Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

サービス・サイエンス研究会@防衛大

2008-03-31 23:12:16 | Weblog

電車を乗り継いで,初めて防衛大学校を訪れる。そこで開かれるサービス・サイエンスの研究会にお招きを受けたからだ。当然ながら入構時にチェックを受ける(大学入試センターもそうだった)。丘の上にあるキャンパスは整然としており,春休みのせいか人気がない。ふだんは,どんな感じなのだろう…。理工学部の建物のなかは,普通の大学とあまり変わらない。

ぼくが話したのは,マーケティング・サイエンスにおけるサービス研究の系譜(Rust & Chung 2006)と自分が関わっているサービス関連のプロジェクト。与えられた時間を大幅にオーバー,中身も未消化で,だらしない発表になってしまった。 自分の思想としての体系化が足りない。1年後にそれが出来ているかというと,それも心許ない。時間がほしい・・・。

ぼくの前にお話になったのが上林先生。近著に沿った内容で,サービス・サイエンス(マネジメント&エンジニアリング)が大きなパラダイム転換につながることを説く。サービスとは,顧客と供給者のインタラクションから価値を生じるオープン・システムである。それをいかにマネジメントするかは,簡単な問題ではない。

サービスサイエンス入門―ICT技術が牽引するビジネスイノベーション
上林 憲行
オーム社

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ぼくのあとに発表された寺野先生は,これについて control ではなく harness という発想を持つべきだという。harness とは,馬車の御者が生きものとしての馬を操ることで,本来自律的なシステムを望む方向へ導くことをいう(以下の Axelrod and Cohen で提唱されている)。産業革命は馬を蒸気機関に置き換えたが,再び「生きもの」をシステムの中核に据えることになる。

複雑系組織論
ロバート・アクセルロッド,マイケル・D・コーエン,高木 晴夫,寺野 隆雄
ダイヤモンド社

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後半は,複雑二重ネットワーク の研究が紹介された。Axelrod の文化伝播モデルを格子状の世界からネットワークの世界に拡張し,かつエージェントの内部構造をネットワーク化したモデルだ。なぜ内部構造がネットワークなのかわからなかったが,この研究が貨幣の創発を扱うことから出発していることを聞いてやっとわかった。確かにモノの交換可能性はネットワークで表現される。

対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明
ロバート・アクセルロッド
ダイヤモンド社

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ぼくにとって面白かったのは,シミュレーションのリアリティに関する寺野先生の見解だ。2018年,WEB10.0の時代には,人々は社会シミュレーションに,気候変動や交通流のシミュレーションと同様のリアリティを感じるだろうという予言。人がどんなときにリアルだと感じるかを認知科学的に探求することが,今後必要になる。シミュレーションを複雑化したり,エージェントが3D化すればすむわけではない。

懇親会は馬堀海岸駅近くのお寿司屋。分厚いネタに驚く。生天目先生,有賀先生という高名な先生方とお話ししながら,情報工学者や理論経済学者が「サービス」研究に参入してくることで,マーケティングの研究に大きなインパクトが生じるのではないかと考える(CRMもそうだったが,それ以上のインパクトがあるのでは)。IBMの蒔いた種は,いまのところ予想以上に育っているようだ。

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「経済学」に負けるな

2008-03-30 23:25:31 | Weblog
1ヶ月ほどほったらかしだった Shuriken 問題に再挑戦。窓口からの指示通り,アプリだけでなくレジストリを消して再インストールするが・・・「問題」解決せず。それどころか,バックアップしていたはずの過去のメールやアドレスを読み込めない。ああ・・・。

『経済セミナー』4月号を購入。毎年4月号は,経済学部の新入生向けガイダンスがメインになる。ミクロ/マクロ経済学,公共経済学,国際経済学,金融論・・・と解説されるわけだが,執筆者はほとんど,ぼくが名前知らない人ばかり。ここで起用されているのはそれなりの経済学者であろうから,自分がいかに経済学から遠ざかっているかがわかる。

経済セミナー 2008年 04月号 [雑誌]

日本評論社

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とはいえ,ぼくですら覚えているビッグネームは健在のようだ。佐藤隆三「ノーベル賞を貰った人、貰わなかった人」・・・長く米国で経済学を研究してきた筆者は,多くのノーベル賞受賞経済学者と交誼を結んできた。サミュエルソン,クズネッツ,ヒックス,レオンチェフ,トービン,ソロー・・・まだまだそのリストは続く。これからの焦点は,誰が最初の女性ノーベル経済学賞受賞者になるかだという。

