聴講者は社内だけでなく他企業や大学の研究者も多い(ほとんどが工学分野と思われる)。仕掛け人の川前さんの要請にしたがい,まずはマーケティング・サイエンスとは何かという話から始めて,購買履歴データを用いた消費者間影響の発見の話まで,約20分に詰め込んで話す。だがこれは,おそらくほとんど理解されなかっただろうな,と話の組み立てを反省。一方,森さんは2年前に発足した楽天技術研究所の研究戦略を,山崎さんは social graph というコンセプトの可能性をそれぞれ熱く語る。そのあとMOTを現場で実践する本橋さんが加わり質疑応答。
司会の川前さんは,研究はビジネスにどう生かせるのか,マーケティング・サイエンスではどうなんだと,ものすごい直球を胸元に投げ込んでくる。支離滅裂なことをいって逃げたが,その返事はあと10年待ってほしい。その間もう少し頑張って,この永遠の課題に経験に基づく答えを出せればと思う。たまたまパネリストの多くが,リコメンデーション技術に関わった経験があり,その話を総合すると,この領域では研究者が面白いと感じるような「高度な」技術は実装が困難で,むしろビジネスや消費者の感覚を「うまく」取り込むことが重要だとのこと。逆にいうと,あるイノベーションがビジネスとしては成功していても,研究者の美意識を満たしていないことが大いにあり得る,ということだ。
夜は京都駅の近くで京料理。そこで NTT の高橋さんから聞いた,最新のプライバシー保護技術の話は非常に刺激的だった。こうした最先端の研究者を多数かかえた企業は,かつてなら賞賛されるだけであったが,いまはそれをどうビジネスの展開しているかを強く問われる時代になってきた。大学もまた,そういう流れになりつつある。だが,それが研究のエネルギーを枯渇させるのでは元も子もない。ビジネスとしての成功と,研究者の研究者としてのモチベーションの両立・・・これは MOT だけでなく MOC の課題といえそうだ。