Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

2006年の研究成果

2006-12-31 02:16:34 | Weblog
今年は北京出張で始まった。広告主と代理店の関係がグローバルにどう展開されるかを,自動車産業に焦点を当てて探る。とりあえずの成果は,研究費をご援助いただいた吉田財団向け報告書として提出した。論文化作業はストップしたままだが,これが契機になって,大規模な自動車プロジェクトに関わることになった。

春以降は,消費者から得たことばを用いて,非補償型-補償型の2段階意思決定をモデル化する研究に取り組んだ。まだ課題は残っているが,暫定的成果は6月函館大学で開かれたJACSで発表した。過去の消費者研究の成果を継承しつつ,膨大な数の選択肢がある場合の調査・分析方法という実務的課題に応えようとするもの。その簡易版について,今年の卒論で試している。

傾向スコアを用いたTV広告の短期効果の検証は,手堅い研究ということもあって順調に投稿へこぎつけた。そろそろ返事があっていい頃だが…。6月摂南大学で開かれたJIMSでも発表(あまり聴衆はいなかったが…)。新たにいただいたデータを用いて,今後何をすべきか。やはり長期効果なのか。

3月の MASコンペで佳作をいただいた Emergence of Leader-Follower Structure ... を,8月に京都大学で開かれた社会シミュレーションの国際会議(WCSS)で発表した。一昨年,昨年の卒論がベースになっている。コンペの賞金はコンパの資金に活用された。今年も卒論で2人がシミュレーションに取り組んでいる。そういえば,計測自動制御学会のシンポジウムで臆面もなく「ABMの実務的側面」について話したりした。なかなか組織力のある研究コミュニティだ。

夏頃,情報処理学会向けにロングテールの解説をする話が舞い込む。単なる流行を超えて,意外と面白いテーマを内包していることがわかった。独自の研究として具体的に何をするかは来年の課題だ。

秋には,昨年の同時期に投稿した論文について,ようやく返事が来た。「階層帰属意識」が『消費者行動研究』に採択された。これで長い空白期間がようやく埋められた。某国際ジャーナルに投稿した Optimal Threshold Analysis ... は1回目の改訂,再投稿。朗報を待ちたい…。

11月に青学(淵野辺)で開かれたJIMSでは,小売店内回遊行動の分析を発表。画像認識技術から得た,スポットごとの移動人数から全体の回遊を推測し,パタン分けする。さらにPOSデータと突合せ,購買行動との関連を探った。新しい話題だけに,来年早々に投稿したい。

12月は筑波大(大塚)でマーケティング・サイエンスの国際ワークショップ。ワインのテイストテストを繰り返して得た選好データに階層ベイズ・プロビットを適用し,知覚経験が選好の一貫性や異質性に与える動的効果を検証した。モデルやアルゴリズムを再チェックし,既存研究のレビューをやり直し,来年早々に第一稿を書く必要がある。

・・・と回顧すると,いろいろなことをやってきたことがわかる。あまり一貫性がないことも・・・。ほとんどのテーマが,今年で完結せず,来年へ持ち越される。今年は下準備だけで終わったテーマとして「自動車の技術ベース・ブランディング」と「クリエイティブ志向の国際比較」があり,年明けとともに忙しくなりそうだ。拡散と集中。まだペースがつかめていない。

いずれにしろ,上述のほとんどの研究は,素晴らしき共同研究者たちのおかげで成果を挙げた。来年もよろしくお願い申し上げます。

正しい研究集団のあり方

2006-12-29 23:40:20 | Weblog
今年最後の卒論打ち合わせのため大学へ。クチコミの伝播がよく知られたネットワーク類型のもとでどのようにふるまうかを調べる研究。比較的順調に研究が進んでおり,MASコンペにも出場することになった。審査員諸氏に評価されるかどうかはともかく,わが研究室にとっては今後重要な研究の礎石になるだろう。

