Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

行動計量も行動観察も

2007-03-31 17:54:09 | Weblog
八王子の大学セミナーハウスで開かれた行動計量学会の春の合宿セミナー。心理学の学生が中心だと思うが,いずれにしろ多くの受講者が集まっていた。そのなかには,マーケティングリサーチ分野の人々も少なからずいただろう。ぼくが聴講したのは,構造方程式モデリング(SEM)のソフト Amos7.0 および Mplus を紹介するセミナーである。

前の夜,テレビも冷蔵庫もLAN設備も,そしてトイレも室内にない部屋に泊まったため,久々に酒も飲まず読書。読んだのは,奥出直人『デザイン思考の道具箱』。製品デザインのみならず幅広く活躍するIDEO社に触発され,奥出氏が研究室をあげた実践を通じて開発してきた方法論では,contextual design などと同様,アンケートなどから得た数字でなく,ユーザの行動の参与観察=エスノメソドロジーで得られた生の経験が重視されている。

米国のトレンドというだけでなく,日本企業の製品・サービス開発の現場で,行動観察への関心が高まっていることは確かだ。本書では,クライアントへの守秘義務という理由で具体的な事例が述べられておらず,方法論の詳細はよくはわからない。あるいは,数年かけて実践しないと身につかないということなので,文章で伝わるものではないのかも。そのうち,「行動観察学会」なる団体が設立され,セミナーに多くの人々が集まるかもしれない・・・。

こういう流れはまっとうだが,それだけではすまないだろうとも思う。言い古されたことだが,質的調査への関心には周期性がある。先日,行動観察で得たルールをもとにエージェントシミュレーションをしている企業があると聞いた。行動観察とエージェントベースの相性は意外にいいかもしれない。あるいは,データ解析とも・・・松村さんのフィールドマイニングが狙っているのがまさにそこだろう。観察・・・計量・・・シミュレーション・・・すべてがつながると面白くなる。

感染とクチコミの違い

2007-03-30 22:52:34 | Weblog
SIG-KBSで「クチコミ伝播効果の分析」を発表する。予想通り,感染のS-I-Rモデルと同じじゃないか,という指摘がある。伝染病の場合はいったん感染して発病したのち,時間の関数で回復する。一方,このモデルでは,クチコミにいったん接触して知名に至ったとしても,適宜接触していないと忘却する点が違うと答えたものの,それだけでは迫力不足のようだ。やはり,知名以降の反応を組み込まないと。

ぼくのあとは,学級内のいじめ問題をエージェントベースモデル化した発表で,ハイダーのバランス理論を組み込んでいた。いじめの場合,好きな子(先生)の好きな子を嫌うというような妬みの行動もあるはず。ハイダー的なバランスメカニズムと,嫉妬のような逆のメカニズムの両方を組み込み,それぞれの進化を扱うことが考えられる。

そのあと書店に行って,感情の心理学に関する文献を買い漁る(またまた過食症のように)。そのなかには,子どもの妬み行動を扱った文献や,「ライフワーク」である選好形成に関連すると最近考えているアディクションの文献を含む。

夜,八王子の大学セミナーハウスへ。闇の中で施設の全貌がまだよくつかめない…。

SIG-KBS@筑波大大塚

2007-03-30 02:13:56 | Weblog
筑波大大塚キャンパスで開かれたSIG-KBSに参加。思ったより少人数の研究集会であった。なかなかしっかりした発表をしているので院生かと思ったらB4だったりして,人工知能系の学生はなかなかのものだ。これだったら,刺激を与えるため,ゼミ生を連れてきたほうがよかったかもしれない。

今日は,マルチエージェントシステムの工学的応用の発表の日。個人的には,ジャズのアドリブを対話的に支援するシステムの報告が面白かった。とはいえ,そのシステムで作成されたアドリブをその場で演奏してくれたら,もっと素晴らしかったのだが・・・。

二次会で,秋山さんや和泉さんとゆっくり話すことができた。明日は社会シミュレーションのセッション。自分の発表もある。

ポスト・グーグルは占い?

