Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

『球場ラヴァーズ』第二巻発売 !!!

2011-02-28 19:06:54 | Weblog
『球場ラヴァーズ』の第二巻が出た。最初に阪急→オリックスの島野修さんの話が出てくる。ドラフトで巨人に1位指名されながら選手としては成功せず,後年,阪急のマスコット「ブレービー」に入って活躍した島野さん。もちろんその話は何度も聴いて知っていたが,『球場ラヴァーズ』の手にかかると,いきなり涙腺を緩まされてしまう・・・

球場ラヴァーズ 2巻
(ヤングキングコミックス)
石田 敦子
少年画報社

ということで,カープファンのみならずプロ野球ファンの皆様,再びプロ野球をネタに泣き笑いしましょう!

おそらく近所の本屋では手に入らないので,アマゾン他のオンライン書店で入手されるのがよいと思います。

『球場ラヴァーズ』第一巻についての投稿はここ

境港妖怪シンポジムが示唆するもの

2011-02-25 18:04:13 | Weblog
ソーシャルメディア研究ワークショップに次いで,第二回境港妖怪シンポジウムに参加した。第一部は,『大ヒットの方程式』の著者の一人,鳥取大学の石井晃先生による講演。水木しげるロードと世界砂像フェスティバルの事例を中心に,ブログ上の書き込みと集客の関係に対するモデル分析が紹介された。詳しくは,以下の文献を参照のこと。

大ヒットの方程式
ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する
吉田 就彦,石井 晃,新垣 久史
ディスカヴァー・トゥエンティワン

次いで,同書の共著者であり,数々のヒット曲をプロデュースしてきた吉田就彦氏を司会とするシンポジウム。ソーシャルメディア研究WSに参加された東北大学の澁谷氏(マーケティング),大阪大学の松村氏(仕掛学)に加え,境港市観光協会の桝田知身会長,水木しげるや境港に深く関わってこられた編集者の梅沢一孔氏がパネリストとして登壇される。

このなかでも,最も強いオーラを放っていたのが桝田さんだ。水木しげる,あるいはゲゲゲの鬼太郎をコアにした境港の観光開発は,「ゲゲゲの女房」で突然変異的に盛り上がったのではない。10年以上前から様々な仕掛が行われ,その集大成として昨年の一大ブームが起きたのだ。それを推進してきたのが桝田氏を筆頭とする地元の経済人や行政である。

水木しげるロード熱闘記
桝田 知身
ハーベスト出版

もちろん「ゲゲゲの女房」自体は一過性のイベントなので,今後境港市が集客を続けるために様々な施策が検討されている。その1つがソーシャルメディアだということで,何かお手伝いできないかと,この分野の研究者がシンポジウムに参加した。集まった150人近い聴衆の方々に少しでも満足いただける議論になったとすれば,研究仲間としても嬉しい限りだ。

境港市にとって,ゲゲゲの鬼太郎というコンテンツが日本のみならず世界を標的にし得る大きな資源である。これまでは低予算ながらスマートなPR活動で成功を収めてきた。その延長線上に Twitter に代表されるソーシャルメディアがある。それはすでにブームに寄与してくれたが,今後それを持続させるにあたって,どこまで御することができるかが鍵となる。

個人的には,人口最小県である鳥取で,さらに端っこの境港というのテールが,水木しげるという誰もが知るヘッドと結びついたというダイナミズムに興味がある。こうしたロングテール型地域活性化モデルは,今後他の地域に応用されるだけでなく,かつ自身としても進化していくだろう。すでに「妖怪」というキーワードで他地域と連携する動きが生まれている。

いろいろ考えなくてはならないことは多い。それにしても,鳥取にしろ境港にしろ,再び訪れてもっと深く探ってみたい街だ。それだけではなく,米子から西へ向い,松江,出雲といった地域も旅してみたい。地域経済とロングテールについては,すでに塩沢由典先生の論考があるが,コンテンツや観光という視点を加味すると,さらなる展開があるものと予感する。

