非国民通信

ノーモア・コイズミ

日本ではよくあることだが……

2010-09-06 22:56:56 | ニュース

■「内定辞退のウラに何があったのか」(毎日放送)

 この春、大学を卒業した人の就職率は60.8パーセントと深刻な就職難が続いています。
 そうしたなか、この春入社直前の研修中に内定辞退者が相次いだ外食チェーンがあります。
 「内定を辞退するよう会社に強要された」という当事者と「そんなことは一切ない」と主張する企業側。
 いったい何があったのでしょうか。

(中略)

 飲食店で長くアルバイトをした経験を持つ山田さんは、ファミリー向けの回転寿司に魅力を感じ、大手外食チェーン「くらコーポレーション」の内定を手にした。
 そんな山田さんをはじめ内定者たちが研修施設に集められた
 4月1日の入社式まで残り1週間、2泊3日の入社前合宿では学生気分を抜くためにと案内状に「ある課題」が出されていた。
 「くら社員三誓暗唱、35秒以内で暗唱出来ていない場合は帰宅してもらいます。(略)合宿中の課題を合格出来ない場合は入社する意思がないものと判断し帰宅してもらいます」(案内状)

(中略)

 当日は40秒以内で暗唱できれば合格とされたというが、それでも落第する人が相次いだと参加者は語る。
 そして、講師役の社員は不合格者に「早く家へ帰れ」と促したという。
 入社の準備までしていたのに、案内状通り「入社する意思がない」と見なされたのか。

(中略)

 ちなみに、この社訓、本当に35秒で読めるのか。
 MBSのアナウンサーが挑んだ。
 <MBS 田丸アナウンサー>
 「ひとつ私は人と会話することが大好きな社員になります。(中略)エチケットを守り、健全な社会生活を送ります。以上」
 58秒。
 <田丸アナウンサー>
 「1分ぐらい、これだけあったら1分でしょう」

(中略)

 「一つ、私は社会人としての基本を身につける社員になります」(暗唱)
 35秒以内で暗唱という、社員三誓試験に挑んだ山田さん。
 合宿2日目の夜、会議室に呼び出された。
 人事担当者は「君は現場で働けない」と言い放ったという。
 そして・・・
 <山田さん(仮名)>
 「白い紙とペンを出してきて『本当にいいのか』みたいな確認もなくて、『今から言う言葉を一言一句間違いなくしっかり書きなさい』と言われたんですよ。ふつうにスラスラと言う中で損害賠償請求しませんという言葉が出てきましたね」
 山田さんは内定辞退届を書くよう求められ、最後に、損害賠償は一切しないという一文を書かされたと証言する。
 もう一人、鈴木さんも2日目の夜の出来事をこう語る。
 <鈴木さん(仮名)>
 「ゆっくりと白い紙とペンを渡されて、そのとき僕も頭が真っ白だったんですけど、のぞきこんで指でこう、紙をなぞるように『こう書いて』と一字一句指示されました。精神的に追い詰めるような言葉の雰囲気というか、言葉の重さだったので」

(中略)

 「くら」に取材を申し込むとこんな回答が返ってきた。
 「労働局から、これは内定取り消しや辞退の強要ではないと評価をいただいたんです。取材はお断りします」(「くら」からの回答)
 確かに労働局は「くら」を指導していない。
 しかし、担当部長は「くら」側を聴取したことを認めた上でこう答えた。
 <堺公共職業安定所 田ノ岡業務部長>
 「(調査に)限界あるのは私どもも認めるが、だからといってやり方、内容、また結果に対して『問題ないですよ』という対応は一般論として考えにくい」
 とはいえ、企業側と当事者の言い分が食い違う限り、事実の認定、判断は出来ないというのだ。
 相次ぐ内定切りの問題を受けて、国は現在内定を取り消した企業名を公表している。
 だが、本人が自発的に内定を辞退したのであれば手の打ちようがない。
 取材班は合宿を取り仕切った人事担当者を直接取材したが、その場では何の回答も得られなかった。
 そしてその後、「くら」側から正式な回答が届いた。
 「当社として内定辞退を強要したという事実などは一切なく、ご本人の意志により辞退されることになったものです」(「くら」側の回答)

