Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

球場ラヴァーズ

2010-09-23 13:10:36 | Weblog
広島生まれで海外と東京で育った戸石さんという女性研究者に教えていただいたコミック。いじめに遭っている女子高生が,ひょんなことから東京ドームのビジター側外野席を訪れる。野球のことなど何も知らない彼女が,そこでカープを熱狂的に応援する OL とアニメータに出会って変わっていく・・・。主人公はカープファンの女性たち。選手は登場しない(そこには「諸事情」があるようだ)。

球場ラヴァーズ 1巻
(ヤングキングコミックス)
石田 敦子
少年画報社

正直,涙なしには読めません。ですから電車のなかで読むのは禁物です。次々繰り出される「熱い」ことば・・・

 ケガしたうえであがいてんの
 あがく人嫌い? 私は好き
 大好き
 ・・・
 こんな大勢のド真ん中であがいている人がいるんだもん
 なんてみっともなく かっこいいんだろう

これは前田智徳について,3人のなかで最もファン歴の長い(広島生まれで最も年長の)OL・基町勝子が語ることば。ここでは紹介しないが,黒田博樹について書かれた箇所も同じくらい涙腺を刺激する。19年間優勝していない事実を突かれたとき,勝子は思う・・・

 優勝は遠く 望みはうすい
 でも でも
 なにかに「でも」 
 「でもさ」と思っている

淡い恋が実らなかったとき,球場に来て思う・・・

 どんなに恥ずかしいことがあっても
 打席は何度もまわってきて
 さあ と 立ち上がらなきゃいけなくて
 そのたびに始まるのよ 今日も 明日も
 ・・・
 負けても 打席は まわってくる
 大丈夫 鐘を鳴らせ 恥をかいても

そしてこうなる・・・
 
 チームごと あがいているカープが 好きよ

というわけで,このマンガは涙なくして読み通せないのである(オレだけ?)。

 目を逸らしていたら
 負けを観なくていいけど
 勝ちも見逃す
 観なきゃ今を

こういわれると,もう今年は観戦したくないな,と思っていた自分が恥ずかしく思えてくる。どんな状態でも球場で応援し続けることは,球団に誤ったシグナルを送るのではと考えていたのだが・・・。にしても,「たかが野球」に(あるいはサッカーでも相撲でも)なぜかくも熱狂する人々がいるのだろうか。巻末近くにこんなことばがある・・・

 野球を好きにならずにいられない
 始まりはいろいろ
 どんなきっかけでも どんな立場でも
 同じことで今 一緒に喜べる
 誰かを好きになる場所
 
人は好きになりたいから好きになるのであって,好きになるべき何かがあるから好きになるのではない。多分。
 
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消費者行動の知識

2010-09-21 18:03:20 | Weblog
消費者行動研究に関する非常にコンパクトな教科書が発売された。著者は,わが国での研究をリードしてきた中核的な研究者であるだけに,本書にはいくつかの特徴がある。その1つで,特にマーケティング・サイエンスよりの人間にとって興味深いのは,消費行動と購買行動を区別することに加え,前者における「消費様式の選択メカニズム」に1つの章を当てていることだ。具体的にいうと,それは「ライフサイクル」「ライフスタイル」「ライフコース」の選択である。

消費者行動の知識 (日経文庫)
青木 幸弘
日本経済新聞出版社


よく知られているように,近年著者は「ライフコース」論の消費者行動研究への導入を推進してきた。購買自体は一瞬の出来事であっても,それは消費という持続的プロセスの一部でしかないし,それはさらに,生活や人生というより長期で幅広いプロセスの1コマでしかない。このように消費者行動研究の裾野が広がっている一方で,マーケティング・サイエンスの選択モデルはいまだに購買の瞬間に注目し続けている。その谷間に架橋することは可能だろうか。

選択の個人差を説明するのにライフスタイルやライフコースといった要因を取り込むことは,データさえあればすぐにでもできる。むしろ,ライフスタイルやライフコースの「選択」をどうモデル化するかが難しい。誰も人生の選択がもたらす結果を事前に見通せない。また,一回の選択で決まるわけでもない。あるいは,そもそも選択しているのかどうかさえ分からない ・・・と,ぼくの思考は発散していくが,もちろん本書はそんな妄想のために書かれたわけではない。

