う様々な背景を背負い、それ故に五輪金メダルとはまた別の栄光を求め、プロに身を投じた村田諒太にとり、内心の忸怩は、もうすでに乗り越えたものなのだろう、と想像します。
傍目の誰もが完全に納得するものではないにせよ、世界ミドル級の歴史上、有数の強豪王者たるゲンナジー・ゴロフキンへの挑戦に辿り着く過程において、彼が乗り越えてきた様々が、勝利によって報われるのか。それとも。
土曜日のリングで我々が見るのは、何よりもその白黒です。しかし。
ブラントへの雪辱戦、スティーブン・バトラー戦と、強烈なKO勝ちが続き、これはいよいよ、プロのリングでも世界の頂点へと駆け上がれるか、その上昇気流のようなものが見えたか、と思った矢先に、2年の空白が生じたことで、9日土曜日のリングにて、村田諒太がどのような姿を、闘いを見せてくれるものか、確たることは誰にもいえないでしょう。
もちろん、増田茂氏の言のとおり「ボクサーは、二度と同じ姿をリングで見せることはない」のが前提にせよ、それにしても、余りにも不確定要素が多すぎます。
対するゲンナジー・ゴロフキンもまた、全盛期からすれば「落ちた」とは言い切れないにせよ、端々に「降りてきた」感があったりはします。
また、こちらもコンスタントに試合をこなしている、とは言い難い状況にあります。
しかしそれでもなお、同級屈指の存在であり、そのハードパンチは村田にとって脅威です。
石田順裕をリング・エプロンに昏倒させた右、ナックルを返して突き刺す左ボディフック、斜め上から相手のこめかみ目がけて振り下ろす左フック。
どれを取っても恐怖の一撃たりうるでしょうが、村田に取って、まずはこれを外さねば勝負にならないのが、ジャブと言うよりストレート、という古い表現そのままの威力を持つ左ジャブでしょう。
村田がこのジャブを数多くヒットされ、突き放されて下がらされたら十中八九、試合はゴロフキンの手に落ちるでしょう。
過去の村田の試合ぶりを見るに、柔軟に膝を使って動き、外すというわけにもいかなさそうで、同じくジャブで対抗するか、右クロスで抑えるか、ですが、あのカネロ・アルバレスでも難しかったわけで、なかなか大変そうです。
しかしこの攻防で、村田がジャブの防衛線を突破し、後退し、また突破し、という展開に持ち込めたら、ゴロフキンの弱点たるボディへの攻撃、その端緒を掴みにいけるでしょう。
もちろんゴロフキンとて、相手がそれを狙ってくるのは承知でしょうから、いくつか「お迎え」の手は備えているでしょうから、わかりやすくあからさまに行くようなことは、あってはならないでしょうが。
ここから先は、もう実際のリングでどのような攻防が繰り広げられるか、どういう展開を辿るのかを見るしかない、というところで逃げます。
ゴロフキンが過去の全盛から、さほど変わらぬ強さを維持していたら、やはり最終的にはゴロフキンの勝利でしょう。
ゴロフキンが一度好機を掴めば、村田の耐久力を上回る威力を秘めた決め手、その脅威を、瞬時に、しかし存分に見せつけられることでしょう。
しかし、もし村田が、ブランク直前の2試合で見せた、上昇の勢いそのままに、いや、この2年間に、ブランクを幸いとしてさらなる進境を得ていたら。
違うことが起こる可能性は必ずある。そう思います。
確かに対戦相手の質は違えど、実質負けたのはベガス遠征でのブラント初戦のみ、というキャリアも、傍目から見て軽んじられるべきものかどうか。見方は色々あるはずですし。
それに、動き自体は目に見えて鮮やかに、とはいかずとも、相手の出方や攻め、守り方を見て、地味ながら対応した手を打てる、打とうとする、という備えも、試合によっては見えるボクサーでもあります。
もっとも、その辺の評価というか見方、見られ方もまた、今回の試合の内容と結果に左右されてしまうことでしょうが。
ということで、遂に実現する一戦、当日は会場で観戦します。
記念すべき?Amazonプライム初のライブ配信を見てみたかった気もしますが(アーカイブは置かれるんでしょうか)、何しろ村田のみならず、ゴロフキンの姿を遠くからでもこの目で見ておこう、ということもありますし。
しかし、村田の費やした労苦と同じく、正式発表から試合の日までほぼひと月かそこらで、あの大箱での興行となると、関係者諸氏も大変な思いをしていることでしょうね。
ただでさえ大物招聘ともなれば大変なのに、普通とは違う様々な対応が必要なわけですし。
しかしもう、ここまで来ました。
もちろん、勝負としてこれほど重大なものは、過去に数少ない類例在れど、極めて希です。
それは承知の上で、勝ち負けどうとは別に、実現して良かった、見られて良かった、と思えるような、良い試合になってくれることを。
そして、かなうならば村田諒太の健闘を、と願います。