2007-03-29 10:49:53 | Weblog
「グーグルの次のビジネスモデル」という刺激的な副題を持つ,佐々木俊尚『次世代ウェブ』。著者によると,「Web2.0というパラダイムは,極大化されたデータベースの海と,そこから的確に有用なデータを拾い上げるための「UFOキャッチャー」アーキテクチャという二つの層からなっている」という。ふうむ。UFOキャッチャーとは,ぼくにとっては,狙うものをつかめそうでつかめず,せっかくつかんでも,いいところでするりと抜け落ちてしまう経験を想起させる。そういうニュアンスを含めた表現なのかな・・・。

これからの検索エンジンの課題について,佐々木氏は「個人の好みを完全に把握するには・・・その人が検索しようとしている瞬間の意向をとらえる必要がある」ということばを引用している。「瞬間」というのは,サービスについてよく言及される,重要な概念だ(人生においても・・・)。ユーザの過去の履歴と,いまそこにいる環境が交差するのが,検索の瞬間だろう。しかし環境というのは定義からしても,ウェブのなかで閉じていない。つまりデータベースには書かれていない情報なのだ。ベテランの販売員が,相手の表情や仕草から読み取るような手掛かりを,ウェブでどうやって得るか。

この本には,顧客のプロファイリングに四柱推命や星占いを変数として加えているという企業の例が出てくる。おいおい,と最初は思ったが,確かに人々の過去ではなく将来を予測するという意味で,占いは長い歴史を持っている。運命とか運勢とかが本当にあるなら,ある「瞬間」のベクトルを把握するのに役立つだろう。だが,ぼくが占いから学ぶべきだと思うのはむしろ,実際に的中したかどうかの客観的な判定に立ち入ることなく顧客を満足させ,リピートさせられることだ。

ともかく,日本でもいろんな動きが進行中で,結果これから出てくる,ということだ。本書は楽天のビジネスモデルには悲観的で,ヤフーの今後は様子見,経産省の「情報大航海プロジェクト」には他の論者と違って期待している,というように見える。そうしたことを含めて,今後どうなるかが楽しみだ。

何が原因で結果なのか

2007-03-28 10:12:09 | Weblog
昨夜の消費者間相互作用研究会はダブルヘッダー。まず,林さんのエージェントベース・シミュレーション。クチコミとマスコミ情報の相乗効果を扱っている。エージェントは仕事や家族の役割を持ち,実時間のなかを時間割にしたがって行動する。出口先生たちが開発した soars ならではの世界だが,ぼく自身はもっと理論的に抽象化するか,さもなくば各エージェントが現実の個人に対応するほどリアリティを高めることを好む。その中間の状態は,どうも居心地が悪い。

もうひとつは,吉田さんと峰滝さんによる,ブログやSNSの利用が,消費行動にどう影響しているかを探った実証研究。基準変数である消費行動の変化も,説明変数であるブログ/SNSへの関わりもすべて回答者の自己申告による。こうした場合気になるのは,説明変数とされた回答の内生性だ。つまり,回答全体に影響する,CGMへの積極性のような潜在変数がありはしないか,という問題。だが,このことはここ数週間,ぼくが没頭してきたデータ解析にもいえることで,現実問題として対応は難しい。

二次会では,コミュニケーション論の研究者を含めて,その辺を議論した。多メディア化する状況で,各メディアへの接触からその効果までを消費者に直接聞く類の調査が増えている。ふだんどういうメディアに接触しているかを聞くのは,まあいい。しかし,ある製品の情報をどのメディアから知ったか,あたりになると怪しくなり,どのメディアに影響されたか,などと聞くにいたっては,かなり無理があるように思う。そうはいってられない,という現実はよく分かるが・・・。

相関係数はいくらあれば

2007-03-27 11:14:58 | Weblog
心理統計学者のメーリングリストで,相関係数はいくらあればよいかが議論されている。二乗して決定係数と見たとき,全変動の何%を説明しているとうれしいか,という問題だ。あくまで「主観的」な感覚なので,いろいろな意見がある模様。

回帰分析の決定係数が低すぎると,ことあるたびにコメントされる先生がいる。では,いくらあればいいのだろうか? 統計学的にきちんといえるのは,相関が0ではないという帰無仮説が棄却されたかどうかである。相関係数が0.01だって,サンプルサイズが十分大きければ,この検定はパスする。回帰係数の「有意性」だって,そういうレベルで検定しているわけだから…。

上述のメーリングリストでは,損失関数を定義して,という提案もなされている。相関の低さとは予測の失敗であり,それによる期待利得(損失)を計算したらどうかと。お金に換算したら,判断しやすいだろうというわけだが,いくらだったらうれしい,悲しいというのは,結局,個人的で主観的な感覚である。