 日本ではよくあることですが、割と詳細に報道されているので取り上げます。ちょっと長いですが、興味があれば冒頭のリンク先から全文をお読みください。

 色々とツッコミどころはあります。まず一つは、この「合宿」と内定辞退強要が3月下旬に行われていることです。内定辞退の強要もまた大いに問題ですが、それが3月下旬ともなると新たな就業先を4月までに見つけることは事実上不可能ですから、二重に悪質と言えます。プロスポーツで言えば移籍期限の前日になって契約解除を告げるようなものでしょう。同じ内定取り消しでも時期が早ければ学生側にも対応の余地は残されますが、今回のくら寿司の場合は学生側の退路を断った状態で実質上の内定取り消しが行われたわけで、これは経営上の理由というより、ほとんど嫌がらせ的なものがあります。

 また「学生気分を抜くために」という研修理由は大いに日本的と言えるでしょうか。「社会人」という日本特有の身分に就く段階で「学生」というものは常に否定の対象とされます。学歴による選別がある一方で、学校で身につけたものは捨て去ることが要求されているわけですね。なるべく「いい学校」を卒業しておくことが求められるけれども、学校で学ぶことは求められない、新人が学校で身につけてきたことを生かそうとしない、この辺は実に伝統的な日本的経営と言えます。

 飲食業界の労働環境の悪さはつとに有名ですが(超長時間のサービス労働のため社員の時間当たり給与はバイト以下になるのが一般的?)、まずは奴隷根性を叩き込むのが社員教育のスタートなのでしょうか。どれほど不合理な指示であっても会社の命令には従うようにと、そこで疑問を感じるような人間はあらかじめ排除しようと、そういう意図の感じられる研修です。ならば採用の段階で人を絞り込んでおくべきではないかと思われますが、敢えて3月末というギリギリのタイミングで実質的な最終選考を持ってくる、学生を後のない状態に追い込んでから忠誠を迫る、何とも卑劣なやり方です。

 そして一字一句文面を指定された内定辞退が「自主的な」ものとして扱われているのが実態でもあります。本来、このように悪質な雇用主を監視すべき立場にあるはずの労働局は会社側を聴取しながら、「企業側と当事者の言い分が食い違う」との理由で事実認定を避けているために、このような強弁が罷り通ってもいるわけです。結果として、くら寿司は「当社として内定辞退を強要したという事実などは一切なく、ご本人の意志により辞退されることになったものです」と悪びれもせずに回答しています。

 先日の記事でも触れたことですが、労働関係の法律は運用面の杜撰さから有名無実化しているのが実態です。正当な理由なき解雇も賃金不払いも内定取り消しも、法制度上は禁止されていながら現実には黙認されているわけです。労働者側の対抗手段として裁判に訴えることも制度上は可能であるものの、何かとハードルの高い話と言えます。すき家の賃金不払いは判決までに3年近い年月が掛かりましたし、企業側が逆提訴に踏み切るケースも珍しくありません。そして今回のくら寿司の場合はどうでしょうか。労働局が「企業側と当事者の言い分が食い違う」との理由で事実認定を避けた以上、裁判で争うほかありません。しかし、3月末で卒業の決まっている学生が何年も事実認定を巡って法廷で争うことの困難さを考えれば、いかに雇用側有利な状態が作り出されているかがわかるはずです。

 くら寿司は業界トップというわけではないようですが、概ね順調に出店を重ねているわけです。有名企業ともなるとイメージダウンを恐れるようになるものですが、この手の内定取り消しぐらいはどうと言うこともないと考えたのでしょう。その辺も先日の記事で触れたことではありますが、労働関係のトラブルは消費者の信頼を損ねるわけではない、それを会社側もわかっているようです。食品偽装がばれたり食中毒でも出せば大ダメージでも、賃金不払いや不当解雇、内定取り消しが報道されるくらいでは会社の業績に影響はないと、そういう判断が働くのが日本の経営事情と言えます。そして労働局も見て見ぬふり、せいぜいが個人的に訴えられるくらいで、それだって別に企業のブランドイメージが傷つくわけではない、こういう現状が実質的な解雇自由、賃金不払いの自由、内定取り消し自由な労使関係を作り上げているわけです。もうちょっと「本気で」雇用側の規制を考える必要があるのではないでしょうかね。

 

