Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

マイニング×マーケティング@京阪奈

2008-05-31 17:51:07 | Weblog
昨日,初めて京阪奈学園都市に行く。京都駅から近鉄で新祝園(ほうその)駅まで30分,遠いといえば遠いが,つくばに比べれば都心(しかも古都!)に近いともいえる。そこからバスで15分のところに,今回の訪問先,NTT のコミュニケーション科学基礎研究所がある。そこで開かれている「オープンハウス×未来想論2008」というイベントで,ぼくは「マイニング×マーケティング」というシンポジウムに登壇した。ご一緒したのは楽天の森さん,ゼロスタートコミュニケーションズの山崎さん,NTTの本橋さんと川前さん。ぼく以外は皆,ICT の実務あるいは研究の最先端にいる。

聴講者は社内だけでなく他企業や大学の研究者も多い(ほとんどが工学分野と思われる)。仕掛け人の川前さんの要請にしたがい,まずはマーケティング・サイエンスとは何かという話から始めて,購買履歴データを用いた消費者間影響の発見の話まで,約20分に詰め込んで話す。だがこれは,おそらくほとんど理解されなかっただろうな,と話の組み立てを反省。一方,森さんは2年前に発足した楽天技術研究所の研究戦略を,山崎さんは social graph というコンセプトの可能性をそれぞれ熱く語る。そのあとMOTを現場で実践する本橋さんが加わり質疑応答。

司会の川前さんは,研究はビジネスにどう生かせるのか,マーケティング・サイエンスではどうなんだと,ものすごい直球を胸元に投げ込んでくる。支離滅裂なことをいって逃げたが,その返事はあと10年待ってほしい。その間もう少し頑張って,この永遠の課題に経験に基づく答えを出せればと思う。たまたまパネリストの多くが,リコメンデーション技術に関わった経験があり,その話を総合すると,この領域では研究者が面白いと感じるような「高度な」技術は実装が困難で,むしろビジネスや消費者の感覚を「うまく」取り込むことが重要だとのこと。逆にいうと,あるイノベーションがビジネスとしては成功していても,研究者の美意識を満たしていないことが大いにあり得る,ということだ。

夜は京都駅の近くで京料理。そこで NTT の高橋さんから聞いた,最新のプライバシー保護技術の話は非常に刺激的だった。こうした最先端の研究者を多数かかえた企業は,かつてなら賞賛されるだけであったが,いまはそれをどうビジネスの展開しているかを強く問われる時代になってきた。大学もまた,そういう流れになりつつある。だが,それが研究のエネルギーを枯渇させるのでは元も子もない。ビジネスとしての成功と,研究者の研究者としてのモチベーションの両立・・・これは MOT だけでなく MOC の課題といえそうだ。
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ポルシェよりプリウス?

2008-05-30 06:52:09 | Weblog

WIRED VISION で

「ポルシェの男性」よりも「プリウスの男性」のほうが好き:米国女性の調査

ほーと思って読むと,

この調査によると、10人中9人近くの女性が、おしゃべりするなら『ポルシェ』に乗っている男性よりも『プリウス』に乗っている男性のほうが好ましいと回答している。[実際の調査は、「最新型の低燃費自動車」と「最新型のスポーツカー」を比較]

ということらしい。ブランド名を出すか出さないかは,結果に大きく影響すると思うが,まあいい。背景に環境問題の高まりだけでなく,ガソリン代の高騰が大きく貢献しているようだ。昨日読んだ東洋経済の記事でも,米国でのガソリン価格が,この5年で2倍以上に上昇したことを示すグラフがあった。日本でも,近々リッター200円を超すのでは,なんて噂されていて,そこまでいくと「価格革命」が起きるかもしれない。

上杉隆氏のブログで

自衛隊派遣を要請 日中関係に決定的な転機 福田政権に追い風か? JFN

永遠に下がり続けるものはない,ということか…。環境意識が高まっているとしたら,それが重要議題になる洞爺湖サミットで,福田政権の人気は「反転上昇」するのか。それとも「価格革命」によるインフレーションが,かつての「法則」どおり野党に有利に働くのか…。

追記: 自衛隊機派遣の話は消えたみたいだ

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ナノとジャガー

2008-05-29 23:29:07 | Weblog

週刊東洋経済5/24号は「世界同時転換 自動車革命 クルマもついに変わる!?」という特集を組んでいる。その主役は,インドのタタが出した,1台29万円という小型車「ナノ」である。記事によれば,欧米自動車メーカーの技術者たちが,意外な出来栄えに感嘆しているらしい。タタは,1868年創業の財閥で,いまやインドの GDP の 3% 強を占めるという。最近,ジャガーとランドローバーを買収したことでも話題になった。

