Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

クリエイティブビジネス入門講義

2009-06-30 16:39:30 | Weblog
1年生向けの「商学入門」という講義で1コマだけ,「クリエイティブビジネス」についてしゃべる。2クラスあり,先週は30人,今日は200人という偏った構成になっている。200人ほどいると,放っておくとすぐザワザワし始める。一人ひとりはヒソヒソ声のつもりでも,集積すると大きな雑音になる。150人ほどの「統計学」でもこの現象がしばしば起きる。どのへんに閾値があるのだろうか・・・。

両日,話したのは次のようなことだ:

・日本経済の潜在成長力 陰りと機会
・「ダーウィンの海」と進化論的見方
・インターネット革命 夢と現実
・コミュニケーション・パラダイムの変化
・日本企業の課題 倫理性と審美性
・起業に関する国際比較
・クリエイティブ・ワークの時代
・これからのキャリアパス

お前にそれが語れるのか,というテーマもあるが,しかたない。潜在成長力とか起業の国際比較(*)とかの議論は,専門家から見ると突っこみどころ満載であったかもしれない。また,そもそもマーケティングとか会計学といったかたちで「クリエイティブビジネス」という学問領域があるわけではないので,ぼく自身がそう考えるものがそうなのだ,というしかない。

 *以下の本に紹介されている Global Entrepreneurship Monitor の結果を引用した。

アントレプレナーシップ
ウィリアム・バイグレイブ,アンドリュー・ザカラキス
日経BP社

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よくわからんかったけど,こういう話をもう少し聞いてみたいとか,自分がやりたいことと関係するかな,と思った学生が何人かいるなら,成果があったといえる。実際,熱心にノートをとっている学生もいたし,手応えがなかったわけではない。しかし,そういう熱心な学生に限って資格取得をめざしていたりして(いや,それ自体はよいことだが),「こっち」にはこないかもしれない。

いまストラテジックプラニングは・・・

2009-06-29 23:05:32 | Weblog
今日はクリエイティブエージェンシーで働くストラテジックプランナーの方々にインタビューすることができた(カタカナだらけでソーリーです)。先週のインタビューに続き,さまざまな面白い話を拝聴した。それを無理矢理一言でいえば,この会社でのストプラの役割は,消費者とクリエイターの間を「ことば」によってつなぐということ。そのやり方はさまざまだが,ことばにならないものも含めてことばにするという,目立たないが非常に重要で,かつ難しい仕事なのである。

はるか昔のこと,ストプラということばが日本にない時代,ぼくは数年間だが,いまでいうストプラの下っ端として働いていた。限られた期間とはいえ,そこで出会った上司や同僚,あるいはクライアントや協力機関の人々とのやり取りは,いまでも鮮烈に覚えている。いろいろ話を伺うと,大手広告会社でもクリエイティブエージェンシーでも,ストプラの仕事は当時以上に重視・尊重されているようだ。今回インタビュー相手にストプラを加えていただいたことは,ほんと,よかった。

今日お会いした方のうちお一人は実は元同僚で,開口一番「水野さん,以前よりやせましたね」と軽いジャブ。最近運動不足でお腹の膨らみが気になっている身としては,意表をつかれる思いがした。「当時」そんなに太っていたのだろうか・・・(顔が・・・かな?)。そういう彼は,おそらく以前よりは貫禄が増しているように感じた。当然それだけの年月が経っており,経験を積み重ね才能を磨き上げた結果,深い知識と洞察を身につけ,それに相応しい風格を漂わせているということだ。

現時点では,かなりポイントを絞ってインタビューしているが,最先端のプランナーたちがどういうロジックを組み立てているのか,もっと網羅的に調べたい気もする。ぼくが理解している教科書的体系とはかなり違うものになっているのか,大枠は同じだが中身が違っているのか・・・。昔,深夜2時頃のオフィスで,STP って違うんじゃないかと先輩社員とお互い盛り上がったことを思い出す。それは単なる残業のうさ晴らしのようでもあり,どこか真実を含んでいるようでもあり・・・。

いろいろ欲は出るものの,いま行っている調査をきちんと完成させることが最優先。それなしには,次に進めない。

JACS@慶応義塾大学(日吉)

