Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

統計関連学会@東大(本郷)

2014-09-17 12:22:07 | Weblog
昨日は、東大(本郷)で開かれた統計関連学会に参加。「スポーツビジネスの計量分析:プレーヤーとファンの相互作用を探る」というセッションで司会と発表を行った。セッションの構成は以下の通り:

水野 誠(明治大)、石田 大典(帝京大):プロ野球球団と選手に関する選好意識調査とその分析・・・プロ野球チームへの「愛」は、球団-選手-ファンの間の適合性によって生じるという仮説を検証。現状では(残念ながら)本人-球団の適合性の効果のみ見出されている。

三浦 麻子(関西学院大学):ファン心理に関する社会心理学的研究:プロ野球ファンを題材に・・・プロ野球のファン心理をパーソナリティなどさまざまな角度から分析した研究。選手・監督への尊敬心が欠如しているなど、阪神ファン独自の特徴がいくつか浮き彫りにされる。

戸石 七生(東京大):プロ野球選手の生存曲線分析―「生え抜き」選手を中心に―・・・形式人口学の方法論を用い、プロ野球選手の入団から退団にいたる「寿命」について生存曲線が分析される。それを通じ、生え抜き重視か外部補強重視かという編成戦略の是非が論じられる。

稲水 伸行(筑波大)、坂平 文博(構造計画研究所):組織デモグラフィーによるチームのモデル分析・・・上述の研究で得られた選手の生存曲線を踏まえながら、チーム編成戦略の違いがもたらす長期的効果の差を、Axelrodを下敷きにしたエージェントベース・モデルで探る。

これらの報告に対して、非公式ではあるが、あらかじめコメンテータをお願いしていた東大の星野崇宏先生から丁寧なコメントをいただいた。時間の問題もありフロアからの質問・コメントが少なかった分、星野さんから多くの的確な指摘をいただき、誠にありがたく感じた。

(一見閑散としているように見えるのは大教室のせいかと。予想を超えた集客だったと思う)



実は、統計関連学会の大会に出るのは、ぼくも他の発表者も初めてであった。全体には、抽象的な統計理論や経済・ファイナンスのセッションが多く、自分にとっては完全アウェイな感じなのだが、今回はわれわれのものを含め、スポーツ関連のセッションが3つもあった。

同じ教室で午後にあった「スポーツ統計科学の方法論」では、野球やサッカーの詳細な記録を用いた、いわゆるセイバーメトリクス的な研究が報告されていた。画像データから自動的にコーディングするといった話を聞くと、スポーツ・データサイエンスの未来は輝かしく感じられる。

われわれとしては、一球一球の配球とか守備位置とかいった超ミクロを目指すよりは、選手の人事管理やファンとの関係性強化など、メゾレベルの経営的な問題をデータを用いて研究していきたい。それはビッグデータではないが、それなりのデータの蓄積が必要だ。



2014年ゼミ合宿@大原(千葉)

2014-09-15 13:30:12 | Weblog
9月8~9日は千葉県のいすみ市大原でゼミ合宿。とある事情で今年はゼミに2年生がおらず、4年の出席者が2人だけだったので、少人数の合宿になったが、それはそれでこじんまりしていい感じだった。3年は関東学生マーケティング大会、4年は卒論に向けた研究の進捗状況を発表した。

3年は2チームに分かれ、それぞれが「親子」と「恋愛」について研究している。というとまるで社会学だが、一応マーケティングや消費者行動の観点に立っている。4年の発表も含め、問題設定はどれもそれなりに面白い。あとは、その問題をどこまで深く掘ることができるか、だ。

ローデータを眺めてかなり強引に(それなりの)結論を導く学生もいれば、データにいきなり(ロジックをよく理解していない)多変量解析をかける学生もいる。その両方を行うことが必要なのだが、それはなかなか難しい。マーケティングのプロの世界でも、それは同じかもしれない。