過去2年の卒論研究に基づく Emergence of Leader-Follower Structure ... が WCSS の postproceedings に選ばれたというメールが届く。今年最後の朗報だが,Springer のテンプレートがややこしそう。にしても,エージェントベースの研究コミュニティが,きちんと国際学会を運営し,出版物も残していくのはすごい。

主流派の経済学は最近,実験経済学や行動経済学に寛容な面を見せるなど,以前より柔軟になりつつあるとはいえ,エージェントベースとのギャップはまだまだ深い。ぼくは工学系の人々ほど簡単に経済学を見切ることができないが,とにもかくにもコミュニティを築いていく推進力には頭が下がる。

来年日本で開かれる計量心理学の国際学会についても,組織委員会は献身的に取り組んでいる(マーケ代表の末席を汚しているぼくは,ほとんど何もしていないが・・・)。これがちゃんとした学会,研究者集団のふるまいなのだろう。そう考えると,マーケは・・・いや,来年,商業学会デビューを果たしてから結論を出すことにしよう。

Frank Bass の死

2006-12-28 14:20:29 | Weblog
今朝,柴さんにいわれて初めて知った Frank Bass の死。命日は12月1日。1926年生まれだから,ちょうど80歳ぐらい。John Little, Paul Green などと並ぶマーケティング・サイエンスの創始者だが,本人の名前を冠するシンプルな方程式からなるモデルが,手を変え品を変え半世紀近く研究され,実用にも供されてきたという点で,MS界で唯一の人といえるだろう(Little の公式は待ち行列に関するもの)。

彼の主戦場である普及モデルは,これだけミクロデータが利用可能になると,かなり違った形へと進化していくのではないか。MSを席巻するMCMCを使えば,何百,何千というパラメターが扱える。また,Bass の弟子筋の一部が取り組んでいるエージェントベースでは,個別エージェントのモデルは単純にしても,そこから複雑な相互作用が導かれる。最近ではそこに,複雑ネットワークを組み込むことも珍しくない。パラメターが3つしかない Bass model のように,簡素にして美しい公式を愛する研究スタイルは,古きよき時代の思い出になりつつある。

Minimal ABM

2006-12-28 12:00:40 | Weblog
昨日は JASMIN のエージェントベース研究会で,約半日かけて問題領域や方法論に関して議論する。今回浮かび上がった問題意識の違いは,いわば,まず病理学的研究をきちんとすべきと考えるか,そうではなく様々な経験知を動員して臨床に役立てるべきと考えるかである。後者の代表格は出口先生で,そうした視点からは前者は素朴な「科学主義」「客観主義」と非難される。だが,ぼく自身の立場はそちらに近い。

臨床重視派は,リアルの人間をエージェントとして組み込むだけでなく,彼らにゲームの構造を変えることさえ許容する。経営戦略におけるシナリオ・プラニングと同様,個々のシナリオの蓋然性より,あり得る未来の道筋を事前に参加者に経験させ,対応を考えさせることを重視する。それがコンサルティングあるいは研修に使えそうなことを認めないわけではないが,その前にもう少し基礎研究が必要だと思う。

validation の議論は grounding,すなわち,どこで現実との対応をとるか(地に足をつけさせるか)に集約される。そのポイントが広ければ広いほどいい,というのがぼくの立場。と同時に,ABMに関わる者に共通する望みとして,実際には起きていなくても起きる可能性があって,かつそれが起きたときのインパクトが大きいシナリオを発見したいとも思う。この「ないものねだり」をどうするかが,個人的には大きな課題である。

エージェントベースを用いる研究者の姿勢を区別するのは,それ「でしか」できないことをやろうとするか,逆に,それ「だけで」何もかもやろうとするかだと述べたところ,大方の賛同を得たように思う。エージェントのモデリングにあたって,既存の領域科学の知見にどれだけ敬意を払うかの違いでもある。この点でもぼくは前者,つまりある意味 minimal でありたいと思っている(それがABMの価値を maximize すると)。