2009-06-28 10:34:38 | Weblog
昨日は,慶応日吉キャンパスで開かれた消費者行動研究学会(JACS)に参加した。会場となった,ビジネススクールの入っている新しい建物は,外見以上に中が素晴らしい。カフェやレストランだけでなく,スポーツジムまである。参加者は全部で 400人近くで,小さいほうの部屋では立ち見が出るほどだ。この学会は会員でなくても聴講でき,場所が東京近郊ということもあって,かくも多数の参加があったのだろう。

初日の発表は全部で32件あったというから,ぼくはその約半分を聴いたことになる(こんなに真面目にいろいろ聞いたのは久しぶりだ)。全体に外れが少なく,力作が多いという印象を持った。これらの発表は実験型と消費者サーベイ型の研究に二分される。前者は重要な要因を絞り,それ以外の要因は統制した比較実験を行なう。だから,話がわかりやすい反面,設定された状況の限界を超え,いかに一般性を主張するかが課題になる。

もう一方の研究タイプは,消費者サーベイデータを多変量解析するもの。最近では構造方程式モデリング(SEM)を使ったものが多い。ただ,多数の変数間で複雑に矢印が交差した図を見せられると,ぼくの情報処理能力の限界を超えてしまう。世のなかは複雑だから,モデルもそれに応じて複雑であるべきだということかもいれないが,実は単純化して理解してもよいことを,複雑にしているだけではないのかと思ってしまうこともある。

懇親会は同じビルに入っているクイーンアリスで行なわれた。最初はシャンペンで乾杯し,途切れることなく出てくる赤白のワインを飲みながら,ふだんあまり接点のない,若い研究者たちと会話することができた(おかげで,美味しそうな料理にほとんど手を出す時間がなかったが・・・)。こういう若手に囲まれる環境は,残念ながらいまの職場にはない。だとしても「研究会」があるじゃないかと,先日励まされたことを思い出す。

秋の JACS は広島で開かれるという。その頃プロ野球のシーズンは終わっているが,ぜひ行きたいと思う。ついでにマツダスタジアムにもお参りしてきたい・・・。
 

iPhone の秘められた力

2009-06-26 20:58:12 | Weblog
公認会計士にしてアルファブロガーの磯崎哲也氏のブログで,慶応大学三田キャンパスで開かれた「『iPhone』が切り拓く次世代モバイルとビジネス」というセミナーの内容が紹介されている。

「iPhone」が切り拓く次世代モバイルとビジネス、に出席してきました

磯崎氏が「ひさびさに刺激的な内容でした」と書くように,非常に興味深い報告があったようだ。まずはアスキー総研が発表した調査結果によれば,日本の iPhone ユーザの年齢分布は正規分布に近く,平均は41歳だという。つまり,ユーザの中心は購買力のある「おっさん」だと (「おばはん」はどうなんだろう? そちらはメールの片手打ちができる従来型ケータイなのだろうか・・・)。だが,さらに興味深いのが,米国ではすでにサポートが始まっている「テザリング」という機能だ。磯崎氏は書く・・・
私も、「単にパソコンを常時接続する」という意味でもぜひ欲しい機能ですが、古川氏によると、テザリングのポテンシャルはそんなものじゃなくて、
「例えば、この教室にiPhoneを4つ置いておけば、電波をチェックして、どんな人がどこに座っているか、といったことが瞬時にわかる」
といった、今までにまったくなかった発想のことができる可能性があるのに、とのことです。
ここで古川氏とは,元マイクロソフト会長の古川享氏のことである。ぼくには漠然としか想像できないが,iPhone と Mac が同一空間にあって,それらがリアルタイムに連携すると,かなりすごいことができるという予感は確かにする。ただ,この機能はソフトバンクの資金状況から見ると,しばらく導入は難しいのではないかという。もしそうだとしたら,大変残念なことだ。iPhone に秘められた力を最大限発揮できるような環境を,どうにか頑張って作り出していただきたい。

ところで「すでにスマートフォンの html のアクセスは 65% が iPhone のものになってる」という。つまり,同じくスマートフォンというカテゴリに含まれているBlackBerry ユーザは,メールばかり打っていて,ウェブページはあまり見ない,ということだ。ビジネス戦闘用ツールとしてスマートフォンを持とうとする人々には,確かにそれで十分なのだろう。ただ,そうだとしたら,それはそれ以上発展しそうにない。iPhone は BlackBerry と競合するというより,違う市場,違うユーザを追求しているのだろう。

