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Lang ist Die Zeit, es ereignet sich aber Das Wahre.

Our Planet.

2019-04-06 01:01:01 | 映画



Our Planet | Teaser [HD] | Netflix


□ Our Planet (『私たちの地球』)

>> https://www.netflix.com/title/80049832

All episodes will be released on 5 April 2019.

Executive producer(s)
Alastair Fothergill
Keith Scholey
Colin Butfield

Music
Steven Price
The Philharmonia Orchestra, London

Song
"In This Toghther"
Steven Price & Ellie Goulding


Production company(s)
Silverback Films
World Wide Fund for Nature

From the creator of "Planet Earth," "Our Planet" series takes viewers on an unprecedented journey through some of the world's most precious natural habitats, narrated by Sir David Attenborough.


『Our Planet (私たちの地球)』Netflixのネイチャーシリーズ。”Planet Earth” (BBC)への解答編だとされる今シリーズは、気候変動が地球上の自然や動物たちに与えている影響を含め、人間たちの営みと生態系への関係性によりフォーカスしたもの。

怜悧なまでに美しい映像によって記録された映像はアーカイブの域を超えている。地球の自然環境や動物の生態と、気候変動、エネルギー・資源問題の関わりを描く一大叙事詩。

In This Together (Music From "Our Planet") / Steven Price & Ellie Goulding





□ Other Movies.


『ROMA』Netflixで視聴。光の濃淡で描かれる、今や形なき家族の肖像。時代の波の大きなうねりと人の営み。そこは死と誕生とが鬩ぎ合い、満ち欠けを紡ぎ出している。私たちは身を寄せ合って尚、埋めきれない孤独を抱えている。全編を通じ長回しやパンフォーカスを多用し、パノラミックに描かれている。



『A Monster Calls (怪物はささやく)』iTunesで視聴。肉親との別れ、人の感情の複雑性に共感を呼び込んだ本作。引き止められない、受け入れたつもりになっていたものに、それでも抗いたい、縋りたいという本心。それを口にすることがどんなに辛いことでも、行動に移すだけで、真実は見え方を変えていく



『Love Death & Robots』Netflixで視聴。 エログロサイバーパンクからハードSFまで18話の短編からなるアニメーション。単体では商業ベースに乗せるには難しいだろうカッティングエッジな作品だが、むしろ表現媒体ではなく作劇手法に注目すべき新規性がある。David Fincher監督のトリムが優秀なのか。



『CHEF’s TABLE』Netflixで視聴。なんだかんだ入院中に空いた時間で全部見てしまった。一話毎に特定の料理人にスポットをあて、その生い立ち、文化的人種的背景から、どのように『料理』を自己表現の手段にしていったのかを綴る。獣医さんになりたかった食肉職人のエピソードは本当に皆に見てほしい



『バーベキューの世界』Netflixで視聴。世界各国の肉焼き文化と、そこに住んでいる人々の暮らしと美学にスポットをあてたドキュメンタリー。命あるものをし、頂くということ。食を共にする家族や、異人種との共通言語。日本からは「焼き鳥」が紹介。スウェーデンの携帯BBQセット日本でも流行れ!



『The Highwayman (ザ・テキサスレンジャーズ)』Netflixで視聴。主演2人の燻し銀の演技が見応え有り。Thomas Newmanのアンビエント調の音楽も要チェック。「マノス・アリバス」それは、資本主義化の中で複雑・混迷・抽象化する時代に、互いの正義が容赦なく牙を剥く転換点だったのかもしれない。
https://www.netflix.com/title/80200571 



『Hell or High Water(最後の追跡)』Netflixで視聴。Jeff Bridgesの『果ての3部作』二作目。銀行の悪どい融資によって困窮に陥った家族の復讐劇を描いた筋立てだが、彼らはいわゆる「義賊」ではない。時代や環境に爪痕を残し、本当に報いを受けさせるべきは誰なのか。
https://www.netflix.com/title/80108616



『Hold the Dark (ホールド・ザ・ダーク そこにある闇)』Netfilxで視聴。アラスカの広大な雪原と、村の閉鎖的な情景が印象的。あえて真相へと理解を寄せ付けない構成。ルールや慣習、社会性に抗える苛烈な情念へのエレジーとも言うべき本作の顛末は、理解や共感に至る事さえ烏滸がましいと思わせる。



『The Ritual (リチュアル: いけにえの儀式)』Netflixで視聴。POVではないが、所謂ブレアウィッチ・コンプレックスな作品の一つ。呪術的ガジェットの雰囲気に酔い、静止画のように不気味な森のカットも美しい。葛藤の克服が難局の超越に繋がるSF的な要素も楽しめるが、メッセージは至ってシンプルだ。


Exploring three incredible gardens in this extraordinary Israeli mansion - BBC

『The World's Most Extraordinary Homes; Season 2 part B』Netflixで視聴。世界中の前衛的な住宅建築を訪れるシリーズ。イスラエル編の伝統建築と最先端アーキテクトの融合がとても面白い。



『Annihilation (アナイアレイション-全滅領域)』★★★★☆ Netflixで視聴。原作・映画共に、SFとしての新表現に果敢に踏み出した作品で、評価が高いのも頷ける。根源には、私たち自身、遺伝子や己の正体に対し得体の知れない恐怖を抱えていることにある。人間の悲鳴を真似るクマが怖くてトラウマ。



『Unicorn Store(ユニコーン・ストア)』Netflixで視聴。Brie Larsonが監督・主演を務めるコメディ。ユニコーンが何らかのメタファーであるとか、寓話であるとか、そういうことではなくて、誰もが『本物』を望んでいるということ、本物を求めてきた道程に意味があるのだ。https://www.netflix.com/title/81034317




□ ディズニー社系列の動画配信サービス『Disney DELUXE』アプリ加入。今後展開予定の『Disney+』との競合はどうなるんだろう。STAR WARS・MARVEL関連のコンテンツが統合されたのは便利。画質もOK。カートゥーン以上に実写作品が充実してるのも嬉しい。ラプンツェル観ようっと。

>> https://itunes.apple.com/jp/app/id1438734951





The Ballad of Buster Scruggs.