いずれにしろ,こうした議論を通じて,研究コミュニティが共有しがちな甘い幻想をいったん打ち砕いて,相互の違いをポジショニングすることは重要だ。そのコミュニティが多様性を維持しつつ発展するには,自分が貢献できそうなニッチが明確にされたほうがよい。さらにいえば,他者との違いが明確にされてこそ,他者から何かを学ぶことができる。

消費者の選好とか選択とかについて,こういう機会が持てるだろうか? そのためには,方向が関連しつつも微妙に異なる,アクティブで論争好きの研究者たちのプールが必要となる。

研究より健康を選ぶ

2006-12-26 23:32:02 | Weblog
昨日は浩平さんと「中国」の打ち合わせ。なかなかいい切り口が見つからない。2008年の北京オリンピックに向けて何かやろうという,元広告屋二人の発想だ。何か論文にしたいぼくと,別のアウトプットを考える彼との違いはあるものの。

本日午前中は修士論文発表会。わが研究室の発表は「中間発表よりだいぶ良くなった」というコメントをいただく。こちらとしては,これぐらいの成果は想定内だった,といいたいところだが,それが中間発表で伝わらなかったのは冷厳なる事実。いうまでもなくこちらの責任である。

この時期に発表会を行なうのは,教員からのコメントを論文に反映させるのが狙い。だが,コメントに対して何をいわれているか理解できない学生,必要以上に頑なになる学生もいる。修士レベルの学生にそこまで求めるのは酷かもしれないが,批判からどうメッセージを取捨選択できるかが,研究者の「幅」に影響する。

午後は立て続けに4人の学生と打ち合わせ。最後の学生は,当研究室に入りたいと遠方からわざわざ訪れた。そのこと自体はありがたいが,彼のテーマを適切に指導できるかどうか,自信が持てない。このあたりの判断は,ほんと難しい。

数日前,Allenby の提案を受けて「ワイン」研究のプログラムを改変しようとしていたとき,バグを発見。やばい・・・でも気づいてよかった。さて,今夜それに取り組むか・・・という意見は却下し,ジムに行く。いまは健康が何より大事,てことで・・・。

今年のベスト経済・経営書

2006-12-24 11:16:27 | Weblog
今朝の日経に,著名な経済・経営学者が選んだ今年のベスト経済・経営書が紹介されている。そのなかでぼくが今年読んだのは2位の梅田望夫『ウェブ進化論』と20位の友野典男『行動経済学』だけだ(ツン読は除く)。どちらも新書版。分厚い本は読んでないということだ・・・。パットナム『孤独なボウリング』(6位)やミンツバーグ『MBAが会社を滅ぼす』(12位)あたりは読んでみたいところだ。

これも読んでいないが,フリードマン『フラット化する世界』が4位。この本と並んで平積みされていたトフラー夫妻の『富の未来』はベスト20に入っていない。経済・経営の「専門家」の評価はあまり高くないということだろうか・・・。いずれの本も,そのうち読もうと思ったままになっている。

ぼく自身にとって,ベスト経営・経済書は何だったか。やはり『ウェブ進化論』→Anderson: Long Tail は大きかった。あとは心理系の本で訳書だが『第一感』や(昨年出版された)『自分を知り,自分を変える』だろう。それらから適応的無意識の重要性を学んだ。

最近,そもそもどの本を買ったかを覚えていないことが問題だ。読まなくても,買った本をブログに記録していくのも,その時々の関心があとでわかって有意義かもしれない。あるいは,せめて10分ほど粗読みして・・・とか。

研究ゼロ,でもXmas間近

2006-12-22 23:34:25 | Weblog
修論と卒論の打ち合わせ二件。そのあと,ぶらぶら歩いて体育館の予約に行く。来年の新入生をお迎えする行事のためだ。前任者からもらったマニュアルどおり行動。こんな予約ぐらいオンラインで済まないかと思うが,そうならないのが大学という組織だ。