そういえば,昨日昼食をとった3人のうち2人はすでに iPhone ユーザで,もう1人は iPhone 3GS を予約中であった。iPhone はブームを起こして売れるというより,じわじわ浸透しているような感じである。電車でも,ときおり iPhone(もしかしたら iPod touch?)ユーザの隣りに座ることがある。「スノッブ志向」のぼくは,自分の iPhone を取り出すことをためらってしまう。しかし,そんなことをいっていると。少なくとも東京では iPhone を使う場所がなくなってしまうかもしれない・・・。

クルマ+クルマの日

2009-06-25 23:00:59 | Weblog
午前中は東大に赴き,「クルマ」プロジェクトの報告を行う。当該分野の専門家に15人ほど集まっていただき,コメントを伺った。この研究では,消費者のクルマへの知覚と装備の平均的関係を基準に,そこからの乖離が市場成果を損なうと主張している。それは間違っていないが,その「基準」自体の歪みにも留意すべきだという藤本先生の指摘。知覚に相応しい技術という視点以外に,技術に相応しい知覚という視点があるという新宅先生の指摘。それ以外にも,専門家たちから貴重なコメントをいくつもいただく。

この研究,表現や解釈にはいくつか問題があるものの,全体には,現実的妥当性があると専門家たちに認めていただいたように思う。これをベースに,より実践的なツールを開発してはどうかという示唆もいただいた。その一方で,これまで準備を重ねてきた企業インタビューは先行き困難だという。すべて相手あってのことなので難しい。ともかく,現時点での成果を論文としてまとめていくことが重要だ。どこに投稿するか。それ次第で,もっとしつこい分析や,既存研究レビューが必要になる。ふぅ・・・。

午後は,全く偶然に日が重なったが,自動車業界で長年マーケティング実務に携わってきた鵜沢さんに,Cマーケティングの授業でお話いただいた。自動車産業の歴史的変化を確認したあと,マーケティングリサーチや商品企画の話題へと進む。質疑応答では,早速若者のクルマ離れの質問が出た。それやこれやを含めていえば,日本の自動車産業はいまや世界に対して大きな責任を負っているのだなぁ,と感じた。これまでの高い品質やサービスの水準を維持することに加え,新しい何かを生み出す点においても。

それはともかく,自分自身,最近全くクルマを運転していない。東京にいると,確かにクルマはいらないのだ。しかし,そろそろクルマに乗って,どこかに行きたいという気持ちが高まってきた。エアコンとステレオ付のモバイルスーツを着て,日常に変化を与えたいという欲望だ。

マーケティングサイエンスと複雑系の邂逅

2009-06-24 11:50:39 | Weblog
久しぶりに雨らしい雨が降っている。梅雨,ということだ。

昨夜は,ミシガン大学に留学中の大西さんを JIMS 部会にお招きし,ご自身の研究とマーケティングサイエンスでの社会ネットワーク研究の動向について発表いただく。まずは米国のある SNS のデータを用いて,サイト内のグループ(コミュニティ)への加入と閲覧行動,そしてサイトの規模が正のスパイラルを描くことを示した研究。週末に JIMS でお聞きした話を1時間かけてたっぷり聞くことができた。

この研究でも扱われており,またそのあとサーベイでも強調されていたのが,行動の内生性や同時決定性をどう扱うかだ。つまり,ネットワークの形成もネットワーク上での行動も,ともに相互に影響し合って,どちらが原因で結果なのか,はっきりわからない。これを統計モデルで扱おうとすると,かなりに高度なアプローチが必要となる。マーケティングサイエンスでも,さまざまな試みがなされている。

荒っぽくいえば,複雑系的現象に統計学的にアプローチするという課題に挑戦しているわけで,非常に難しい課題だ。そこに何らか貢献することは,ぼくの能力を超えている。一方で,エージェントベース・モデルで現象を記述し,そこから導かれたマクロの振る舞いが,現実のデータとおおまかに符合すればよいという考え方もある。もっともだが,統計学的アプローチと融合できれば,なお強力になることは間違いない。

その意味で,昨夜のセミナーは,マーケティングサイエンスと複雑系研究の対話を一部実現したという意味で,意義があったと思う。この余勢をかって,11月に東京で開かれる Complex09 でマーケティング関連の特別セッションを開くという,生天目先生に依頼された企画をぜひ成功させたい。すでに3人ほど発表の申し出があるし,うまくすれば2セッションぐらい組めるかもしれない。で,そこでぼく自身は何を発表するのか?

