Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経済学者が見た日本のプロ野球

2016-07-15 01:53:56 | Weblog
このところ、経済学に関連する一般向けの本を猛烈な勢いで上梓されている橘木俊詔氏。この5月にも『プロ野球の経済学』が出版されている。すでに齋藤隆志氏との共著で『スポーツの世界は学歴社会』という本もある橘木氏だが、甲子園球場のそばで育ち、根っからの阪神ファンだという。

プロ野球の経済学
橘木俊詔
東洋経済新報社


本書の前半では、日本のプロ野球の歴史が、明治時代の野球の導入期に遡って概観されている。部分的にはすでに知っている事項があるとしても、歴史を全体として包括的に展望するのによい機会となる。日本のプロ野球の現状を理解するには、積み重ねられてきた歴史に関する知識は必要だ。

しかし、本書独自の部分は、プロ野球における労使関係、そして選手の給料の適正水準を論じる後半にある。米国での事例を参照しながら、ドラフト制度は職業選択の自由を妨げるのか、また参入が制限されたリーグ制は競争政策上問題ないのか、などが経済学的な観点から論じられる。

最後に日本のプロ野球の将来、望まれる改革の方向などが議論される。主な案として入場料の引き上げ、観客動員数の増加、試合数の増加が検討されるが、特に2番目の課題については、マーケティングが貢献すべきだろう。また、入場料の引き上げについても、何か方法があるかもしれない。

ところで、以前に本ブログで紹介した『野球人の錯覚』も、著者は経済学者であり阪神ファンであった。『歴史学者プロ野球を語る』の著者は経営史が専門だが、やはり阪神ファンであった。社会科学的にプロ野球を見るには、阪神ファンの持つ批判精神が必要なのだろうか。

そうだとしたら、阪神ファン以上に異端的な広島ファンこそ、深く鋭い研究を切り開くかもしれない。その点については後日、報告することにしたい。
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インセンティブからネットワークへ

2016-07-03 17:19:10 | Weblog
本書の著者、ポール・オームロッドは、基本的には民間のエコノミストとして活躍してきた。しかし、彼はしばしば学会で講演したり(私もどこかで聴いたことがある)、いくつもの論文を専門ジャーナルに寄稿するなど、学術的な貢献もある。彼が主に依拠するのは複雑系の科学である。

彼の近著 Positive Linking の翻訳が昨年秋『経済は「予想外のつながり」で動く』という題名で発売された。最近、ワッツ、ドッズ、サルガニックらの講演を聴く機会があり、ネットワーク効果の重要性を説く本書のことを思い出した。この本でも、ワッツらの研究が重要な役割を担う。

経済は「予想外のつながり」で動く――「ネットワーク理論」で読みとく予測不可能な世界のしくみ
ポール・オームロッド
ダイヤモンド社

オームロッドによれば、主流派経済学は、人間を動かすインセンティブの効果に着目してきた。行動経済学は、その非現実性を是正する点で貢献したが、さらに重要なのはネットワーク効果だと、彼はいう。ネットワーク効果とは、簡単にいえば、何らかのつながりをもつ他者を模倣することだ。

本書は、彼の主張を裏づける様々な事例を取り上げていく。それなりに面白いエピソードが多いが、主流派経済学からは、それは自分たちのモデルでも説明できると反論されかねない。つまり、模倣として説明される現象でさえ、個人の制約付最適化行動の帰結として説明されるかもしれない。

最終的な決着は、どちらのモデルが「現実」を正確かつ簡単に説明できるかで決まる。その点で、本書で紹介されるワッツらの行った楽曲ダウンロードの実験が、強力な援軍になっている。大規模な無作為比較テストで、他者の影響が各個人の選択に影響することを示したものだ(*)。

ワッツらの実験は、現代の社会科学全般における1つの金字塔だ。だから、マーケターも当然それについて知っておくべきであろう。ところが、それをとりあげているマーケティングの「教科書」は、拙著『マーケティングは進化する』ぐらいではないか・・・とここで唐突に宣伝しておこう(笑)。

マーケティングは進化する -クリエイティブなMaket+ingの発想-
水野誠
同文館出版

オームロッドには Why Most Things Fail という未翻訳の著書もある。私自身マーケティングにおける「失敗」という現象を例外的な事象ではなく、常態として認識することに興味を覚える。著者のことだからマクロ経済が中心テーマになるだろうが、近々訳書が出版されることを期待したい。

Why Most Things Fail (English Edition)
Paul Ormerod
Faber & Faber

*ただし、この実験は個人行動に関する特定のモデルを支持しているというより、純粋に人間行動の他者への依存性の存在を示したものといえる。

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「日々こんなふうに研究してます」

2016-07-01 00:58:42 | Weblog
在外研究でどんな研究の日々を送っているかを皆様にご紹介すべく、私が籠もっている研究室の写真をご紹介します。部屋から一歩も出ていないので、肌は真っ白、髪は伸び放題です。机にフラスコが置かれているのは、ここだけの話「市場錬金術」なる学問領域の発足を準備しているからです。

机の上に『スパイ』という題の本が置いてありますが、これは、スパイ疑惑を持たれないためのアリバイ作りなのです。実在する仮想敵国のスパイになるなんて、冷戦時代ではあるまいし、全然マッドでありませんね。私が実は宇宙からの侵略者に内通していることは、そう簡単にバレません。



・・・実はこれらの写真は、シカゴの科学産業博物館にあった展示物を撮ったものです。私はこの部屋を見て、自分が目指すべきなのはマーケティング・サイエンティストではなく、マーケティング「マッド」サイエンティストではないかと思ったほどです。問題は狂気が降りてこないこと・・・。

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