これからの経済学の可能性を感じさせるのが,依田高典,西村周三,後藤励「行動健康経済学」の連載だ。今回は,行動経済学自体の手際よいレビューになっている。次回以降,「健康」「医療」をテーマにどんな議論が出てくるのか興味深々である。Kahneman たちが神経生理学者と行っている well-being, happiness に関する研究がカバーされるとうれしい。

他にも,藤井大司郎,篠原淳,斎藤英智「ICタグを用いた観光客動態調査」,近藤絢子「社会実験による近隣効果の検証」(海外論文サーベイ)など,最近の経済学がいかに現実的な問題を取りあげているかを示す寄稿がある。しかも,そこで用いられている新たな実証分析の方法は,マーケティング分野でも応用可能である(すでに応用されているかもしれないが・・・)。

一方,「マーケティング・サイエンス」(JIMS学会誌)最新号が数年ぶりに発行された。そこに掲載された論文を見ると,MCMCによる選択モデルが2篇,そして状態空間モデルとSEMがそれぞれ一篇と,この領域が最近,非常に高度な方法論を用いるようになっていることがわかる。では,どんなテーマに取り組んでいるかというと・・・

1.POSデータによる価格反応測定
2.コンタクトポイント・マネジメント
3.一対比較によるネーミングテスト
4.シングルソースデータによる広告効果測定

このなかで 2 を除くと,マーケティングにとって今日的というより,オーソドックスというか,伝統的なテーマが扱われているといってよいだろう。それはそれでよいのだが,実務家から見てより今日なテーマへの研究をもっと増やす努力が必要ではないか。そのためには,Marketing Science Institute のように,リサーチ・プライオリティを示す仕組みがあってもよい。
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SIG-KBS@茗荷谷

2008-03-29 01:42:21 | Weblog

この2日間,筑波大大塚キャンパスで開かれた,人工知能学会の知識ベースシステム研究会(SIG-KBS)に参加していた。テーマは「知能・適応と社会,ネットワーク」。ゲーム論から始まって,マーケティング,ファイナンス,避難行動など,多岐にわたるシミュレーション研究が報告された。ぼく自身は,中澤君とやった「アフィリエイト広告」のシミュレーションを報告した。

参加人数は昨年より少なく,毎日10数人。人数が少ないのなら,もっと質疑の時間があってもよかったかもしれない。もっとも,対象とする領域がかなり広いので,越境的な議論がどこまで生産的になるか・・・研究者の力量が問われるところである。それはともかく,いくつか周到に行われた研究の報告を聞いて,大いに刺激になった。

これで一段落・・・ではなく,月曜にもう1件,セミナーでの報告がある。査読の督促がついに来た。再来週には授業が始まるので,その準備も・・・。だが,何よりもしなくてはならないのは,研究室をちょっとは片付けること(今日,部屋を覗いた隣人が呆れていた),そしてMacのセットアップ,メーラーの再セットアップ・・・。

今日入手した本:

トーマス・J・アレン,グンター・W・ヘン,知的創造の現場 プロジェクトハウスが組織と人を変革する,ダイヤモンド社 ・・・研究開発の生産性について,それが行われる空間=施設という観点からアプローチしている。カラーの写真や概念図が豊富。

堀浩一,知の科学 創造活動支援の理論と応用,オーム社 ・・・前半の「理論」編で,表現することを自己組織化系と考え,微分方程式で定式化しようとしている。ちゃんと読んでみないとその妥当性はわからないが,こうした試みをすること自体が面白い。

伊庭斉志,知の科学 進化論的計算手法,オーム社 ・・・遺伝アルゴリズム等々の最近の動向をフォローしようと買ったが,この本自体は2004年に出版されている。まさか,すでに買っている,てことはないだろうな・・・。    

*追記: やはり購入済みであった。

カール・グラマー,愛の解剖学,紀伊国屋書店 ・・・男女の駆け引きに関する生物学的研究の書。先行研究を豊富に引用しているところか気に入って購入。

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リサーチ手法百花斉放

2008-03-27 08:58:39 | Weblog
東京での某プロジェクト報告会の直前,本屋に寄る。ビジネス街の本屋は,狭い店内に来店する顧客の嗜好に合わせた凝縮した品揃えをしていて面白い。宣伝会議3/15号を購入。特集2は「ヒット商品をつくるマーケティング・リサーチ」。