ナノとジャガーという,ある意味両端を押さえるタタという会社は,ただもんじゃないな・・・。インドで140年も財閥を続けている一族のトップが持つ教養や洞察力は,とても日本人が想像できるものではない。

ナノの次に「クォーク」というクルマを出してくれると,うれしいのだが・・・。

クォークとジャガー―たゆみなく進化する複雑系
マレイ ゲルマン
草思社

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ナノはインドあるいは途上国の低所得層を狙ったクルマで,AT,エアコン,パワーウィンドウ,エアバックなどが標準装備されないなど,徹底した機能の絞込みがなされているが,環境性能はかなり高いという。一方,環境性能を追求した小型車がトヨタの「iQ」だ。ジュネーブのモータショーで,ナノとともに話題を独占したらしい。他にも,多くの企業がこの領域に力を注いでいる。記事のなかで,自動車評論家の清水和夫氏はいう…

パリでは、スマートのような小型車は大型車より知的でリッチに見える。そんなクラスレスの志向が世界に広がり、小さくても貧しく見えない車を造れば、みなそこでシフトする流れだ。ちょうど高級コンポやラジカセより iPod のほうが知的でクールになったように。

そうだとすると,確かに「革命」だが,東京ではどうだろう。「世界同時革命」となるのかどうか…。

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「巨人と玩具」に見るマス・マーケティングの原型

2008-05-28 23:46:35 | Weblog
雑誌『シナリオ』別冊「脚本家 白坂依志夫の世界」があちこちの書店で品切れになっていると聞いていたので,近所の書店で見かけたとき,思わず買ってしまった。そこで暴露されている「女優遍歴」に興味がなかったといえば嘘になる。といっても主に1960年代の話だから,登場する女優ですでに他界されたり消息不明の人が少なくない。団令子,渥美マリといった名前がわかるのは,50代以上の人間だけだろう。

白坂氏の交遊は女優や男優,監督といった映画関係者にとどまらず,当時活躍していた文化人に及ぶ。そこで出てくる名前は,石原慎太郎,伊丹十三,井上ひさし,大江健太郎,三島由紀夫,武満徹などなど…。いろいろなエピソードのなかで意外で面白かったのが,大江健三郎がひどく酔っ払って,白坂氏や伊丹十三と一緒に,深夜田園調布の有馬稲子邸のそばまで行って悪口を叫ぶ話だ。

映画ファンには呆れられるだろうけど,白坂依志夫という脚本家の名前を,この雑誌を読むまで知らなかった。彼が脚本を書いた作品で見た記憶があるのは「野獣死すべし」だけである。といっても,村川透監督,松田優作主演の角川映画ではない。須川栄三監督,仲代達矢主演の1959年の作品。70年代半ば,大阪・梅田で開かれていた「映画サークル協議会」の上映会で,3本立てだったか5本立てだったかで見たのを覚えている。

そんな余裕はないはずなのだが,白坂氏の作品を見たいと思い,TSUTAYAで借りてきたのが増村保造監督「巨人と玩具」(1958年)。原作は,サントリー宣伝部のコピーライターから作家に転じた開高健。製菓会社3社の宣伝部が,キャラメルのキャンペーンをめぐって激しく争う様がユーモラスに描かれている。

巨人と玩具

角川エンタテインメント

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主人公(川口浩)の上司であるやり手宣伝課長(高松英郎)は,無名の若い女(野添ひとみ)をメディアを使ってスターに仕立て上げ,テレビCMを大量に出稿し,魅力的な景品を開発し,街頭でパフォーマンス(ライブ・マーケティング!?)を展開する。日本にマーケティングということばがまだ輸入されていない時代に,すでにマス・マーケティングの原型が確立していた。

この課長が,直属の上司である宣伝部長を会議で罵倒するシーンがある。正確な表現は忘れたが,いまやテレビの時代なのに,その力がわかっていない,という主旨の批判だった。テレビをウェブに置き換えると,いまの時代に当てはまる。いつの時代も,新たなメディアを制することで競争に勝つことを目指すのが野心家の鉄則なのだ。

映画自体は,身も心も犠牲にしてひたすら売上拡大に走る企業社会を揶揄するかたちで終わる。それから50年経って,当時に比べれば洗練されたとはいえ,日本企業やそのマーケティング活動の本質はさほど変わっていないように思う。それでも結果的に多くの人々が豊かになったのだから,そう悪い道ではなかったのではないかという気もするが…。

いや,そうではない。実は当時と大きく変わった(あるいは変わりつつある)ことが確実にあるのだ。このあたりは,緻密に検証していく必要がある。いまここで,安易にできるようなことではない。
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ニューロ・エコンの本が届く