統計学は,最後の最後できわめて主観的な意思決定に行き着くところがうれしい。

尻尾の先の乙女の道

2007-03-25 15:35:23 | Weblog
金曜の夜,若い研究者たちと乙女ロードの「見学」に行った。といっても,ディープな部分は垣根越しに見た程度。昨夜のテレ朝 SmaSTATION!! では,少女マンガを特集していた。NANAは世界21ヵ国に輸出されているという。そういうヒット作から,乙女ロードで売られているニッチな作品まで,マンガの世界はまさにロングテールだ。ちなみにゲームソフトの市場はロングテール化していないと,その分野の研究者の一人から聞いたことがある。ロングテール論言いだしっぺのアンダーソンは書籍や音楽に注目しているが,特に音楽の場合,日本でどこまでの裾があるか…欧米ほどではないかもしれない(根拠はない)。

とすると,書籍,なかでも日本特有のコミック市場を研究せずして何を研究するのか,という気がしてくる。そのとき圧倒されるのが,この膨大な数のコンテンツを生み出す創造力の凄さである。幼い頃,落書き程度のマンガを書いたり,自分(たち)で作った物語に入り込んで遊んだ記憶を持つ人は少なくないだろう。しかし,大抵それをどこかへ置き忘れてしまうのに,持続させ,職業化し,日々再生産し続けられるのはなぜか(当事者たちは,ただ好きだから,と答えるかもしれないが)。前にも書いた Management of Creativity の一環として研究すべき課題だろう。

しかし,ガンダムやエヴァンゲリオンにほとんど目をくれたことがなく,ベストセラーの『涼宮ハルヒの憂鬱』でさえ2巻で挫折したこのぼくが,マンガを研究することなどできるのだろうか。

追記: 日本でロングテール現象やニッチ市場を研究することは,オタク市場の研究になるのだろうか…とすると,すでに先行研究がある。

サービス科学フォーラム

2007-03-23 11:05:48 | Weblog
昨日は朝から学内でサービス科学フォーラム。計8つの研究報告+ルディ和子さんによる特別講演。自分の発表を含め,マーケティングや組織論の実証分析は,なじみのある領域なので特に驚きはなかったが,管理会計,数理計画,通信工学の話は,予想に反して非常に面白かった。そして,ばらばらに行なわれたはずの発表が,いくつかの地下水脈でつながっていることに気づいた。

たとえば,サービスの原価企画では,コンセプト構築から実際の事業展開までの各段階で,売上やコストをより詳細に詰めていくが,そうした不確実性下での段階的な問題解決と,数理計画でいうシナリオベースのロバスト計画はつながるかもしれない。あるいは,特別講演で聞いた,顧客離脱の「重要な瞬間」を選別して,そこに資源を優先配分する,という話もそうだ。

位置情報検索システムを用いたサービスの実用化に関する報告もそう。ビジネス化という点で経営科学とつながり,社会への適合という点で社会科学とつながる。だが,最終的な価値は顧客の心理,特に感情の問題から来る。最後の特別講演で,ルディさんは脳科学への該博な知識と,一方で学術的というより実務的な各種調査の結果に基づきながら,サービスの最終局面における人間的要素の重要性を指摘した。その一方で,そこから利益を生み出すマネジメントのあり方に言及。いちいち納得できる話ばかりであった。

それにしても,こういう eye-opening な話は,あんまり学会では聞けない。いくつかの学会で,基調講演に実務家や非アカデミックの有識者を呼んだりするのは,研究者どうしでちっせーコミュニティを作るのを防ごう,という狙いだろう。ま,その場合でも,自分の研究とは別の一般教養として話を聞いている限り,「期待された」成果は生まれないだろう。


クチコミ入りシングルソースの味

2007-03-21 09:23:40 | Weblog
ブログあるいはCGMに関する研究は猛スピードで進んでいる。ぼく自身は「イプシロン」ブロガーとして,2つのブログをしょぼしょぼ書いているだけだ。ブログを書くことでしか経験できないこともある。このささやかなブログでも,アクセス数に変動があり,大げさにいえばウェブのダイナミクスを体感できる。もう一つの全くいい加減にしか書いていないブログでは,どうすればアクセスをゼロに近づけることができるかを実験している(…ある程度本当)。

一昨日聴いたeクチコミの研究報告では,様々なサーベイデータ,売上/POSデータ,広告データに加え,ブログでおける特定ブランドへの言及が「手作りで」データ化されていた。こうしたデータを共有した上で,各研究者が,クチコミ受発信のミクロ行動やクチコミ-マス広告-売上のマクロ的な関係などを多角的分析している。データ作成での協働(収斂)→分析の分業(拡散)→統合的解釈(収斂)というサイクルが実現されれば素晴らしい。