いずれもまだ時間はある。いっそう奮起してもらうとともに、こちらの指導もぬかりなく行いたい。


Social Simulation Conference@Barcelona

2014-09-15 09:36:21 | Weblog
9月1日から5日まで、バルセロナ自治大学で開かれた Social Simulation Conference に参加した。会場となった大学のキャンパスは、バルセロナ市内のカタルーニャ駅から電車で約40分という郊外にある。校舎は全体に灰色っぽく、日本のどこかの大学に似ている感じがする。



この会議は European Social Simulation Association (ESSA) とともに Artificial Economics Conference と Simulating the Past to Understand Human History の共催で開かれた。最後のグループは、歴史学や人類学、考古学への Agent-Based Modeling (ABM) の適用を目指す。

冒頭の基調講演は『人工社会』で有名な Joshua Epstein から Rainer Hegselmann に代わっていた。だが、この交代は結果的に正解だったかもしれない。そこで取り上げられたのは、Schelling と同時期に(あるいは先立って)分居モデルと似たモデルを提案した研究者の話である。

その男の名は James Minoru Sakoda といい、日系米国人である。大戦中は米国内の強制収容所に押し込められた経験を持つ。1949 年に提出した博士論文で、すでに Schelling モデルに近いものを提案している。博論の指導教員になかに、グループ・ダイナミクスで有名な Kurt Levin の名前もある。

ただし、ジャーナルへの発表は Schelling が 1969 年(AER)で、Sakoda の 1971年( J. of Math Sociology )よりも早い。Hegselmann によれば、Sakoda モデルは Schelling モデルを部分として包含し、一般性が高い。実際にコンピュータを使って計算した点でも先進的だという。

その後の2人の人生は対照的である。Sakoda はいくつかの大学で教鞭をとると同時に、折り紙の普及で活躍したようだ(彼の名で検索すると、折り紙関係の記事が多数現れる)。そして、Schelling がノーベル経済学賞を受賞した 2005 年、Sakoda は亡くなった。

・・・とまあ、ABM に関心がある人間にとって、こういう学説史的(あるいは歴史こぼれ話的?)な話題は大変興味深いものである。講演の最後を、重大な発明(発見)をしながら無名で終わるためにどうすればいいか、という教訓で締めくくるあたり機知に富んでいる。

Micromotives and Macrobehavior
Thomas C. Schelling
W W Norton & Co Inc

個別の研究発表でもいろいろ興味深い話を聴けたが、最も印象に残った1つが Kenneth Comer の報告だ。zero-intelligence trader model において、エージェントが行動を起こす(活性化される)タイミングをどう定式化するかで、系全体の振るまいが変わる可能性が検討されていた。

ABM のモデリングは往々にして新規性だけを重視し、アドホックになりがちだ。そうではなく、過去の研究の流れを継承し、標準的なモデルをいろいろいじることで頑健性を調べる研究が、ABM が科学に貢献する道である・・・などということを考えさせられた。

日本からの参加者はけっこういて、私が聴いた範囲でも、サービスドミナントロジックに基づく顧客行動、空港でのチェックインの効率化、オンライン・コミュニティの盛衰、金融と実物経済のリンケージ、社会的ジレンマ、沈黙の螺旋など、様々なテーマが追求されていた。

私自身は、ポスターで "Simulating Value Co-Creation in B2B Financial Service: An Application of Empirical Agent-Based Modeling" を発表した。簡単にいえば、顧客満足→収益の変化という動的な計量モデルと、満足度の伝播という ABM を統合することを目指した。

とはいえ、まだ萌芽レベルであり、今後もっと発展させる必要がある。顧客満足や収益に影響する具体的なサービス・ドライバーの組み込み、従業員の意識や満足度の導入、など、まだやるべきことは山のようにある。Comer 氏が行ったような頑健性テストも必要だ。

以下の写真は本会議のディナー会場となったレストランから見える風景。隣りに座った、マドリードの北西方向にある小都市から来たという研究者と話すなかで、バルセロナの独立志向について話題にしたが、現時点で思えば、適切ではなかったかもしれないと反省。