2008-05-27 23:25:15 | Weblog
朝イチの授業・・・いつもより少し早く(定刻通りに)教室に着く。研究室に戻ると,昨夜廊下に出した不要マーケ本がそのまま置かれていた。横に置いたゴミ箱のなかはキレイになっていたので,ゴミ回収の方が,不要品だという確信を持てずに,そのままにしていったのだろう・・・。午後,シミュレーション結果の分析を始めるが,その途中で,経済学関係の不要本選びを始めてしまう。ストレスから逃れるには,何かを捨てるのが一番いいみたいだ…。

そこに新たに本が届いた。

Neuroeconomics: A Guide to the New Science of Making Choices

Oxford University Press, USA

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この本のことはアマゾンのリコメンで知った。行動経済学の本が洋書・和書を問わず次々発売されているが,「神経経済学」もいずれそれに続くだろう。ぼく自身,秋山研のお手伝いをする件に加え,「エンタメ」のほうでも脳科学的アプローチをとるメンバーがいるため,傍観者ではいられなくなってきた。脳科学について,ちゃんと勉強する時期が近づいている。こちらのほうの「蔵書」は当面完全に保持&拡充しなくてはならない。
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本を捨てる快楽

2008-05-26 23:12:25 | Weblog
週末のセミナーの準備は終わったが,もう1つの予稿のほうはさっぱり進まず,危険水域はとっくに過ぎている。そんなときに,なぜそんなことをしたくなるのか自分でも不思議だが,「仕事」の合間に研究室の本の整理を始める。選別の基準は…

1) 5年以上前に買った本で,これまで読んでいない →×
2) 向こう3年ぐらいに,自分の研究テーマと直結しそうにない →×
3) 内容がすでに陳腐化しているように思える →×
4) 読む読まないに関わりなく蔵書すべき「古典」だ  →○

このうち,最低2つの基準に該当する本は廃棄する,というルールで作業する …てのは,実はやっているうちにだんだんわかってきたことで,つまり,Bettman や Payne がいうように,ルールは状況のなかで構築されるものなのだ。そして,そこにはエモーショナルな判断も介入する。たとえば著者に親近感を感じる場合は,内容はさておき保有を決定したり,その逆であったり…。

マーケティング関係の文献は,選択が容易である。事例ベースの本は時間とともに陳腐化しやすいし,この分野はそもそも理論の体系性を志向しないので「古典」が成立しにくい。書誌学的研究を目指すなら何でも取っておいたほうがよいだろうけど,そうではないのだから,捨ててもよい本の判断は比較的やさしい。実際問題,読むために「残された時間」は限られている…。

  だが,難しいのは教科書系だ。

次に経済学の書棚に向かう。やはり時論系は原則として捨てることにする。問題は,まだ「経済学」の勢力圏にいた頃に買い漁った専門書だ。それぞれ歴史の「重み」があって,なかなか捨てがたい(廃刊になった本は,もしかしたら稀少本かもしれないし…)。今後,経済学を本格的に勉強するとは思えないし… とまあ,今日はこのへんで作業中止。今後,経営学や統計学に「粛清」の嵐が向かうとき,もっと悩むことになるだろう。

本を捨てるという行為,最初は苦痛だが,いつの間にか快楽に変わっていく。長い時間をかけて組み立てた積み木を,一気に壊す快感にも似ている。読まねば,というプレッシャーから解放されたということもあるだろう。だが,もう少し踏み込んでいくと,この本は捨ててもいいと判断する過程に,加虐的な快楽が現れる。この本はもう古い,たいしたことは書いていない,読む価値がない,と断罪していくことが愉しいのだ。

これは,本を買うときの快楽とちょうど裏表になっている。買うときは,いろんな理由をつけて価値を高めていく。一方,捨てるときも,いろいろな理由をつけて価値を剥ぎ取っていく。そうか,本は読まなくても二度楽しめるんだ! では,読めばさらに三度楽しめるのか,というと一概にそうはいえない。読むことで,かえって総合的な快楽が低下する本もある。
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選択モデルを中心におくと

2008-05-25 23:51:21 | Weblog

久しぶりにジムに行き,午後は在庫が尽きてきた授業のスライドの追加作業+多少の雑用。そして週末のセミナーの準備をしているうちに一日が終わった。セミナーでは自己紹介として,マーケティング・サイエンスを強引に選択モデルに集約させ,その限界を自分の研究課題に結びつけるという展開を考えている。

1) 標準的な選択モデルでは,選好を属性の線形関数として扱う → 消費者が実際には非補償的なヒューリスティクスを用いたり,ホリスティックな評価を行っていることは明らかで,研究も進められているが,なかなか決定打が出ない。ぼく自身も,これまでいくつかの研究に取り組んできたが,その後ほったらかしだ。

