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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

ENIGMA / "THE FALL OF A REBEL ANGEL"

2016-11-27 18:17:08 | Enigma



□ Enigma / "The Fall of a Rebel Angel" Limited Super Deluxe Edition

>> http://www.enigmaspace.com

Release Date; 11/11/2018
Cat.No.: 5709345
Label: Island Records
Format: 2xCDs, Special Booklet, and autographed Canvas Art. (2,000 copies limited in the world.)




>> tracklisting.

01. Circle Eight (featuring Nanuk)
02. The Omega Point
03. Diving
04. The Die Is Cast (featuring Mark Josher)
05. Mother (featuring Anggun)
06. Agnus Dei
07. Sadeness (Part II) (featuring Anggun)
08. Lost in Nothingness
09. Oxygen Red (featuring Anggun)
10. Confession of the Mind
11. Absolvo
12. Amen (featuring Aquilo)

CD2:
1-12 The Story Of The Fall Of A Rebel Angel: Narrator – Ian Wood
13-24 La Historia De The Fall Of A Rebel Angel: Narrator – Manuel Sanchez Fraguas
25-36 L'Histoire De The Fall Of A Rebel Angel: Narrator – Patrice Luc Doumeyrou


Recorded with MERLIN mobile studio

Performed, Engineered & Produced by Michael Cretu
All original Paintings by Wolfgang Beltracchi
Allegory by Michael Kunze & Michael Cretu
Artwork by Büro Dirk Rudolph
Management: Crocodile Music Management GmbH
All songs published by 1-2-3 Music / Crocodile Music


□ Enigma - Sadeness (Part II)




□ Enigma - Amen



You know, the snake said to her, ADAM is a rebel angel who must fall before he can be redeemed.




ルーマニア出身でドイツを拠点とする作曲家、ミヒャエル・クレトゥの音楽プロジェクト、Enigmaの8年ぶりとなるニューアルバム。今作は音楽、絵画、詩作を3名の芸術家で分担した多角的アート。詩作にはドイツ作詞家であり、作家として重鎮のミヒャエル・クンツェを迎え、コンセプトアートは稀代の贋作師として世界中を震撼させたウォルガング・ベルトラッチが手がけている。前作"Seven Lives Many Faces"から8年の時を隔て、新たな内面世界への深層へと旅立った本作には、円熟の境に入ったクレトゥの半生と精神世界を映した、燻し銀のような楽曲が並ぶ。


この"Limited Super Deluxe Edition"は世界2,000枚限定でリリースされ、クレトゥ直筆のサインとシリアルナンバーが刻印されている他、ベルトラッチによる12章の油彩画のレプリカが同封されている。また、オンラインコンテンツへのアクセスコードも記載されている。

2012年にVirgin EMIがUniversal Music Groupに統合されたため、今作は傘下レーベルであるIsland Recordsからのリリースとなった。同レーベルはドイツのEnigmaのフォロワーとして人気を博しているエレクトロポップユニット、Schillerのソフトも手掛けており、今回のコレクター向け特典付きリリースは、まさにSchillerの一連のリリースにおける手法に準えたものである。



12の楽曲それぞれには具体的な『寓話』と『肖像画』が設定され、3言語によって朗読されるストーリーパートと、それに付随するBGMが用意された。また、各楽曲の表題に関する重要なキーワードには、その記号的寓意、文化的意味合いといった説明がブックレット中においてなされている。


"8" eightという数字の持つ意味。それはInfinite、メビウスの輪と無限の象徴であり、古代バビロニアの人々にとっては幸福の暗示、聖書を信じる者にはノアの方舟によって救われた八人を想起させ、イエス・キリストをギリシャ語におけるゲマトリアで置換すると、"888"の三つの並びとなる。或いは、原子番号8番はOxygenとなる。しかし、ニュージーランドのマオリの文化圏に於いては"Pikorua"、現世では別々の道を辿りながらも、見えざる絆によって結ばれた『二人の魂』の表象であるという。(クレトゥは数年前にベルリンの芸術大学で『数字の寓意的意味』について教鞭を執ったことがある。)



