Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

統計学とRの最適な教科書

2021-03-17 16:24:31 | Weblog
新学期に備え、統計学やRを教える準備を進めている教員も少なくないはず。皆さん、何を教科書に使っているのだろう?
やはりいまの時代、Rのコードを知っているだけでなく、RStudioやRマークダウンが使えたほうがいい、ということで浅野正彦・中村公亮『はじめてのRStudio』(オーム社)はコンパクトで大変便利。ただしカバーしている統計手法は回帰分析など、基本の基本に限られている。



そこで次の段階の教科書が必要になる。私がここ数年、ゼミで上の本とともに使っているのが、今井耕介『社会科学のためのデータ分析』(岩波書店)だ。著者はハーバード大学で教える著名な政治学者で、もともと英語で書かれた教科書が邦訳された。英語のサポートサイトが非常に充実しており、この教科書を使って講義する教師にとって大変な助けになる。

この教科書の最大の特徴は、独自の構成にある。1章でRの基礎が説明されたあと(上の教科書とダブる)、2章でいきなり「因果関係」が扱われ、RCTやDIDが登場する。ふつうの統計学の教科書では最初にきそうな確率や推定−検定は、何と下巻の最後になって登場する。社会科学で使われる最新の計量分析を学びたい読者に最適な構成といえるだろう。

さらには、テキスト、ネットワーク、空間データの分析も取り上げられている。最近注目されている計算社会科学と呼ばれる領域でも、これらのデータの分析が中心にである(筆者の専攻するマーケティング・サイエンスでも同様だ)。扱われる分析手法、データの種類がいずれも現代的なので、この教科書を使って教える教師にとっても楽しさがある。

教科書の本文、また練習問題に対応するデータ(多くが実際の研究論文で使われたもの!)は上述のサイトからダウンロードできる。ただし、それらはすぐにRで分析できるかたちになっているとは限らず、一定の加工が必要になる。しかし、それについても詳しく説明されているので、実際にデータ分析を行う上での所作を総合的に学ぶことができる。





…といいことづくめだが、この2つ(3冊)の教科書を使って1年で講義を終えるのはけっこう難しいことを付け加えておきたい。私の場合、週1回100分のゼミで講義と演習を行ったが1年(計28回)では完全には終わらない。練習問題も4章あたりからだんだん難しくなる(全部で7章)。それを丁寧に扱っていると、進度がどんどん遅くなる。

与えられた講義時間、受講者の関心や知識に合わせて、内容をカスタマイズすることが望まれるが、これが意外に難しい。だが、そうしないと学生の側にオーバーフローが起きそうである。どちらの教科書も事例が政治学や開発経済学に関わるものが多く、商学部や経営学部で教える場合は、彼らが関心を持つ事例を用意することも教師側の課題だろう。

マーケティングへの応用を重視した統計学とRの教科書となると、因果分析が最初にきたり、テキストやネットワークのデータ分析が取り上げられたり、というのはかなり異端的かもしれない。では代わりにどうすべきかは、悩ましいところである。いずれにしろ優れた教科書であることは間違いなく、統計学やRを教える方にはぜひお薦めしたい。


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