2)有限個の選択肢(の集合)から選好に基づき選択する → 市場のロングテール化が可能な選択肢の集合を無限に拡大している。そうなると,単純に選択モデルを適用することが難しくなる。ロングテール現象について,前から研究を進めたいと思っているが,データが手に入らない(どなたか興味ある方・・・)。もちろん,時間がないこともある。

3) 選好は個人間で独立である → 消費者間の相互作用は,いまマーケティング研究で最もホットなテーマの1つである。ぼくの研究も最近はそこが中心で,週末の発表もまさにこれが本題だ。このテーマに興味を持ったのは,本来次の課題を解く鍵がそこにあると思ったから。だから,早く統合する必要がある。

4)個人の選好は時間的に一定である → 単に選好が時間的に変化するモデルなら多々あるが,なぜ変化するのか,それはどこから生まれてきたかという根源を問う研究はあまりない。いうまでもなく,ぼくのライフワークであり,見果てぬ夢である。

・・・などと整理したところで,何ら研究が進むわけではないが,課題が関連づけられることで少し気が楽になる。しかし,迫り来る ESHIA/WEHIA の予稿提出期限を思い出すと,かえって絶望的な気持ちになる。少しは延期してくれるのだろうか・・・。

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経済学は「疑似科学」?

2008-05-24 23:46:54 | Weblog

エージェントベース・シミュレーションは膨大なデータを出力する。そこに潜む非線形関係を見いだすには,使い勝手のよいデータマイニング手法が欠かせない,といまさらながら痛感する。見方によっては,自分が勝手に作りだしたデータを解析しているのは,滑稽に見えるかもしれない。対象は「現実」から直接得られたものではないから,伝統的な意味での科学の立場からはいかがわしい研究に見えるだろう。この手法を用いる研究者は,こうした批判に応えなくてはならない。

それはともかく,昨日,都内の駅前ならどこでもありそうな小さな本屋で,久しぶりに岩波新書を買った。池内了『疑似科学入門』という本だ。このなかで著者は,3つのタイプの疑似科学があるという。 第一は科学的根拠が全くない疑似科学で,UFOとか超常現象とか血液型占いとかがこれに属する。それが存在しないことを立証せよ,と科学者のほうが挙証責任を負わされてしまうのが厄介だ。単なるエンタメとして楽しんでいるうちはいいが,組織化されると災禍が起きかねない。

疑似科学入門 (岩波新書 新赤版 1131)
池内 了
岩波書店

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第2は,科学的装いを持った疑似科学で,著者はマイナスイオンや様々な水ビジネスを例にあげる。統計を使ってウソをつくこともここに入るという。きちんとした科学的裏づけのない主張を,学者を動員したりして権威づける。それは確かに問題だが,一見権威のある研究でさえ,あとで誤りが指摘されることがある。つまり,科学的真実の境界線はあいまいなので,そう簡単に回避できる問題ではない。 だから,最も厄介な疑似科学かもしれない。

そして最後に分類される疑似科学は,本来「複雑系」として扱うべき対象を,要素還元主義的なアプローチで誤って捉え,結局,不可知論を許してしまうことだという。複雑系の科学はまだ発達途上なので,どうしてもそうした問題が起きる。著者は複雑系の典型例として経済現象をあげる。そして経済学が現象を正確に予測できない理由の一つは,経済学の人間は「最も合理的に行動する」という仮定が現実離れしていることだという。

・・・それって経済学は「第3種の疑似科学」ということ?

「最も合理的」という言い方はともかくとして,合理的経済人の仮定が複雑な経済現象の理解を妨げているという見方は,行動経済学が発展している今日,経済学者にも共有されて始めている。そして著者は,経済学は第3種の疑似科学だと文中ではっきり書いているわけではない。経済学者たちが,自分たちは経済現象を正しく予測できる(だから政策提言する!)などといわない限り,この疑似科学の定義には当てはまらないはずだ。

まーそれはいいとして,経済現象を複雑系として扱うこと自体に反対する人はほとんどいないだろう。問題はどうやればそれを行うかだ。要素還元主義を超える,というと聞こえはいいが,実際にできることはやはり,要素を何らかの程度抽象的に捉えて,そこにほんの少し「現実味」を加えたり,一定の相互作用を入れたりして,少しずつ「全体」に近づいていくことしかない。その作業がいつか豊かな現実と等価になる,などという保証は全くない。