関西経済論―原理と議題
(シリーズ関西の創造)
塩沢 由典
晃洋書房


ソーシャルメディア研究WS@鳥取

2011-02-23 15:50:19 | Weblog
鳥取大学で開かれたソーシャルメディア研究ワークショップ。栄えある第1回になるか,それとも幻のワークショップとして終わるのか,いずれにしろ参加者の皆さんには喜んでいただけたし,参加できなくて残念という声もいくつかいただいた。自分の発表を犠牲に,幹事役に集中してよかった(ウソ)。

発表者(敬称略)とその発表タイトルは以下の通り:
■水野誠(明治大学):ソーシャルメディア・マーケティング・サイエンス
■石井晃(鳥取大学):口コミに着目した消費者行動の数理モデル化
■鳥山正博(野村総研):ネット上の情報収集と口コミによる商品分類

■藤居誠(東急エージェンシー):QPRモニタの購買行動とCGM
■山本晶(成蹊大学):消費者のクチコミ受発信意向について
■澁谷覚(東北大学):ソーシャルメディアにおける信頼性

■佐野幸恵(日本大学):ブログデータから観測する人間の集団現象
■村田真樹(鳥取大学):メディア関連テキストへの教師あり機械学習の適用
■徳久雅人(鳥取大学):ブログ記事からの観光評判情報の抽出と分類

■松本英博(デジタルハリウッド大学):ツイッターにおけるコミュニケーションモデルの仮説
■大向一輝(国立情報学研究所):リンクトデータでつながるミュージアム
■福田忠司(鳥取県):ソーシャルメディアを使った鳥取県の情報
■新垣久史(鳥取大学):話題共鳴分析事例

■吉田就彦(デジタルハリウッド大学):ソーシャルメディアを有効化する書き込み力
■松村真宏(大阪大学):ソーシャルメディアと仕掛学
■安田雪(関西大学):クロスメディアの使い分け―どこから仕入れ、どこへ喋るか
これだけの発表を個別に紹介するわけにはいかないので,それはむしろ,臨場感溢れる toggetter をご覧いただきたい。このブログでは,今回,お互いの議論から見えてきた,いくつかの論点を記しておこう。

WSの早い段階で,安田先生が「情報伝播と行動伝播の違い」をちゃんと考えるべきだと問題提起された。モデル研究の立場からは,それは情報受信と行動の間の関数をどう定義するかに帰着する。最も単純なモデルでは,情報を受け取ったら一定の確率で製品を購入する,などと仮定される。しかし問題は実証分析で,行動への影響を測るにはデータの制約がある。

情報伝播から行動変容への流れは,ネットワークの性質,それを構成する成員の特徴,情報の質と量,等々に依存する。社会学者や心理学者はそこに注目して実証研究を積み重ねてきた。たとえば,ネットワークを構成する二者関係については,社会心理学での説得研究の蓄積がある。信頼あるいは権威のある者の情報伝播は,受信者の行動を変容させやすい。

澁谷さんはこうした研究の流れを踏まえながら,社会的な絆がなく信頼性が低いネットクチコミは,相手との同類性が高い場合に相手の経験の有用性が高くなる(=モルモットとして使える)ので行動に影響を与える指摘する。これは,その極限に洗脳がある説得という行為より,主体的な模倣あるいは学習という行為に近い。むしろ合理的な行動といえる。

他方,二者間関係に注目しつつも,最適異類性を唱える点で山本さんは少し違う。そこでのメカニズムが澁谷さんの指摘とどう対応するかは,彼女があとで提起した問題と関係する。つまり,Watts らがいうように,インフルエンサーは存在しないのか,という問いだ。しかしクチコミが模倣-学習だとしたら,主導権はインフルエンシーとされる側に移る。

そもそも二者間にインフルエンスがないのであれば,インフルエンサーは存在しないといってもよい。ただし,Watts らが本来主張するのは,周囲に対して恒常的に強力な影響を与えるオピニオン・リーダが存在しない,ということである。この主張が実証的に一般化されているかどうか,ぼくは寡聞にして知らない。ぼく自身はその主張に懐疑的である。

これについては,モデル自体はどちらも作り得るのであって,どういう条件の下でどちらが成り立つかについて,包括的な実証研究が待たれている。ソーシャルメディア研究は(少なくともぼくにとっては)そういう期待を担ってスタートしたが,最近その困難さが目立つようになった(というのが冒頭のぼく自身の発表であった・・・最初からネガティブだw)。

