禅宗、仏教における倶舎論・浄土といった宇宙観は、畏ろしいほどにシステマティックに構築されていて、デファクトスタンダードとして克ち得た社会性を殻として、実効性を伴う観念的力学構造を以て、実在論・認識論の対岸にあるsolipsismへの反証として、覚知ならざる人の業を糾おうとしている。
───祖父が急逝した。
今夜は私一人でご遺体と夜を越すのだけれど、不謹慎ながら眼前の仏具・儀式には興味が尽きない。晩年の祖父も、趣味で仏学研究に傾倒した。直筆の写経の掛け軸を自慢げに披露してくれたこともある。長年、海上保安庁で上職を務めた彼には、本庁から今日になって叙勲の話も頂いている。
祖父はとんでもなく厳格な人として恐れられていたけれど、私は幼少時に悪ふざけをした時にしか叱られた記憶がない。政財界と付き合いもあり、仲間想いの人情家であった。海外旅行に料理、最新家電が好きと多趣味で、私の機械好きも祖父譲りなのである。保安艦の機関長を務めていたこともあったという。
近年の斎場は、『禅+ミニマリズム』という仏教的な類似概念に則ったモダン建築と、その機能を支えるハイテクが融合して、まさに近未来の建造物の様相を呈している。
祖父が残した公正証書遺言状に基づいて、私が遺言執行者として相続人代表を務めることになった。
戦前から船舶事業を興した曽祖父の代から、当家の家系図は複雑に絡まっており、この責務は非常に骨の折れる作業となることは容易に想像出来るので、法務局ないし司法書士に一任するつもりではある。