この本が面白い(かつ論争的な)のは,やはり疑似科学の範囲をこの「第三種」まで拡大したことだろう。社会現象について現時点の研究水準では正確な予測は難しい,あるいは予測不能性が本質であることをことを認識しつつ,過度の相対主義に陥らずに着々と研究を進めること,これは大変だがチャレンジングでもある。経済学者のみならず社会科学者にとって,この本は茨の道を歩むことへの励ましと受け取るべきだろう。

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不思議の国の授業

2008-05-22 23:52:38 | Weblog
外書購読の授業のあと,何人かの学生がもう少し負担を減らしてくれという。他のクラスはもっと楽だというが,そうやって「低きに流れて」いくと結局どうなるのか…。内容を軽くすると,学生だけでなく教師も楽になるから "win-win" だ,などというのは,悪い冗談だ。そもそも「楽に学ぶ」なんてことはあるんだろうか…。この授業は必修なので,exit という選択のコストは大きく,voice で何とかしようということなのだろうが,voice には説得力が必要だ。

そのあとの大教室の授業では,最近,不思議な光景をよく目にする。講義が始まるとすぐに,何人かの学生が退出していくのだ。この時期だから,教室を間違えたとは思えない。出欠を取らないことは周知のはずなので,出たくなければ最初からいる必要はない。授業資料を事前にダウンロードできるので,今日はどういう話かをチェックするのに,最初だけ出席する必要はない。よくわからないので本人にインタビューしたいぐらいだが,授業中に追いかけていくわけにもいかない。

考えてみれば,最初から最後までほとんど突っ伏して寝ている学生も不思議な存在だ。出席を取らないから,教室にいても何の得にもならないはず。他に行くところがないのでしょうがなくいるのか,教室に来たときはまだ意欲があったが,いざ講義を聴き始めると眠くなったということなのか,何か重大な発表があるかもしれないので,とりあえず出席しておこう,ということなのか…。いずれにしろ,人間の非一貫性,いい加減さということである程度は説明はつくかもしれない。

書店をぶらぶらしていると『ひとりで学べる線型代数』という本に出会った。著者は早稲田大学の授業で,黒板を使った講義をしないで,あらかじめ配っておいた教材(この本の原型)に対する質問を学生から受ける,というスタイルをとっているという。これだと学生が積極的に参画しないと授業は成り立たない。逆に教師は,あらゆる質問に備えておく必要がある。線型代数の復習をする気がないので買わなかったが,著者の「講義をしない授業」の実践を詳しく紹介した本ならば読んでみたいと思う。
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島耕作が課長になった頃

2008-05-21 23:19:47 | Weblog
『課長島耕作』の新装版が本屋に並んでいる。第1巻が出たのが1983年。その頃の島耕作は,係長から課長に昇進できるかどうかでビクビクするような,どこにでもいそうなサラリーマンだった(女に無茶苦茶モテる点では,最初からフツーでなかったが…)。その当時,将来自分が社長になる日が来るなどと,ほとんど予想していなかったのではないかと思う。

課長島耕作 (1)  新装版
弘兼 憲史
講談社

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初芝電気産業という「大企業」に属する島は,さまざまな理不尽な出来事に巻き込まれながらも,そこから退出するという選択肢を事実上持たず,そこに徹底的にコミットする。会社が時間的にも空間的にも無限に広がる小宇宙であるような感覚は,当時(島耕作よりは若い)サラリーマンだった自分にも明らかにあった。いまとは違う時間が流れていたのだ。

だからなのか,島耕作をはじめ,漫画に登場する人間たちから様々なことを感じ取ることができるが,初芝電気産業という企業から伝わってくるものはほとんどない。漫画にしろ映画にしろ,結局は人を描くしかないということはわかる。だがそれ以上に,会社というものが空気のように存在し,ビジョンも大戦略も感じさせないからこそ,島耕作が存在し得たのではないかと思ってしまう。

これから,次々と『課長島耕作』シリーズの復刊が進んでいくようである。この四半世紀に起きた企業社会の変貌を振り返り,企業あるいは勤め人たちが何を失い,何を得たのかを考えてみるのに,このシリーズはよい教材になるかもしれない。それはどこにもなかった,しかし,どこにもあったドラマのように思える。
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それでも本だけは買う

2008-05-20 17:02:43 | Weblog
午前中の「マーケティング」の授業では,先週どこまでやったかを勘違いし,間違った箇所から始めてしまう。似た内容の講義を2校で併行して行っていると,どうも混戦してしまう。そして午後は,ガソリンスタンドの顧客分析に関する打ち合わせ。昨日,同じ部屋で脳科学に関して議論していたことを考えると,あまりに脈絡のない毎日だ。しかし,ひたすら走り抜けるしかない。

