ということでメインの感想。
村田諒太、スティーブン・バトラーに5回KO勝ちについて。
村田は、本人が会見やインタビューで色々語っているとおり、ここにきて、自分の「型」をとうとう見つけて、それを固めつつあるなあ、という印象でした。
初回から、わかりやすく右肘上げて打つ右フック、クロス、時にオーバーハンドという具合で、右の強打と堅牢なブロックを押し立て、相手に圧力をかける。
同時に、その右を見せておいて、左ボディや右アッパーを覗かせたり、ジャブで崩したあと、相手の左腕の内、外を滑るような右を打ち分けたりと、一見不器用そうな風を装いつつ?巧い攻め口も見える。
バトラーは初回早々、このパンチ力と圧力を実感し、身体の軸を前に持って行けない前提での攻防を強いられたように見えました。
スティーブン・バトラーは、全体的に筋が良さそうに見え、24歳という年齢で、階級アップするにも良い頃合いだったものか、コンディションも良く、過去に見た映像よりも安定して見えました。
体格でも、村田に劣らずどころか、むしろ勝っていて、普通ならけっこう手強いか、少なくとも楽な相手じゃない...はずが、村田はあっという間に相手の力を半ば削ぎ落とし、さらに攻め立てる流れを作ってしまいました。
それでもバトラー、村田の右をガードしてリターンで右を当てたり、4回には右クロスを好打したりと、実力の片鱗を見せはしましたが、村田は右強打を軸に、時に軽打、左ボディ返し、ダックしたら右クロス打ち下ろしで頭部ぎりぎりのところを打ち、3回には前に伸びる右アッパーから連打で攻め立て、優位なまま試合を進めました。
その、強打を軸に攻め、前に圧しながら巧い攻め口があれこと間断なく見られる闘いぶりは、昨年、ところも同じ横アリで見たブランダムラ戦の間延びしたそれとは雲泥の差で、見ていて伝わってくるものが全然違いました。
5回、右クロスでバトラーの足がはっきりもつれたところに右、右と追って、小さい左フックが上に返る。
それまで右を再三再四当てるも、左フックはボディにしか返らずで、これが上に返れば相手を逃がさず、仕留められるのに...というところは、これまでの村田と変わらんなあ、と思っていたところでしたから、驚きの一発でした。
見事に決まったこのパンチで、バトラー、糸が切れた人形のようにコーナーに崩れ落ち、即座に試合が終わりました。
少なくとも、現状の村田諒太としては、最高の試合内容と言えるものが見られた、という意味で、非常に満足度の高い試合でした。
ブラントとの再戦で「見」に逃げずに、序盤から勝負して打ち勝った村田が、俗な表現ですが「生まれ変わった」ものかどうか。
その答えがこの試合で見られるだろう、と思っていましたが、村田はほぼ満点に近い内容を見せてくれたように思います。
以前の村田は、相手を見て、打って避けて、見て、また打って避けて、というボクシングをしていましたが、今はその辺がだいぶ違っているように見えました。
自分の「型」を見つけた、身体の軸の置き所を定められた、という心技体の部分が決まったからか、打ちながら見ているし、避けながら見ている、という感じか。
「ワンツー止まり」が減り、打つべき時に打つべきパンチが出ている。防御も堅牢なガードを信じて、無理に動いて外さず、結果的にそれが相手への圧力を途切れさせない効果を生んでいる。
もちろん、相手との力関係で、序盤から圧せたから、というのが前提ではあります。
時折受けたクリーンヒットが、違う相手のパンチだったら、と仮定すると、村田が世界ミドル級タイトルホルダーたちと闘わば、という話における、悲観的、ないしは否定的な話にもなります。
しかし、日本人のミドル級ボクサーとしては、間違いなく歴代最上位の力を持つこのボクサーが、ついに世界のトップテンくらいに入っておかしくないところにまで来たのではないか、という話なら、私はそれを肯定的に語っていい、と思います。
ボブ・アラムはじめ、関係者へのコメントがあれこれ出ていて、まあ話半分...色々難しい、というより、まだ世界的に、そこまでの認知はないのが現実だとわかってはいますが、やれ第二王座がどうのという話を飛ばして、村田諒太のキャリアを振り返れば、途中二度の敗戦もありつつ、いずれにも雪辱した上で、若いカナダ人ランカー相手に、強打を押し立てて「勝負」し、豪快に倒すところまで来た。
今後、さらに上の相手と闘えるか否か、それはなかなか...おそらく、ロブ・ブラントとのラバーマッチ、前哨戦で敗れた相手に雪辱したというジェフ・ホーンらとの対戦話が出て、このいずれか、或いは両方と対戦か、という話の方が、より現実に近いのだろうと思います。
少なくともカネロ・アルバレスとの対戦は、現時点では可能性ゼロでしょう。もし彼が次の相手に村田を選んだら、そのこと自体が世界的に酷評されるでしょう。
ゲンナディ・ゴロフキンがIBF王座を防衛したのちに来日、というのも、果たしてあり得ることかどうか。
ただ、もし村田が、上記した「現実的」な試合を、来年以降も闘うことになったとしても、見る側の気持ちとしては、これまでとは、ちょっと気分が違ってくるだろう、と思います。
それらの試合を勝ち抜き、その内容が良いもの続きであれば、その先への期待が、より現実的なものになる可能性が高まっている、と。
そりゃ、カネロやゴロフキン、チャーロ兄弟と闘って勝てる、とは言いませんが、そもそもリーグが違うんやない、というような冷めた気持ちでもない。
少なくとも、ゴロフキンに善戦したセルゲイ・デレビヤンチェンコのように「爪痕」くらいは充分残せるのでは、という期待が生まれています。
結果がKOであれ、判定であれ。
そのためにも、来年以降の試合において、村田諒太が、ついに見つけた「型」を生かし、リスクを負って「勝負」し、良い試合内容を継続して見せてくれることを期待します。
今までの彼に対しては、あまり本気で抱いていなかった類いの期待、です。
そして願わくば、右で好機を掴んだときには、しっかりと左を上に返してほしい、とも。
さすれば、こちらの期待を超えた「結果」を手にすることも、充分あり得るのではないか。そんな風に思っております。