宣伝会議 2008年 3/15号 [雑誌]

宣伝会議

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まず,いくつか事例が紹介される。インバス・スキンケアという新コンセプトを提案したライオン「BATHTOLOGY」については,いくつかの意識・行動調査からニーズが発見され,開発段階に入ったあとはコンセプトテスト,ネーミング/パッケージテストが行われたという。

ロッテ「とっておきのチョコパイ」の開発では,定点調査から課題(購入経験率は高いが頻度が低い)を抽出,さらにターゲット顧客に焦点を当てたアドホック調査から収集された自由回答にテキストマイニングを適用,ライフステージに応じたニーズの違いを分析した。

カルビー「ポテリッチ」ではグループインタビューを通じてポテトチップ各アイテムのポジショニングを把握,最終的には定量調査でパッケージとテイストの適合性をテストしている。以上の3ケースでは,いずれも定量調査と定性調査が繰り返し実施されている。多くの企業が新製品開発にあたって複数の調査を行っているが,それらをどう組み合わせるかに各社のノウハウがあるのだろう。

定量/定性調査をいかに組み合わせ,どのような分析手法を適用すべきかについて,1つの包括的な枠組みを提案しているのが,芳賀さんの 3-Step Research である。この特集では,カネボウ化粧品での研究の一端が紹介されている。現場での活用が着々と進んでいる模様。企業機密の制約があるとは思うが,今後実際の適用事例が発表されるとうれしい。

仮説「発見」型リサーチが重要だというのは朝野先生。1970年終盤以降,NQT (New Qualitative Technique) が成長してきたという。最近,エスノグラフィーに代表される行動観察法に注目する企業が増えているが,今後の方向として,アイトラッキングや fMRI といった生理学的な観測手法もまた期待されるという。

様々なリサーチ手法が必要とされるのは,人間の意思決定が多層的だからだろう。自分の行動とその動機を意識できるレベル,行動は意識しているが動機を正しく意識していないレベル,行動も動機も意識できないが行動が外的に観察されるレベル,行動にストレートに反映されない脳内変化のレベル…。

実務では「使える」ところだけ使えればいいわけだが,消費者行動の研究者は,各レベルを統一的に理解したいと願うはず。そのうち,それを目指したサーベイが出てくるのではないか(あるいは,すでにある?)。
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初めての謝恩会

2008-03-26 02:25:05 | Weblog
大学勤務5年目にして初めて謝恩会に参加。カジュアルな格好で行ったが,他の男性教員はほとんど背広とネクタイ(八さんまで!)・・・ドレスコードを知らないKYな立場になった。何人かの卒業生に,社会人になることへの助言を求められ,長い会社員生活を回顧する。しかし,ぼくの経験など「古き良き時代」のもので,いま役に立つかどうか・・・。

宴が続くなか,抜け出して当研究室の送別会へ。2人の修士と1人の学士。みんな,いつになくくいくい飲んでいる。来週の今頃,彼らはそれぞれの就職先で,研修を受けているだろう。これからどんな人生があるのか・・・仕事ばかりでなく私生活も・・・無限の可能性を秘めた彼らが眩しく見える。花とワインをいただく。最後はあわただしく,きちんと御礼ができなかった・・・ありがとう,そしておめでとう! 
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アーティストとクリエイター

2008-03-25 00:28:38 | Weblog

鹿児島出張の復路に,大野左紀子『アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人』(明治書院)を読んだ。アーティストという多義的な職業名称を解読しながら,その裏に潜む現代人の欲望を探る…と書くと,いささか安易な紹介文になってしまうが,一言でいうとしたら,そういうことになる。

アーティストになりたい…という人々の欲望を象徴するのが,絵を描く芸能人たちである。東京芸大彫刻科を卒業,長年アーティストとして活動してきた著者は,ジュディ・オング,八代亜紀,工藤静香,片岡鶴太郎,ジミー大西,藤井フミヤ,石井竜也…を俎上にあげて,そのアーティストしての実力を問う。肯定的に評価されているのは,このなかで,たった一人のようである。