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12 コメント

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安売りだけを (ローリー)
2010-09-06 23:48:38
売りにする企業は、その価格を維持する為にどこかで誰かが必ず泣いているので私は使わないようにしています。くら寿司だけでなくユ○クロや吉○屋など、往々にして従業員や仕入れ元が泣く事になるのですが。
そういった企業はサービスも商品も悪いですが、顧客が安さのみを求めている現状では、こんなクズがノサバるのでしょうね。
しかし、私も今まで色々なブラック企業をみたり、実際に有名なブラック企業で働いた事もありますが、その中でもくら寿司は特に最低ランクのクズ会社ですね。存在そのものが吐き気がします。
一度、店に行って従業員に35秒で言えるか試して「誰も言えなかったら店閉店しろ、クズ寿司め!」って言ってやりたくなりますね。
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Unknown (ホルへ)
2010-09-07 00:08:56
この記事を見て、常に自分を消して組織及び他者に絶対服従・同調して行動する人材を育成してきた結果が、支配者も支配される者も思考力や判断力などといったヒューマンスキルが低下して、それにリンクして仕事に関するスキルも低下し、更に人間関係の悪化やパワハラやゴタゴタや労働基準法違反などは見られるが、企業の成長や活性化は生み出されへんというデメリットをもたらしたと俺は断言できるで。今の悪循環な現状を打開するには、あの企業の事件を教訓にして、企業の経営者及び雇用側が自分らのヒューマンスキルや教養や知性や知性やモラルや指導力の無さや未熟さをしっかりと認識する必要があり、また、常に自分の頭で考え判断して自己主張や自己表現や自己分析や様々な行動をして、同時にヒューマンスキルを高めることが出来る人材を育成することが必要不可欠やと俺は思うで。
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Unknown (TK)
2010-09-07 00:13:46
日本らしい労働環境の悪さですね。
この労働環境の悪さに対する不満の矛先がなぜか
「楽しやがって」「俺たちは厳しい」などと公務員に向けられて、
この労働環境の悪さを更に悪化させる政治家達を喜んで支持するこの日本社会はバカと言うよりは極度のマゾなのでは・・・
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Unknown (太郎)
2010-09-07 03:02:51
入社試験で行われるならまだしも、、人の人生を無茶苦茶にしてなんとも思わないのでしょうか?
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Unknown (シトラス)
2010-09-07 08:10:13
まさしく北朝鮮の十大原則のようですね。
そう言えば、朝鮮学校での金正日に対する個人崇拝はいけないことだとされるのに、それに匹敵する社内研修は野放しになっていますね。
後、ひどい仕打ちを受けた人たちが訴えないのはこんなひどいところから逃れられてよかった、こんなひどいところで頼まれても働きたくないと思っているというのもあると思います。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-09-07 14:05:11
>ローリーさん

 どれほど従業員に無理を強いた結果であっても、安ければ「消費者」にとって利益があるものとして社会的には歓迎されていますからね。もうちょっと普通の人が「消費者」だけではなく「労働者」としての視点を持って欲しいところです。

>TKさん

 状況が悪くなるばかりで改善の兆しがないのは、その辺も影響しているのでしょうね。こういう労働環境の悪さがどこからもたらされているのか、それを何とかするにはどうしたらいいのか、その辺を考えるよりも他人を攻撃することが好まれるようでは……

>太郎さん

 これが現代の労使の力関係なのでしょう。会社の無理難題について行けないのは社会人失格だと烙印を押す、それが当たり前のことになってしまっていますから。

>シトラスさん

 確かに、日頃から仕事の負担に苦しめられていることが多いほど、解雇なり雇い止めの際に「ホッとする」部分もあるでしょうね。失職は困るけれど、今の職場に居続けたいとも思えない、そういう状況が多いからこそ裁判に持ち込まれるケースも少なくなるのかも知れません。
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Unknown (ノエルザブレイヴ)
2010-09-07 22:25:12
労働者でもあるはずの一般人にとってこういうことがあまりイメージダウンにならないのは顧客の幸せは従業員の負担と共にあると信じられているゆえでしょうか。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-09-07 23:06:27
>ノエルザブレイヴさん

 自分が消費者であると同時に労働者である、労働者もまた消費者であるという認識が、あまり一般的ではないのでしょうね。消費者の利便性ばかりが大きく掲げられて、労働者のそれは蔑ろにされがち、回り回って自分の首を絞める羽目になるはずなのですが……
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Unknown (princessmia)
2010-09-08 07:12:20
くら寿し結構行っていたんですが・・・
行くのやめようかなぁ。
行ったら、奴隷労働に加担することになってしまうような。
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Unknown (非国民通信管理人)
2010-09-08 14:56:06
>princessmiaさん

 どこも外食産業は似たようなところがありそうですが、こういう問題を抱えている企業に栄えて欲しくはないですからね。労働問題もまた企業のイメージを損なうものだと、経営側が気を使うようになりませんと。
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