クリエイティブな人々と話す日

2009-06-22 23:58:44 | Weblog
午後1~4時まで,3人のクリエイターにぶっ続けでインタビュー。アイデアの創出や分野を超えたネットワーキングまで,次々と面白い話を聞くことができた。もちろん,一人ひとりが傑出した個性をお持ちである。どうまとめるか,どう論文にするか,未知の領域に突入した。来週,さらにお2人にインタビューの予定。

夜は MBF で,ぐるなびの創業者で会長を務める滝氏の講演を聴く。懇親会ではたまたまお隣に座ることになり,ビジネスから脳科学まで,さまざまなお話を聞くことができた。氏もまた,アイデアが尽きることのないクリエイティブな経営者である。アートの支援を通じた人脈づくりも,期せずして上述の取材内容と符合する。

いずれもクリエイティブかつパワフルな世界であり,聞いている自分も元気がわいてくる。それだけならいいのに,それとは対照的な,人の世には悲しい現実があることを知らしめる出来事にさらされたりする。圧倒的な量の明さと,わずかではあるが気持ちを沈ませる暗さをかかえて,じとじとと,むし暑くなり始めた一日を終えた。

JIMS研究大会@京都工芸繊維大学

2009-06-21 21:58:13 | Weblog
昨日から,京都工芸繊維大学で開かれた,日本マーケティング・サイエンス学会の研究大会に参加した。地下鉄の駅を出てまず感じたのが,「暑い!」ということ。さすが京都である・・・。駅前のコンビニで松村さんと遭遇。そのまま会場に向かい,「テキスト分析の理論と実践」というチュートリアルを聴く。自然言語処理の技術に関するわかりやすい解説から始まり,TTM をベースに,テキスト・マイニングのためのデータの前処理をどうするか,実演を交えての講義。会場で以下のテキストを即売していれば,飛ぶように売れたのでは・・・。

人文・社会科学のためのテキストマイニング
松村 真宏,三浦 麻子
誠信書房

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テキストデータの前処理は TTM が行うので,あとはお好きな統計手法なりマイニング手法で分析して下さい,という松村さんのメッセージに,朝野先生がテキストデータには従来の統計手法ではなく,それに相応しい,新しい手法が必要だとコメントされる。語と語が独立に観察されるわけではない,ということを理由に挙げられたように聞こえたが,確認する機会がなかった。そうした研究が必要だというのはその通り。ただし,それによって前処理の問題を解決した TTM の意義が失われることはない。

山本さんに会場で BlackBerry を見せてもらう。ゴツゴツしていて,ワイルドで,軍用品のようなイメージを受ける。柔らかい iPhone とは好対照な,しかし決して侮れない感じの,なかなかよいデザインだと思う。ハードに働くキャリアウーマンには,iPhone より BlackBerry のほうが似合うかもしれない。夜は「先生」「先輩」「後輩」など総勢8人で祇園へ。初めて見る光景に,京都の奥深さを垣間見る。そして,数人で軽めの?三次会へ。学会の最大の価値である,酔った勢いでの議論を深夜まで重ねる。

翌朝,ぎりぎり会場にすべり込み,わが部会の発表を行う。桑島さんの映画ファンサイトの社会ネットワーク分析の発表に対して,中島先生から,いつものように(以上の?)緻密なコメント。要は,もっと分析すれば,もっと面白いことがわかるということ。次いで,大西さんによる,米国の SNS から得た大量データの計量分析。発表で時間の都合上省略された部分について,ぼくが用意してきたコメントを述べるという,大変柔軟性を欠いた対応になってしまった。反省。

次のセッションでは,濱岡さんが,どのような条件の下で消費者が(ユニークな)アイデアを提案できるかについての調査結果を発表する。そして,坂本さんによる,携帯電話のデザインに対する,日韓中における嗜好の違いの比較研究。いずれもこの学会では「異色の」研究だが,それが異色であるうちは,この学会が最先端の問題に十分立ち向かっていないといえるかもしれない。ありきたりのデータを分析しているだけでは,面白い研究は生まれてこないと,自戒する。

