今年の社会や経済を振り返って自分として最も重要なニュースと思うのは,総選挙での圧倒的な勝利によって安倍政権が誕生(復活)したことである。まずは,その非常にアグレッシブな金融・財政政策(アベノミクス)の経済的・政治的効果がどうなるかが気になっている。
制限なき金融緩和と巨額の公共投資(国土強靱化)で経済成長を軌道に乗せることができれば,財政赤字はいずれ解消するというのがシナリオのようだ。反対する立場からは,たとえば,長期金利が上昇して国債価格が暴落して・・・などといったリスクが指摘されている。
先日,経済学者を含めた会合でアベノミクスをどう評価するかという話になった。最も専門が近いはずの研究者の答は「わからない」というもの。門外漢にあれこれ語っても仕方ない,ということがあったにせよ,専門家にとって簡単な問題ではないことは確かなようである。
そもそもアベノミクスでは,複数のお互いに対立する「学説」が同居している。金融政策を重視するいわゆるリフレ派は財政政策の効果を疑問視し,むしろ規制緩和を重要視するが,積極財政を主張する国土強靱派はそうした主張を新自由主義だとして嫌っているようだ。
アベノミクスへの反対論が主流派経済学者に多いのは,現在の日本経済はそれなりの均衡にあると見ているからだろう。日本経済を成長させるには,一時的効果はあっても長期的副作用の大きい需要側の刺激より,規制緩和やイノベーションによる供給側条件の改善が重視される。
いずれの主張も,いくつか検証不能な前提から紡ぎ出された物語だとみなすことができる。前提のいくつかが変われば物語の落ち着く先も変わる。わずかな摂動が系の長期的な軌道を大きく変えてしまうとしたら,その帰結は「わからない」という専門家の答は正しいといえる。
入り乱れる各種の言説は,それぞれ現実を部分的に反映しているのかもしれない。現実の経済は不均衡が持続する動的な複雑系であり,アベノミクスが期待する軌道は他の多くの軌道と同様に可能だという見方はあり得るだろうか。その場合も制御困難性が強調されることになる。
アベノミクスは,重病を患っている患者を前に,リスクを恐れずあらゆる治療法を施そうと主張する立場に,反対論は自然治癒力を信じ,リスクを避けることを主張している立場に喩えることができる。不確実・不可知な経済に対して,どこまでリスクをとれるかが分かれ目だ。
こうした政策が短期的に効果を出せば,来年7月の参院選挙で安倍政権が信認を得る。その結果,第三極も合わせて憲法改正が議題に上る状況が生まれるだろう。それはソ連崩壊や大震災・原発事故に匹敵する,ぼくが生きているうちに遭遇するとは思わなかった事態である。
ぼく自身は憲法を一字一句変えてはならないとは思っていないので,改正を巡る議論には是々非々で臨みたい。そうだとしても,国の成り立ちの基本に関わる問題なので,そこでの選択がのちの歴史に大きな影響を与えることは確かだ。その意味で来年は緊張に富んだ年になる。
制限なき金融緩和と巨額の公共投資(国土強靱化)で経済成長を軌道に乗せることができれば,財政赤字はいずれ解消するというのがシナリオのようだ。反対する立場からは,たとえば,長期金利が上昇して国債価格が暴落して・・・などといったリスクが指摘されている。
先日,経済学者を含めた会合でアベノミクスをどう評価するかという話になった。最も専門が近いはずの研究者の答は「わからない」というもの。門外漢にあれこれ語っても仕方ない,ということがあったにせよ,専門家にとって簡単な問題ではないことは確かなようである。
そもそもアベノミクスでは,複数のお互いに対立する「学説」が同居している。金融政策を重視するいわゆるリフレ派は財政政策の効果を疑問視し,むしろ規制緩和を重要視するが,積極財政を主張する国土強靱派はそうした主張を新自由主義だとして嫌っているようだ。
アベノミクスへの反対論が主流派経済学者に多いのは,現在の日本経済はそれなりの均衡にあると見ているからだろう。日本経済を成長させるには,一時的効果はあっても長期的副作用の大きい需要側の刺激より,規制緩和やイノベーションによる供給側条件の改善が重視される。
いずれの主張も,いくつか検証不能な前提から紡ぎ出された物語だとみなすことができる。前提のいくつかが変われば物語の落ち着く先も変わる。わずかな摂動が系の長期的な軌道を大きく変えてしまうとしたら,その帰結は「わからない」という専門家の答は正しいといえる。
入り乱れる各種の言説は,それぞれ現実を部分的に反映しているのかもしれない。現実の経済は不均衡が持続する動的な複雑系であり,アベノミクスが期待する軌道は他の多くの軌道と同様に可能だという見方はあり得るだろうか。その場合も制御困難性が強調されることになる。
アベノミクスは,重病を患っている患者を前に,リスクを恐れずあらゆる治療法を施そうと主張する立場に,反対論は自然治癒力を信じ,リスクを避けることを主張している立場に喩えることができる。不確実・不可知な経済に対して,どこまでリスクをとれるかが分かれ目だ。
こうした政策が短期的に効果を出せば,来年7月の参院選挙で安倍政権が信認を得る。その結果,第三極も合わせて憲法改正が議題に上る状況が生まれるだろう。それはソ連崩壊や大震災・原発事故に匹敵する,ぼくが生きているうちに遭遇するとは思わなかった事態である。
ぼく自身は憲法を一字一句変えてはならないとは思っていないので,改正を巡る議論には是々非々で臨みたい。そうだとしても,国の成り立ちの基本に関わる問題なので,そこでの選択がのちの歴史に大きな影響を与えることは確かだ。その意味で来年は緊張に富んだ年になる。