このところ,マーケティングや消費者行動の新しい教科書が次々と出版されている。本書の著者も含め,どなたも非常に忙しい身でありながら,なぜこのような包括的で中身の詰まった本を執筆できるのかと不思議に思う。それを一言で説明するキーワードは「生産性」ということになる。生産性が違うから,投入量に対する産出量が違うのだ・・・ 同義反復のような気がするが,しかし,それ以上差異の原因を追求すると厳しい現実を直視することになる。だから,やめておこう。

最後になりますが,献本御礼申し上げます。
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2010年ゼミ合宿@清里

2010-09-18 23:39:21 | Weblog
9/16-18は清里セミナーハウスでゼミ合宿。2年生17人,3年生12人,4年5人が参加した。周りに遊びにいけるような場所もないため,3日間ひたすらプレゼンテーションと討議を行った。以下の写真は,参加人数がピークにあった2日目午後に撮ったもの。自分が何かひからびて見える! (^-^)



初日は4年に卒論の中間報告をしてもらった。テーマはそれぞれ以下の通り。

・コンビニの定価販売の行方: 消費者の視点から
・家電業界の環境ブランディング
・iPod と Walkman: 価格.comのユーザ評価の比較
・学生のクレジットカード利用を促進させるには
・学生の電子マネー利用を促進させるには

4年生は前期は就活で忙殺され,いまだに全員の就職先が決まったわけではない。今回の発表を聴く限り,ようやく卒論として,ぎりぎり形になりそうな感じになってきて一応安堵した(ただ,今回就活等で参加できなかった学生の場合どうなのか・・・)。あと数ヶ月,最後の踏ん張りを期待したい。

3年生はグループごとに「若者のクルマ離れを防ぐには」という問題に取り組んだ。彼らは前期で輪読した数冊のアイデア発想法の本からそれぞれお気に入りの手法を選び,それをこの問題の解決に適用した。ブレインストーミング,マンダラートブレインライティングといった手法が選択された。

マンダラートとは,3×3の表の中心に出発点となるキーワードを書き,その周囲に連想された事項を書いていく。それぞれのセルから,同様に周囲に連想を広げていく。こうして抽出された多数のアイデアの要素を整理・統合することでアイデア発想を行う。iPhoneアプリがあるので電車のなかでもできる。

ブレインライティングは,学生が見つけてきた。メンバーに6×3のマトッリクスを渡し,1行目に3つアイデアを書かせる。それを他のメンバーと交換し,2行目に1行目から発想したアイデアを書く。これを繰り返し,マトリックスを全部埋める(6人で行うことを前提としているから,6行ある)。

こうした取り組みから出てきたアイデアは以下のようなものだ(ぼくが「意訳」した部分もある):

・屋外にクルマのテーマパークを作る
・クルマを持つとモテるというユーモアCM
・車内を電子化されたエンタメ空間に変える
・地方都市を対象としたカーシェアリング

学生にこれらのアイデアを総合評価してもらったところ,1つの案を除いてあまり差がない結果になった。全員が一致して評価を最も低くつけた案は,独自に情報収集したり議論したりした証拠が示されておらず,アイデアも荒っぽい。学生の仲間に対する評価は,ときとして非常に鋭く,厳しいものがある。

2年生には「若者の新聞離れをいかに食い止めるか」かについて考えてもらった。前期の後半にグループごとに KJ 法を行い,それに基づくアイデアを提案してもらった。それらをラフにまとめると,以下のようになる:

・世界のローカルニュースを集めた新聞の発行
・自販機で紙面をカスタマイズした新聞を販売
・親がとっている新聞をもっと読ませる紙面の工夫
・若者向けのダイジェスト新聞,魅力的なクーポン

学生の評価は,ある案がダントツに高く,残りはダンゴ状態であった。圧倒的に低く評価された案がなかったのは,みんなそれなりに情報収集や分析に取り組んだ形跡があるからだろう。KJ 法のあとは完全に学生に任せての結果だから,good job だ。あとは教師が何を示唆できるか・・・。
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クチコミの深淵を探る夜~JIMS部会

2010-09-15 19:36:22 | Weblog
昨夜のJIMS「消費者行動のダイナミクス」部会では,東北大学の澁谷覚さんから2つの研究について伺った。澁谷さんはネット上での消費者間相互作用をよりミクロに,つまり認知科学的に研究することで知られるマーケティング,あるいは消費者行動分野の研究者である。広範かつ緻密な文献サーベイから仮説群を導き,統制実験を通じてそれを厳密に検定していく。そうしたアプローチは,クチコミを一定のネットワーク上の信号の流れであるかのように扱うアプローチとは距離がある。だが,それらは相補的な研究だとぼく自身は思う。