明日,大変重要な「取材」の準備があるので,東京に戻るとそのまま研究室へ。今週はいろいろありすぎて大変楽しくもありキツくもある。

熟年夫婦の恋(鯉)

2009-06-19 22:58:05 | Weblog
スポーツジャーナリスト阿部珠樹氏のブログ の「カープと市民は近すぎて「熟年夫婦」だった」という指摘は,言い得て妙である。広島市民が情熱を持って育ててきた広島カープだが,このところ,広島市民球場に閑古鳥が鳴く状態が続いてきた。しかし,新球場への移転を機に,再び広島市民が球場に足を運ぶようになってきたようだ。阿部氏はいう―
今度の球場は熟年夫婦のお父さんがシェイプアップし、お母さんがプチ整形して温泉にリフレッシュ旅行に行くようなものではないだろうか。結びつきを深めるよいきっかけになっているし、それだけの魅力を持った施設でもある。
しかし、入れ物も魅力はいつかはあせる。それまでにはチーム自体も魅力を持つこと。「やっぱり、久しぶりに日本シリーズに出ないと」図らずも記者の人とはその点でも意見が一致した。
その通り!しかしその前に,かつて以上の力をつけた強敵が立ちはだかる。なぜなら,翌日のエントリに書かれているように,
カネで勝利を買うといった批判が浴びせられつづけているジャイアンツだが、最近はかならずしもそうとはいえない。育成のシステム整備にも熱心だし、底辺拡大にも力を注いでいる。それもカネがあるからだといえばそれまでだが、今、一番積極的に動いている球団は、実はジャイアンツではないか。
それにしても,資金力で圧倒的に劣る(ただし予算制約を守っている)球団が優勝することは,かつて以上に難しくなっている(ベキ乗則の悪魔!)。だからこそ「奇跡」を起こすことができれば,多くの産業で「巨人」に挑もうとする弱小企業が元気づけられ,起業が活発化し,イノベーションが世を覆うかもしれない。そうすれば,大不況からの脱却もかなうだろう(?)。

ところで,同じブログでの「サッカー岡田交代も考える時期か」というエントリも考えさせられる。ワールドカップ本大会で4位以内を目指すという岡田監督の発言,一見不可能な目標を掲げて「能力」以上の力を発揮させる「オーバーエクステンション戦略」ともとれる。しかし,それが(日本社会にありがちな)無謀な精神論だとしら・・・。

それはともかく,前にも紹介したが,以下の阿部氏の本は,カープファンのみならず,すべてのプロ野球ファン,あるいはスポーツファンにとって一読の価値がある。

Hiroshima 都市と球場の物語
阿部 珠樹
PHP研究所

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経営者の目線と研究者の目線

2009-06-18 23:39:34 | Weblog
北中さんから新著を献本いただく。この本は主な読者を大学生と若い社会人と想定し,経営学のさまざまな分野,経営戦略,マーケティングから人事管理,会計,財務,生産管理,SCM などをわかりやすく解説している。これだけ広い範囲を網羅できるのは,著者がいくつかの超優良企業で枢要なポジションを経験してきたことが大きいはずだ。仮想的な「ゼミ生」に語らせたり,小説や映画を参考文献として紹介したりと,表現上の工夫もなされている。

プレステップ経営学 (PRE-STEP 5)
北中 英明
弘文堂

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ぼく自身は,経営学を網羅的・体系的に学んだことがないので,経営学の各分野で初歩的とされる知識がすっぽり抜けていることがあり得る。そういう人は意外と多いはずで,もともと想定された読者以外にもこの本から恩恵を受ける人が少なくないはずだ。あるいは,高校生が読んで,目的意識をもって商学部や経営学部に進学してくることだって期待できる。たとえ高校生でも包括的に経営を眺めることになれば,一瞬であっても経営者の目線に立つことになる。

昨夜,前の前の職場の「同期」3人と久しぶりに飲んだ。そのうち2人は「社長」である,ということもあってか,不況下で研究開発投資と利益のバランスをどうとるかが論じられ,M&A とかデューデリとかいったことばが飛び交った(という高尚な?話ばかりではなかったが・・・)。特定分野の専門家としてキャリアを積んできたとしても,企業のなかで然るべき立場になれば,「経営」の目線を持つようになる。大学の研究室にこもっていると,そうした成長はない。

