Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

選挙運動という快楽

2011-05-18 08:27:16 | Weblog
行政改革などを主なテーマに活動してきたジャーナリスト,若林亜紀氏は昨年の参院選の比例代表区に,みんなの党から立候補した。結果は落選であったが,本書はその顛末を報告したものである。前半は彼女が立候補するにいたる経緯を,後半は選挙戦に突入してからの出来事を描いている。

体験ルポ 国会議員に立候補する (文春新書)
若林亜紀
文藝春秋

ぼくにとって断然面白かったのは選挙が始まってからのエピソードだ。比例代表区なので,小選挙区のドブ板選挙とはおそらく様相が違うが,選挙カーで名前を連呼し,人通りの多い駅前などで演説し,ビラを配り,道行く人々に握手してお願いする・・・といった点はそう変わらないと思われる。

このような「日本的選挙」は正直バカバカしく見える。だが,現実に選挙戦を戦ううえで,上述のような戦術は効果的であるようだ。公職選挙法におかしな点が多いのは事実で,インターネットの利用が広く認められないと,十分な地盤,看板,鞄を持たない候補が当選することはなかなか難しい。

とはいえ政策の主張が全く無意味なわけではないのは,若林氏が演説で,ライフワークである公務員や特殊法人の問題点について話すと反応がいいことに示されている。ただし,それは相手とその置かれた状況次第による。このあたりは,マーケティング・コミュニケーションにも通じる話である。

選挙で落選した人の多くが,その後「選挙うつ」になるという。疲労感,挫折感,後悔,嫉妬・・・様々な感情が襲ってくるようである。だが,少なからぬ落選者が状況さえ許せば再び立候補を目指すのは,選挙運動期間中に何らかの強い快感を得たからに違いない。同じことは運動員にもあるようだ。

それは,カルトの布教活動にも存在すると思われる。教祖の教えに共鳴するという面以上に,集団で1つの目標のため熱狂的に運動することには他では得られない快感があると想像される。それを自分も味わいたいとは思わない。クセになってしまい,そこから抜け出せなくなることが怖いからである。

クリエイティブ・フィンランド

2011-05-14 16:42:07 | Weblog
クリエイティブな街角というとどちらかというとヨーロッパを考えてしまう。たとえば北欧・・・ぼくはスウェーデン(ストックホルム)に数日滞在したことがあるだけだが,ダウンタウンの歴史的な建物のなかに入っている斬新なデザインの店舗のイメージは頭にこびりついている。

行ったことはないが,フィンランドはスウェーデンよりは小国とはいえ,高い教育水準や,世界的企業のノキアで知られている。以下の本によれば「フィンランド・デザイン」なるものが存在するという。そのキーワードは「水と緑と広い空間」。まさに環境先端都市だと想像できる。

クリエイティブ・フィンランド
―建築・都市・プロダクトのデザイン
大久保慈
学芸出版社

前回の記事で書いたポートランドと同様,フィンランドの諸都市もまた,グリーンでありクリエイティブなのだろう。この本は『グリーン・ネイバーフッド』に比べ写真が少なく,かつ人の姿がほとんど映っていない点が寂しく感じられる。だが,その分著者が文章によって様々なメッセージを伝えてくれているのだから,それはそれでよいのである。

日本でも地方の小都市のほうが,同じようなコンセプトで成功できるのではないだろうか。金沢とか山形とか・・・ほかにもあるに違いない。

ポートランドに行ってみたい

2011-05-09 14:28:03 | Weblog
ポートランドには行ったことはない。オレゴン州と聞くと,何となくのどかで退屈な感じがする。ナイキの本社があることは知っている。ナイキとともに育ったクリエイティブ・エージェンシー,ワイデン+ケネディの本社もそこにある。それは不思議な組み合わせだ。そこに何があるのだろう?

本書はポートランドについて書かれた本だ。タイトルとサブタイトルが示すように,環境先進都市という側面に光を当てている。だが,それは一面でしかない。そこには多様な意味での,新しいライフスタイルとコミュニティがある。しかもそれらに「クリエイティブ」という形容が最も相応しい。

グリーンネイバーフッド
―米国ポートランドにみる環境先進都市のつくりかたとつかいかた
吹田良平
繊研新聞社

著者は浜野安弘氏のもとで働いたのち,施設開発や都市開発,専門誌の編集などに携わってこられた。W+Kのジョン・ジェイをはじめとするポートランドのクリエイターや起業家たちへのインタビューに加え,本書に収められた数々の写真がまた素晴らしい。それらを眺めているだけでも楽しめる。

日本でも「クリエイティブ・シティ」構想を掲げる都市はある。ポートランドに倣えとか,そういうことではなくて(そういった時点でクリエイティブでない!),この街の風景や人々の姿から感じ取れるスピリットを共有したいと思う。多分,日本のどこかでそれが,すでに息吹いているはずである。