澁谷さんは一貫して,クチコミにおける受け手の情報処理に注目する。いわゆるソーシャルメディアは,市井の人々が積極的に情報発信できる手段だということで送り手の側面が強調されるが,実は多くの場合,人々はそこから情報を受け取るだけで,その点でマスメディアに近い。また,実社会での関係が存在しない発信者の情報を主に受け取っている点では。「ソーシャル」と呼ぶのはおかしいと澁谷さんは指摘する。「ソーシャル」とはそもそも何なのか・・・ クチコミの深淵が大きな口を広げているのがわかる。うう,ヤバい・・・

最初に受け手の情報処理に関するさまざまな「二重過程論」が紹介される。マーケティング界で参照されることが多い「精緻化-見込みモデル」はその1つでしかないことに加え,どうも何でも盛り込みすぎて批判にさらされているという。澁谷さんは,精緻化レベルを二分するという二重過程論の枠組みを継承し,受け手と送り手の類似性,送り手の専門性を周辺的手がかり情報とし,それらがクチコミが好意度や購買意図にどう影響するかを検証しする。精緻化レベルは関与度が代理変数として使われる(ここはちょっと気になる・・・)。

実験の結果,「ネットクチコミのパラドックス」と呼ぶべき現象が見出された。すなわち,精緻化レベルが高い場合でも,専門性と類似性がともに高いとき影響を受ける,いいかえれば周辺的な手がかり情報が重視される,ということ。本来なら,それは精緻化レベルが低い情報処理の特徴だ。ふーむ・・・単なる直感だが,そもそも「中心的-周辺的ルート」という区分け自体が単純すぎて,偏っているように感じる。情報源の信頼性を様々な手がかりから深く精査することは,関与度の高い消費者にとって当然の情報処理タスクのような気が・・・。

次いで「ネットクチコミの受け手の情報処理における帰納推論 :類似性認知と結合関係が購買意図に及ぼす影響」というテーマへ。情報の受け手が送り手との「類似性」をいかに認知するかが,帰納推論の枠組みでモデル化される。その基礎にあるのは,アナロジーにおける構造整列とかシステム性原理・・・だんだん話が難しくなっていく。おおまかにいえば,二者間の共有属性と共有関係に基づき,人はなぜ相手と自分は似ていると思うのか,そして,共有属性がどのように構成されると相手の行動が自分に伝播しやすいのかが,理論的に整理される。

実験の結果は,相手との共有属性が,相手の行動選択(選好)とより明確に結びつけられているときほど,影響を強く受けるというもの。一方,相手との類似性は主効果としても交互作用としても影響が認められなかった。前者は仮説どおりだが,後者はそうではない(前の研究からの流れからすると,多分そうだろう *)。しかし,実験とはそう思い通りにいくものではない。以前,また現在も被験者実験に関わっている身として,その大変さはよくわかる。しかし,澁谷さんは実験ベースの消費者行動研究を今後もがんがん推進しようとされている。

*多重比較では支持されたと澁谷さんから補足のコメントをいただいた。

二番目の研究は形式的なモデル化がかなりなされていることから,シミュレーションや実データを使った解析も将来視野に入ってくるのではないかと感じた。実験という統制され,閉ざされた空間での知見は,その範囲では厳密だが,一方で適用範囲が限られる(人間行動を対象にしている場合)。その制約を離れ,広い空間に飛び出すことで失われる厳密さがあるとともに,得られる「自由な洞察」もある。どちらが正しいかではなく,結局,さまざまな眼鏡をかけて,消費者行動の多面性を探っていくしかない。その間のパスが重要だ。

・・・というわけで(?),またもや近所の居酒屋での「意見交換会」に突入するが,今回は参加者の「類似性」が強く,また酒への「結合性」が強いためか,お互いのポジティブ・フィードバックが働いてまたまた終電ぎりぎりの展開になってしまった。これは,「類似性」の低い参加者にとってはネガティブなメッセージであり,あの研究会の二次会に行ってはならない,という評判が立つのはぜひ避けたいところ。参加者が同質化しすぎると異分野間の交流が果たせない。このあたりのコントロールが大きな課題になりそうだ・・・何とか頑張ろう・・・
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アップル vs. グーグル

2010-09-14 09:35:08 | Weblog
小川,林両氏はかつて『アップルとグーグル』という本を書き,両社の連携の先に Googlpple が登場するシナリオを描いた。しかし,現実には両社は対立を深めているようにみえる。果たしてその行方は・・・という疑問に答えるのが本書である。