今日,Cマーケの授業では消費者行動について講義した。選択モデルの前段として無差別曲線の説明をしたとき,一部の学生たちの表情に数式への戸惑いが現れた気がした。同じ学部の経済学の授業でもこうした概念は講義されているはずであり,そちらでは避けて通れない話題ではあるものの,マーケティングではどうか・・・。しかし,クリエイティブな消費を論じるためにも,どうしても非補償型選好モデルに触れる必要があるという思いがあって,あえて強行した。

こういう知識は,現場でマーケティングの仕事をしたり,さらには会社を経営していくうえで「全く無用」とはいわないまでも,知らなくても困らないものだ。どちらかというと,消費者行動の理論として「面白い」のであって,研究者の遊びでしかない。ぼくはそれが好きだし,同じように面白いと感じる学生と出会いたくてそんな話をする。「無用の用」・・・ こんな知識が意外と役に立つだと主張してもよいのだが,ときどき,これでいいのかとビビることがある。

 実務家向けのセミナーも含め,まだまだ改善すべき点が多い・・・。

ということがありながら,まずは来週の「死のロード」を乗り切らねばならない。

若者のクルマ離れ,その原因は・・・

2009-06-16 23:13:39 | Weblog
「週刊ダイヤモンド」6/20号は「自動車100年目の大転換」という特集だ。最初は当然のごとく,GM,クライスラーの破綻といった話から始まる。それはそれでいいとして,ぼく自身が興味を持ったのは中盤の「クルマの課題と未来」というパートだ。そこでまず,「自動車を悪者にした社会科教育 若者の変質が招く“ガラパゴス化”」という見出しに驚かされる。こんなところに,新たな「教科書問題」があったとは・・・。

週刊 ダイヤモンド 2009年 6/20号 [雑誌]

ダイヤモンド社

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よくいわれる「若者のクルマ離れ」については,自工会の行なった意識調査の結果がわかりやすい。40~50代では関心のある分野の7位である自動車が,20~30代では10位,大学生では17位に落ちる。その理由として,この記事はまず携帯電話の普及による支出増や趣味の多様化をあげたうえで,次に,92年以降強化された,小学校での交通安全や環境保護教育を槍玉にあげる。これが,クルマは悪者という意識を若者に植えつけたという。

そのような教育が「若者のクルマ離れ」を招いたというのは,どこまで本当なのだろうか。仮にこれらの教科書を見たあと小学生に態度変容が生じたとしても,その効果が10年以上も持続して,クルマへの関心を低下させることがあるだろうか・・・。この記事の少しあとに,あの「サーキットの狼」の作者・池沢早人師(さとし)氏のインタビューがある。ここでも若者のクルマ離れの理由を聞かれて,池沢氏は以下のように答えている:
・・・満たされた時代に育った今の若者は、クルマがなくても不便ではないし、ほかにおカネがかかることも多い。クルマに生活費の半分以上のカネをかけても、それに見合う生きている喜びみたいなものが得られればいいが、それほどの魅力を持ったクルマもない。
この最後の1行目に強い説得力を感じる。昨日のエントリでも書いたが,個別的・具体的な製品・サービスの魅力を考えないで,集計された需要だけを考えても仕方がない。池沢氏はいま,小学生が憧れそうなクルマが続々登場する漫画(とアニメ)を準備しているという。クルマ離れを打ち破るには,結局熱狂的なファンを生み出す傑出したクルマを構想するしかない。池沢氏のプロジェクトが成功することを祈るばかりだ。

経済学の魂,マーケティングの魂

2009-06-15 11:44:29 | Weblog
「ソウルフルな経済学」というのは,一見奇妙なタイトルである。いうまでもなく,そこには経済学は「陰鬱な科学」であるという有名なことばに対抗する意図がある。しかも,著者のダイアン・ドイルのいう「魂のある」経済学とは,現在の経済学と距離を置く新しい何かではなく,現代の経済学の延長線上にある。それを示すために著者は,経済学の幅広い分野と学派の研究を紹介する。