2019-03-03 19:34:25 | 映画


□ 『The Ballad of Buster Scruggs (バスターのバラード)』

>> https://www.netflix.com/title/80200267

Directors: Ethan Coen, Joel Coen
Writers: Joel Coen, Ethan Coen
Stars: Tim Blake Nelson, Willie Watson, Clancy Brown

Six tales of life and violence in the Old West, following a singing gunslinger, a bank robber, a traveling impresario, an elderly prospector, a wagon train, and a perverse pair of bounty hunters.

Netflix オリジナル作品。
コーエン兄弟の西部劇!やはり一筋縄ではない。6編のエピソードは、それぞれ独立した寓話ながら一貫して不条理な『死』をテーマに扱う。無慈悲に命を選別する時代と環境。確実性と不確実性への当世的な問いも投げかけている。

「見て触れるものの確実性は、多くが理に適っていない。ずっと遠い昔から残ったものはない。なのに新しいものに走る。気休めだ」

運は智慧に勝り、死者は歌い続ける。





"The Ballad of Buster Scruggs" 『バスターのバラード』
『あの向こうにはあるはずだ 人は卑劣でなく インチキのない世界が その世界が無ければ 歌には意味がない』
誰にも届かぬ歌を唄い、第四の壁に語り続けるバスター。死の前兆と呼ばれた無敵の歌人も、永遠に勝ち続けることは出来なかった。
人にはそれぞれ予め配られたカードがある。ただし、手札の強さだけが生き残る術ではない。


"Near Algodones" 『アルゴドネス付近』
なんども九死に一生を得て、危機を掻い潜り続ける若者。しかし本当に死が訪れる瞬間には、その足音を聴き逃してしまう。


"Meal Ticket" 『食事券』
四肢欠損の語り部。なんびとが彼の紡ぐ物語に価値を付けることが出来ようか。偉大なる王の物語も、彼らの境遇を救うことはなかった。馬車から降ろされたのは、彼の重さだけではない。語り部と興行師の関係は、現代における配給社とクリエイターの関係性にも似ている。


"All Gold Canyon" 『金の谷』
人の存在しない限り、神々しい調和に満ちた自然の均衡。老人が金脈を掘り当て、強奪を企てた若者は絶命する。
彼らが去った後、自然は再び完全なる調和を取り戻す。初めから彼らなど存在しなかったかのように。


"The Gal Who Got Rattled" 『早とちりの娘』
『生命に至る門は狭く その道は狭い』
確実性と不確実性とは何か。彼らは明日が来る契約を疑わぬ無辜な人々であり、そして聡明であった。
しかし、その賢さ、高潔さが祟り命を断つことになる。誰にその過ちを責められようか。


"The Mortal Remains" 『遺骸』
我々はなぜ『物語』に惹かれるのか。それが我々に似ていて、そして別人であるから。
黄昏を突き進む馬車の中で、銘々に自分語りを始める客人たち。
余興は終わり、役者たちの魂は消える。御者は再び死者を迎えに行く。





First Man.

2019-02-28 21:13:06 | 映画


□ 『First Man (ファースト・マン)』

>> https://firstman.jp

Director: Damien Chazelle
Writers: Josh Singer (screenplay by), James R. Hansen (based on the book by)
Stars: Ryan Gosling, Claire Foy, Jason Clarke

『First Man(ファースト・マン)』IMAX及び4DXで試聴。全編を通じ情緒に偏った演出が色濃い。空の色、アングル、金属音、回想。ロマンや夢とは程遠く、国家や社会のエゴに駆り立てられる宇宙計画。家族を顧みずミッションに没頭するニールだが、彼は過去から逃げていたわけでなく、それを追いかけていたのだ。

IMAX版の月面シーンは、月の砂の粒子のきめ細やかで美しい描写に感嘆する。





Voyage of Time.

2019-02-02 23:27:53 | 映画


□ 『ボヤージュ・オブ・タイム』(Voyage of Time)

>> http://gaga.ne.jp/voyage/

Voyage of Time IMAX® Trailer


Directed by Terrence Malick
Written by Terrence Malick
Narrated by Cate Blanchett

Music by
Simon Franglen
Hanan Townshend

光の魔術師テレンス・マリックによる、宇宙の始原から時の終わりまでを描く映像叙事詩。『私達は何者で、何処へ連れてこられたのか』を根源的に問う。映像手法はドキュメンタリーそのものだが、ロケ映像を異なる文脈の代替イメージに用いる語り口は極めて映画的。







WIND RIVER

2018-12-23 00:54:34 | 映画


□ 『WIND RIVER (ウインド・リバー)』

>> http://wind-river.jp

Directed by Taylor Sheridan
Produced by Matthew George / Basil Iwanyk / Peter Berg / Wayne L. Rogers / Elizabeth A. Bell
Written by Taylor Sheridan
Starring Jeremy Renner / Elizabeth Olsen
Music by Nick Cave / Warren Ellis


『ここには運などない。生き延びるか諦めるか、それだけだ。』

『Wind River』現代西部劇として定評ある脚本家、テイラー・シェリダン自らメガホンを取ったスリラー。雪深いシチュエーションでの淡々とした作劇は味わい深いが、特筆すべきはシャープな撮影手法と、ソリッドで緊迫感に満ちたアクション演出。堪えていた感情が発露する終盤の対話には落涙を禁じ得ない。


生き残ろうとする意思が、狩人を導く。
"ウインド・リバー"の風が、雪上に遺した命の軌跡を攫う前に。








Jupiter's Moon.

