Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ネットワーク生態学@有馬

2013-09-04 08:08:48 | Weblog
有馬温泉「かんぽの宿」で開かれた「ネットワーク生態学シンポジウム合宿」に参加した。今回は、3つの招待講演以外はすべてポスター発表という趣向。久しぶりにポスターの前でしゃべったが、一種の121マーケティングなので、最も進んだ発表形態ともいえる。聴いていただいた方のコメントを、ぜひ今後に役立てたい。

初日の講演は、サイジニア代表取締役の吉井伸一郎氏。元々は北海道大学で複雑系工学の准教授をされていた方だが、複雑ネットワークをビジネスに応用することを目指し起業家に転身された。顧客間の社会関係ではなく、嗜好の類似性に基づくネットワークを用いて、リコメンや広告配信のためのビジネスを展開し、成功されているとのこと。

リアルタイム・ビッディングの世界では、単に CTR やコンバージョン率の高い顧客に広告配信するだけでは、必ずしも最適とはいえない。企業にとって魅力的な顧客ほど広告費が高くなるので、コスパを考えたバランスのとれた入札戦略が必要になる。それを博士号取得者たちが解析しプログラム開発しているとは、隔世の感がある。

2日目の午前中は、複雑ネットワーク理論の研究で著名な増田直紀先生(東京大学)によるテンポラリー・ネットワークに関するチュートリアルを聴いた。感染症にしろクチコミにしろ、正確な予測と制御を目指すなら、個人間の接触がいつ起きたかを把握する必要がある。それが計測可能になることで、研究が活発化してきた。

センサーを使って個人間の接触時刻や経過時間を把握するシステムでは日本が先行していたが、巨大な研究費が投入されて欧米がキャッチアップしてきた。そういうハンディがあるなか、増田さんたちは世界で20人ほどが争う研究競争に参戦されているとのこと。複雑ネットワーク研究の実用性が増すにつれ、研究は大規模化している。

午後は、白山晋先生(東京大学)による講義で、複雑ネットワークの基本指標の計算方法からシミュレーション、ネットワークの描画まで、幅広いテーマで白山研究室が行ってきた研究が紹介された。対象が多岐にわたることもあって、とても全貌を理解できたとはいえないが、精力的な研究の進め方にはただただ感嘆せざるを得ない。

ということで、最先端の研究から実務への応用まで、複雑ネットワーク理論がどのように発展しているかを一瞥できた合宿であった。ネットワークの工学的応用の発展ぶりに比較して、「生態学」という魅力的なことばに込められた期待をどう充足していくかも課題であろう。もちろん、それはどこかで研究されているに違いない・・・。

なぜ3人いると噂が広まるのか (日経プレミアシリーズ)
増田直紀
日本経済新聞出版社