Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

エージェントは実験によって命を得る

2014-07-16 19:49:58 | Weblog
1週間ほど時間が経ってしまったが、先週、フランスはエクス・マルセイユ大学の花木伸行先生をお招きして、JIMSマーケティング・ダイナミクス部会を行った。台風が懸念されるなか、様々な分野の研究者が聴講に訪れた。

花木さんは、コロンビア大学の経済学研究科に留学されたが、実質的な指導教員は、スモールワールド・ネットワークの提唱者で有名なダンカン・ワッツであったとのこと。当時ワッツは、この大学の社会学部に籍をおいていた。

ワッツと研究を進めながら、花木さんは経済学部のなかでも理解ある教員たちに、自分の学位審査に加わってもらう。経済学に複雑ネットワークを持ち込む先駆的な研究によって、同大学から経済学の博士号を取得された。

その後、筑波大学で教えたのち、高名な数理経済学者であるアラン・キルマンの誘いで、現在の大学に移る。キルマンは若い頃、正統派経済学での業績で名声を得るが、その後、複雑系経済学に転じた異端の経済学者である。

Complex Economics: Individual and Collective Rationality (The Graz Schumpeter Lectures)
Alan Kirman
Routledge

さて、今回のセミナーの前半は、カウフマンのNKモデルを下敷きにした組織学習のモデルの発表である。想定されているのは、製品開発組織とのこと。各成員が知識を生成し、一部が組織知に組み込まれていくという設定。

自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則 (ちくま学芸文庫)
スチュアート・カウフマン
筑摩書房

各成員は、自ら知識を探索(Exploration)するか、組織知を利用(Exploitation)する。その確率を変えたときの開発効果を見ると、タスクが複雑だったり、環境が頻繁に変化したりする場合、非線形なパタンを示すことになる。

具体的にいえば、複雑で流動的な条件下では、探索と利用の両極で、成果が高くなるのだ。つまり、知識創造型の組織は、(自分流にいえば)ボトムアップかトップダウンか、どちらかに徹すべきだということになる。

やはり、こういう非線形性が現れてこその複雑系でありエージェントベース・モデルだとつくづく思う。モデルの前提を変えたらどうなるか、別の解釈ができるのではなど、最後に来て参加者たちの議論も活発になった。

後半は、バブル発生の被験者実験の話で、以前、石川竜一郎さんに報告していただいた研究と同じ線上にある。今回は、バブルの原因にトレーダーの限定合理性と戦略的不確実性があることを示すのが主眼である。

この実験は、有名な実験経済学者バーノン・スミスまで遡る。彼はそこで戦略的不確実性説を唱えたが、その後の実験は、必ずしもそれを支持していない。花木さんたちは、周到な実験でその論争に決着をつけようとする。

花木さんはキルマン同様、伝統的な経済学が仮定する主体の合理性に否定的だ。ただそれは、実験によって明確に実証しない限り説得力を持たないという。そうした基盤の上に、エージェントモデルを構築すべきだという。

実験・行動経済学とエージェントモデルの相性のよさは前から感じていたが、それを自ら実践する最先端の研究を聞いて、改めて認識することになった。もう1つ感じたのは、「敵」に相応しい理論を持つことの重要性だ。

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4 コメント

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Unknown (花木伸行)
2014-08-11 01:38:18
水野先生

ありがとうございます。ブログエントリーのタイトルがとても素敵です。こんな風に紹介していただいてありがとうございます。

今後ともよろしく御願いします。
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御礼 (水野誠)
2014-08-11 02:44:50
こちらこそ、大変刺激的なセミナーをありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
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Unknown (花木)
2014-08-26 14:31:02
ちなみにですが、、、Kirmanは、キルマンではなく、カーマンが最も音的には近いかと思います。
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 (水野誠)
2014-08-26 14:49:17
Kirman の発音の件、ご指摘ありがとうございます。
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