しかし,久々にキャンパスを縦断できたのは,まあ,よかったかも。途中で,何かの銅像が,サンタクロースの衣装を着せられていた。うん,大学らしくてよろしい。ジョークにあふれた大学こそ,21世紀に生き残るであろう(ほんとか?)。

ふってわいたように,留学生から「指導」要請。中国の自動車産業云々。去年の今頃,そんなことをやっていたなあと思い出していた矢先だけに,ちょっと心が動く。マーケティングのテーマに限定するなら・・・と思いつつ,5人はきついのも事実。どう対応すべきか,一つ悩みが増える。月曜に「専門家」浩平さんと打ち合わせるのも,不思議な巡り合わせだ。

授業が終わって研究室に戻る途中,学食でクリスマスパーティをしている学生たちを見た。みんな赤い三角帽子をかぶっている。こ,これは何の会なんだ??? 深夜,大学生の息子に電話したら,どうも飲み屋にいるらしく,妙にご機嫌である。今日はそういう日なのか・・・(どういう日だ?)。

今日は(も?)研究ゼロ,「教育」に専念する一日であった。

選択不能問題

2006-12-21 23:00:31 | Weblog
昨夜行った中野の「竹やぶ」は,軍鶏料理が一切品切れ。そこで早々と「陸蒸気」に移り焼魚を食べる。こちらは活気にあふれている。政府税調の本間会長に関して議論。あれだけ与党から辞めろコールが出ると裏が気になる。財政問題に知識も関心もないが,彼がやろうとしていたことは,そんなにヤバかったのかな・・・。

今朝は某大手Eコマース企業の方にお会いし,共同研究の打ち合わせ。いい方向に進むといいのだが・・・仲介してくれたWさんに感謝。午後はまた中野。といっても今度は真面目に「店舗内回遊」の打ち合わせ。夜,大学に戻って明日の(今年最後の)授業の準備をする。

昨日から,電車で移動中はずっと「ワイン」モデルに対する Allenby の助言について考えていた。彼の指摘を勘違いしていたことに気づく(ほんと,よくあるパタン)。そして,どうやるかが大体わかってきた(つもり)。もしそれでいくとなると,最初,立証しようと思っていた,ある効果を捨てることになる。それは前のモデルでも立証されなかったわけだし,すっきりしていいはずなのだが,なんか未練が残る。

研究も人生も選択の連続,つまり何かを捨てて何かを得るプロセスだといえる。割り切りが必要だ。しかし,ぼく自身はなかなかそれができない。うじうじ考えることで,あっさり考えると見逃しがちな何かを発見できればいいわけだが・・・。あるいは,選択不能性の理論でも打ち立てるか。

忘年会,同窓会,・・・

2006-12-20 16:24:50 | Weblog
月曜夜は新宿で「好み研」忘年会。10年近い年月で,出世した人もいれば,博士号を目指す人など,道は様々に分かれつつある。何人かの人とは学会やセミナーでよく会っているので,懐かしいという感覚はない。

高校の同窓会が1月にあるというメール。「水野君・・・」という書き出しにどきりとする。最近は「さん」か「先生」,大学時代の友人や会社の同期は呼び捨て,というパタンのなか突然の「・・・君」。じーんとくる。

昨日~今日と学内での打ち合わせや会議ばかり。今夜は元上司と元同僚との忘年会@中野。20年近く続いているであろうか。今回,紅一点は来ないという。そろそろ電車に乗らねばならぬ。


12月後半戦

2006-12-17 23:47:36 | Weblog
とりあえず大山はすぎた。あといくつか小山がある。今週は修士論文の仮提出期限で,今年最後の授業が2つ,忘年会が2件。細々した会議。1ヵ月後に提出期限の来る卒論の指導もそろそろ佳境に入る。

「ワイン」研究は,読めといわれた Yang and Allenby (2002) をまず読む(実は一度読んだことがある・・・)。だが,やはり再分析は最小限(どこまでがそうかは難しいが)にとどめ,執筆を急ぐ方向で考えている(最初から,分散分析あたりでとどめておけば,といまさらながら後悔したりして)。

