
□ Markus Schulz / "Progression"
♪ Spilled Cranberries
♪ On a Wave (ft. Kelsey)
♪ Mainstage
♪ Cause You Know Is This The End (Ft.Departure)
♪ Let It Go
Release Date; 02/ July/2007
Label; Armada
Cat.No.; ARMA100
Format; 1xCD
>> http://www.markusschulz.com/
>> http://www.myspace.com/markusschulz
>> tracklisting.
01: I Am (vs Chakra)
02: Spilled Cranberries
03: On A Wave (Feat Anita Kelsey)
04: Lost Cause (Feat Carrie Skipper)
05: Mainstage
06: Fly To Colors
07: Let It Go
08: Daydream (Feat Andy Moor)
09: SLA9
10: Perfect (Feat Dauby)
11: Trinidad To Miami
12: Cause You Know (Feat Departure)
13: Cause You Know (Is This The End) (Feat Departure)
プログレッシブ・トランスのトレンド・セッター、Markus Schulz。"Without You Near"に続く、アーティスト・アルバムの2ndで、主にCOLDHABOURレーベルからのMarkus Schulz名義のトラックを纏めています。
独特の触感を喚起させる冷たいアトモスフィアに、深海から沸き立つ空泡のように煌めくピチカート系のウワモノ、そして同度の上行と下行を繰り返す4音ユニットの割れた循環ベースのウェーブ。
このMarkus独特のメソッドは、テックハウスやクリックを取り込んで複雑化した、Progressive Houseとくくられるジャンルにおいて一大勢力となったColdhabour系サウンドのオリジンであり、クラブシーンのup-front DJが『最先端の音響効果』を謳って送り出す楽曲には、彼のイディオムを組み替えることで産み出されたものも少なくないでしょう。
「トランス」というと、ここ日本では非常に誤解を招きやすいのですが、Markus Schulzや、その周辺のDJ達の書法は、2000年前後のトランス最盛期にピークを迎えた『Epic』の要素に根差した、壮大なドラマ性と射幸感を齎すものが多いです。実際、海外ではMarkusのようなサウンドも"Trance"と括られることが一般的で、既に前時代の"Trance"の代替的ポジションを得ていることが窺えます。しかしながら、未だに大きな需要のある、いわゆる「消費型」クラブ・トランス(特徴としてはハイハット全開でメロディ偏重)とは一線を画するのが、サウンド・ストラクチャにおける『アート性』の追求にも似た意匠のレベルの高さ。
さて、"Progression"ですが、基本的に"Without You Near"のラインと作風から大きな変化はなく、若干新しいソフトウェアの効果が目立つくらいで、タイトルの言う「プログレッション」はさほど感じられません。ただ、David WestやOzgur Canといった北欧勢に端を発した、所謂「ドラム」の音ではない、生の打音のコラージュのような、硬質で有機的なロールビートの連音の裏打ちが強く出ています。また、フィルターで漉したような鈍いアタックとノイズのレイヤーが、楽曲毎にオブキュアでドープな響きを演出しています。
イントロは、あの記念碑的Mix CD、"COLDHABOUR SESSIONS"の一作目を思い出させる、都会の喧騒と環境音のフィールド・レコーディング。金属製の翼が羽ばたくようなビートが美しい" I Am"で幕を開け、"Spilled Cranberries"では、同様の環境音に音響処理を施し、ヒュージなシズルとアトモスフィアのシャワーから、叙情的なストリングスと骨太なビートの絡む、"Clear Blue"に準拠したMarkus Schulzの特徴的なシークエンスへ以降する。
一転、宇宙空間に放り出されたかのようなダークでメカニックなサイファイ・ビートに、Anita Kelseyのスタイリッシュなトリップホップヴォーカルが乗る"On A Wave"へ。Carrie Skipperが同じマイナー調で引き継ぐ"Lost Cause"は、IDMにも通じるノイジーなブレイクビーツに可憐なヴォーカル、大気を震わす如く壮大に鳴り響くストリングスが一体となった、アルバムのハイライトととも言えるトラック。そして"Fly to Colours"でテック調に雰囲気を変えるためのブリッジとなる"Mainstage"は、再びノイズのオヴァーダブによるダイナミックなアンビエント・スコア。
"Progression"において最も飛躍的な展開を見せる"Let It Go"は、前線のハウス系エレクトロニカのイディオムで懐かしのピチカート・トランスを包合するという、まるでトランス近代史を凝縮した内容。アルバム中、もう一つのハイライトと言えるのが、Andy Moorと共作した"Daydream"。ひび割れた物悲しいストリングスの導入から、近年のプロッグの最大の特徴である罅割れたベースのウェーブが響く疾走感のある4分打シーケンスへ。そしてMoya Brennanを彷彿とさせるトラッド風の儚いクリスタル・ヴォイスが切々と歌い上げます。
"SLA9"は、Ozgur CanやGabriel & Dresdenが自身のアーティストワークで見せていた、ロービットでチープなゲーム・サウンドを模したハーシュ・プログレ。しかし最新の機材でなければ出せない微細なノイズやアトモスフィアを被せる演出も心憎い。そのサウンドの流れを受けたまま、カットアップ・ビートのフックを効かせて導入される"Perfect"は、Daubyの扇情的なヴォーカルが艶かしい、フィメール・ヴォーカル・トランスのお手本のような楽曲。
往年のアシッド・ハウスの作風を喚起させる"Cause You Know"。前時代的なハイハットとスネアループに哀愁のフィルターヴォイスが絡みますが、後半ではビートワークが現在のプロッグ調に入れ替わり、壮大なサイレンとオルガンのリヴァースが鳴り響く中怒濤の展開を迎え、第2パートへ。"Progression"の最後を飾る、最もスケールの大きい"In This The End"は、ひずんだギターに壊れたビート、ピアノの響きが透き通ったダウン・テンポ/チルアウト。水底を打つような重いサウンド・エフェクトやノイズ加工されたブレスの切り込み、どことなく悲壮な眩いストリングスと光のシャワーの如く降り注ぐアトモスフィア。
13曲を巡る新旧他ジャンル間の音の拮抗と相互作用という"Progression"を経て、僅かづつ、しかし堅実に進化の過程を踏みしめて来たMarkus Schulzのエッセンスが、ここに収斂します。
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