アップル vs. グーグル
(ソフトバンク新書)
小川 浩,林 信行
ソフトバンククリエイティブ

アップルとグーグルはともに強いビジョンを掲げ,市場を創造する。ただしベクトルが違う。アップルが卓越した美意識でソフト/ハードの一貫した製品を目指すのに対して,グーグルは誰もがあらゆる情報にアクセスできる環境を目指す。

両社の競争をゼロサムゲームとして見るよりは,よりよき情報社会を目指すプラスサムゲームとして理解したほうがよい。そこで日本企業がどういう役回りを演じるのかが気になるが,最近のソニーの動きに対する著者の評価は厳しい。

ソニーはともかく,日本企業をアップルやグーグルと比べるのは無意味なような気もする。そもそも日本企業は,市場で売れそうなものを作り,改良したり機能を付加したり,コストを下げることしか考えていないわけだから。

人間でも組織でも,それを目指していない以上,そこに到達することはまずないと考えたほうがよい。

もう一つ残念なことは,アップルとグーグルという,いま最も注目すべき企業についての分析が起業家とジャーナリストによって書かれることはあっても,経営学研究者によって書かれていないこと。そのうち山ほど出てくると期待したい。
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神経経済学 公開シンポジウム

2010-09-13 02:59:03 | Weblog
WCSS2010 から戻ったばかりの 9 月11日,日本学術会議講堂で開かれた「神経経済学―その基礎と展開―」と題する公開シンポジウムを聴講した。事前予約不要,無料のためか,若い参加者が多かったような印象を受ける。また,経済学の名前がついた催しにしては,女性の数が比較的多い感じがした。

講演の内容は以下の通り:

Thomas Zentall(ケンタッキー大学教授/実験心理学)
"Maladaptive gambling by pigeons"
Wolfram Schultz(ケンブリッジ大学教授/神経生理学)
"Neuronal value and risk signals"
Colin Camerer(カリフォルニア工科大学教授/実験経済学)
"The neural circuitry of economic valuation"
高橋 英彦(京都大学講師/社会脳科学)
"Neural basis of social emotions"

このなかで「神経経済学」という領域のど真ん中にいるのが,Camerer 氏だ。Tversky,Kahneman,Thaler たちが築きあげた行動経済学の Stylized facts(その筆頭がプロスペクト理論)に対して,それが脳のどの部位によって担われているかが研究されてきた。それによって,繰り返し観察される行動パタンを引き起こす脳内の機構がある程度特定できる。

それに何がありがたみがあるのか? 神経経済学が扱う行動はすでに行動経済学によって再現性が高いことが知られているので,そこで新たな知見が加わることはない。しかし,意思決定のメカニズム(Camerer いわく mechanics)が探求され,たとえばある行動傾向がある感情と強く結びついていることが裏付けられれば,予測や制御に役立つ可能性がある。

その点で,精神科医である高橋氏が,神経経済学の行き先を「計算精神医学」と述べていることは興味深い。それは,経済学を神経科学的に基礎づけるというより,神経科学に行動経済学の知見を組み込むことで,人間理解,ひいては臨床に役立てることだと考えられる。したがって,神経経済学はむしろ,社会神経科学の成立に貢献するかもしれない。

神経科学的な話は出なかったが,Zentall氏による,動物(鳩)を用いたリスクのある選択実験の研究も興味深かった。人間の持つ意思決定のバイアスが動物にも見出されるとしたら,それはかなり根が深い適応性を持つということだ。もちろん,人間の意思決定の多くが,動物が直面する以上の複雑な状況で行われる。その間は連続的なのか非連続的なのか。

ぼく自身は,このシンポジウムで紹介された様々な研究に強い興味を持ち,得られた知見を自分の研究の「ブロック」あるいは「制約」として使いたいと考えている。一方,神経経済学で検証される命題の多くは,行動経済学で観察された規則性である。そこが知の源泉であって,そこが枯れたらすべてが止まる。だからそこが最も注力されるべき領域だと考える。
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WCSS at Kassel Univ. 2-4日目

2010-09-10 16:51:57 | Weblog
9/6-9に開かれたWCSS(World Congress on Social Simulation)について,前回の記事に書いた初日を除き,個人的に気になった発表を記録しておく:

Guerrero, Omar A.; Axtell, Robert L.: Scaling and Complexity of Labor Markets: evidence from Mexican labor micro-data
メキシコの年金記録データ(個人)を用いて労働市場のエージェントベースモデル(ABM)を構築。これは一種の大規模パネルデータ。公的機関の協力があれば,こういう研究は今後どんどん増えるだろう。量が質を変える(More is different)かどうかが問われる。