「自動車」研究,そろそろデータ解析の環境が整ってきた。今回は Amos も試してみよう(新バージョンが届かない)。国際比較調査については,明日打ち合わせる。一方,「世界のクリエイティブ志向」データの一部が年内に届くはずだ。しばらく,データいじりの日々になる。

「日本のクリエイティブ志向」を早く,さくっとまとめたい。比較的実務よりの雑誌に投稿したい。昨年の今頃忙殺されていた「世界(中国)の主-代理店」が放ったらかしになっている・・・こっちは春休みの宿題だろうか。今年中盤の「映画」・・・年末の「店内回遊」・・・あといくつか。

・・・それで次へ,といっても次は何か,だ。それを考えているのは楽しい。

TTJW@GSSM 2日目

2006-12-16 17:40:09 | Weblog
Gary Russel は,ジョイントスペース+空間的自己相関二項ロジットによるリコメンダーの話。協調フィルタリングを空間的自己相関で,というのは確かにあり得る話だ。この領域は,基本的な発想はすで出揃っていて,あとは技術の競争になっているような印象を受ける・・・今後ブレイクスルーがあり得るのだろうか。

Barbara Kahn は,たとえば癌に備えて早期検診を受けるかどうかといった,確率は小さいが被害は深刻なリスクに対する人間の知覚と態度の実験について報告した。しかし,早口であるというだけでなく,出てくる用語自体がわからないし,枠組みも複雑。フロアから質問がなく,本来司会者として質問すべきがそれもできず・・・。

昨夜彼女から聞いた話では,米国ではヘルスケア・マーケティングが一大分野になっているという。ヘルスケアはリスク選好,時間選好と不可分の関係にあるから,BDTの適用分野として有望であるのは間違いない。米国での研究結果はどこまで日本に適用可能なのだろう・・・日本で行動経済学やBDTがいまいちなのは,そこに違いがあるからか,単なる層の薄さの問題なのか。

で,Greg の指摘にどう対応するか。ともかく論文を書き上げるという戦略もある。早く仕上げることが重要だ。終わらせるべきものは終わらせて,新たに始めるべきことを始めたい。どうするか・・・。

TTJW@GSSM 1日目

2006-12-15 22:15:53 | Weblog
学内重要業務が早く終了したので Bob Meyer の発表に間に合った。消費者は未来の消費の効用をどう予測するのかという,まさに時間選好に関わる話だった! 正直,すぐには頭に入らない。行動経済学で日本人の貢献が少ないことと関係あるのかどうか。

自分の発表は,足元ふらふらながら,何とかゴールにたどり着いた。Greg Allenby から貴重な指摘を得た。配ったハンドアウトに彼はいろいろ書き込んでおり,真剣に聞いてくれたようだ。この種の国際会議のありがたみといえる。

Bob はぼくのことをすぐ思い出したようだ。Barbara は,少し話してようやく思い出してくれた。Behavioral Decision Theory (BDT) と Marketing Science の境界領域で膨大な研究成果を挙げてきた夫婦。Greg もベイジアンでBDT的な世界をモデリングしている。

Gary Russel は懇親会のスピーチで,心理学(消費者行動)と数量モデル(マーケティングサイエンス)の協働の重要性を語った。ふむふむ…ただ今回のゲストのなかで,彼の論文だけは読んだことがない(あんなに有名なのに!)。結局,話しかけることなく,終わってしまった。

懇親会の冒頭,片平さんは,日米のMSの格差が小さくなることを期待するという挨拶をされた。だが,一部の例外を除き,その差は広がる一方だというのが現実だろう。いや,米国を基準にすべきではないという論もあるし,確かにそうだと思う。ただ,そういうためには,独自の,より精緻な理論を構築する必要がある。

結局,同じところに話が戻ってくる。MSでもう少し仕事はするつもりだが,幻滅が広がる気持ちも抑えがたい。このアンビバレンスはしばらく続ける。にしても,面白い研究とは・・・。