最近のクチコミ研究は,マス広告を含む他の情報源とのミックスが注目されている。マーケターの関心からして,当然の流れだろう。そこで,従来マス広告への接触と購買を同一世帯/個人から測定するシングルソースデータに,クチコミを入れたいという発想が当然出てくる。実際,大手広告会社ではクチコミの日記調査を実施しており,すでにその雛形はあるといってよい。

日記調査は回答者負担が大きく,記憶に頼る分正確性に問題があるが,他に変わる方法はいまのところ存在しない。eクチコミが全クチコミの大部分を占めているのならともかく,実際はまだまだ少数だというのが濱岡さんたちの調査結果である。集計レベルで測られたeクチコミがリアルのそれの代理変数になることがあるかもしれないが,個々人のレベルでそうはならないだろう。日記調査で得た限られた知見をいかに個人レベルの情報として拡大適用するか,その方法論が重要だ。

慶応から早稲田へ

2007-03-20 23:38:51 | Weblog
昨日は慶応大学商学部で開かれたマーケティングサイエンスのセミナーに参加したが,今日は早稲田大学理工学部で開かれたエージェントベースの研究部会に出席・・・というわけにはいかず,研究室でひたすら計算を続けている。やってもやっても終わらない。データの洪水に飲まれてしまったか・・・。

eクチコミ@慶応大学

2007-03-19 23:20:16 | Weblog
慶応大学三田で,濱岡さん,里村さんのJIMS部会と共同セミナー。井庭さんから書籍売上げのベキ分布の研究,濱岡さんからクチコミの受発信に関するサーベイデータの分析,里村さんからブログへの書き込みを組み込んだマーケティングミックスモデルの話を聴く。みんな着々と先に進んでいるなあ,という印象。

帰り道,里村さんからMATLABの計算がなぜ速いかの理由を聞いた。明日,大学に戻って,再び計算に取りかからねば。

最尤法から最愉法へ

2007-03-17 23:28:57 | Weblog
シミュレーションと大規模(あるいは反復的)データ解析用に導入した DELL Precision は早い早い。あとはモニタを換えて大画面で作業したいが,そっちはまだ。だが…いうまでもなく,バグというか,勘違いによるプログラミングがなくなるわけではない。それを直す速度を速めなくてはならなくなるだけだ。

統計学の重要な原理に,最尤推定という考え方がある。現実に生起した現象を最も高い確率で再現するようにモデルのパラメタを推定するというもの。現実が,真のモデル(それがあるとして)から見てあまり起こりそうにないものであった可能性は否定できない。しかし,真の状態に関して知識がない以上,最尤法が合理的な考え方であることは確かだ。

しかし,エージェントベース屋は,最尤法を超える何かを求めている。現実は真のモデルの一つの現れであるが,別の現れ(would-be world, could-be world)もあり得たことを示したい,という情熱。だが,その妥当性をどう担保するのか。推定データとあまりにかけ離れた予測が出たとき,統計屋は不安に思う。エージェントベース屋は喜び(創発!)と不安(バグ!)の二つの気分に引き裂かれる。

最尤法(Maximum Likelihood Method)に変わるのは,最愉法(Maximum Excitement Method)ではないか…というのは苦し紛れの妄言だが,何か考えなければだめだ。何かあるに違いない。実際,ある結果に対して insightful だと感じる場合とそうでない場合があるわけだから…。

大量の本のなかで

2007-03-16 23:20:30 | Weblog
本を大量に買うべくオアゾの丸善に行く。洋書の充実ぶりはさすがだ。少し眺めているだけで,いろんな面白い本を発見,どんどん買う(まるで過食症のように…)。オンライン書店では得られない「経験価値」がある。今回うれしかったのは complex adaptive system を副題に持つような文献を,社会学やら心理学のコーナーでいくつか見つけたことだ。

たんまり買って,二色ソースライスを食べての帰りがけ,新書売場で『ものづくり経営学』を発見。ああ,もう出てるんだ…。実はそのなかに,ぼくと桑島さんが共同で寄稿したパートがある。ある会社の製品開発担当役員に取材した内容をまとめた小文だが,「ものづくりとブランド」に関するコアとなるアイデアはきちんと書いたつもり…にしても,始まったばかりのプロジェクトであり,これからです,ほんと。