しかし,ソーシャルメディア自体普及し始めたばかりであり,研究もこれからである。今回の発表にもログデータ分析からサーベイ調査,統制実験まで多様なアプローチがあった。大向さんの提唱するオープンリンクトデータのような環境面の整備も,研究の進展に貢献するに違いない。困難や不足感こそ研究のブレークスルーを生む。今後がおおいに期待される。

なお,このワークショップに関するツイートで,最もRTが多かったのが,村田先生の「テキストに基づくイデオロギーの予測」という話題であった。国会演説を政党を教師信号にSVMで学習させ,新聞の社説の「党派」を予測させるというもの。読売や産経の社説がそこそこ「共産党」的である,という結果が受けたようだ。やはり研究は「目の付けどころ」である。

さて,2日目に境港に場所を移して行われた「妖怪シンポジウム」については,改めて投稿することにしたい。

鳥取砂丘の上に立ち,海を眺める

2011-02-19 23:25:13 | Weblog
初めて鳥取砂丘を訪れた。「砂の惑星」のような殺風景な世界とは違う,少しロマンティックな風情が漂う。



丘を越えると日本海が視野に広がる。真っ青な海は荒々しさと清々しさの両面を持っているように感じられる。



ぼくの足跡の周りには誰の足跡もない。 ・・・というように見せたくて,みんなと少し離れてたところを歩いてみた。



鳥取に来たのはソーシャルメディアの研究者とのワークショップのためだ。マーケティング/消費者行動,物理学,コンピュータサイエンス,社会学・・・多様な専門のあいだで,どんな対話/対論が始まるだろうか。

『精神の生態学』復刊!

2011-02-17 18:48:57 | Weblog
長らく手に入らなくなっていたベイトソン『精神の生態学』(しかも改訂第2版)が約10年ぶりに復刊されている! といっても,三省堂書店のDBでは確認できず,アマゾンから注文した。本来きちんと読んで書評付きで紹介すべきかもしれないが,この本に下手な書評はいらない。

いつ再び在庫がなくならないとも限らない。ベイトソンの『精神の生態学』が復刊したよ,と聞いて「おお!」と思った人は,いますぐに下の広告をクリックして,注文しましょう!(ちなみに,いま偶然にも,アフィリエイト・プログラムの調査を進めているところ・・・)。

精神の生態学
グレゴリー ベイトソン
新思索社

渡辺喜美氏の慧眼

2011-02-10 02:55:02 | Weblog
国会での党首討論を見た。マニフェスト違反を厳しく追及する自民党の谷垣総裁。それに猛然と反論する菅首相。一見激しい対立のように見えるが,みんなの党の党首・渡辺喜美氏によれば,どちらも増税論者なので,一種の八百長相撲だという。この見方は,ある意味で正鵠を得ていると思う。

というのは,自民党サイドから見て,合理的な戦略は民主党との大連立しかないからである。なぜなら,仮に現政権を解散に追いつめ,総選挙で過半数を取ったとしても,参議院では公明党,みんなの党と連立を組んでも過半数に達しないからだ。まさか社民党や共産党と組むわけにはいかない。

国民新党を含む保守系の小党をすべて糾合し,かつ民主党から何人か引き抜けば・・・という皮算用はあてにならない。仮に総選挙で衆院議席数の3分の2を占めることができれば,参院での多数は必ずしも必要ではない。しかし,衆院での再可決を連発すると横暴だという批判を浴びるだろう。

衆院で3分の2には及ばないが,過半数を確保した場合を考えよう。政権に返り咲くことに成功しても,いま民主党が舐めている苦汁を,今度は自民党が味わうことになる。安倍-福田-麻生政権の時代への逆踊りである。今後3年間は参院とのねじれが続くから,何も決めることができない。

こういう状況を承知で,何も考えずに政権復帰を目指すほど,自民党は愚かではないはずだ(と思いたい・・・)。とすると,いつかの時点で必ず民主党と大連立を組むしかない。ただし,それ以前にできる限り相手を弱体化させ,相手の内部に亀裂を入れ,大幅な譲歩を引き出すことが必要だ。