2018-04-30 22:57:26 | 映画


□ Jupiter’s Moon (『ジュピターズ・ムーン』ハンガリー・ドイツ合作)

>> http://jupitersmoon-movie.com

『歴史の傷から守られた場所などない。』

難民問題を軸に重厚でシャープな映像美で、リアリティの中に奇蹟の意味を問う作品。
赦しと解放は、己を縛るコンテクストからの逸脱だ。

地を這い泥水をすする諸人の誰もが特異点になりうる。

ALIEN: COVENANT

2017-09-17 11:43:08 | 映画


□ Alien: Covenant

>> http://www.foxmovies.com/movies/alien-covenant

Director: Ridley Scott

『ALIEN: COVENANT』、前作”Prometheus”に続き、リドリー・スコット監督の、ギーガーに囚われた妄執的、悪夢的なSF世界が描かれている。侵食と冒涜。創造主のマスタープランの破綻を嘲笑うようなユーモアは、自己剽窃を繰り返す自身や創作表現へのアイロニーでもある。





DUNKIRK.

2017-09-11 22:18:33 | 映画



□ Dunkirk

>> http://www.dunkirkmovie.com

Director: Christopher Nolan
Writer: Christopher Nolan


『ダンケルク』 (Dunkirk) 生と死の淵、命の境界線に立たされた者たちの闘争を、緊迫感を保ちつつ淡々と擬似リアルタイム視点で叙述。運命は存在せず、地獄を生み出しているのは人間たち自身だ。異なるタイムスケールが収束していく脱等時性は、誰かが握っている時間の重みの差異である。





"Arrival" (『メッセージ』)

2017-05-22 23:22:14 | 映画


>> http://www.message-movie.jp

『メッセージ (arrival)』、テーマに擬えて非線形な物語構造を叙述トリックによって表現している映画。重大な意味を持つモンタージュ場面の数々は、Johann Johanssonの劇中音楽の為にあしらわれたかのようにセンチメンタル。ヘプタポッドの全容はベクシンスキーを思わせる。

Johann Johannssonの作曲した『メッセージ(arrival)』の劇伴コーラスは、Paul Hillier率いるTheatre of Voices。技法がMeredith Monkを彷彿とさせる。モンクも未来視を扱った映画Book of Daysの音楽を手がけている。



□ Max Richter - On the Nature of Daylight



因みに映画『メッセージ』の主題曲はJohann Johannssonによるものではなく、同じポストクラシカル畑のマックス・リヒターの代表曲が引用されてる。



□ Jóhann Jóhannsson // Fordlândia



近年の映画音楽からJóhann Jóhannssonを知った人達には、ぜひ彼の現代音楽家としての最高傑作Fordlandiaを推したい。科学哲学は定番のテーマ。

↓数年前にブログに書いたレビュー。

□ lens, align.: Jóhann Jóhannsson / "Fordlândia" Review.

>> http://blog.goo.ne.jp/razoralign/e/004a416b9975f6d13d47e2abcbb91420





PROMETHEUS

2012-08-20 14:21:03 | 映画
Prometheus



□ Prometheus

>> http://www.foxmovies.jp/prometheus/

Director: Ridley Scott
Writers: Jon Spaihts, Damon Lindelof
Stars: Noomi Rapace, Logan Marshall-Green and Michael Fassbender
Music: Marc Streitenfeld
Additional Music: Harry Gregson-Williams


『プロメテウス』…人類に智慧を与え神の怒りを買い、その罰によって半永久的に内臓を鳥に啄まれ続けることになった神話上の存在。


やべぇ。最初から最後の一瞬まで、徹頭徹尾、私好みの映画だった。魂が震える。

ラストで決めて来たね。欲を言えば、ラスシーンのアレは同じアレにして欲しかった。
最新の映像技術で描写されたDNA二本鎖が美しかった。とにかく最期の瞬間まで美しい悪夢を見てるような映画。そして、これを「エイリアン前史」として観ることは重要。

確かに登場人物の行動原理に説得力がない部分はあるものの、私は寓話として楽しめました。

主役と言えるマイケル・ファスベンダーの怪演もさることながら、彼の演じる孤独なアンドロイド、デイヴィッドのキャラ付けがパーフェクト。この映画の魅力の半分は彼の存在が醸成している。かたや、「父親」にロボットのように育てられたシャーリーズ演じるヴィッカーズとの対比も良


ちなみにプロメテウスの『エンジニア』のヘルメット(?)の造型は、インドのガネーシャに宇宙人説をとなえたデニケンとか通過してるとニヤリ。




"Wheel of Fortune" (運命の環)

悪夢と言ったけれど、"PROMETHEUS"はまさしく、人類が太古の昔から生命の揺り籠で見ていたような「夢」の輪郭を擬えるような物語だ。それを隙のない語り口で具現化して見せる監督の手腕は、他でもない『ALIEN』の方法論で擁したものかもしれない。


ALIENとPROMETHEUSは、時系列とは逆に、事象の構成が入れ子になっているような感覚を覚える。それはALIENの既視感であり、親と子の愛憎と、異形の侵襲、そして宇宙の孤独の中にあって、生命にとって「似たものとは何か」その親和性の根源に至る。

入れ子とはつまり、ALIENで起きたことは、未知の宇宙生物の生態や習性故に導かれたものであるけど、PROMETHES号の乗船員が同じような運命を辿ることにより、生命の業の必然性が時間を超えて二つの事象を結ぶことになる。『エンジニア』の人類への怒りの理由はそこにあると、私は見た。