前夜

2006-12-14 23:14:43 | Weblog
明日は学内「重要」業務のあと東京に向かい,「ワイン」研究の発表を行なう。20分という時間的制約と自分の英語力に合わせて,パワポをばしばし切る。分析方法はこれで正しいのか? 結果は面白いと受取られるだろうか? 楽しみでもあり,不安でもある。

夏のWCSSでも,自分の英語力が(さらに)低下していることは実感した。前の職場にいたときのほうが,英語をしゃべる機会があった。歳なんだから,これからはドメスティックで・・・と思うこともあるが,まだ未練はある。大それたことではなく,ささやかな夢として,国際ジャーナルに1本ぐらいは,と・・・。

国際的なMSの最新動向に違和感があるというか,関心が持てなくなってきているのは確か。しかし,いまだに非補償型意思決定モデルの研究が発展しているのを見ると,やはり捨てておけないと思う。「ワイン」で取り組んだ知覚レベルの選好形成とともに,非補償型選好の形成は,ぼくにとって未解決のライフワークである(永遠の?)。

非補償型で研究をリードしてきた Allenby さんや Meyer さんと明日話す機会があったとしても,語るべきネタがない。そう,ライフワークなどといいながら,ふだん何も考えていないからだ。日本でも非補償型をやろうという研究者が増えてくると,刺激になるのだが(と他人のせいに)。

モデルが変わると結論が変わる

2006-12-13 01:41:56 | Weblog
当たり前かもしれないが,適用するモデルを変えると,得られる結論が大幅に変わることがある。どちらが正しいかをデータへの適合で評価できればいいが,そんなに違いがないとしたら,モデルの前提の妥当性で比べるしかない。一応,前提がより柔軟で,制約が弱いモデルのほうがよいとされる。

だが,そうなると線形より非線形,パラメトリックよりノンパラメトリックがよい,などということになり,モデルはどんどん複雑化し,計算時間が長くなる。そうしたコストを払いたくない場合,あるいは,オーバーフィットを回避したい場合,単純なアプローチを選ぶことになる。さらには,真実はより単純である,という信念でモデルを選ぶ場合もあるだろう。だが,これは美学であって,他者と共有できるかどうかはわからない。

モデルを変えることで結論が変わると,ある種のニヒリズムに陥る可能性が大きい。それを嫌って,モデル・アプローチから遠ざかる人もいるだろう。気持ちがわからないわけではないが,それは短絡だと思う。完璧なモデルはあり得ないが,少しでもよい方向に動いているかどうかは,議論する価値のあることである。ちょっとずつ,知識は進化し得るものと考えられるかどうか。

・・・以上が,週末に報告する「ワイン」研究の結論が以前と変わったことへの弁明。

「祈り」は通じたか・・・

2006-12-11 03:24:54 | Weblog
15日のワークショップに向けた「計算」がようやく終了。幸いにも,いくつか「有意な」関係が得られた。それをどう解釈するかという,より「頭を使う」段階に進む。一人で考えていても埒が明かないので,共著者との議論,ワークショップでのコメントに期待しよう。

消費者選好の動的変化を,今回は階層ベイズ・プロビットから推測される個人別効用の分布を用いて分析した。経験と外部からの情報(ことば)によって個人内の一貫性が高まる条件が示される一方,個人間の異質性が変化する様子は伺えなかった。手続きが妥当かどうか「世界の権威」に見てもらえばうれしい。

いけだ君の修士論文は,ようやく期待していた分析結果に到達したようだ。社会的影響関係が必ずしも直接観察されないとき,それを推測する試みを提案する。論文提出まであと10日ほど。もちろん,発表会が残っている。今年から1ヶ月間,書き直しの猶予ができたが,それが吉と出るか凶と出るか。

とりあえず「祈り」は通じた格好になったが,最後の最後までわからない。悦ばしい方向でドンデン返しが起きればいいが・・・それについては「祈る」というより「夢見る」といったほうがいいだろう。