"A Fall of a Rebel Angel"の絵画を請け負っているベルトラッチ氏は、かつて贋作師として45億円以上相当の偽作を生み出したことで、逆に芸術界においてはセンセーショナルな注目を浴びることになった。その手口は実在する絵をコピーするのではなく、画家が本来「書いていない」、つまりは実在していない作品を、その技巧や美学の模倣によって産み出すというものだった。一連のプロトコルにおいてベルトラッチは、標的となる芸術家の『人生』を徹底的にリサーチし、その空白期間に焦点を当てる。そして、さも行方不明になっていた作品を表舞台にあげるような体で、画壇の系譜に爪痕を残したのである。

本作の序曲である"Circle Eight"は、Dante Alighieriの『神曲』地獄篇から、地獄の第8圏をモチーフに描かれているが、そこは「虚偽欺瞞の罪」を犯した者の魂が囚われる場所であり、神話上の怪物ゲーリュオーン(美しい顔立ちで、獣と蛇の軀を持つ)によって運ばれるという。クレトゥとベルトラッチが、互い半生と芸術性との間にどんな共通項を見出したのかは明白に語られてはいないが、今やかつての妻と片腕のミュージシャンとも袂を分かち、数々のスキャンダラスを負いながら孤高の作曲生活を送るクレトゥにとって、聖歌や民族音楽のサンプリングというある種の剽窃、或いは作曲家の持つ「墓あらし」という側面もまた、自己への戒めとして込められているのかもしれない。


また、2010年ごろには"MMX Social Song"という、Enigmaが作曲を世界中のファンにクラウンドソーシングするという試みも行われているが、ネット上では一年以上前から"Enigma Moment"という企画で、聴衆にとってエニグマの曲が人生のどんな瞬間を彩ったか、どの曲に対してどんな想い入れを込めているかといった体験談を募っている。現在でもオフィシャルサイトでは"How did you fall, rebel angel? Share your story with the world."と綴られ、音楽という境界面を隔てて、その向こう側に対峙している私たちに関係性を求めている。


クンツェによって綴られた12のストーリーは、地獄へと誘われた自らの魂を、長い旅路の中に探しに行くという形で最終章が結ばれている。ここに描かれているアウトラインは、彼/彼女の誰もが人生の中で彷徨い、自問しうる普遍的なテーマを寓話化したもので、その解答は最後まで与えられない。それは、Enigmaというプロジェクトが作品の中で26年間希求してきた「真理」や「神秘」の開示が、ついには得られなかったという厭世観を色濃く反映したものであるのかもしれない。そして、ある種ニヒリズム的とも言えるテーマに沿うように、"A Fall of a Rebel Angel"の音楽性はこれまで以上に渋く、愛煙家であるクレトゥが紫煙を燻らす姿が眼に浮かぶような、大人の味わいに溢れた作風となっている。


苦悶に表情を歪目めがら堕ち続けている天使の表象はルシフェルであり、私たち人間の誰もが経験する挫折や苦痛、絶望感といったもののシンボルとして顕現する。それはどこまでも永遠に落下の軌道を辿りながら、人であるが故の原罪に囚われ続けている。Gravity of Love - 愛の重力に。



01. Circle Eight
- Love is a healer, but who heals love?

Enigmaのトレードマークであるホーンが登場する前奏曲。Nanukによって唱えられる開幕の"eight, eight, eight..."の三連唱は、上述の通りギリシャ数字によるゲマトリアでイエス・キリストを暗示している。ここで主人公は、神話上の怪物ゲーリュオーンの翼によって地獄の第八圏へと誘われる。ここで遠来する馬の嘶きのサンプリングは、彼らの最初の作品から繰り返し現れるモチーフであり、フロイト的悪夢、性的な幻想を象徴するものだ。


02. The Omega Point
- From a certain point onward, there's no turning back. That point has been reached. - Franz Kafka.

今作の主題がここで呈示される。このピチカートによる主旋律は、Enigmaのデビュー作"MCMXC a.D."よりの系譜で全てのアルバムで受け継がれているヴァリエーションであるが、それが最もパワーに溢れた楽曲として表出したのが、4thアルバム収録の"Push the Limits"においてであった。実際、この"The Omega Point"のモチーフの出だしは"Push The Limits"と酷似している。

4thアルバム"The Screen Behind the Mirror"は、Enigmaが自身の1stアルバムで用いた音楽的素材や寓意を、パズルのように組み替えて世界観を掘り下げるという試みがなされていたが、同じく4の倍数である今作においても、しばしば自家模倣的に1stアルバムの書法に立ち返っている。

"The Omega Point"という概念は、19世紀のカトリック司祭であったPierre Teilhard de Chardinがキリスト教的進化論を提唱して述べた『人間こそが進化の終極点である。』という考えに基づくものであるが、現在の宇宙論ではシミュレーション仮説と関連づけられ、SF的なモチーフとしても度々用いられる。

『限界を超えよ。』とした"Push The Limits"に対応して、その極点を提示する"The Omega Point"が、ややニヒリスティックで叙情的な調べに響くことは寓意に満ちている。

"Escape. Search. Find."


