Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

MSI Conference@NYU

2016-02-25 21:28:18 | Weblog
2月24日から25日まで、NYUで開かれた "Data, Disruption, and the Transforming Media Landscape" と題する会議に参加した。主催は Marketing Science Institute である。学界と実務界を架橋しようとする組織なので、双方の講師が登壇する。参加者は実務家が多い。



中心議題は、変化するメディア環境において、マーケティングのため「ビッグデータ」をどう使いこなすか、である。programmatic ということばがたびたび出てくる。要は広告あるいはマーケティングの自動化・高速化である。クリエイティブまでその対象となる。

検索連動型広告はもはや主流ではない、ということで、マーケティングサイエンスの側からも、アドテクの最適化を目指す研究が始まっている。アルゴリズムが相互に競争・取引する世界は、データへのアクセスさえ可能なら、むしろ研究しやすい対象かもしれない。

もう1つの柱はモバイルである。昨年10月に開かれたビッグデータの会議でも報告されていたが、ショッピングモールでの顧客の軌跡などを使い、モバイル端末にカスタマイズされたクーポンを送る。こうした大規模フィールド実験もまた、近年のトレンドである。

アナリティクスの話の一方で、米国で急増するヒスパニック系オーディエンスに関する報告もあった。アフリカ系、アジア系を含め多文化(multicultural)が進んでいる。これと millennial 世代、mobile を合わせて Generation M と呼ぶ、という話は面白かった。

マーケティングサイエンスの課題は、結局、以前とそう変わっていないように思える。アトリビューション分析は、マーケティングミックスモデルと同じ地平に存在している。実際にその両者を比較した発表を聞いて、過去の研究蓄積が改めて生きてくることを実感した。

コンテンツの自動最適化(Dynamic Creative Optimizer)にしても、クリエイティブの効果測定という昔からあるテーマに直面する。そこはランダム化テストで、という話になりがちだが、売上への長期効果を測定したいのなら、従来の計量モデルの経験が生きてくる。

TV広告について、CFテストの蓄積とシングルソースデータを使った分析も報告された。いままでなぜ行われてこなかったが不思議なぐらいだが、オンラインやモバイルの広告が急拡大したことでマス広告を推進する側が危機感を持ち、研究に協力的になったのかもしれない。

昔と違うのは、いうまでもなくソーシャルメディアの登場である。ネット上のクチコミがアップルとサムスン、コカコーラとペプシの間でどのような関係をとり結びながら推移するかの分析は、数十年前には全く考えもつかなかった研究だろう。進化は着実に起きているのだ。

実務家の講演者からは機械学習の話も出たが、研究者の講演者が語るのは主に選択モデルや時系列解析であった。主催者が MSI で、発表者が高名なマーケティング・サイエンティストたちなので当然そうなる。おかげで、そうした手法の「健在ぶり」を確認できた。

複雑化するメディア環境では、使える道具は何でも使って適応していく必要がある。マーケティングサイエンスの道具箱には、使えるものがまだけっこうある。とはいえ、複雑でダイナミックな現象に相応しいアプローチが別にあることも確かだ。そういう思いも強くなった。

パネルディスカッションの最後に、誰かがアップルは iPod を売るのにターゲティングなどしてない、していなかったから大成功した、と発言した。その主張の正否はともかく、マーケティング技術の精緻化が進むと見失われがちな、大局観の重要性についても気づかされた。

余談)この会議では Pegeonhole Live というQ&Aのサービスが導入されていた。スマホあるいはタブレットから質問を入れると、会場のスクリーンに一覧となって映し出され、発表者はそれを見て回答する。長々と自説を述べる「質問者」に貴重な時間を奪われないため、日本の学会などにも導入するといいかもしれない。個人的には、授業で使ってみたいと思った。