プロのアーティストに相応しい実力がなくても,芸能人としての有名性があればアーティストとして称揚される。これをただケシカランといえないのは,「純粋な」アーティストの評価にも,メディアが生み出す「有名性」が大きく影響するからだ。しかし,アートの評価には,わかる人にはわかる「本物性」があるという見方があるし,ぼくもそれを否定できない。社会的相互作用だけですべて決まるわけではない。じゃあ,「本物」って何だろう・・・これは,ワインの選好形成実験で取り上げた論点でもある。

個人的に最も興味深かったのは,アーティストとクリエイターの違いを論じた部分である。著者は,クリエイターになりたいという若者がいだくイメージについて語る―

今やアーティストよりずっと人気がありそうなクリエイター。「時代の先端」で,専門技術とセンスと鋭いアンテナがあって,仕事はどれだけでもあり,制作物には必ず自分の名前がクレジットされ,職人のように地味ではなく,親方みたいな怖い人もおらず,アーティストより儲かりそうで,しかもアートっぽい匂い(クリエイティブ!)もあり・・・

クリエイターとは具体的にいうと,ウェブ,ゲーム,映像,出版,広告などのコンテンツ産業で,二次元の複製物を作り出している人々だと(なるほど!)。アーティストがアートであることへ強くこだわり,支持してくれる人々が少なくてもよく,経済的利益を重視しないのに対して,クリエイターは表現を手段と考え,より多くの人々の支持を追求し,儲けてナンボだと考える。アーティストにはなれないが,クリエイターにならなれるかも・・・そっちのほうが楽だし儲かるし・・・という若者が増えているというわけだ(もちろん,現実はそんなに甘くない)。

アーティスト症候群―アートと職人、クリエイターと芸能人
大野 左紀子
明治書院

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「真の」(あるいは狭義の)アーティストが生きていくことは,一握りの成功者を除くと非常に厳しく,芸大卒業後20年を経て,著者はアーティストであることをやめる。その経緯や理由がつづられている章は,アートとは無縁の人生を送ってきたぼくにとって,共感・理解するのが難しい部分だ。そう,クリエイターではないが,そちらに近い立場にいた人間として,アートとは何か,創作とは何か,なんてほとんど考えたことがなかったから・・・。

それにしても,本格派アーティストから見ると嘆わしいかもしれないが,「プチ・アーティスト」「ちょいクリエイター」が増えることに,積極的な意義を見出せないだろうか? プロを目指す人々の底辺が広がり,プロになれなかったが「目が肥えた」消費者になることでプロの創作に対する需要が拡大する・・・といった幸福なサイクルが回らないだろうか? 元「広告屋」の末席にいた人間らしく,ついそんなことを考えてしまう。

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user experience はおもてなし

2008-03-24 21:14:25 | Weblog
鹿児島出張の往路で読んだのが,中島聡『おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由』(アスキー新書)。著者の努力が実って,現代用語の基礎知識が user experience の訳語として「おもてなし」ということばを採用したという。そうした意味での「おもてなし」というコンセプトを鍵として,グーグルが YouTube を買収し,アップルが最近成功していることを説明しようとしている。

面白いのは,中島氏がかつてマイクロソフトで Windows95 や IE の開発を推進してきたソフトウェア・エンジニアであるということ。アップルやネットスケープを追い落とすことに全力を傾け,それに成功したものの,元アップルの技術者から「マイクロソフトのプロダクツにはソウル(魂)がない」といわれたことが,非常にショックであったという。

その後,中島氏はマイクロソフトを去り,米国で起業する。アスキー,マイクロソフトをともに歩み,いまお互いにマイクロソフトとは距離を置く古川亮氏との対談では,二人とも iPhone を持って写真に納まっている。この対談を読む限り,マイクロソフトが君臨する時代はもう終わったと思えてくる。

しかし,だから次はグーグルの時代だ,と考えるのは早計だ。本書によれば,短期間で今の地位を築いたグーグルこそ,次のグーグルの登場を恐れているという。IT業界の事例研究から,何か一般的な戦略原則が見えてくるのか,逆にそのようなものがないことが見えてくるのか…どうも後者のように思えてくる。
おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由 (アスキー新書 55)
中島 聡
アスキー