Ogibayashi, Shigeaki; Takashima, Kousei; Kunita, Takahiro: Analysis of Business Cycle and Fund Circulation in Multi-Agent Simulation of an Artificial Economic System Composed of Consumers, Producers and a Bank
荻林先生(千葉工大)には初めてお会いした。本研究は家計,製造業,卸/小売,銀行の各部門からなるエージェントベース・マクロ経済モデルを構築して景気循環などを再現しようとするもの。本職のマクロ経済学者がどう評価するのか,国内での発表も期待したい。

Ormerod, Paul Andrew; Rosewell, Bridget; Wiltshire, Greg: Assessing corporate credit defaults with an agent based model of decision making in a bank: an empirical example
ABM を用いた経済分析という点で高名な人物による報告。銀行の内部構造をネットワークモデル化して,金融危機時の行動を説明・予測するもの。つまり,金融経済のABM的ミクロ基礎づけとでもいうべきか。組織論と経済学を結びつけるなんて,ユニークな試みだ。

Held, Fabian; Marks, Robert; Wilkinson, Ian; Young, Louise: Exploring the Dynamics of Economic Networks - First Steps of a Research Project
これ,実は聴講していないのだが,ディナーでたまたま隣に座った,ドイツ人だが英国の大学で教えている OR の先生が強く薦めていたので,ここに記しておく。

Osman, Hoda; Dewal, Snigdha: The NY Model: An Interpretation of the Schelling Model for Ethnic Preferences and Socio-Economic Mobility
ノーベル経済学賞を受賞した Thomas Schelling の分居モデルの拡大版。現時点ではニューヨークの実際の民族別居住地分布状態を詳細に再現しようとするものではない。しかし,変にオリジナリティを出すのではなく,古典的抽象モデルを地道に拡張していこうという姿勢が買える。

Jager, Wander: Simulating social interaction in two dimensions: some ideas, data and measurement problems
社会的相互作用には情報伝達と規範的なものがあり,行動により強く影響するのは後者だが,その信頼できる測定は難しいという問題提起。具体的なモデルは出てこないが,刺激的なトークであった。ABMでは社会科学や認知科学の成果を踏まえた深い考察が必須である。

Quattrociocchi, Walter; Conte, Rosaria; Lodi, Elena: Turning Information into Knowledge: The Role of Peer-to-Peer Communication
個人的にはこれが一番面白かった。イタリアのマスメディアが選挙において正しい情報を伝えていないという強烈な(個人的な?)問題意識に立って,市民間のクチコミがその影響を是正できるだろうかを問うている。日本も似たような状況にあるんじゃ・・・と思いながら聴いていた。

Okada, Isamu; Yamamoto, Hitoshi: Evolution of Conditionally Risk Behaviour
人々の危険回避的な態度の生成を進化ゲーム的なシミュレーションで分析している。こうしたアプローチ,あるいは問題意識に対して,最近個人的に非常に興味が高まってきた。今後もその進展を注目していきたい研究の1つである。

Marco Janssen: Towards collective action among social simulators
ここからは基調講演。Janssen氏は欧州から米国に渡り,2つのABMコミュニティをつなぐ重要人物だ。表題の報告もさることながら,後半に紹介された OpenABM プロジェクトが興味深い。その一環としてNetLogoコードの公開=共有化などが構想されている。

Shingo Takahashi: Virtual Grounding for "Valid" Behavioral Model
アジアからは,高橋真吾先生(早大)による基調講演。Virtual Groundingとは,モデルが仮定するエージェントの行動を実世界で測定することは難しいので,ウェブ上の仮想空間で測定しようというもの。東京ディズニーシーの観客行動のモデルが例として紹介された。

Squazzoni, Flaminio; Bravo, Giangiacomo: Experimentally Grounded Social Simulation
これはチュートリアル。表題が示すように,エージェントの行動をラボでの実験に基づき設定するという方法。それが実験研究にもプラスの効果をもたらす ・・・という,アブストラクトに書いてある以上のことは,それがあるかどうかを含め,よくわからなかった。

自分自身の偏った興味と乏しい理解力の制約のもと,気になったものだけいくつかピックアップした。他に素晴らしい発表がいくつもあったことは間違いない。特に若い日本人研究者の皆さん,堂々たる英語の発表で感心した。おじさんもイタリア人の早口英語に着いていけるよう頑張らないとなあ・・・
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WCSS at Kassel Univ. 初日

