さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

乱せず、崩せず、揺さぶれず 王者ムザラネ動じず、八重樫TKO負け

2019-12-26 09:38:10 | 関東ボクシング




ということで横アリ観戦記最後、セミのIBFフライ級タイトルマッチ。
全盛期を色々不遇なまま過ごし、その才能ならもっと大きな栄光を掴んでいても不思議では無かった南アの逸材、モルティ・ムザラネと、3階級に渡って世界の強豪と渡り合ってきた歴戦の雄、八重樫東。
37歳と36歳、同世代の強豪対決でしたが、終わってみれば明暗くっきり、という試合でした。


序盤は八重樫が動いて当てて、積極的に仕掛ける。軽くて良いから打って、動いてリズムを作り、攻略の端緒を探る、という風。
ムザラネは自然に堅いガードで多くを防ぐが、全部が全部というわけでもない。
八重樫の上下のコンビ、捨てパンチ?を使って後続をガードの内外へ入れていく攻撃が良い。
しかしムザラネも要所にジャブを返し、時折右も続く。仕掛けの回数は八重樫が多いが、ムザラネが手を出すと、高い確率で八重樫に届いているように。

ポイント的には最初の3回で、八重樫がふたつは取っている採点であってほしい...と最低限思えるものではあった。そういう意味では好スタートの部類。
しかし八重樫があれこれ仕掛けているものの、ムザラネは軸のビシッと決まったフォームで、安定していて、僅かな乱れの兆候も見えない。


そして4回、八重樫が右ヒットされたあと、急に連打で攻勢をかける。
別に好打した、ムザラネが効いた、というでもない。しかし連打攻撃、それも捌く型から急に変えて、ムザラネを乱したらすぐ引くのかと思ったら、さらに打ち込みたい、手応え欲しい、という風。
さらに言うなら、苦境に追い込まれたボクサーの、捨て身の逆襲、というものに近い印象。

傍目にそうは見えずとも、序盤の攻防は、八重樫にとって、これはこのまま続かない、いずれ捕まる、という感覚の「追い詰められた」ものだったのかも知れない。
それが決定的になるより先に動かねばならない、捉えられて打ち込まれてから逆襲しても遅い。ならば...という判断なのだろう。

懸命に攻め続け、しかしムザラネの正確な反撃に遭って、攻め込むことがかなわず、やはり苦しむ4、5回の八重樫を見て、そう思わざるを得ませんでした。


それでも6回、八重樫は前に出ながら時にガード、時に頭を動かして外し、トリッキーなボクシングで対抗。
だが7回、ムザラネのスリーパンチが決まり、さらに打たれる。
8回、軽い右の後に、遠目から、しかし力の入った左ボディフックを打たれ、八重樫効いて後退。
反撃して逃れるも、9回、今度は最後を真っ直ぐに変えたスリーパンチで腰が落ち、追撃のさなか、完全に身体のバランスを失った八重樫を、セコンドの棄権意思表示ではなく、レフェリーが救いました。


現状、両者の力量の差が出た、終わってみればそういう試合でした。
IBFの当日計量がありながら、リングに上がる時点で130ポンド前後に増量する「離れ業」を持つというムザラネは、その重さ故に、攻防共に安定し、にも関わらず八重樫の足捌きを、最小限の動きで効率よく追尾する機動性を併せ持っていました。
手数とスピード、動きでまさる展開を作る、という八重樫の対ムザラネ戦略は、それ自体は正しかったと思うのですが、ムザラネはその力量で、戦略を上回って勝った、と見えました。

何しろ八重樫が出ても引いても、身体の軸が揺らがないし、パンチは身体の回転で無理なく打てて、ガードは力み無く構えた時点で、堅牢。
八重樫が費やした労苦は、ほとんど実を結ぶことがなかった。それが会場で見ていた印象でした。
八重樫の奮戦ぶりがよく伝わってきて、にもかかわらず絶望的な展開続きにも見え、正直、辛い時間でもありました。


試合後の報によると、八重樫は即座に進退を明言しなかったとのことです。
ちょっと驚きましたが、考えてみれば、あの闘いぶりのとおり、この試合に全てを賭けてきた思いが、時間にすれば30分かそこらの闘いを経て、そう簡単に割り切れるものでもないし、何一つ悔いがない、というものでもなかったのかもしれません。
そこはもう、傍目にとやかく言うところでもない。本人がまずは納得するために、時間が必要なのも当然のことなのでしょうね。


それにしてもムザラネは、いつまで経っても落ちません。
八重樫が試みた攻略法に対しても、ほとんど乱れず、崩れず、揺るがない。
八重樫のパンチ、確かに軽打も多かったものの、そこそこ良い連打も入ってるように見えたのに、試合後リング上のモニタに大映しになった顔には、傷も腫れもほとんど視認できませんでした。

これで日本人に3連勝のムザラネですが、指名試合などの縛りがなければ、また次も...なのでしょうか。
中谷潤人がその長身、体格、サウスポーの利点を生かして突き放し、打ち込んで、絡めとって止め、また突き放し...と出来るものなのかどうか。
もちろん、実際にやってみなければわかりませんが、中谷の実力はもとより、そのときにおける最高の状態をもって対さないと、攻略は至難と思えます。
WBC王者フリオ・セサール・マルチネスとはまた違った趣の、しかしなかなかに手強い標的でしょう。

そのボクシングは非常に見応えがあり、魅力的でもありました。
八重樫の敗戦は残念ですが、良い物を見せてもらえた、という満足感も同時に残りました。



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この日のアンダーは予備カードも含めて行われましたが、午後4時半に第一試合開始、のはずが、4時15分くらいにはもう始まりました。
で、午後5時くらいから、もうローマン・ゴンサレスがリング登場。
フィリピンのディオネル・ディコス、というフライ級の選手らしいですが、それと116ポンドで対戦。
若干、膝が硬いかな、と見えたものの、攻め口自体は以前と変わらず。
要所で右ボディストレートを組み込んだ連打で切り込み、ディコスをロープに釘付けにして打ち込む。
ダウンを奪って追撃したところでストップ。2回TKO勝ちでした。





相手が相手だし、今後どうこうというのは不明ですが、攻めに回ったときの様子は以前と変わりない、独特の型、良さが見られました。
来年以降、久し振りに日本で世界タイトルマッチを闘うことがあるんでしょうか。



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最後に、場内の写真も提供いただいたのでご紹介。
客入りはさすがに苦戦。平日夕刻からの試合開始、出足が悪いのは当然のこと。
ただ、メイン前になってもいまひとつで、これは時間のせいには出来ないか。
けっこうまとまった空席が視認できました。
比べちゃいかんのでしょうが、先月のさいたまとはえらい違いで...。


横浜アリーナ、開場直後の時間帯。
今年は暖冬だそうですが、好天でもあり、あまり寒くなくて助かりました。






八重樫入場。皆さん、スマホかざして殺到。





メイン前。照明はWBSSにならって?けっこう豪華でした。






メイン開始直前の場内。けっこうな空席が視認できます。
ちなみに、上のエリアは封鎖されていて、誰も入れないようになっていたそうです。

反対側にも「ごそっ」と人の居ないエリアがありました。むー。





写真提供は「ミラーレス機とタブレットと」管理人さんです。いつもありがとうございます。



コメント (5)
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