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とはいえ,「おもてなし」という,これまでなら卓越した人的サービスについて語られてきたコンセプトをITの最前線に適用する試みは,特定企業の浮き沈みを超えて一般性を持つのではないか。やはりIT業界から出てきたサービス・サイエンスにとっても,マーケティングから工学に近づこうとするマーケティング・サイエンスにとっても,それは刺激的な視点である。
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進化経済学会@鹿児島

2008-03-24 01:34:17 | Weblog
鹿児島国際大学で開かれた進化経済学会に参加。この時期の鹿児島は花粉が多いことを想定していなかった・・・ことはともかく,Metcalfe教授の招待講演を聴きながら思ったのは,進化経済学自体は進化しているのか,ということだ。競争は均衡の外側にあり,イノベーションとイミテーションのプロセスだという主張には同意するが,30年前に Nelson, Winter (あるいはそれ以前に Schumpeter)が主張したことから,どれだけ進んでいるのだろう。Marshall, Hayek, Knight を回顧することから,たとえば Microsoft vs. Google のような競争の現実がどこまで捉え切れるのか・・・。

いや,経済学とは「巨人の肩の上に立つ」学問だから,学説史的な議論は非常に重要なのだ,といわれれば,それはその通りだろう。ぼく自身,上述の古典(特に Schumpeter)をきちんと読まなくてはと思っている。その一方で,進化を名に冠する学会で,最先端の経済現象があまり取り上げられない印象を持ち,物足りなさを感じてもいる。そのことは,いくつかエージェントベース系の発表を聴いて思ったことでもある。研究のターゲットする問題について具体的事例が語られないまま,抽象化,一般化を進めても,説得力のある議論にならない。このことは,自分の研究についてもいえることだ。

ここで頭に浮かぶのが,歴史的-事例研究とシミュレーションの対応という問題。いくつか関連文献がありそうだ…中期的宿題のひとつ。
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カープ2.0は可能か?

2008-03-20 14:09:38 | Weblog

パリーグが開幕,ダルビッシュ投手の活躍で日本ハムが初戦を飾った。小島克典『プロ野球2.0』(扶桑社新書)に登場する北海道日本ハムファイターズ球団の藤井社長は,前職はJリーグ・セレッソ大阪の社長で,同チームの黒字化に貢献した実績を持つ。Jリーグからパリーグへ・・・最近のパリーグ人気の背後には,経営層の充実があったということか。

本書は,著者が立命館大学で行ったスポーツビジネスの講義録。多彩なゲストスピーカが登場する。その一人が,エージェントとして多くの日本人野球選手の米大リーグ行きに関わった団野村氏。彼によれば,日本の球団は儲かっていないという理由で選手の給料を抑制し,大リーグのように事業拡大することで高い給料を吸収しようとする発想がないという。

プロ野球2.0 (扶桑社新書 24) (扶桑社新書 24)
小島 克典
扶桑社

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 団野村氏といえば,「わが」広島カープともめた歴史がある(「セクシースポーツ・エクスタシーコラム」が指摘するように,それはカープのローカル性を示す結果になった)。最近,「純正野球ファンのメモ」には

いずれにしてもカープを見ていると「歯がゆい」の一言。

パリーグではロッテや日ハムのようにスカウトと育成で強いチームを作り上げているのに、セントラルではそういうモデルが通用しないのだろうか。いや、そうではない。カープは真剣にファームと育成で勝とうという気概を感じない。フロントも首脳陣も、ファンにもどこか逆指名とFAを言い訳にしているように感じるのである。

と書かれていた。 親会社の広告塔ではない唯一の球団として,優れたスカウティングによって前田や緒方を育てたチームとして,イノベーションが期待されたはずなのだが・・・。

著者は最終章で,ウェブ2.0の原理をプロ野球に適用することを提案する。その一つが,協調フィルタリングなどを用いた,ファンに対するカスタマイズされたサービス。もう一つが「ネットワーク効果」の活用。ファンがファンを呼ぶ仕組みをつくるということだが,その具体策は明確にされていない。

特定チームのファンになる心理は,消費者の選好形成のなかで最もエモーショナルで,偶有的で,かつ持続的であるように思える。選好形成の研究材料としても,サービス&リレーションシップ・マーケティングの研究材料としても,興味深い。