03. Diving
- Visions are a striking example of how little reality means to us. - Marcel Proust

インタールード的なトラック。泉の水面に数々の記憶が浮かんでは消えるように、幾層にも重ねられたアンビエントのレイヤーがえも言われぬ響きを織りなしている。驚くべきは、ここでは3rdアルバム "Le Roi Est Mort, Vive Le Roi!"と7th アルバム "Seven Lives Many Faces"の前奏曲がサンプリングされていることだ。3rdのイントロのモノローグ、"I'm hunted by the future."に想いを馳せる。


04. The Die Is Cast
- There's no turning back from Circle Eight .

『誰かが君を呼んでいる。漠然とした何か。まるで、暗黒の水を照らす灯りのように。その昔、切望した流れ星のように。』

"MMX Social Song"にも参加していたブラジル人シンガーソングライター、Mark Josherを起用した『全く新しいエニグマ』。極めて当世的なポップソングでありながら、それを取り巻くサウンドは紛れもなくエニグマのものである。過去作でもしばしば用いられてきた、80年代プログレッシブ・ロック風のオーケストラヒットがアクセントを添えている他、車の往来するハイウェイを想起させる効果音とレトロでSci Fiな伴奏が、どこか雨の中にネオンが輝くような、映画『ブレードランナー』の1シーンをイメージさせる。

歌うように変幻するベースラインと、船の軋むようなビートセクション(今作では共通して、秒針を思わせるような非常に粒度の高いビートがプログラミングされている。)、そして荘厳なコーラスが物語に奥行きを与えている。コンセプトとして1stアルバムに立ち返っているためか、当アルバムに於いては宗教的なモチーフと、そのメタファーとしてグレゴリオ聖歌を含む教会合唱のサンプリングがふんだんに為されている。しかし、それは"Sadeness (Part 1)"のように主旋律を担うものではなく、極めてオブリガード的にあしらわれている。


05. Mother
- Go enter the realm of dreams

Anggun、ワールドミュージックを齧っている者なら誰もが知っているであろうインドネシア出身の女性シンガーである。彼女の歌う"Snow on the Sahara"は、世界中でヒットを記録し、ニューエイジ音楽の愛好家にとってもアンセムといって良い名曲だが、ネットではしばしばEnigmaの楽曲として混同されてきた経緯がある。今回アングンの起用に至ったのは数奇な巡り合わせであるが、彼女とのコラボレーション自体が、20年来のファンの切望であったことも確かなのかもしれない。

"Mother"のメロディや曲調も、ファンが一聴すれば瞭然の通り、1stアルバム収録の"Callas Went Away"の変奏曲である。同様のモチーフは3rd アルバム収録の"TNT for the Brain"などのほか、類似したフレーズが過去作品の至る箇所に潜んでいる。

ここで描かれている『いつもあなたの心を読んでいる。』普遍的な母性愛の登場は、2nd Albumにおける"the Eyes of Truth"のモチーフがメタモルフォーゼしたものなのかもしれない。


06. Agnus Dei
-All hope abandon, ye who enter here!

"Seven horns he had, and seven eyes, the seven spirits of God sent into all the earth."
『天国と地獄との境界には、ほんの一呼吸の空気しかない。』

"The Omega Point"の主題が再び呈示される。官能的なウィスパーヴォイスと天界のコーラスに導かれながら、迷える神の子羊(Agnus Dei)である主人公は、自身の姿を映す鏡を破壊し、抑圧された願望と禁を侵す悦びの秘された聖堂へと誘われる。

また、60年代ディスコシンセ風にアレンジされた主旋律が登場するが(5th“Voyageur”でも使用)、現代電子音楽の開祖であるピエール・アンリが『現代のためのミサ』と題したこの曲にも同様の思想が見られる。

ここでも"Push The Limits"でも用いられたドラムロールの逆転再生がサンプリングされている。曲調は2曲目よりも次第に激しさを増し、教会の鐘の音が、その時を知らせる。