神は自身に似せて人間を作りたかったのではない。神は神たらしめたものを知りたかったのだ。




映像作品として見ると、プロメテウスはホラーやSF映画の型枠にハマったエンターテイメントを中心には据えていない。ブロックバスター映画の場合、花火の十号玉を幾つ多く魅せられるかという定型にハマりがちだけど、プロメテウスは終始、物語を叙述することに徹し、丁寧に雰囲気を作りあげ逸脱しない。



特に女性なら感じる生理的嫌悪感を煽り立てるような中盤のシーケンスは、エイリアンとプロメテウスが、父と母と子の関係性で結ばれた普遍的な『拒絶』の物語であることを象徴している。


エイリアンでリプリーを演じたシガニー・ウィーバーは、一作目を「レイプ映画」と一刀したそうだけど、プロメテウスはまさにそれ。その意図が明かされないのが、生命の根源的な問い、"Quo Vadis"によって宇宙の絶望的な深淵に触れることになる。現実世界の人類が余りにも孤絶しているが故に。

そのレイプに加担するのが、人類側の飽くなき欲望と死への畏れ。不死の拷問に晒されてまで、人に智慧を与えた神話のプロメテウスは何を想うのか。




プロメテウスにおけるエイリアンという観点から言えば、「それ」はなお、私たちが見知らぬ異形である必要があった。それ故のディレクションなのだと思う。近縁で果てしなく遠い何か。点と点が引力のように引き合う感覚。


そして、その存在自体が、『エイリアン』という作品に顕われたエイリアンの形質の特異性を引き立てるものに他ならない。

この作品において、人間側が解釈したことはミスリードのフラグにしか映らない。『エンジニア』に感じたのは『魂の希求』だ。だからアンドロイドとエイリアンの対比が映える。





また、この映画が酷評されてる理由が、私が最も好きなところなのが面白い。こういう悪夢のような映画がずっと観たかった。お金かけたからと言って、お行儀良すぎる映画が多過ぎる。


それでも残念なのは、エイリアンから期待できるような、世界観を裏打ちするセットや舞台装置に『ディテール』を余り感じられなかったこと。エイリアンには時代を超えたリアリティがあり、プロメテウスには悪夢のような寓話性が強調されている。



ただこれを観て『聖書原理主義』だの糾弾するのはズレてるとしか思えない。本作におけるDNAの描写は、寧ろパンスペルミア仮説が真面目に議論されてるだけに。これに寓話性を求めるか、フィクションのディテールを求めるかが評価の分水嶺になりそう。


プロメテウスにおいて『ディテールが見えてこない』というのは結構重要で、それは空気感の描写が上滑りになっていることの現れでもありそうなんだよね。美術は圧倒的にパワーがあるのに、尺やフレームに捉えきれてない感覚があり、近年のSFにも近い当世的なアンニュイがある。


例えば『エイリアン』で、リプリーがノストロモ号を自爆させる為に行う、謎装置の謎操作をじっくり見せるというシーケンス。観客にとってなんら意味を感じさせない行為なんだけど、あういうシーンの一つ一つが、エイリアンの世界のリアリティを構築していたわけ。昨今の映画製作では許されないのかも



登場人物がステロタイプ的に動かされていると言うのは、確かに不満な所。「あーすればいいのに、こーすればいいのに」と飲み下し難い部分も多かった。ただこれにも密閉空間での侵略ものが流行った、80年代的テイストを感じる。エイリアンとの入れ子構造を狙って、ああせざる得なかった。




話の筋としては、宇宙の遠い星にあった古代の遺跡に、人類の起源らしき舞台装置があって、人間がそこで右往左往するだけの物語。だからこそ普遍的で揺るがないリアリティがある。人が問い続けて来た謎を、現実に求めるか未来に求めるか、どちらにせよ我々は解答を与られていない、見放されていることの疎外感。



未来に求めるものは、ここにはないということ。だから夢に託すしかない。プロメテウスはその意味で、極上の悪夢を提供してくれる映画。

創造主に見放された『エイリアン(疎外者)』は我々であり、かつて我々から生まれたものだというトートロジーなのだ。






The Dark Knight Rises.

2012-08-08 18:03:52 | 映画
Dark_knight_rises_imax



□ "The Dark Knight Rises"

>> http://www.thedarkknightrises.com

Release Date; 20/07/2012
Director: Christopher Nolan
Writers: Jonathan Nolan (screenplay), Christopher Nolan (screenplay)
Cast: Christian Bale, Tom Hardy and Anne Hathaway
Music: Hans Zimmer



□ 前作『ダークナイト』レビュー

>> lens, align. : :THE DARK KNIGHT Review.



『ダークナイト ライジング』、前作に由来する期待と想像を遥かに上回る映画だった。そりゃ前作の方が神がかってたけれど、今回は力技という感じ。

荒唐無稽な脚本や場面転換についていけない部分もあったけれど、そこに問答無用の説得力を付与するヴィジュアルの整合性が凄い。




ネタバレにならない程度に疑問点を書くとすると、今作は『市民』が一貫して庇護の対象であること。一市民に委ねられたはずの運命が、結局は武力と暴力で左右されるという中で、バットマンの不殺主義の意義も見落とされてる。市民云々は、前作支持層への目配せ程度のスパイス。


でも、破滅的な状況の中で主義を貫き通そうとする意志は生きてるし、目的を遂げる為に、志の違う者に力を預けるという点。それってありきたりじゃね?という展開だけど、前作で描いた内面の葛藤と、市民を生かす全体意志の拮抗という枠を超えた次元で戦っているという面で、前作へのアンチテーゼを為す



前作『ダークナイト』は、まさにジョーカー的作品だった。それは牙を剥いたトリック・スターの怖ろしさであり、底知れぬ混沌の齎す災禍であった。対して『ライジング』はひたすらに凡庸であり、限界の壁にぶち当たる。それは物語だけでなく、登場人物や制作面においても、凡庸ゆえに磨かざるを得ない力。