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ネットワークよ永遠なれ

2008-03-19 01:56:09 | Weblog
JIMS部会。まずD2の吉田さんから,パーソナルネットワークのサイズに関する実証研究の報告。一世を風靡したスケールフリー・ネットワークのバラバシ・モデルへの反発を心に秘め,工夫を凝らした質問紙調査をベースに,何が知人数を規定するかを統計的に分析している。注目すべきは性別が他の変数に対して強い交互作用を持っていること(少なくとも2005年時点で)・・・いまさらながら,日本社会におけるジェンダーの重要性を確認。欲をいえば,この調査に盛られていない要因で,もっと重要なものがあるのではないかと考えさせられる。あるいは,線形関係ではない,別の影響経路があるかもしれない・・・。

次いで,実務と研究の境界線を疾走する渡辺さんが,空間的自己相関モデルに関する最近の研究を語る。といっても,まずは哲学的な議論や,自らの教育の実践から入るあたりが渡辺さんらしい。相互作用について,ジャック・ラカンやゲオルグ・ジンメルはどう考えたか,あるいは岩井克人は・・・豊富な読書量に支えられた議論になかなかついていけないが,言いたいことの本質は共感できる。そして,いくつか実務的なモデリングを紹介しつつ,理論的にチャレンジングな空間的自己相関モデルと共分散構造分析の接合という話題に入る。このあたりは難しさが極大化し,的確なコメントをしようがないが,実質科学的に何をしたいのかが重要だ。テクニカルには,潜在変数の生かし方があるのではないか・・・。だが,それは生みの苦しみなのだ。その苦労はきっと報われるだろう。

今回は発表者だけでなく,聴講者の少なからぬ人間が,ネットワーク分析の空気を吸って生きてきた。だから,二次会は同窓会のような雰囲気があったが,これからの課題は,皆がそれをどう発展させ,場合によってはその限界をいかに突破するかであろう。この研究会が,そうした知的スプリングボードになればいいのだが・・・そうなるために,ぼくはどうすればいいのか・・・ともかく前へ進むしかない。
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おもてなしは entertaining

2008-03-18 09:04:40 | Weblog

昨日は朝からサービス産業生産性協議会のシンポジウム@大手町を聴講。専門委員会のなかには顧客満足度指標のプロジェクトがあり,小川先生が座長をしている。ACSI (American Customer Satisfaction Index) の日本版 JCSI の開発を目指すという。委員には,有名なマーケティング学者の名前がずらり。次いで,科学的・工学的アプローチ委員会のパネル・ディスカッションを聞く。事務局は産総研。こちらは事例研究中心。

展示コーナーでは,経産省の支援を受けている企業や大学のプロジェクトのパネル展示があった。ほとんどが,ITによるサービス生産性向上システムを提案している。東大,東工大,九大,札幌市大など,大学からの展示もある。東工大から出展されているのは,国際非線形科学会議で報告されていた DAIKOC だ。ふと思う・・・こうした資金援助はいつ,いかなる形で実社会に還元されるのだろうか・・・自分が取り組むとしたら何を提案するだろうか・・・。

大手町から丸の内に移動し,丸の内ブランドフォーラムに参加。片平さんの講演を聴く。おもてなしを hospitality ではなく entertaining と訳しておられる。なるほど,サービスもまた entertaining と見るべきだ・・・てことは service science は entertaimant science と考えたほうがいい,と我田引水。そのあとパーティで,つわものマーケターの人々と,久ぶりにお話しする。

一日講演を聴いて過ごしたが,最後は,自分が何も生み出していないことへのフラストレーションを強く感じる。

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昔,産業組織論を学んだ

2008-03-16 23:43:33 | Weblog

昨夜は,修論を指導していただいた小田切先生のゼミのOB会@秋葉原。官庁や企業で枢要な地位にある人,家業を継いでいる人,学界に転じた人,「人生いろいろ」である。4時間近い時間のなかで,小田切先生と直接お話しする機会があまりなかったのは残念であった。 先生は一貫して公正な競争政策の研究を続けておられる。

一方,教え子たちは,官庁や業界において,公正な競争についてどれだけ意を払っているであろうか・・・。「現実は理論とは違う」などと称して,結果的に既得権益に固執しているとしたら悲しいことだ。そのなかで印象に残ったのが,某大企業の新事業として,老人介護施設の経営にあたっている小林さんの話だ。サービス・イノベーションの事例として,いつかじっくり話を聞いてみたい。