『lasciate ogne speranza voi ch'entrate - この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』とは、ダンテの神曲から地獄篇第三歌に登場する、地獄の門への入り口に刻まれた言葉である。


07. Sadeness (Part II)
- Viens chez moi, je suis ton destin.
- Sade j'ai compris. sade je te suis.

『我が元へ帰れ、我は汝の運命なり。』

全世界を席巻したヒットナンバー、『サッドネス (Part I)』の凡そ四半世紀ぶりとなる正統続編である。26年前の原曲には予め"Part I"とクレジットされており、クレトゥが、この壮大なEnigmaの楽章を綴るに当たって、当初から数十年周期に及ぶ構想を温め続けてきたことがうかがえる。

"Viens chez moi Voyageur."と歌ったのは、Enigmaの5th Album "Voyageur"のタイトルトラックであったが、ここでも旅人が誘われたのは、性愛の狂宴が繰り広げられる秘密の居城だった。


J.S. Bach "Toccata und Fuge in d-Moll: BWV565"のフレーズは、Enigmaも過去曲"The Rivers of Belief"や"Modern Crusaders"で繰り返し引用してきた。バックコーラスは、重厚な混声合唱で奏でられる"kyrie eleison" (神よ、憐れみたまえ)"唱であり、今作のハイライトトラックと呼ぶべき壮大かつ背徳的な人類愛のテーマへと歌い上げている。ちなみに、このパイプオルガンの演奏は、クレトゥ地震によるものだという。


マルキ・ド・サドの暴力的な快楽原則と宗教的禁忌による性愛の恍惚は、Enigmaの組曲"Principles of Lust"において呈示した楽曲のコンセプトであり、以降のアルバムにおいても、嬌声や吐息といった露骨な性的メタファーは息を潜めつつも、一貫したテーマのもとに要所要所で形を変えて宿ってきた。終盤に感情的に歌い上げるヴォーカルラインは、"Beyond the Invisible"のそれと酷似している。

寓話の中で主人公は、『百万の祈りと、十億の呪い』が具現化した赤い煙が立ち込め、『冒涜的な讃美歌』が唱えられる寺院の廃墟を訪れる。それは26年前に制作された"Sadeness (Part I)"で描かれた修道院であるのかもしれない。26年の時を経て、未だに何も変わらない心象風景。それは然し確実に荒廃を進めている。官能の後に遺る残滓と、それを燃やしてしまったことへの悲哀を謳う。


ちなみに、1994年のEnigma最大のヒット曲である"Return to Innocence"は、そのポジティブなメッセージ性と曲調から、彼の作品の中でも輝かしい『光』の側面を持つが、そのヴォーカルとしてクレジットされている"ANGEL" (Andy Hard)というシンガーにとって、それが後にも先にも、エニグマとの最後の仕事となった。果たして、その"Angel"が今作の主人公として設定されているのか否かは定かではない。




08. Lost in Nothingness
- Unite ye misjudged of the earth.

『愛も醜悪さも争いもない、全てが凍りついた調和の世界』を象徴するかのようなチル・アウトトラック。Michael Cretuは2010年ごろから全ての楽曲制作のプロトコルを自身だけで完遂できるよう、オールインワン・モバイル・スタジオであるMerlinを組み立てた。その前身である"Alchemist"は、6th アルバム"A Posteriori"及び7th "Seven Lives Many Faces"の制作に用いられたが、その頃から楽曲全体にクレトゥの内省的な世界観が最も色濃く反映され、同時にポップ路線でヒットチューンを生み出す軌道から大きく逸れていった印象を受けるようになった。

この"Lost in Nothingness"のような風合いのIDM (Intelligent Dance Music)も、10年前ごろには国際的に大きな趨勢を形作っていたが、トレンドとしては、もはや時代遅れと言わざるを得ない。だからこそこの曲には、過ぎ去った時を慈しむような優しさと包容力を湛えた音色が映るのかもしれない。透き通った氷柱に反射して七色に光るアトモスフィアと、広大なドームに響く空洞音が幾何学的な紋様を描く。

この章で登場する『マグダラのマリア』もまた、キリスト教の解釈においては背徳と贖罪の象徴として描かれることが多い。クレトゥはまた1985年に、自身の元妻であるSandra名義で""Maria Magdalena"という楽曲を発表し、西ドイツを含む21カ国でNo,1ヒットを獲得している。