今日届いた本

The Sage Handbook of Advertising

Sage Pubns Ltd

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先日 Database Marketing の厚さに「感動」したばかりだが,今度は広告に関する集大成的な本である。広告効果測定はもちろんだが,広告産業とそれを取り巻く環境,メディアやクリエイティブのプラニング手法など,幅広いテーマを取り上げている。著者もビッグネームから新進気鋭の学者,実務家まで多士済々。広告について,鳥瞰図を眺めることは悪くない。

Rによるマーケティング・シミュレーション

同友館

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先日 fpr で豊田先生が,学部の統計学教育でも R へ移行したと書かれていたが,朝野先生もまた『マーケティング・シミュレーション』のリニューアルにあたり,R への対応を目玉にしている。また,多項ロジットモデルなどの選択モデルを大きく取り扱ったり,ベイズ統計への言及したり,最先端の動向が反映されている。実務家にわかりやすい独特の語り口は変わらない。本書で扱われている R のコードは出版社のサイトにある・・・と書かれていたので探したが見つからなかった。

Stataによる社会調査データの分析―入門から応用まで

北大路書房

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だが,統計パッケージの役割が終わったわけではない。Stata に関する解説書も続々と出版されている。この本の著者は,Stata は「高速で,高機能で,しかも安価」である点で優れているという。最初の2点については,すでに所有している身として少しは試してみるべきだろう。それなのに,新しいバージョンではマルチスレッド対応していると聞いて,そちらのほうが気になっている。
単純接触効果研究の最前線

北大路書房

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Zajonc(ザイアンス)の名とともに有名な接触(露出)効果に関する研究がまとめられている。広告効果研究にとってはもちろん,選好形成の研究にとって避けて通れないテーマである。こうしたありがたい本が,3200円で出版されるということは,大変ありがたいことだ。

味覚と嗜好のサイエンス [京大人気講義シリーズ] (京大人気講義シリーズ)
伏木 亨
丸善

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選好形成の研究という「夢」を追って,この種の本も相変わらず買い続けている。このコンパクトな本ぐらい読まなくては・・・という本が山ほどあって困っている。

シンプリシティの法則
ジョン・マエダ
東洋経済新報社

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コンパクトという点ではこちらもそうだ。目下の関心事はこちらのほうかな・・・。

服従実験とは何だったのか―スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産
トーマス・ブラス
誠信書房

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こちらは分厚いが,「伝記」なので読みやすいはず。バラバシやストロガッツが推薦の言葉を寄せている。ワッツはどうしたんだろう?
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ニューロ・マーケティングへの期待

2008-05-19 23:44:56 | Weblog
今日,最近のニューロ・サイエンスで消費者行動に関わる研究がどのように行われているのかを聞く機会があった。6月の JACS では「ニューロ・マーケティング」が取り上げられる。ニューロ・サイエンスあるいは脳科学が消費者行動研究にどのような新たな知見を加えるのか,今後各方面で話題になるだろう。

今日聞いた限りでは,これまでのところニューロ・サイエンスが,消費者行動の「深い」部分までアプローチしているわけではなさそうだ。したがって今後の方向として,消費者行動研究の最先端部分がこれまで明らかにしてきた命題を脳機能と関連づけることは,かなり有力な研究戦略になることは間違いない。たとえば,Tversky, Kahneman, Simonson といった認知バイアスの研究,Bettman, Payne らの選択方略の研究の系譜との結合などが考えられる。

一方,従来の消費者行動研究があまり踏み込めなかった領域にニューロ・サイエンスが新たな光を当てるという戦略もあるはずだ。プロトコル法や質問紙調査といった伝統的な測定手法で十分解明できなかった領域には,たとえばホリスティックな製品評価がある。それは部分(個別属性)には還元できない魅力であり,茂木健一郎氏のいうクオリア(質感)を想起させる(だから脳科学で…となるかどうかは,よくわからないが)。

ホリスティックといえば,クルマへの好みがまさにそうだろう。以下の二冊の雑誌では,いずれもアウディA4が表紙を飾り,記事中でメルセデスCクラス,BMW 3シリーズと比較されている。NAVI で下された評価によれば,A4 は全体にバランスがよく,Cクラスはコンフォートで優れ,3シリーズはハンドリングとエンジンが優れている。各クルマがそれぞれ「期待された」個性を具体化しているようだ。

NAVI (ナビ) 2008年 06月号 [雑誌]

ニ玄社

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Motor Magazine (モーター マガジン) 2008年 06月号 [雑誌]

モーターマガジン社

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これらと同じDセグメントには,マークX,プリメーラ,アコード,アテンザといった日本車も含まれる。ドイツ車が同じセグメントのなかで,高い価格プレミアムを享受できるのは,ブランド名やマークといった特定の属性のせいなのか,デザインから機能まですべてを包含したホリスティックな特性のせいなのか。要素還元的な従来の「科学的」アプローチでは前者の説明のほうが支持されやすいが,本当にそうなのだろうか?