ソウルフルな経済学―格闘する最新経済学が1冊でわかる
ダイアン・コイル
インターシフト

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本書では最初に長期的な経済成長の実証研究,次いで南北問題に関する開発経済学を取り上げる。いずれも,ある国や地域が経済的豊かさを享受できるかどうかを問う点で共通する。経済成長論と開発経済学は経済学の重要な分野ではあるが,その中核とはみなされていないはずだ。それを最初に持ってくるところに,著者の考える経済学の魂とは何かが示唆されている。

さらに,経済的豊かさの根拠を問う「幸福の経済学」,さらによりミクロな行動経済学へと話が進む。数十年前に経済学を学んだ者には信じがたいことだが,こうした心理的要素の強いテーマを取り上げることに,いまの主流派経済学は寛容になりつつある。著者は,行動経済学を主流派経済学(新古典派経済学)に取って代わるものというより,それを補完・補強するものと捉えている。

進化経済学にしても,進化生物学から最大化や均衡のロジックを借りたものとみなすならば,主流派経済学から見てそう違和感があるものではないと見て,著者はその紹介に1章を当てている。もちろん,このような評価の仕方を,当の進化経済学者が認めるかどうかは別だ。それにしても,経済学を異端派も含めて大きく捉え,ここ10数年の動きを概観している点で勉強になる本である。

さて,経済学がその起源から有する「魂」が,社会において経済的な富を増加させ,人々の幸福を向上させることだとしたら,(唐突ではあるが)マーケティングにとっては何が「魂」になるだろうか。その手がかりになるのが,経済学が「消費支出」という一つの数字に括るものを,マーケティングでは個別的で具体的なモノやサービスとして見る点にあるのではないだろうか。

したがって,何らかの政策によって国全体の景気をよくする,ということはマーケティングの想像の外側にある。マーケティングにとって,すべての製品やサービスが平均して売れることは意味をなさない。「消費」ということばに括られたものには,リアリティが感じられない。消費者が「真に」欲する具体的な何かが作られ,それが消費されてはじめて,社会的に望ましい状態だといえる。

経済学から見ればそれは抽象性・一般性が低い,いわゆる各論でしかない。経済学にとってはマクロに景気をよくすることが重要で,そこで何が売れるかはどうでもいい,という感じだろう。しかし,そういうマクロ経済政策が現在可能かどうか・・・。むしろ,いま何を生産すれば需要を強く喚起するのかという,一種の産業政策のほうが,マーケティングの立場からは理解しやすい。

マーケティングにとっての魂とは,富とか消費支出とかのレベルではなく,個別・具体的なモノとサービスのレベルでの幸福を追求することだろう。それは確かに各論だが,各論なしにはマクロな景気の回復さえおぼつかない,というぐらいの放言をすれば,その「魂」がより顕わになるかもしれない。「ソウルフルなマーケティング」・・・そういうことをいつか語るために,日々精進しよう。

「三国志」で息抜き

2009-06-13 23:16:53 | Weblog
「レッドクリフ Part I 」をテレビで見ただけで,「Part II」はまだ見ていない。その程度しか三国志に関心を持っていなかったにもかかわらず,「蒼天航路」の「極厚版」第1巻を購入。3冊分を1冊にしたものが,7月いっぱいは800円という価格設定(本来は1200円)と,本屋に残り1冊しかなかったという状況にやられた。2巻目は1200円で購入。3,4巻目は6月下旬の発売予定。

極厚蒼天航路 1 (モーニングKCDX)
王 欣太,李 學仁
講談社

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今月後半は2つのセミナー発表がある。さらに「商学入門」1回分の講義の準備があるが,これが全く手つかずで,気が重い。90分間で,専攻がまだはっきりしない大学1~2年生相手に何らかの「入門」を語るというのは,かなり難しいことだ。最終的には,ことばの力,それを支える思想の力が重要になる。まだまだ修行が足りない・・・。

LOHAS を支える快感

2009-06-12 22:36:52 | Weblog
日本コカコーラから発売された天然水の「い・ろ・は・す」(I LOHAS)は、どこが LOHAS(Lifestyle Of Health And Sustainability)なんだろう? 天然水だから Health? この製品のサイトを見ると,そこで使われている日本各地の天然水がその成分とともに紹介されている。何となく,体によさそうな感じがする。一方,ボトルが軽量化されたことで,輸送に伴うエネルギー消費量を節約できるのが Sustainability なのであろうか。