09. Oxygen Red
- Without struggle, there can be no progress.

『青の酸素は救済、赤の酸素は毒。』

Solid Oxygen - 個体酸素は加えられる圧力によって幾相にも及ぶ異なる同素体と変異し、その構造によって淡い青から深い赤へと変色していく。2006年にX線結晶回折によって初めて判明したことだが、赤酸素として知られていた相はO8分子で構成されており、その結晶構造を理論的に予測できたものは誰もいなかったという。

再びAnggunがヴォーカルをとる。ヴォコーダーでSF風に加工された歌声は、"Turn Around"でも使われた手法だ。変幻自在の音色で奏でられる声は、無数のペルソナを抱えて真理を問いかける普遍的な存在の象徴であり、ENIGMAのコアであった。そして後半では満を時して、アングンの本来の『声』が真相を顕にする。


10. Confession of the Mind
- Your God Is Gone. - Friedrich Nietzsche

『手に入れられるものはレプリカに過ぎない。』

三度"The Omega Point"の主題が現れる。主旋律は、まるで遠くにいる誰かに呼びかけるモールス信号のようにたゆたいながら、その曲調はいよいよ仰々しくなり、高らかに鳴るパイプオルガンの調べによって、魂の告解の瞬間が訪れる。流れ星が伝い落ちるようなサウンドエフェクト、エコーをたっぷりに効かせたリズムセクションは、紛れもなく4th Albumまでの『オールドスクール』なニューエイジ音楽風であり、クレトゥがオリジネイターとして確立したEnigmatic Soundへの回帰である。

曲調は、その旋律の類似性も相まって、5th Album "Voyageur"収録の"Page of Cups"を彷彿とさせる他、"Incognito" (隠者)というキーワードも5th Albumと共通して扱われている。


Enigmaの楽曲は、音を刻むというよりも、幾層にも響きを重ねて紡いでいるように聞こえる。各パートの位相の間隙に覗く、他声部のテクスチャが、まるで壮麗なシミュラークルのごとき構造体を為す。シミュラークルは模倣の反復によって存在する意味的構造体であるが、単なる自身のコピーではない。それは自身の作品が時を経て増殖を重ねていくにつれて、『言語的意味』と『音楽』の領域において互いのシンタックスに作用し、繰り返し関連性を見出されることで、ある種のセマンティクスを構築していく。

同様に、"The Fall of a Rebel Angel"を構成する各章の寓話は、まるでミヒャエル・エンデの『鏡の中の鏡』のように、そのコンテクスト中に、次章へのブリッジとなる記号的寓意が散りばめられている。依って、その前後関係に関わらず物語全体が、もっと『大きな何か』に紐づけられ、投影されている結晶構造を暗示している。それは3rd Albumにおいて"Prism of Life"として歌われ、4thにおいては"Camera Obscura"であった。


11. Absolvo
- Ego te absolvo.

『君はすでにかつての君ではなく、やがてなる君にほぼなりつつある。』

告解によって清浄なるものへとなった魂は、今は青空の下、泉のせせらぎや小鳥の囀りの中に安らぎを得ている。どこからか安息の歌声が響いてくる。教会の少年たちのものだろうか。教会合唱にジャズサックスの伴奏という手法は、どこかあの著名な古楽合唱団Hilliard EnsembleとJan Garbarekによる仕事を思い起こさせるものがある。

『汝の咎を赦す』は、1st Album以降、"Mea Culpa (我が罪)"から抱えてきたテーマの昇華とも解釈できる。


12. Amen
- A via Incognita, exclusively yours.

『遠く、誰かが君を待っている。未知の旅路へと歩き続けよ。』

主人公は、ゲーリュオーンによって自らの魂が連れ去られた地獄の第八圏、サークル・エイトへと旅立つ決心をする。長い告解の道程は、果てしれぬ旅路への始まりに過ぎなかった。

UK出身のTom Higham and Ben Fletcherによる人気アンビエントポップ・デュオ、Aquiloをフィーチャーしたこの曲も、Enigmaにとっては新機軸と言える方向性を打ち出している。かつてないほど叙情的に、しかし力強い哀愁の歌声は、まるで現世の地球を放浪する吟遊詩人のように憂いを秘めてい流。トラッド・フォークのような曲調でありながら極めてメッセージ性が高く、現代の様々な抱えきれない問題と対峙しなければならない新世代への祈りの歌として、ここにEnigmaの新たなアンセムが誕生した。


"the path of excess leads to the tower of wisdom." -William Blake