ホリスティックな価値とは,「本物」という表現が相応しい,何らかの実体を伴っているのではないだろうか。それは,誰もが一定の経験を積めば,かなりの程度感じることができるという意味で再現性がなくてはならない。腕時計にほとんど関心がないぼくでも,たまに雑誌広告や店頭でデザインに魅入られるときがある。通常目の飛び出るような価格なので選択集合に入ることはないが,本当は腕時計の本物性に目覚めて,高価な買物をすることが怖いだけかもしれない。

高級腕時計を買うのは,見せびらかしのためだろうか? だとしても,そこに何らかの「本物」性があることを否定したことにはならない。もちろん「本物」性など幻想に過ぎないと主張する立場があってもよい。何が「本物」かは,社会関係のなかで恣意的に決まる,というモデルを作ることだってできるだろう。どちらか真実かをめぐって,ぼく自身の気持ちも揺れ動いている。

自分がいま感じていることを信頼するならば,わが「愛車」のエンジン音や身体に伝わる響きから得られる全感覚的な快感が,全く根拠がないものとは思えない。どこかで聞いた意見を鵜呑みにしただけなのか,買ったものをすべてよく受取りたいという認知的一貫性のなせる業なのか,いやそうではなく,こんなぼくでさえ半ば無意識に感じることができる「質感」がそこにあるのではないか…こんなことをニューロ・マーケティングが解明してくれるのなら,至福としかいいようがない。
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普及研究のツリー

2008-05-18 23:42:21 | Weblog

マーケティングにおける普及研究の「父」Frank M. Bass を記念するサイトからメールが届く。来る Marketing Science Conference で報告される「普及」に関係する研究がリストアップされ,その著者にメールを送った模様。ぼくの研究,つまりクチコミは情報の普及だから,そこに分類されたのだろう。

このサイトにリストアップされた,今回の Marketing Science Conference における普及(diffusion)に関わる研究は膨大な数に上る。セッションだけを取り出しても以下の通り。そして,そのなかでクチコミ(word of mouth)に焦点を当てた研究の数も非常に多い。これらをすべて把握することなど,できそうにない。

  • In Honor of Professor Frank M. Bass: Expanding Frontiers of Diffusion Research
  • New Approaches in Understanding Word-of-Mouth
  • Issues in New Product Adoption
  • Modeling Movie Box-Office
  • Word-of-Mouth in Online Environments
  • New Product Diffusion-Applications
  • Entertainment Demand
  • New Product Diffusion-Cross Country Studies
  • Movie Marketing
  • Managing New Product Introductions
  • Word-of-Mouth in Movie Marketing
  • Network Effects and Social Influence
  • New Product Forecasting
  • DVD and Entertainment Media Marketing
  • Social Networks and Market Efficiency
  • Emerging Issues in Software and Technology Markets
  • Words Matter: Investigating the Antecedents and Impacts of Word-of-Mouth Communication
  • Commercializing Innovations and Launching New Products
  • New Product Development-Product Design
  • The Role of Network Externalities in Diffusion

*下線は筆者

このサイトで興味深いのは,Bass の師弟関係を示すツリーが示されていることだ。Bass の直接の弟子でさえ,何と60人! 孫弟子まで入れると,216人に及ぶ。米国あるいは世界のマーケティング・サイエンスのコミュニティで,Bass School の存在はあまりに大きい(日本人では高田,杉田両先生の名前がある)。

師弟関係は,博士論文の審査委員会で主査(chair)を務めるか,委員であり,かつ共著論文がある場合に認定されている。

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次世代マーコム実例集

2008-05-17 11:08:04 | Weblog

非常勤先の講師控え室に行くと,いつもと感じが違う。間違えて1時間「早く」着いたことに気がつく(「遅く」でなくてよかった・・・)。統計学の授業では,計算の演習をしてほしいとの声。ごもっとも。ゼミでは,定刻どおり終わってくれ(次の授業があるから)との声。はい,そうします。

『リサーチ・デザイン』の輪読は,今回は定量調査と定性調査の比較を扱う2章。定量調査では母集団は事前に定義されるが定性調査では事後に決まる,定量調査では説明変数は独立だが,定性調査では組み合わせとして結合している,といった田村氏の見方は面白い。ただし,母集団/標本分散の定義に誤りが・・・。

授業を終えて,S&RM 研究会@日本橋へ。すでに片山さんの報告が始まっていた。日本企業の調査から,CRM の効果が期待通りではないことが浮かび上がる。CRM は本来,顧客ロイヤルティ向上が目標のはずなのに,現実には短期的な売上で評価されている。最終的に,トップのマーケティング志向に帰着する問題であることが示唆される。