今回の敵は徒党を組んでいたけれど、たった一人で人心を惑わし、都市を恐怖の坩堝に叩き込んだジョーカーの人外さが更に際立ったと思う。


ジョーカーは自らをバットマンに殺させることで彼の信念を折り、不条理によって市民の守るべきものが自壊することを占おうした。信念と退廃の拮抗。対してライジングの仇は、理不尽で圧倒的な暴力・強制力であって、それは執念と信念の衝突であり、己の影が翻って消亡に引き摺り下ろそうとする闇だった。


ジョーカーが怖ろしいのは、彼がかどかわし操った人々は、彼ら自身の良心が刃向かい、抵抗でき得るという点なんだよね。だけど彼らは操られてしまう。自らの欲望に、葛藤に敗れて。ベインが武力で市民を抑えてつけていたのとは対照的。



今回、キャット・ウーマンが犯罪歴を消すことに命を賭けてる理由すら説明はないんだけど、こういうキャラの行動原理を観客に放り投げっぱなしな部分が多いという批評には同意。でも、そういう穴だらけで淡白な部分が、この映画のどこか乾いた叙述的な雰囲気を醸し出してる。



「誰もがダークナイトになれる」というメッセージについては、前作でより十二分に伝えられていた。だからこそ一方的にいたぶられ、庇護される市民の描写に不満はある。でも、ベインが望むようには享楽的な様子(ソドムを強いられている)も観られなかったのは、ジョーカー事件を乗り越えた強さなのかも。

ちょっとネタバレ気味になるけど、クライマックスで蜂起するのが警察だけじゃなくて、一般市民だったら。。と思っても、一瞬で都市を壊滅させる鍵を握ってるのが市民だということになっているのだから、それじゃ説得力がないか。。


ともあれ、脚本はとても難しい仕事をこなしたし、多々上滑りになっていることは否めないと思うけど、あの筋であれ以上のものが完成できるかというと不可能だと感じられるし、ヴィジュアルと語り口の整合性は、監督があくまで映像芸術という見地で物語を構築していることに他ならないことを実感させる。






INCEPTION.

2010-08-08 18:26:39 | 映画
Inception


□ Inception

>> http://wwws.warnerbros.co.jp/inception/mainsite/

Directed by Christopher Nolan
Produced by Christopher Nolan
      Emma Thomas
Written by Christopher Nolan



面白かった!

誰かが「重厚なオーケストラのような映画」と言ってたけどその通り。夢の階層を行き来する「時間のズレ」を利用したシナリオに引き込まれた。Hans Zimmerの音楽にも、本編で重要な役割りを担うエディットピアフの歌声を利用した「トリック」が仕込まれている。

冒頭の夢の中でサイトーが登場する絢爛な日本城が息を呑む美しさ。CGだけでなく、独特なスケールの都市感覚に溢れたロケーションや、舞台装飾に感じられる徹底的な拘りは、同ノーラン監督の『ダークナイト』を踏まえたものに感じられる。


インセプションをオーケストラに例える巧さは、役者やプロットの絶妙な配合と、舞台ごとに時間の流れが事なる多層構造にもあるけど、最たるものは、理屈よりも情緒的な構造に重きを置いているところ。音楽で言うトニック。



夢からさめる=主音に帰着して行く=夢の階層ごとの動機が消化されて行く。プロセスについての設定やシステマは穴だらけなので、辻褄合わせの憶測をする楽しみ方も出来るが、最後の場面も含め、あまり明確に説明されていない登場人物の行動や世界観についての理屈は、映画という夢を共有する観客に感情的な落とし所を与える点で音楽的創意に通じる。


物語中に登場する「ペンローズの階段」のパラドクスも重要なメタファーとなっているかもしれない。時系列が分断し、交錯する作品世界の解釈は、主観や視点の切り替えで違った切り口を見せるだろう。何よりも鍵となるのは、夢が現実の投影である一方、「潜在意識こそが現実に反射する」という、逆行のプロセスが、「インセプション(植え付け)」の原理となっている点だ。


SFの中にドラマがあるのではなく、ドラマを語る書法としてSFが用いられている為、登場人物の動機や行動原理自体は地に足がついたものだ。映画の筋書きを「映像書法」として割り切れる人は、もっとわだかまりなく楽しめる作品。


ある局面における、ディカプリオ演じる「コブ」と渡辺謙の「サイトー」の対峙のリフレインが、ただただ哀切で味わい深い。


自分の対峙している事象が夢が現実かわからない時、しかしそれは抗いようもなく現実の一部となり、やがて夢の一部となる。或は、私たちが現実と信じている生命こそ、「回り続けるトーテム(コマ)」の如く、もっと深層にある出来事の投影に過ぎないのではないだろうかという感情。それらの曖昧な美こそ『眠り』の本質につながり、この映画の結末を一層儚く煌めかせているのである。



"わたしたちの生命は夢ではない。しかしそれはやがて、
 いやおうもなく、夢と一つになるだろう。
"
              -ノヴァーリス 





Slumdog Millionaire

2009-05-15 16:44:48 | 映画
Slumdogmillionaire


>> http://slumdog.gyao.jp/


□ Slumdog Millionaire

Jai Ho


Release Date; 18/04/2009
Director: Danny Boyle & Loveleen Tandan (co-director: India)
Screenplay: Simon Beaufoy
Base Novel: "Q&A" by Vikas swarup
Score: A.R. Rahman


Dev Patel / Freida Pinto / Madhur Mittal / Tanay Chheda / Ayush Mahesh Khedekar / Azharuddin Ismail / Rubina Ali / Anil Kapoor / Irrfan Khan



この映画がアカデミー8冠に輝いた理由はどれか?

