一橋大学の橘川武郎教授は「応用経営史」を提唱されている。それを字義通り受け取れば「役に立つ経営史」ということになる。経営に関して歴史から学ぶことが多いということは,歴史書好きの経営者たちは皆同意するだろう。ただし,経営史は単なる過去のエピソード記述ではない。
応用経営史は歴史学であると同時に経営学でもある。橘川氏の近著では,電力,石油,化学,金融,不動産といった産業の歴史が叙述されるだけでなく,そこでのビジネスモデルの変遷や今後のあり方が論じられている。そして個人的に大変興味深いのは,プロ野球を扱った章である。
橘川氏は日本のプロ野球球団のビジネスモデルを「本業シナジーモデル」「広告宣伝モデル」「地域密着モデル」に3つに分ける。最近では,パリーグを中心に「地域密着モデル」が拡大し,増収をもたらしている。ただし,その歴史的な起源はセリーグの広島カープにある。
カープの地元密着モデルが最も成功したのは 1970 年代後半である。地元出身の選手の活躍と広島経済の好調が重なって観客動員が増加し,それによる黒字がチーム力の強化に再投資され,日本シリーズでの連覇につながり・・・という好循環をもたらしたと橘川氏は語る。
カープファンとして気になるのは,その後のカープの凋落と長期低迷である。地域密着モデルはむしろ日本ハム,ソフトバンク,ロッテ,楽天といったパリーグ各球団で花開いていく。彼らのモデルは,広告宣伝モデルと地域密着モデルの混合である。そこが広島との違いである。
なぜ「本家」の広島カープで地域密着型のビジネスモデルが成功していないのか(独立採算で黒字という意味では成功しているかもしれないが),その分析は「われわれ」に残された課題である。歴史学を含む分析を踏まえつつ,これからの歴史の創造について考えねば。
応用経営史は歴史学であると同時に経営学でもある。橘川氏の近著では,電力,石油,化学,金融,不動産といった産業の歴史が叙述されるだけでなく,そこでのビジネスモデルの変遷や今後のあり方が論じられている。そして個人的に大変興味深いのは,プロ野球を扱った章である。
![]() | 歴史学者 経営の難問を解く ―原子力・電力改革から 地球温暖化対策まで |
橘川武郎 | |
日本経済新聞出版社 |
橘川氏は日本のプロ野球球団のビジネスモデルを「本業シナジーモデル」「広告宣伝モデル」「地域密着モデル」に3つに分ける。最近では,パリーグを中心に「地域密着モデル」が拡大し,増収をもたらしている。ただし,その歴史的な起源はセリーグの広島カープにある。
カープの地元密着モデルが最も成功したのは 1970 年代後半である。地元出身の選手の活躍と広島経済の好調が重なって観客動員が増加し,それによる黒字がチーム力の強化に再投資され,日本シリーズでの連覇につながり・・・という好循環をもたらしたと橘川氏は語る。
カープファンとして気になるのは,その後のカープの凋落と長期低迷である。地域密着モデルはむしろ日本ハム,ソフトバンク,ロッテ,楽天といったパリーグ各球団で花開いていく。彼らのモデルは,広告宣伝モデルと地域密着モデルの混合である。そこが広島との違いである。
なぜ「本家」の広島カープで地域密着型のビジネスモデルが成功していないのか(独立採算で黒字という意味では成功しているかもしれないが),その分析は「われわれ」に残された課題である。歴史学を含む分析を踏まえつつ,これからの歴史の創造について考えねば。