2010-09-07 17:14:33 | Weblog
ドイツの中央部に位置するカッセルで開かれているWCSS(World Congress on Social Simulation)に参加した。初日の午前中は基調講演,Mauser: Humans and Nature: Exploring the future of a close relationship through simulationを聴く。ドナウ川周辺の人口,農業,環境などを包括的にモデル化する大規模な研究プロジェクトの話。世界モデルまでの道は長いが,人間の活動との相互作用を組み込んだ環境モデルが追求されている。

昼食は,会場となったカッセル大学構内のカファテリアに行く。5ユーロ程度で主食1品と副菜2皿を選ぶことができる。日本の感覚からすれば必ずしも安くないが,ステーキなども選択できるし,ジュースやソーダは自由に選べる。同席したイタリア人に味を聞くと,「まあまあ」と日本語で答えた。イタリア人から見たドイツ料理については,最大の賛辞かもしれない。そうこうしているうちに,午後のセッションの時間が来た。いよいよ自分の発表である。

その前に発表されたVan Eck & Jager: Social Network Structures in Agent Based Modeling: Finding an Optimal Structure Based on Survey Data (or Finding the Network That Does Not Exist)が興味深い。質問紙調査からネットワークのいくつかの重要指標の推測を行い,それを再現するネットワークを構築するという野心的な試みだ。自己申告内容がどこまで正確かという問題はあるが,目的がマクロな挙動の理解なら,そうしたバイアスはある程度許容される。

そして,Mizuno: The Effects of Valence of Word-of-Mouth and Its Propagation by Non-Adopters on New Product Diffusion: An Agent-Based Approach。クチコミの正と負は新製品採用後の満足-不満足によって生まれるが,それはまだ採用していない消費者間でも流布する可能性がある(彼らがクチコミに対してすぐ採用を決定しないなら)。そのことが与える影響が,ネットワークのタイプによってどう変わるかをシミュレーションによって示した。

正直いって,今回の発表は,まずスライドの構成の段階で失敗であった。自分の研究が何を目指し,どこに特徴があるかを,必ずしもマーケティング・モデルになじみのない大半の聴衆にうまく伝えることができなかった(もちろん,そこに自分の英語力の貧困が加わった)。しかし,チェアを勤めたマーケティング分野のエージェントモデルで先端的な研究をしているJagerさんが,発表者自身が正確にわかっていないモデルの特徴を鋭く見抜いたコメントをしてくれて助かった。

つまり,これは新製品採用の前後でのクチコミの働きを区別する研究であり,経験財の議論とも絡んでくると。このコメントに触発され,採用の前後で使われるネットワークが異なることないのかという指摘も出た。たとえば,新製品採用の原因になったクチコミは身近な友人(スモールワールド・ネットワーク)から得たが,その経験はソーシャルメディア(スケールフリー・ネットワーク)で流すとか,その逆とかいったことだ。なかなか興味深い視点だと思う。

ドイツに滞在中の佐藤さん(京都大学)からは,ネットワークがダイナミックに構成されるとき,シミュレーション結果がどう変わるかという質問を受けた。ネットワークを知り合いの関係と捉えると,短期的には安定しているが,情報の入手経路と考えると,日々選択的に再構成されている可能性は高い。その問題は重要だが,どのようにアプローチしていけばいいのか・・・。そうか,会議中にご本人に聞いてみるのが最も手っ取り早そうだ。

そのあと,ポスターセッションを経て,無料の市内バスツアーに参加した。約2時間を費やして市内の観光名所を巡るのだが,日本語の音声解説まであるのがありがたい。おかげで,カッセルの旧市街は戦災でほとんど消失したこと,戦後は他の都市とは違い古い建物を再建するより田園都市構想に基づき新たな建築物を造ったことなどを知った。確かに,いまとなっては古めかしい「モダン」な建築が多い。美しい街だが,住むには退屈かもしれない。

ツアーのクライマックスはライオン城である。小高い丘の上にある小さなお城だが,そこからの放水が名物になっているという。そこからの眺めを堪能した後バスに戻ってくると,シャンペンとサラミ(?),ベーグルプレッツェルなどが振る舞われた。この予想外のホスピタリティはなかなか素晴らしかった。ツアーが終わり,夜9時を超えて巨大なドイツの豚カツ(シュニッツェル)を食べ,ビールを飲む。こういう毎日を続けていると,ますます太りそうでこわい。
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