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Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マーケティング・リサーチの極北

2019-01-22 18:57:58 | Weblog
昨年末に2冊の『マーケティング・リサーチ入門』と題する本が刊行された。1つは、すでに当ブログで紹介した朝野熙彦先生の本(朝野本と略す)、もう1つが今回とりあげる星野崇宏、上田雅夫のお二人による本(星野・上田本)だ。この2冊、それぞれ違った特徴がある。

マーケティング・リサーチ入門
(有斐閣アルマSpecialized)
星野 崇宏, 上田 雅夫
有斐閣

朝野本は、以前の投稿で述べたように、実務の現場からマーケティング・リサーチ(MR)の最前線を紹介している点に特徴がある。一方、星野・上田本は、教科書として MR に関する基礎知識をカバーしつつ、アカデミックな研究の最先端についても紹介しているのが特徴だ。

たとえば、測定の妥当性と信頼性、サンプリングの理論と実際、虚偽回答を防ぐ技法などについて、類書を超える詳しさで述べられている。因果分析、行動経済学の知見の応用、質的調査の分析など、著者らが精力的に研究を進めてきた分野の説明が充実しているのは当然だろう。

これらの研究は、まさに実務に役立てることを意図して行われてきたもので、使いこなせば現場にも大変役立つ。したがって教科書的知識なら自分はすでに持っていると自負する実務家であっても、本書を読んだほうがいい。必ずいくつか新しいことについて学ぶはずである。

これらの2冊は互いに補い合う関係にあるので、どちらの本も読むことがベストである。しかし、どちらから読み始めるべきかと問われたら、学生あるいは MR の経験がない社会人に対しては朝野本、MR についてある程度知識を持つ実務家や教員には星野・上田本を薦める。

というのは、MR について知識が乏しい読者には、まず現場を垣間見て、最前線にどんな面白いことがあるかを知るのが勉強の動機づけになるからだ。他方、すでに知識や経験がある人々には、彼らの住む世界の先に、新たな発展可能性があることがを学んでほしいからである。

なお、星野・上田本は、日本の教科書としては珍しく参考文献リストが充実している。大学院生や研究者にとって、知らなかった概念に出会ったとき次に何を読むべきかがわかって便利である。本書は入門的教科書でありながら、MR の研究を深化させるインパクトも持つだろう。

平成の終わりに世界の未来を考える

2019-01-04 16:56:08 | Weblog
平成最後の年にあたり、今年の新年は未来のことをじっくり考えてみてはどうか? もちろん毎年のように新聞や雑誌はこの時期未来予測の記事を掲載するし、年賀状にちょっとした未来予測を書く人も少なくないはずだ。ただ、しばしば技術の話一辺倒になって食傷気味になる。

『〔データブック〕近未来予測2025』は、世界的規模での人口・環境・資源・民族等の大きなテーマから技術やビジネスまで、幅広く近未来に言及する。著者のアプローチは専門家によるワークショップであり、しばしば両論併記的であり、よくいえばバランスが取れた本である。

〔データブック〕近未来予測2025

ティム ジョーンズ,
キャロライン デューイング
早川書房

私のようにふだんグローバルな視点で世界を眺めていない人間には、たとえばアフリカ、北欧、東南アジアなど様々な地域での諸問題を列挙されると大変勉強になる(すぐ忘れがちだがw)。ビジネスの問題に絞っても、ところ変われば品変わるという点でいろいろな気づきが得られた。

個人的にツボだったのは、ダイナミック・プライシングの広がりを語る箇所で、アマゾンはアップル・ユーザに対して割高な価格を提示すると書かれていたこと(価格弾力性が何に対しても小さいという意味か)。また、シェアリング・エコノミーの商業化に警鐘を鳴らしている部分だ。

自分の探求課題でもあるクリエイティブ・エコノミーについて、その拡大が経済的格差の拡大につながることを懸念するよりも、これまで社会的に排除されてきた人々を包摂する可能性に期待している点も興味深かった。これは予測というより、未来をどうしたいかの問題というべきか。

結局のところ、未来のことは誰にもわからない。本書が執筆された時期以降の大きな変化として、米国におけるトランプ政権の誕生がある。それによって、少なくとも環境や移民の問題は、本書で予測されたよりも悲観的な方向で進むかもしれない(日本語版の補論で若干の言及はある)。

実はこの本を昨年、大学1年生向けのクラスで輪読に用いた。様々なテーマのうち何に最も関心があるかを聞いたところ、やはりというべきか、人工知能やクルマの自動運転を挙げた者が半数近かった。それらは、多くの論点のうち、最も不確実性が小さく、夢があるということだろう。

2019年の冒頭にあたり

2019-01-01 10:40:54 | Weblog
2018年の冒頭にこのブログに書いた抱負を見返すと、昨年1年、研究のアウトプットにおいてほとんど進展がなかったことがわかる。それを進歩がないと見るか、一貫性があると見るか…それなりに楽しい1年だったので、水面下でエネルギーを蓄えた1年、と考えたい…。

春と秋にNYを訪れて、"Failure of New Product Diffusion" の研究で共著者と打ち合わせた。現在、消費者の革新性に基づき新製品の成果を予測する方向へ研究が進んでいる。6月には JIMS と Marketing Science Conference で発表した。今年はさらにステージアップを目指す。



マーケティングにおけるエージェントベース・モデリングを概観した "Complexity Modeling of Consumer Behavior"の出版予定は、Springer のサイトでさらに1年後に延期された。大学院の授業とも連携しつつ、今年中には入稿したい(昨年も同じことを書いていたかもしれないw)。

出版面では『プロ野球「熱狂」の経営科学』の続編、『マーケティングは進化する』改訂版、ビジネスパーソン向けの新企画などが目白押しだ。他方で、昨年中に投稿されているべき学術論文がいくつかある(そのうち1つだけは何とか投稿できた)。やりくりと割り切りが重要だ。

少し違った流れでいうと、昨年初めて数理社会学会でポスター発表した。題目は「『クリエイティブな職業』を測定する」で、数年前に萌芽研究で実施した調査を報告した。新たに共同研究者を得て "Creativity, Class & Consumption" に関する調査を準備中だ(研究費を何とか…)。

テーチングでは、在外研究から戻って再開したゼミで関東学生マーケティング大会に挑んだが、初戦の壁は破れなかった。取り上げたテーマ(肥満に対する過剰な意識、酒類消費への世代効果)は悪くなかったはずだが…。2019年、捲土重来を期して新たな3年生が壁に挑戦する。

ゼミについていえば、昨年秋に久しぶりに(2回目の)OBOG会を実施した。最年長でもまだ20代で皆まだまだ若い。それでも転職したり、結婚したり、それぞれ人生には変化がある。彼らが属したゼミに多少とも誇りを持てるように、自分としては成果の出版で頑張らねばならない。