A. インチキだった
B. ついていた
C. 天才だった
D. 運命だった


"It is written."
・・・私たちが「物語」に求めるものとは何だろう?

もし、“偉大な神”が世界で起こることのシナリオを記述しているとして、それは誰に何を訴える為に書かれたものなのだろう。


内容そのものはステロ過ぎる程のダニー・ボイル作品でしたね。感傷・情緒過多な映像美、お世辞にも丁寧とは言えないストーリーテリング...これがエナジー溢れる「インド」という地と運命的なくらい相性が良い!!

そしてあくまでイギリス映画であることから、インドという文化に造詣の深い人ならより楽しめるような作りが意識されています。



この映画に対する紋切り型の社会・文化的考察、及びテクニカルな批評は、もう既に多くなされていると思うので省きますが、やはり映画の外、製作に関わることで「現実の」摩擦や社会問題、スキャンダルが付きまとっているようです。


「スラムドッグ$ミリオネア」出演の子役たちの住むスラム街の住居、強制撤去される (FNN)
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00155190.html



無学の少年ジャマールがクイズに正解し続けたという「映画内の事実」に対して、現実における「知」の統語論的意味を語るのは、観点としてはおそらく正しく無いでしょう。然し乍ら、「経験が知に先立つ」という最近のコレクティブ・インテリジェンス研究のトレンドを、皮肉を交えながらこれほど象徴的に描いた作品が支持されたことも、単なる偶然とは思えない感慨があるものです。


カーストに関わらず、民衆の誰もが夢見る「ミリオネア」。インドに犇めく多様な人々が各々の生き様を通して、明日また問題になるかもしれない何かの答えを手にしている。いわゆる「衆愚の知」は民衆のものであり、同時に権威主義的なメディアや人々そのものに返ってくる言葉でもあります。「衆愚」を知らないものが本当の「衆愚」である。

「ミリオネア」という舞台は、ジャマールという少年が通過する一局面として彼の人生に招かれたのであり、答えが彼の人生を、彼の人生が答えを真実であると、必然的に証明している。それは何よりも、人にとって「物語」が必要な最も尊い理由と符合して、ジャマールが、そしてこの映画が祝福されたことの意味すら兼ねています。

私たちの観たい物語は、現実に起きることを望むべく物語であり、描かれるべき物語なのだ。



「三銃士」の最後の一人のくだりは感動的でしたね。
出題の答えはわからないのに、ジャマールが最も望んだ答えはそこにいる。ミリオネア最後の問題と、映画冒頭の問いに対するファイナル・アンサーは正に、「彼の人生に書かれていた」ものだったのです。



Sdmsoundtrack

音楽を担当するのはインドの鬼才コンポーザー、A.R. Rahmanですが、ご当地インド音楽とテクノビートを絡めながらも、実際にはあまりにも当世的なスコア作りに拍子抜けする方も多いかもしれません。2007年の"Elizabeth: The Golden Age"では、今作と同様の音楽性の作品を多く手掛けて来たCraig Armstrongと共作しており、彼からの影響も少なからず聴き取れます。


Burn After Reading

2009-05-01 06:13:12 | 映画
Burn_after_reading_2


>> http://burn.gyao.jp/


□ Burn After Reading

"CIA Man" / The Fugs
"Night Running" / Carter Burwell

Release Date; 23/04/2009 (Japan)
Director: Joel Coen / Ethan Coen
Music: Carter Burwell
Cinematography: Emmanuel Lubezki
Starring: George Clooney / Frances McDormand / John Malkovich / Tilda Swinton / Richard Jenkins / Brad Pitt



『バーン・アフター・リーディング』・・・読後焼却すべし

天下のCIAが「ワケワカラン!」と匙を投げた部外秘レポートとして扱われる物語の顛末は、あまりに滑稽で、そこそこ不条理で、わずかばかりの現実味を覗かせている。


最近観た中で最も酷い映画でした。
とにかく言いたいことはそれだけです。


この映画を観たという事実そのものを消し去りたい???、記憶を書き出して文字通り焼却処分しても何ら差し障りないと思えるのですが、観賞後から今に至るまで、このジワジワと効いてくるフックのようなものが、コーエン兄弟のレシピの妙味なんだろうなぁ。。

自分がこの映画について語りたいことは何だろうと一週間考えたあげく、結局何も残りませんでした


Bar2
(愛すべきiPod馬鹿、チャドがひょんなことからCIAの極秘文書?を手に入れてしまう)



ブラピ若いねー!
現実にベンジャミン・バトンしているのかと思っちゃうくらい。そしてヘタレ演技が上手い!あの怯えるシカのような目は、そこらのベテラン二枚目俳優にはそうそう出来ない芸当だと思います。マルコヴィッチの滲み出る狂気やクルーニーのアホ演技もさることながら、やはり役者の力量なしには成立しない作品には違いありません。


ブラック・コメディと銘打ってはいるものの、実際にはシュールで淡々とした群像サスペンス。登場人物同士の絡みの妙な擦れ違いやセリフの噛み合なさに、「あー、あるある」とか「ありえねー」とか心の中で突っ込みを入れつつ、失笑や冷笑を交えて味わう映画ですね。

その手のジョークは好きな方ですが、この映画については正直「まだ終わってくれないのかな。。」と心の中で呟き通しでした。内容に不釣り合いなほど仰々しいOPスコアや残酷描写、ことごとく肩すかしに流れ過ぎていく深刻げな筋書き、絵的にどうかと眉をひそめてしまうエロ椅子と、あれよあれよとギミックは登場するものの。。


Bar3
(出会い系中毒の連邦保安官ハリー。こいつがビビリなばっかりに。。)



