今年の後期,3年生のゼミで輪読したのが『顧客創造 実践講座:ケースで学ぶ事業化の手法』である。新事業開発の「現場」を疑似体験できる,なかなかの好著だと思う。著者の宮永博史氏は NTT の研究部門で働いたあと,コンサルティング業界に転身。現在は,東京理科大の MOT 大学院の教授をされている。つまり,技術にも経営実務にも強い著者が,仮想の大企業を舞台にした新事業開発のプロセスを描写している。
最初は戦略的意思決定のツールがいくつか紹介されるが,後半は社内説得や社外からの経営者のリクルーティングまで実務的な話題が登場する。どの部分も面白いが,特になるほどと思ったのは,前半で SWOT 分析を扱った部分だ。いうまでもなく,これは自社の強み(strength)と弱み(weakness),環境の機会(opportunity)と脅威(threat)を整理して,そこから戦略の方向性を見出そうとする手法である。
実際に SWOT 分析を経験した人の多くは,どうも分析が平板になり,現状をなぞったような結果しか出てこなくて期待はずれだと感じたのではないだろうか。その原因は,SWOT の各要素をあたかもお互いに独立の,静的な存在として扱うことに問題がある。そこで宮永氏は,先にターゲットとなる顧客を設定し,彼らが抱えるボトルネックを機会(O)とし,そこから SWT を考えていくアプローチを提案する。
そうすることで SWOT の各要素は動的に関係づけられ,一貫したストーリーを構成するようになる。素晴らしい!ただし,そうするためには主な対象とする顧客を先に設定しておく必要がある。本書では次の節でセグメンテーションとターゲティングを論じており,それは順序が逆じゃないかという気もする。おそらく,現実の戦略策定プロセスでは,ターゲティングと SWOT の間で何度も往復するに違いない。
以上のことから,本書は,実務家(あるいはそれを目指す学生たち)が事業開発のプロセスを追体験するうえで非常によくまとまった教科書だというだけでなく,戦略論の教科書的な知識に反省を迫るという点で,研究上のマニフェストにもなっている。それはおそらく,著者が元々エンジニアであり,戦略論に対して,いい意味で素朴な視点から,論理性を追求しているからだと思う。
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宮永博史 | |
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最初は戦略的意思決定のツールがいくつか紹介されるが,後半は社内説得や社外からの経営者のリクルーティングまで実務的な話題が登場する。どの部分も面白いが,特になるほどと思ったのは,前半で SWOT 分析を扱った部分だ。いうまでもなく,これは自社の強み(strength)と弱み(weakness),環境の機会(opportunity)と脅威(threat)を整理して,そこから戦略の方向性を見出そうとする手法である。
実際に SWOT 分析を経験した人の多くは,どうも分析が平板になり,現状をなぞったような結果しか出てこなくて期待はずれだと感じたのではないだろうか。その原因は,SWOT の各要素をあたかもお互いに独立の,静的な存在として扱うことに問題がある。そこで宮永氏は,先にターゲットとなる顧客を設定し,彼らが抱えるボトルネックを機会(O)とし,そこから SWT を考えていくアプローチを提案する。
そうすることで SWOT の各要素は動的に関係づけられ,一貫したストーリーを構成するようになる。素晴らしい!ただし,そうするためには主な対象とする顧客を先に設定しておく必要がある。本書では次の節でセグメンテーションとターゲティングを論じており,それは順序が逆じゃないかという気もする。おそらく,現実の戦略策定プロセスでは,ターゲティングと SWOT の間で何度も往復するに違いない。
以上のことから,本書は,実務家(あるいはそれを目指す学生たち)が事業開発のプロセスを追体験するうえで非常によくまとまった教科書だというだけでなく,戦略論の教科書的な知識に反省を迫るという点で,研究上のマニフェストにもなっている。それはおそらく,著者が元々エンジニアであり,戦略論に対して,いい意味で素朴な視点から,論理性を追求しているからだと思う。