Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Big Data Conference@NYU

2015-10-23 21:51:28 | Weblog
10月23日、NYU Stern School で開かれた Big Data Conference、正式名称 NYU 2015 Conference on Digital Big Data, Smart Life, Mobile Marketing Analytics に参加した。テンプル大学の Luo 教授、ニューヨーク大学の Winer 教授が共同議長を務めている。



朝8時半から5時まで、基調講演以外は3トラックで発表がある。私が聴講した範囲では、マーケティング・サイエンスの研究者による、フィールドでの無作為割当の実験研究が圧倒的に多い。ビッグデータという看板通り、数万人規模の実験が、小売企業等の協力を得て行われている。

日本でビッグデータを活用したマーケティングの会議が開かれたとしたら、ここまでフィールド実験が多く発表されるだろうか。こうした研究は、当然、大学の研究者だけでは不可能で、Google や Facebook の研究者が共著者に名を連ねることになる(日本でもそうだといいが・・・)。

もう1つは、中国で行われた実験が目立つこと。これは、中国から留学してきた研究者の多さからして、当然のことだろう。中国のモバイル利用人口は世界一であり、かつイノベーションに前向きな小売業が多いということだろうか(あるいは、個人情報保護などの規制が緩いとか・・・)。

それはともかく、大規模実験の説得力は強く、基調講演者の一人 Wedel 教授によれば Small Stat on Big Data という状況が生まれている。もちろん、アカデミックの側としては Big Stat にしたい。Dubé 教授のように、 実験と経済モデルを組み合わせた研究などは、その最先端だろう。

Hanssens 教授の基調講演は、別の意味で刺激的であった。彼は、マーケティング・サイエンスの経験的一般化に関する近著を紹介しながら、ビッグデータの時代に、新たな一般化が求められると主張し、その方向性をいくつか示唆していた。しかし、すべては弾力性に集約されるという。

Empirical Generalizations about Marketing Impact (Relevant Knowledge Series) (English Edition)
Dominique Hanssens
Marketing Science Institute

最後に、Toubia 教授の講演にも触れておきたい。彼は、この会議の長いテーマのうち、Smart Life という部分に興味があるという。巧妙な価格設定やプロモーションで利益を増やすことより(と明言していたかどうかは別にして)、人々の well-being を高める研究をしたいとのこと。

現在彼が行っているテキストマイニングやアイデア生成の研究の目的を聴いて、彼の研究により興味がわいてきた。名声を誇る彼と自分を同列のように語るのは不遜だが、自分もまた、同じように感じているからである。研究を通じて、もっと人間の奥深い部分に迫りたい、というような。

発表が1日に詰め込まれているせいか、たまたま時間を余して発表が終わった奇特なケースを除き、質疑応答が少ない印象を持った。数週間前、同じく Stern で開かれた WIN2015 とは、そこが大きく違う点だ(質疑応答は、発表以上に理解するのが大変なのだがw)。
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カイヨワの計量モデル化はアリか

2015-10-09 20:48:05 | Weblog
訳あってロジェ・カイヨワ『遊びと人間』を読んだ。はるか昔、清水幾太郎・霧生和夫訳を読んだが、覚えているのは、有名な遊びの4類型だけである。今回読んだ多田道太郎・塚崎幹夫訳は1971年刊だが、原著(改訂版)は1967年(初版は1958年)の出版だ。その間、本書は生き延びてきた。

「遊び」はアゴン(競争)、アレア(運)、ミミクリ(模擬)、イリンクス(眩暈)の4つに分類される、というカイヨワの説は非常に有名で、ウィキペディアにも出ている。それを理解させるだけなら、数頁もあればよい。だが、本書は相当な頁を費やして自説を援護し、肉づけし、発展させる。

遊びと人間 (講談社学術文庫)
ロジェ・カイヨワ
講談社

そもそも、なぜこの4分類なのか。著者の議論の基盤はあまりに該博な知識にあり、世界中の文化や風習、歴史、ときには動物行動学の事例までが動員される。それを読むにつけ、なるほど、この4分類で遊びがうまく説明されると感じる。だが、厳密に考えると、やはり謎は残されている。

現代であれば、遊びの関連語を含むテキストを分析するなどして4分類を発見したかもしれないが、カイヨワはそんなことはしない。しかし、彼の知識から紡ぎ出されるエピソードがあまりに多岐にわたるので、普遍性を感じてしまう。実際、彼の説を上回る仮説は、未だ存在しないのではないか。