極めて卑近で当世的な人柄と言える登場人物たちの行動は、時にあまりにもコメディ的で、時にあまりにも荒唐無稽に映ることがありますが、それを「こいつならやりかねないな」と説得力を齎すのが、一見無価値と思えるほどの細かいセリフの応酬や、大物役者陣の有無を言わせぬ演技力によって仕込まれた伏線の数々。これは見事と言わざるを得ません。「魅せる演技」ではなく、しっかりと「見せ物になる演技」になっている。

そういった意味で、これほどの力業で「役者の物」になっている映画には、昨今なかなかお目にかかれるものではありません。煩悩にしがみつく一人の女性の欲望を契機に、それと気付かず振り回され這いつくばるどん詰まりの人たち。剥き出しであるがゆえに捉えどころのない悲喜劇。



かのシャーロック・ホームズ曰く、「この街に暮らす人々の相関を書き出すだけで、いかなる推理小説も真っ青のシナリオが描けるだろう。」その通り、現実に生きる人々は、自分の身に起きることが、常に自分の見知らぬ誰かの行動の連鎖に組み込まれていることを無自覚に承諾している。


それがひょんなことで日常生活という箍から外れてしまった時、自身を取り巻く一連の出来事を関連づけるパースペクティブが如何に認識困難でナンセンスな模様を描き出すのか。それこそ、この作品の投げかける一さじばかりの真実味なのでは無いでしょうかと最もらしいことを言ってみるものの、やっぱりこの記事を書いた時間も含めて返して欲しいというのが本音のところ。


ブラピの何とも言えない最期の笑顔(?)が目に焼き付いて離れない、連れに言われた「○○(私)って、チャドっぽいとこあるよね☆」ってことだけが断じて納得いかない、そんなどうしようもなさ一杯の最高の映画でした。


『WALL?E』

2008-12-08 16:24:46 | 映画
Walle


>> http://www.disney.co.jp/movies/wall-e/


□ 『WALL?E』

2815 A.D.
Desperate EVE
Static
Down to Earth (feat. Peter Gabriel)


Release Date; 05/12/2008 (Japan)

PIXAR/Disney
Director: Andrew Stanton
Writers: Andrew Stanton & Pete Docter
Sound Design: Ben Burtt
Scored & Song by: Thomas Newman & Peter Gabriel


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????29世紀、地球。
地上でたった一人、ゴミを片付け続けるロボット。
彼の名はウォーリー。
700年もの孤独は、いつしか彼に夢と憧れを抱かせるようになった。
『いつか誰かと手をつなぎたい????。』



"WALL?E (Waste Allocation Load Lifter Earth-class)"

ピクサー最高傑作の呼び声高いSFファンタジーだが、設定からストーリー展開に至るまで、細部の悉くが判を押したような王道・定型パターンや名カットのオマージュで凝集されており(ある意味、ここまで愚直に金科玉条を守るシナリオは凄い)、元々望むべくも無かったオリジナリティという点においては現在までの最低ラインを割っている。だいたいご都合主義にも程が・・・


Walleye
「う゛ぉーリィー」

(´;ω;`)ブワッ


泣けた。
心が震えた。

もう最後の方を思い出すだけで、今でも涙腺にジワジワと・・・う、うっ。。゜・。(。/□\。)。・゜ウェェェェ。ウォーリー!!700年もひとりぼっちで。。イヴに出会えて良かったよぅ。゜:(つд⊂):゜。健気すぎる~。どうしてそこまで。゜(゜ `Д)ノ。゜ヽ(  )ノ゜。ヽ(Д´ ゜)ノ゜。。゜ヽ(゜`Д´゜)ノ゜。ウワァァァン!!ウォーリィィィィかわいそうだよぉぉぉ(´Δ´)・・・ooウワーン


・・・コホン。
取り乱しました。

なぜ、予定調和な結末に直走るだけの機械的なシナリオが、これほどまでに感動を呼ぶのか。それは他の何者でもない、ウォーリーが自身の「想い」をただひたすらに貫き通し、ただ一途に成し遂げた必然の過程だからなのです。


Walleve


監督が語るように、この映画の持つメッセージ性や寓意は、「それ」としてわざわざ頭で理解する必要は決してなく、ただ映像を通して心を打つエモーションだけを受け止めれば良い。なぜなら、「人の想い」や「言葉」とは、表層に顕われる「行動」に勝ることがないから。それは、この作品のテーゼである「愛」にこそ通じるファクターなのでしょう。

Walle1


『レミーのおいしいレストラン』は本当に素晴しい出来だったけど、思えば私は一年以上前から、その劇場予告編で初お見えした"WALL・E"君に心を奪われていた。何よりもそのデザイン、子供の頃に最も愛着のあったロボット映画、"Short Circuit"シリーズのジョニー5と瓜二つな体躯を機敏に動しアドベンチャーを繰り広げる勇姿に、童心を突き動かされたのです。


「ジョニー5!?ジョニー5じゃないか!!」

Circuit

『WALL?E』を手がけるにあたり、アンドリュー監督と製作スタッフたちは、その教科書として様々なSFロボット映画を参照にしたそうだけど、ウォーリーの性格や、シナリオの筋書きの大きな基軸として"Short Circuit (ショート・サーキット)"を意識したのは明らか。だいたい予想出来る展開だと思いますが、身体が壊されてしまうくだりは"Short Circuit 2"を思い出しますね。。それに普段からボロボロで今にも停止してしまいそうなハラハラ感が、ラストの凍り付くような緊張感に繋がります。


双眼鏡のような頭部はもちろん、アームやキャタピラのような外見上の共通点は恐らく工学系の基本モデルを参照にしているのか、実は割と普遍的なデザインなのかもしれません。あ、でも眉毛が無いな~と思っていたら、「瞳の中」にあった!!(笑)