次いで鈴木さんが,プロスポーツクラブの業績指標に対して社会ネットワーク分析を適用した研究を報告。この手法が従来の統計分析と比べてどんな点で優れているのか,たとえば媒介中心性のような指標から何がわかるのか,研究の発展が期待される。今後,スポーツビジネスの計量的な研究が進んでいくことにも期待。

二次会で ITベンチャーを経営する内山さんと話す。共通の友人・知人を発見して,スモールワールドを実感。それはともかく,クチコミを分析し,ビジネス化していく実務の最前線はどうなっているのだろう・・・。たまたまこの日移動中に読んでいたのが以下の雑誌。『販促会議』の別冊で,Webマーケティングの実例が紹介されている。

「インターネットマーケティング完全ガイド」次世代マーケティング・コミュニケーション実例

電通,博報堂,日本テレビ,TBS,NEC,エースコック,トヨタ,プジョー,東芝・・・実務家へのインタビューや最新のキャンペーン事例が続々と登場する。記事中で人物写真が非常に大きく,それを見ていると,企業の実践よりその人そのものに興味がいく。それはそれで面白いのだが,どうもぼくが本来知りたかったこととは違う気がする。

『アップルとグーグル』によれば,アップルは,特定プロジェクトに誰が関わったかをオープンにせず,取材にも応じないという。優秀な人材の引き抜きを恐れている,という可能性もあるが,ジョブズはどんなプロジェクトにも多くの人が関わっているからだと説明しているらしい(本人は例外?)。

アップルとグーグル 日本に迫るネット革命の覇者
小川 浩,林 信行
インプレスR&D

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日本企業の広報は,それとは逆の方針をとっているかのようだ。個人の名前を出すことでモチベーションを高め,リクルートにも役立よう,ということなのかもしれない。ただ,個人のアイデアや頑張りが強調されすぎると,逆に,そうした実践が当該企業の戦略や事業システムにどう組み込まれているかが見えにくくなる。

いや,そうではなく,そもそも一貫性のある戦略やシステムが存在しないのでは・・・などとあらぬ疑いを抱いてしまう。これは,片山さんが提起していた CRM に関する問題とも結びつく。「先進的な」キャンペーンの事例を読みつつ,そこからその企業の顔,ブランドの心が見えるかどうか・・・それが,ぼくの心に浮かんだ問いである。

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もたもたする日々

2008-05-14 22:13:17 | Weblog
来月のワルシャワ出張に向け航空券の予約を手配したところ,ユーロ高のせいか運賃が思ったより高い。また,すでに予約がかなり入っているみたいで,少し出遅れたかもしれない(バンクーバーのほうは問題なし)。学会への準備としては,今月末が締め切りの予稿の執筆も重要だ。予稿集は DVD で用意されるので,紙数の制限はない(ただしファイルのサイズには制限がある)。裏を返せば,数枚でもいいってことかな・・・。

MATLAB のコードは大体書き終えたが,結果がどうなるかは走らせてみないとわからない。明日から数日間,研究室を不在にするので,ずっと走らせてみるか・・・。ああ,だんだん,いつもの綱渡り的な空気が流れてきた。そういえば,MATLAB のバージョンアップの作業をしていない。最新版はアクティベーションが必要で,手持ちの他のマシンにインストールできないのではないかと思われる・・・つまり最新版で原始的「並列処理」はできないということだ。

一方,Mac のほうは,基本的なセットアップをしたあと,ほったらかしになっている。最初はアップルキーの使い方を忘れているぐらいで,15年近いブランクは大きいと感じた。しかし,セットアップし始めると Welcome ... ようこそ ... といった世界中の文字が宇宙空間を飛び交ったり,ほとんど何もしないで無線LANにつながったり,さすが「おもてなし」が違う。

とはいえ,仕事のほぼ 100% はまだ Win で行われており,Mac をいつどのように仕事に組み込んでいくか,考えあぐねている。月末のシンポジウム,あるいは遅くとも6月の出張には間に合わせたい・・・。ただ,メインマシンが Win である限り,なかなか移行は進まないだろう。ここ数日,Win PC の画面の調子がおかしいので,これを気に・・・と思ったりするが,それなりにハイスペックなので,踏み切れない。

とりあえず,以下の本を買ってみた。

Mac OS10v10.5Leopardパーフェクトマスター―Intel版/PowerPC版完全対応 (Perfect Master 102)
野田 ユウキ,アンカープロ
秀和システム

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(追記)その前に,こっちが先だな・・・

MacPeople Lite 2008 春号 (アスキームック)

アスキー

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