こういうタイプの研究は、現在の社会科学で可能だろうか?この著作が査読付学術誌に投稿されたなら、誰がどう査読できるだろう?そうした制度がない時代に、カイヨワという才能は何らかの方法で見出され、著作の機会を与えられ、名声を獲得していった。それは、そんなに遠い昔の話ではない。

社会への科学的アプローチといっても、そもそもの仮説の設定には、かなりの恣意性が入り込んでいる。それは必ずしも、データから帰納法的に導かれるわけではない。そこで想像力や物語構成力の果たす役割は大きく、現代においても、その感覚を持ない者が魅惑的な研究を生み出すことは難しい。

今回本書を読み直したのは、カイヨワの4分類に対応する測定尺度を作り、どのプロ野球球団を応援するかを予測する研究を行っているからだ。カイヨワ的思考と計量分析を結びつけるような研究を、カイヨワ本人がどう評価するかはわからない。ま、それがアリかどうかは、結果次第である。
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Information in Networks@NYU

2015-10-04 09:38:06 | Weblog
10月2~3日は、NYU Stern School で開かれた Workshop on Information in Networks (WIN2015) に参加した。毎年ここで開かれ、今回で6回目だそうだが、その存在は知らなかった。このワークショップの中心人物は、いまは MIT Sloan School に所属する Sinan Aral 氏だ。



会議は基調講演、口頭発表(2トラック)、ポスター発表からなる。前者の2つは発表を15分とし、30分程度を同じセッションの発表者全員への質疑応答・相互の議論に当てている。当然議論の中心になる発表とそうでない発表があって、いろいろな意味でタフな場である。

ポスター発表はレセプションと同じ場所で開かれ、酒とスナックを片手にじっくり話すことになる。ランチ会場で一人2分ほどの予告編があることも含め、ポスター発表への集客に力が注がれていた。ポスター発表について手抜きの学会が少なくないだけに、なかなかよいと思う。

この会議では、ネットワークに関するデータ解析について、様々な分野の研究者が集まって議論する。中心はコンピュータサイエンスや情報システム系の研究者だが、経済学、社会学、政治学の研究者も参加している。彼らを括る共通のキーワードは「計算社会科学」だろう。

コンピュータ・サイエンスの人が社会経済データを解析する、というだけではない。ゲーム理論の数理的研究もあれば、ブルデューの文化資本概念に依拠してソーシャルメディアを論じる人もいる。また、政治学とコンピュータサイエンスの双方の肩書きを持つ教授もいる。

経済学では、Sanjeev Goyal (Cambridge)、Matthew Jackson (Stanford)らが招待されていた。彼らはネットワーク理論を経済学に導入し、教科書も書いている研究者だ。上述のようにコンピュータサイエンス側にも経済学のモデルを導入する人々がいて、境界が崩れつつある。

Connections: An Introduction to the Economics of Networks
Sanjeev Goyal
Princeton University Press


Social and Economic Networks
Matthew O. Jackson
Princeton University Press

ネットワークに関する研究というと、ソーシャルメディアのデータを機械学習で分析したり、エージェントベースのシミュレーションというイメージがあるが、無作為化比較テスト、自然実験、構造推定などを用いた研究もあった。つまり、手法はかなり多様で、オープンということだ。

特に実験ということでは、主催者の Aral 氏だけでなく、今回の基調講演者の一人であった Microsoft Research の Duncan Watts もそちらを志向しており、今後ますます拡大していきそうだ。日本でも、自分も、と思うが、そのためには産業界(政府やNGO)との連携が欠かせない。

偶然の科学 (ハヤカワ文庫 NF 400 〈数理を愉しむ〉シリーズ)
ダンカン・ワッツ
早川書房

この会議では、Facebook の研究者が何人か発表していた。データが膨大かつリッチなので、使われている手法はむしろシンプルだったりする。一方で、ネットワーク上でA/Bテストのようなことをするには、伝統的な統計的検定では問題があるらしく、その解決策が議論されていた。

研究の最先端を垣間見て、正直、彼我との距離の大きさを感じただけの2日間だった。しかし、この分野で注目すべき研究者がかくも多数いることを知っただけでも収穫といえる。早速、彼らのホームページを覗いたが、あまりにも多くの論文が書かれていて驚くばかりである。

日本でも「データサイエンティスト」が増え、人工知能の研究所を設立する企業が増えている。このことを、数量的アプローチをとる社会科学者、またマーケティングサイエンティストは好機到来と捉えるべきだろう。スケールの大きな共同研究を生み出す可能性が広がればと願う。
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