いま,そのプロセスが始まったところだと思う。では,民主党にとっても大連立しか選択肢はないのか。否,民主党は公明党と組むだけで,衆参で多数派を構成できる。このことは大連立しか合理的選択肢のない自民党にとっては大変困る。民主と公明の接近は絶対阻止したいはずだ。

では,自民党はいつ民主党との連立に踏み切るのか。まず,予算関連法案を参院で通さなかった場合,菅首相が解散するかどうかを考えたい。解散すれば民主党は確実に,しかも大幅に議席を減らす。それを覚悟で予算関連法案を優先するというのは一種の美談だが,合理的な選択ではない。

予算関連法案が通らなかった場合,国民経済に悪影響をもたらすことから,自民党もまた有権者の批判を受ける可能性がある。これは一種のチキンゲームだが,やはり両党とも予算の成立がかかるぎりぎりのタイミングで,妥協を図るはずである。さもなくば,すさまじい政治不信が広がる。

現政権を解散に追い込めるかどうかは不確実であり,仮にそうなって総選挙に勝っても望むような政権運営をできない。そうである以上,なるべく自分が有利な条件で大連立を組み,その間民主党を自民党と区別できない存在にして,次の参院選や総選挙に備えるのがどう考えても合理的だ。

そのとき,民主党,自民党のそれぞれから連立から離脱する議員が現れる。彼らは増税による財政再建路線に反対し,みんなの党と連携する。それはみんなの党にとって,絶好の党勢拡大の機会になるだろう。ただし,次の参院選までは,民・自大連立政権が維持されるのではないかと思う。

・・・というのは,各政党ができる限り長期にわたって政権運営に当たることを目標に「合理的に」行動すると考えたときのシナリオである。そこに感情という要素が加わると,上述の予測は大きく外れるかもしれない。さて,実際はどうなるか・・・想像を超えた政治の奥深さが顥かになるのか。

有名ブロガーはなぜ有名になり得たか?

2011-02-02 20:41:44 | Weblog
『ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である』という題名から最初はネットビジネスの本のようだが,「やめない」って何のことだろう,という印象を持つ人が多いに違いない。だが,取り上げられているのはブログで大きな影響力を持つ人々だ。著者はさまざまなタイプの有名ブロガーを対象に質問紙調査を行い,110人から回答を得た。

ネットで成功しているのは〈やめない人たち〉である
いしたに まさき
技術評論社

対象者は一般のブロガーではなく,数少ないアルファブロガーが対象なので,そもそもどう「標本抽出」し「調査依頼」するかが難しい。著者は Twitter を活用してそれをどう行ったか,まずそのあたりがユニークだ。そして,こういう調査では標本サイズが気になってしまうが,何と一人ひとりの回答が公開されているので,質的調査として読むこともできる。

著者が質問したのは以下の点だ:

1) 名前と Twitter ID
2) 自分のウェブサイト,ブログ
3) 一番好きなウェブサイト(サービス)
4) 初めて見たとき一番衝撃を受けたウェブサイト(サービス)/その理由
5) ネットでの情報発信で一番必要な個人スキル
6) ネットでの情報発信で心がけていること
7) ネットでの活動を続けることができた理由
8) ネットでの活動を続けてきたことによる収入変化/その時期
9) アクセス数を増やす工夫
10) Twitter のフォロー数を増やす工夫

本書の題名の謎は,有名ブロガーたちがサイトを継続させるために何をしているか(していないか)を読むと解けてくる。簡単にいえば,無理はしないがそれなりの努力を伴うコミットメント,ということになるだろうか。なお,年齢の高い読者には,個別の回答の一覧表の文字が小さすぎて読み辛い。拡大して読めるように電子書籍バージョンを出してほしい。

影響を与える人々(インフルエンサー)の実態は,ブログや Twitter などのソーシャルメディアを通じで第三者にもある程度観測可能になってきた。そういうデータを大量に集めて解析するのもよし,もっと個別に観察してミクロなメカニズムをさぐるのもよし。本書は後者のタイプの研究にも豊かな可能性があることを示唆している。