朝,Let's Note がシャットダウンできなくなり,しばらくそのまま持ち歩いていたら,カバンの外からわかるほどに発熱してきた。再びパワーボタンをがちゃがちゃいじっていたら,ようやくシャットダウン。これが壊れると,ぼくの「いつでもどこでも」研究計画が頓挫する。大学に戻り,先日届いた MATLAB 最新バージョンをインストール。すると,前のバージョンで途中で「空回り」していた計算がきちんと終わる。明日からは Dual CPU マシンも使いつつ,「あの」データをねじ伏せよう。

ネットワーク生態学2007

2007-03-15 23:10:34 | Weblog
中央大理工学部で開かれたネットワーク生態学シンポジウムを聴きに行く。「スモールワールド実験の再考」というテーマでパネルディスカッション。いうまでもなくこの実験は,約30年前にミルグラムが行なった,直接的なつながりのない人間をターゲットに,何人の知人を介すればそこに到達できるかを調べたものである。その結果から,どんな人間どうしでも6次の隔たりで結びつく,まさに It's a small world (世間は狭い)だと世に衝撃を与えた。そして最近になってワッツらがモデル化し,複雑ネットワークのブームを生んだ・・・というのは,耳タコの話かもしれない。

それがなぜ再考かというと,最近その実験や分析の仕方に批判が起きているからだ。社会学者の友知氏はそれを踏まえて,実際の社会ネットワークには階層や人種といった亀裂があり,それを無視してスモールワールドについて語ることへの疑問を呈した。一方,日本でスモールワールド実験を行なってきた三隅氏は,未知のターゲットへ情報を届けるのに,職業や学歴のような,あまりに一般的な属性に依拠することが有効だと指摘した。この対立しているようでいて,本質的につながっているようにも見える議論が,ぼくには今日のシンポジウムの白眉に思えた。

なぜかというと,社会ネットワークという限り,個人は単純に相互の隣接関係の有無を知るだけでなく,各個人を包括するマクロ的な属性ないしカテゴリへの知識を持ち,それを通して相互に認知し合っていることを示唆しているからだ。その意味で興味深かったのが,一般セッションで発表された,三井氏他の研究だ。彼らは個人間の直接的な関係と「コミュニティ」を介した関係の二重構造を持つモデルを考える。そしてそこから,現実のネットワークでしばしば観察される,次数分布が全域的にベキ分布にならず,次数のレベルにより指数分布を含む形になることが示される。どういう設定の下でどういうパタンが生まれるかが,徹底して調べられている。

パネルディスカッションで,やはり社会学者の辻氏が指摘していたのが,たまたま出会った二人の間に共通の知人がいるというスモールワールドの原問題と,知らないどうしが何人を介して結びつくかとスモールワールド実験の問題の区別である。なるほど,そうだ。そして,社会学に立場から,複雑ネットワークの単純な適用に対する違和感を何度も表明。ただ,このへんは自明ともいえることであり,むしろ問われるべきは,では社会(科)学者は何をするの,ということではないか。それについて,具体的な話が出なかったように思えるのは残念だ。

自らの授業の受講者対象に行なった,安田さんの一種のスモールワールド実験も興味深かった。週2コマ(200分)の授業に半期参加していた17人のネットワークはきわめて「疎」である。ぼくが担当する実習の参加者は,もう少しお互いのことをよく知っていて,人数も多い。そこでネットワークを調査するのは面白そうだが,マーケティング上意味のある調査ができるかどうか。

それにしても,老若男女,多くの人が集まっていた。情報系の動員力はすごい。再来週の SIG-KBS にはどれぐらい人が来るのだろうか。

メモリ不足

2007-03-14 23:55:13 | Weblog
SPSSで読み込めたデータファイルが,MATLABで「メモリ不足」で読み込めないという。SPSSファイルは,効率的なデータの持ち方をしているということか。意外な発見であった(…とのんびり構えていられないのだが)。使っているPCのメモリは2ギガ…これじゃ足りない時代が来たということだ(Vista は最低2メガのメモリを要求しているみたいだし)。

いま分析しているデータは約2万ケース×4千変数である。最終的には,もっと少ない変数に絞ることになるが,最初から可能性は閉ざしたくない。だからいったん,すべてをメモリに展開して,と思ったところ,そういうズボラはだめだという。で,データを小分けする手仕事に時間を費やす。「本丸」に入る前に行きつ戻りつするのが「データ解析」ということ。

この壮大なデータには,世界の主要20数都市での消費者情報が入っている。これを横断的に分析するということは,むちゃくちゃ贅沢なことだ。行ったこともない国がほとんどで,数字だけ見ているだけで何がわかるのかという批判は甘受する。そりゃ,現地に行ってみることは必要でしょう。とりあえず,6月にはシンガポールに行きますが…。