サービス・イノベーション・・・最近,政府や自治体はその振興に熱心だが,一方で官の側のイノベーションが欠かせない。たとえば介護サービスの場合,介護保険や年金といった制度が崩壊したら,民間のイノベーションの成果など軽く吹っ飛んでしまう。イノベーションには「そんなことは不可能だ」という理路整然とした抵抗を打ち砕くリーダーシップが必要だが,官の世界でそれが発揮されないと,先行きは暗い。

その直前に買った本:

海部美和,パラダイス鎖国 忘れられた大国・日本,アスキー新書

柴田文彦,快適デジタルライフ やっぱりオヤジもiPodが欲しい! アスキー新書

中島聡,おもてなしの経営学 アップルがソニーを超えた理由,アスキー新書

妹尾堅一郎,アキバをプロデュース 再開発プロジェクト5年間の軌跡,アスキー新書

芦刈いずみ,飯富崇生,時計仕掛けのハリウッド映画 脚本に隠された黄金法則を探る,角川SSC新書

田崎健太,楽天が巨人に勝つ日 スポーツビジネス下克上,学研新書

ぼくの関心は,かつて学んだ産業組織論からあまりに遠いところにいる・・・というのは本当ではなく,エンタメもスポーツビジネスも,産業組織論や経済学のテーマになり得る。だが,ぼく自身はそれを,できる限り需要側=消費者の立場から研究してみたい。それは,残念ながら産業組織論や経済学で,十分深く考えられていない点だ。だがいずれ,需要側と供給側の研究が交差するときが来るだろう・・・。

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国際非線形科学会議

2008-03-14 22:59:07 | Weblog

昨日から,中央大学駿河台記念会館で開かれている国際非線形科学会議を聴講。まずは,サービス・サイエンスのセッションに出る。トップバッターは,昔TAを勤めてもらい,いまや某大学で研究者として一人立ちした渡辺君だった(その直前に挨拶されて思い出した・・・御免!)。米国内の貨物航空輸送で,ハブ空港をどこに立地すべきかをOR的にアプローチしている。彼の計算では,最近の最適立地はNYのJFKだという。

次いで,寺野さんがロングテール分布のテール部分に位置する製品を対象に,製造者,流通業者,消費者の間でマッチングを行うリコメンデーションシステムを提案。それに対応するエージェント・シミュレーションも報告された。人の間だけではなく,モノの間にもネットワークを考えている点が何を意味するのか,ぼくにはよくわからなかった。マーケティングなり経済学なりの伝統を引きずると,そこは大いに気になる。そんなことは気にしない,という「ラジカルな」立場もあり得るとは思うが・・・。

サービス・サイエンスのセッションでは,そのあと,ネットコミュニティの動態をSOC(自己組織化臨界現象)として理解しようという研究,店舗内の買い回りを選択モデルで分析し,シミュレーション・モデルに展開した研究,電子マネーのような消費者と店舗の双方で二重の普及が起きる現象のモデル化,日本の非製造業(ほとんどが広義のサービス産業)の生産性の低さが非上場の中小企業に起因することを示す実証研究があった。どれも力作で「サービス・サイエンス」の幅広さを示すものだが,サービス・サイエンスというものの核心が逆に見えにくくなる。

初日は他に,心理学系のセッションにも出た。そこでは「懐かしの」カタストロフ理論が扱われていた。初めて聞いたが,データからカタストロフのモデルを推定する研究が,連綿とあるらしい。最後の発表では,そこに有限混合モデルを適用することが提案されていた。へーという感じ。

昨夜いったん研究室に戻って「仕事」をしたため,本日は午後3時から参加。ちょうど秋山さんが Learning Game の発表をしているところだった。他にも人間の認知能力の限界を明示的に扱ったゲーム理論系の研究があった。人間の行動が限定合理的であるほど,社会的に望ましい結果を招くことを示す研究として,だいぶ以前のことだが岩井克人氏の「不均衡動学」があった。当研究室のアフィリエイト広告モデルもまた,利益追求者が増えすぎると市場が縮小することを示している点で,こうした研究の系譜に属しているといえる。

