一部の企業では、オフィスで固定した机が与えられず、出社次第自由に席を選んで仕事をするスタイルになっている。このことは、単にオフィス空間の効率的利用といった話で終わらない。それは、組織を流動化させるインパクトを秘めている。つまり、実は奥深い問題なのだ。
こうした柔軟なワークスペースに関する研究は以前からあるが、観察するだけでは解明できないメカニズムがある。そこで稲水伸行氏(筑波大学)は、エージェントベース・シミュレーションを行うことで、潜在的なメカニズムの機能を探ろうとする。その研究成果が本書である。
稲水さんのモデルは、第1にアクセルロッドの文化の流布モデルに移動性を加え、第2にマーチらのゴミ箱モデルに組織の流動性を加える形で構築されている。そして、シミュレーション結果に妥当性があるかを、実際のオフィスの観察事例と比較して検討している。
最近、センサーを従業員に装着して互いの接触・交流を計測するような研究もある。そこから得た情報を解析したりシミュレーションしたりする研究は、今後ますますさかんになるだろう。そのとき、本書で整理されている既存研究や、本研究自体が大いに参考になるはずだ。
本書の前半では、組織論でのエージェントベース・シミュレーションを用いた研究が概観されており、組織の意思決定全般に関心がある人々にも有用である。こうした方法論が組織研究で広がっているとまではいえないまでも、着々と地歩を築いていることは喜ばしいことだ。
著者の属していた(いる?)東大ものづくり経営研究センターでは、現場での観察を重視しつつも、シミュレーションや数理モデルの構築を藤本所長自ら実践されている。そのような風土から、幼稚なデータ分析やことば遊びとは異次元の、重厚な研究が生まれてきたのである。
マーケティング研究では、非数理と数理、さらには数理なき数量崇拝、といった分裂があるが、それらを架橋するエージェントベース・モデルの役割は大きいはずである。これまでヤッコー(やったらこうなった)型の研究が多かったが、ビッグデータの登場で状況は変わりつつある。
本書をご恵贈いただき感謝いたします。
こうした柔軟なワークスペースに関する研究は以前からあるが、観察するだけでは解明できないメカニズムがある。そこで稲水伸行氏(筑波大学)は、エージェントベース・シミュレーションを行うことで、潜在的なメカニズムの機能を探ろうとする。その研究成果が本書である。
流動化する組織の意思決定 : エージェント・ベース・アプローチ | |
稲水伸行 | |
東京大学出版会 |
稲水さんのモデルは、第1にアクセルロッドの文化の流布モデルに移動性を加え、第2にマーチらのゴミ箱モデルに組織の流動性を加える形で構築されている。そして、シミュレーション結果に妥当性があるかを、実際のオフィスの観察事例と比較して検討している。
最近、センサーを従業員に装着して互いの接触・交流を計測するような研究もある。そこから得た情報を解析したりシミュレーションしたりする研究は、今後ますますさかんになるだろう。そのとき、本書で整理されている既存研究や、本研究自体が大いに参考になるはずだ。
本書の前半では、組織論でのエージェントベース・シミュレーションを用いた研究が概観されており、組織の意思決定全般に関心がある人々にも有用である。こうした方法論が組織研究で広がっているとまではいえないまでも、着々と地歩を築いていることは喜ばしいことだ。
著者の属していた(いる?)東大ものづくり経営研究センターでは、現場での観察を重視しつつも、シミュレーションや数理モデルの構築を藤本所長自ら実践されている。そのような風土から、幼稚なデータ分析やことば遊びとは異次元の、重厚な研究が生まれてきたのである。
マーケティング研究では、非数理と数理、さらには数理なき数量崇拝、といった分裂があるが、それらを架橋するエージェントベース・モデルの役割は大きいはずである。これまでヤッコー(やったらこうなった)型の研究が多かったが、ビッグデータの登場で状況は変わりつつある。
本書をご恵贈いただき感謝いたします。