"Star Wars: Episode II"にもゲスト出演?していたJohny 5ですが、そのいじらしい性格で、歌やダンス、その他人間の俗世的なものをこよなく愛するウォーリー君は、ジョニー5の生まれ変わりに違いないのです!(力説)ただ酷く無口になってしまったけど、声も変わってなくてホロリ・・・。

ちなみに、ウォーリーの充電完了音にMacの起動音が使われていてビックリ(笑)イヴの白くて滑らかな光沢の容貌はiPodをイメージしているそうです。


Wallemo


ウォーリーの他にも、映画の後半部分に実に表情豊かで多彩な個性を持ったロボットが登場しますが、ラスボスである"Autopilot"の行動原理は"2001年宇宙の旅"のHALに代表される60-70年代の風刺的SF映画に多いロボットの類型で、その外見上の動作や特徴は"Flight of the Navigator (邦題:ナビゲイター)"のパイロットも彷彿とさせます。


Walle_eve


前半部分は効果音付きのサイレント映画という趣向のフィルムで、突如飛来した天使のような女性ロボット『イヴ』と心を通わせる過程が情緒豊かに、しかし的確に描写されていきます。

ウォーリーが自分のコレクションをイヴに持たせるシーンでは、意中の彼女が手にして初めて電球(=宝物)が輝くという描写も象徴的です。


"ストーリーを伝えられるかどうかより、ロボットが会話出来ない面白さの方を取ったんだ。(中略)観客は自分で想像しなくちゃいけない。でも自分の想像が正しいと、その対象との間に感情的な絆が生まれるんだ。"  -Andrew Stanton.


Wallee


その背景となる荒涼とした廃棄都市の相貌は、"Star Wars"の方法論を参考にして書き込まれているそうで、ハードSFとしても十分通用しそうなくらい重厚で圧倒的なスケール感を持っています。それをバックに流れるBGMが、かつての豊穣の時代を謳歌する60年代のミュージカル・ソングという点も狙い所として心憎い演出。

700年の間、彼がひとりぼっちで築き上げてきた無数の「ゴミの城」は、既に過去の文明都市を凌駕するほど巨大化していて、そこにウォーリーの孤独と遥かな郷愁の全てが凝縮されています。(風化していくビル街を再現したかった?)


対照となる理想郷、「宇宙船アクシオム号」の概観は溜め息を禁じ得ないほど「未来の様式美」を結集したものですが、その陰となる薄汚れたアンダーワールドも、ファンタジーのお約束に沿ってしっかりと描写されています。


同じ舞台装置が執拗に繰り返し登場するのも、キャラクターの行動を活き活きと印象付ける効果を上げていますね。見終わった後も場面ごとのシークエンスが記憶に残り、感動を呼び覚まし易い仕様。

宣伝されているほど過剰に泣きを誘うわけでもなく、ド派手なSFアドベンチャーを期待していてもいけない、きっと想像されるより割と中庸で小粒な出来ですが、却ってこれほどまでに純度を高く保って完成させたことを評価。


Walles


700年もの間、広大な宇宙の片隅でプログラムに忠実に使命を全うしてきたオートパイロット達は、イヴと出会うまでのウォーリーの生き写しであり、同類だった。太古の人間は想像だにしなかっただろう奇跡。そんな奇跡に心打たれる人々が沢山いるのなら、そんな人間にとっての「パートナー」の現れに憧れる気持ちがあるのなら、私たちの未来はまだ、暗いと決まったわけではないのかもしれない。



□ 吹き替え版について

主人公の2体のロボットには殆ど台詞らしい台詞は無いのですが、注目して欲しいのは、看板やインジケーターの表示等をCGから徹底的に書き直して「日本語化」した映像。荒廃した都市やハイテクの機器類に漢字が踊る様は、それはそれで全く異なった趣があります。

オリジナル音声では、シガーニー・ウィーバーが『宇宙船アクシオム号』のナレーションを吹き替えています。『エイリアン』シリーズで自身が散々苦しめられた「宇宙船の声」を演じるとは何とも皮肉が効いてますね(笑)



□ 音楽について

映画の重要なキーでもある1960年代の古き良きミュージカル映画"Hello Dolly!"の音楽を手がけたのは、言わずと知れたニューマン・ファミリーのLionel。その甥に当たる現代の名匠、Thomas Newmanが、当時のミュージカル映画から特徴的な素材を引用しつつ、新たにSF・ロマンテイスト溢れる叙情的な楽曲に再構築しています。

「ウォーリー」のモチーフらしきチェレスタの旋律がとても切なくて、イヴとの恋の行方に、「ある決着」を迎える最後のシーンでは胸が締め付けられました。


Peter Gabrielとのコラボレーションも特筆に値しますね。両人ともポップ領域における民族音楽の扱い方を心得たプロフェッショナル。EDロールで流れる「映画のその後」を唄った主題歌"Down to Earth"には、歌詞の中盤で世界観がひっくり返るような叙述トリック(過去と未来、双方に向けたメッセージ?)が仕込まれているので、耳を良~く?てて下さいね!


Wallegoods

世界中でのヒットから日本でのブレイクも見込んだらしく、グッズ展開が凄いです(笑)。案の定、上映終了後には販売ケース周辺に人だかりが出来てました。ゴンドラ上の陳列も、ほぼ『WALL?E』オンリーという力の入れよう。天才ベン・バートの作り出した「ウォーリィー♪」の口真似をする人も少なくなく、観賞後のお客さんの一体感は近年稀に見るものでしたね。

恋人同士ならきっと手をつなぎたくなる。そんなささやかな兆しをくれる作品。劇場を後にして「今度はいつ誰と観に行こう?」そう思ったなら、すぐにスケジュール帳をチェックして!