しかし,この製品の最大の目玉は,ボトルをくしゃくしゃにできることにある。これでPETボトルのリサイクルが促進され,その回収時のエネルギー消費量も節約されるならば,Sustainable だ。実際に購入し,空いたボトルをくしゃくしゃにしてみると,非常に気持ちいい! どこかで味わったような,あるいは初めての経験のような,とにかく得もいえぬ快感に包まれる。それは,スーパーマン並みの力を手に入れて感じる,全能感のようでもある。すばらしい。これが精神の Health になることだけは間違いない。

LOHAS を実践することはしばしばストレスを招くことがあるが,逆にストレス発散になるという「逆転の発想」。すぐに,くしゃくしゃにできるモノが,いつも身近に準備されていればと思う。くしゃくしゃにできる本,くしゃくしゃにできる携帯電話,くしゃくしゃにできるノートPC,・・・もちろん,すぐに元に戻せないと困るのだが・・・
本日,統計学の授業は記述統計から推測統計へと,第一歩を踏み出す。標本分布を理解してもらうための第一歩として,二項分布を説明する。場合の数とか階乗とか,理工系の学生にとっては基礎の基礎の話に,文系の学生たちはついてきてくれるか,いよいよ正念場だ。

夜はゼミのコンパ。飲み放題で一人3,000円というお決まりのコースでは食欲をそそられることなく,ビールや安ワインをだらだら飲んでいるうちに2時間があっという間に過ぎる。食事はきれいに片付いているし,これも LOHAS だというのは,あまりにも無理があるこじつけかな・・・。

Neuroenonomics vs. Neuromarketing

2009-06-11 22:57:31 | Weblog
「VOICE」7月号に,『サブリミナル・インパクト』の著者,CALTEC の下條信輔氏へのインタビューが掲載されている。下條氏の探究がどのような経緯をたどったのかがわかって,大変興味深い。それはともかく,そのなかでニューロエコノミクスとは何かと聞かれた下條氏が,以下のように答える箇所がある。
まず、ニューロエコノミクスとニューロマーケティングを分けて考える必要があります。ニューロマーケティングは、脳科学を使って売っちゃいましょう、という話。そのためにはどうすればいいかという理論研究を含みます。
ニューロエコノミクスは、それとは全然違う。
そのあと下條氏は,同僚でもあるキャメラーの研究を引きながら,ニューロエコノミクスとは経済学で仮定される概念,たとえば効用について脳科学的に測定しようとするものだと述べる。つまりそれは,人間の経済行動を脳のレベルで理解しようとする,純粋に学術的な研究だと。この話になる前に,下條氏は脳研究の現状に触れて,
本当は、一見役に立たないような基礎研究に世の中に役立つ本質が隠されている。役に立ちそうな話はたいてい潰しが利かない。そういうまやかしを見抜かないとダメだと思います。
と述べている。これらの発言を重ね合わせると,すでにビジネス化されている「ニューロマーケティング」に対して,下條氏は批判的であるように受け取れる。確かに,消費者の脳を fMRI で測定すれば,すぐにマーケティングに役立つ知見が得られるといった拙速な議論に,専門家として眉をひそめたくなるのは当然だろう。

Voice (ボイス) 2009年 07月号 [雑誌]

PHP研究所

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しかし,Hedgcock and Rao 2009 のように,マーケティングの学術誌に載るような脳神経科学的研究は,むしろ認知科学の研究といったほうがよいもので,実務にすぐ役に立つようなものではない(もちろん「お約束」として,論文の最後に manegirial implication が書かれているが)。その意味で,それらの研究はニューロエコノミクスに近い。

行動経済学がさかんになる以前は,消費者行動の心理学的・認知科学的研究はマーケティングの研究者たちが担ってきたはずだ。そのことをもっと自慢していいはずだが,なぜか慎み深い。ただ,行動経済学やニューロエコノミクスが発展すると,そうした成果は一気に吸い取られ,かき消されるかもしれない。

ともかく,下條信輔著『サブリミナル・インパクト』は消費者行動研究者にとって必読の書である。すぐには役に立たないことこそ役に立つと信じて,マーケティング研究者はもっと基礎的なことを研究すべきだろう(そういうお前はどうなんだ!という声がどこからか・・・)。

サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
下條 信輔
筑摩書房

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