Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マクドナルドはなぜ苦境に陥ったか

2015-02-19 13:11:33 | Weblog
鶏肉偽装問題のあとは異物混入など、踏んだり蹴ったりのマクドナルド。今回紹介する『マクドナルド 失敗の本質』は、しかし、最近の苦境を見て緊急出版された類の本ではない。マーケティング・サイエンスの第一人者である小川孔輔先生が、長年積み重ねた研究成果に基づき出版されたものである。

マクドナルドは、上述のトラブルに巻き込まれる以前から、売上・利益の減少に見舞われていた。同業他社に比べた顧客満足度の低落も起きていた。つまり、不運に見舞われたという以上に、構造的な問題を抱えていたのである。それが何であるか、著者は主に公開されたデータや資料から解明していく。

一級のドキュメンタリーのような筆致で、マクドナルドの病巣が抉られる。それを詳細に語ることはネタバレになるので控えるが、その本質的な原因は、経営学、そしてマーケティングのフィロソフィーに深く関わっている。現場のマーケターのみならず、マーケティング教員にとっても他人事ではない。

マクドナルド 失敗の本質: 賞味期限切れのビジネスモデル
小川孔輔
東洋経済新報社

著者は専門であるマーケティングを越え、企業経営全般に及ぶスコープで問題を捉えている。その読みやすさも合わせ、学生が経営の複合的視点を学ぶのに格好の教材になっている。公開情報を活用するだけでもこれだけの分析ができるのだから、企業や市場の分析のお手本として読むこともできそうだ。

「美しいセオリー」集

2015-02-11 16:24:29 | Weblog
149人の科学者、芸術家、ジャーナリスト、実業家たちに聞いた「美しいセオリー集」。なぜこの人が、このテーマで寄稿しているのか、と驚くような組み合わせもあり、拾い読みするだけでも楽しい。私が過去にその著書を読んだりして、何らかの興味を持った寄稿者を挙げると以下の通り。

Susan Blackmore 自然淘汰による進化
Richard Dawkins 冗長性の逓減とパターン認識
Steven Pinker 進化遺伝学とヒトの社会生活における葛藤
Gerd Gigerenzer 無意識の推論
Richard H. Thaler コミットメント
Nicholas Humphrey 人間の心はなぜエレガントな説明など存在しないときにもそれがあるように見えるのか
Stewart Brand 適応度図形
Daniel C. Dennett ウミガメの一部はなぜ回遊するのか
Brian Eno 直感の限界
Albert-Laszlo Barabasi ブルーチーズを一緒に召し上がりますか?
Nicholas A. Christakis 子どもの口から出た疑問
Nassim Nicholas Taleb ホルミシスは冗長性である
Timothy D. Wilson 行為が人を定義する
Mihaly Csikszentmihaly アクトン卿の格言
Jared Diamond 生体電気の期限
Nicholas G. Carr 平凡さのメカニズム

こう見ると、心理学者が多いように見えるが、実際の寄稿者は物理学者が多い印象。一人、マーケティングの先生もいたが、知らない人(Adam Alter)だった。あり得ないことだが、もし自分がこのような本に寄稿を依頼されたとしたら、何を自分にとって美しいセオリーとして挙げるだろうか?

知のトップランナー149人の美しいセオリー
ジョン・ブロックマン
青土社