懇親会に参加,何人か若い研究者や院生と話しをする。みんなピュアに自分の研究を追求しており,素晴らしい・・・だが(だから)共通の話題を見つけるのに苦労したりする。人間関係において,共通の話題をふんだんに供給できる仕組み(天気の話題,共通の知人の噂話,・・・)が重要である。それにしても「非線形科学」とは何だろう? ・・・物理学,経済学から心理学まで多様な分野にまたがり,なかには怪しいものも含む。世界は広いのだ。

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クロス表からの出発

2008-03-11 23:32:27 | Weblog
昨日はMBA「マーケティング」のレポート採点で一日終わった。「サービス・イノベーション」で収集した調査データについて,個票とクロス表を受講者に提供し,戦略仮説に基づくデータ分析,そして問題解決の提案を課題とした。レポートを読みながら感じたのは,クロス表から何かを読み取る,それをグラフで視覚化する,といった,ビジネスの現場で普通に行われることができている学生が少ないことだ。それができないのに,MBAを名乗るわけにはいかないだろう。

単純なことからいえば,グラフをどう書くか,といったあたりから学ぶ必要がある。足すと100%になる構成比のようなデータは,棒グラフより帯グラフ(あるいは円グラフ)のほうがよい(少なくともスペースの節約になる)。そのグラフが意味することを正しく理解してもらうのに,どういう情報を付加すべきか。こういったことは,修士で学ぶことではないなどといってられない。それができないのなら,これから学んでもらうしかない。

他に目立ったミスとして,クロス表の各層の重みを無視して層別の比率を「総合」してしまうことがある。これは,条件付確率(尤度)だけを見て,事前確率を無視するという,ベイズの定理の説明でよく語られる誤謬と似ている。結局,一つのテーブルをより大きなところから見る,という視点の移動が重要なのだ。こうした問題は,「高度な」多変量解析を適用することでかえって見えにくくなる。その意味で,直感的に誰でもわかるような,クロス表の読み方をきちんと体験することが必要なのだ。

今日は「サービス・イノベーション」の評価委員会@市ヶ谷。実務家を中心とする委員の方々の前で,各サブテーマの中間報告。委員からのコメントを端的にいえば,「現場」からの距離感,そして,それでサービスの管理はともかくイノベーションができるのか,という疑問である。これまで繰り返し受けてきた批判とはいえ,それを教員側がどこまで真摯に受け止めるのか・・・それが,そもそもMBA教育をする資格があるかどうかのリトマス試験紙になると思う。

ぼく自身は,今後収集されるデータを,クロス表を中心とする基本的な統計手法で分析し,サービス・マーケティング(あるいはイノベーション)の戦略シナリオを立てる「プロトタイプ」を作り,それをもとに教育用の「テンプレート」を作る必要があると感じている。これは,高度なモデリングを競うというタイプの研究には直結しない。だが,「事例」をデータを用いながら立体的に理解しようというタイプの研究にはなるし,それがいずれ基盤が強固なモデリングにつながると思う。

ある委員から,どういう人材を育てたいのか,そこに需要があるのか,もっと現場を取材すべきだという提言があった。優れた企業は,つねにそれを自らに問うているはず。経営を教えようとする大学もまた同様であるべきだが,果たして・・・。
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アフィリエイト実験

2008-03-10 02:11:57 | Weblog

先日のMASコンペで,アフィリエイト広告について当研究室の研究を発表した際,アフィリエイトの動機を問う質問が出た・・・われわれが利益追求型と名付けた,ひたすら売れ筋を紹介するタイプのブロガーは,本当に存在するのかと。そのときよくわからなかったが,アルファブロガーの方の報告を読むと,全くあり得ない話ではない,という気がしてきた。

だが『インターネット白書』で報告されているように,大半のアフィリエイトは,ゼロに近い報酬しか得ていない。そうした非利益追求型のアフィリエイトが一定数以上いることが,アフィリエイト・プログラムの発展にとって重要なことだというのが,われわれのシミュレーションの結果であった。

インターネット白書2007

インプレスR&D

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それにしても,アフィリエイトが本当は何を考えているかを問う,冒頭に述べた質問は正当で,無視できない。そこで,自らアフィリエイトを体験すべきだと思い,しばらく amazon のアフィリエイト・プログラムに参加することにした。このブログのアクセス数では,ちゃんとした実験になるとはいえないが・・・。

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