Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

JIMS@慶應義塾大学

2017-06-24 13:51:29 | Weblog
6/17〜18、慶應義塾大学(三田)で日本マーケティング・サイエンス学会(JIMS)の研究大会が開かれた。初日は170名ほどの参加者があったという。特に非会員の実務家が多数聴講されていたとのこと。マーケティングのデータ解析への関心が高まるなか、JIMS が他のマーケティング系学会以上に実務家から関心を持たれるのは当然といえる。

今回の人気の背景には、レビューワークショップが3つも開かれたことがある、という話もある。レビューワークショップとは、数人の研究者が組んで特定テーマに関する論文レビューを行い、研究大会で報告するという企画である。今回は「機械学習」「オムニチャネル」「新メディア環境」という3つのテーマに関してそれぞれ報告があった。

私は「新メディア環境におけるマーケティング革新の研究」というテーマに関し、導入となる話をした。相互引用数でこの分野の重要論文を調べた研究によれば、「クチコミ」「ソーシャルネットワーク」を取り上げた研究が圧倒的に多い。つまり、消費者へのエンパワーメントという大きな変化が、研究者たちを惹きつけてきたといえる。

このトレンドが進むと、ビジネスのあり方は大きな変容を迫られる。実際、シェアリング・エコノミーに代表される新たなビジネス・プラットフォームが現れている。そこで山本晶さん(慶應義塾大学)に引き継いだ。C2C経済的インタラクションがビジネスとして急成長し、学界に対して新たな研究課題を提供していることが報告された。

他方、エンパワーメントには一見逆行する動きもある。インターネットの草創期に注目された消費者の意思決定の代行という課題が、最近になって再び注目を浴びてきた背景には AI や IoT というテクノロジーの登場が大きい。そうした変化がもたらすマーケティング・サイエンスの課題について、大西浩志さん(東京理科大学)が報告した。



学会の時間的制約上、それぞれのテーマについて深入りすることができなかったので、秋にもミニ・シンポジウムを開き、論文執筆の動機づけとしたいと考えている。参加者に役立つ情報を提供することが基本だが、各テーマに詳しい研究者や実務家にお越しいただき、有用なコメントをもらって論文の完成度を高めたいという狙いもある。

学会全体の話に戻ろう。この学会は通常2つのトラックからなる。1つ目は「非集計購買データに確率モデルを適用、MCMCでパラメタ推定」といった感じの研究が数多く発表されるトラック。もう1つは「その他」である。「その他」トラックで扱われる問題や用いられる方法は幅広い。私の発表は「その他」に割り当てられることが多い。

最初に述べた実務家の参加者を含め、1つめのセッションのほうが聴講者が多いように思える。そちらのほうが他の学会では聴けない、JIMS ならではの発表が多いので、そういう選択になることは理解できる。しかし、そこで扱われる問題は行動データが整備された領域に限定されるので、それ以外の問題に関心がある人は不満を感じるだろう。

その意味で「その他」セッションの役割が重要になる。そこが活性化することこそ、JIMS の幅広さや先端性をアピールすることにつながる。Marketing Science Conference と比べるなら、デジタル・マーケティング系の発表はもっとあっていいはずだ。ミクロな消費者心理はもちろん、文化や社会といったマクロレベルの研究だってほしい。

ということもあって「マーケティングの計算社会科学」という部会を JIMS で立ち上げた(次の大会から報告の予定)。「計算」の部分は MCMC だってある意味でそうなので、自分としては「社会科学」という面を強調したい。マーケティングの視点から、計算機を駆使して広く社会現象を科学する研究。面白いと思うんだが、うまくいくかな?




Marketing Science Conference@LA

2017-06-21 08:42:45 | Weblog
6/7-10に LA の南カリフォルニア大学で開かれた INFORMS Marketing Science Conference に参加した。例年のように1,000人ほどの参加があった模様。参加者の世代交代は少しずつ進み、特に中国・韓国系の若手が目立つ。全体としては少数とはいえ、日本から参加する若手、そして院生(特に慶応の)が以前より増えている。



いまはどんな研究が旬なのだろう?たとえばシェアリング・エコノミー。10の並行セッションのうち1つが、ほぼ連日そのテーマに当てられる程度には関心を集めていた。機械学習のセッションは以前より増えているのではないか。構造推定はもちろんだ。そして、ソーシャルメディアやインフルエンス関係も依然として多い。

自分の関心に沿って選んでいくと、どうしてもインフルエンサー関係の発表を聞くことになる。研究の焦点はインフルエンサーの存在云々から、そうなりそうな人を早期発見するといった応用の方向に進んでいるという印象を受けた。こうした「進歩」は、このテーマで論文を執筆中の自分としては、大変困った傾向である。

今回私が参加したのは、石原昌和さんや Jessica An さんとの共同研究の報告に参加するためだ。題して "Uncovering Latent Consumption/Purchase Occasions from Observational Data on Brand and Quantity Choices" ... 昨年発表した期間限定品の研究から派生し、広範な地域・カテゴリのデータを分析している。



消費者が期間限定品を買うのはバラエティシーキングとして説明できそうに見える。同じ銘柄のビールを飲み続けていると飽きる。一方で、同じ消費者のなかで同じ銘柄を選び続けるロイヤルティも観察される。一見、消費者の選好が一貫していないように見えるが、同じ消費者が異なる状況に置かれていると解釈すれば辻褄が合う。

こうした現象は、期間限定品に限られるわけではない。消費者の選好が消費・購買のオケージョンで変わるということは、現場のマーケターはすでによく理解しているはずである。それを確認するために、ふつうは質問紙・面接調査が行われる。しかし、それなりの費用がかかるので、そうしょっちゅう実施できるわけではない。

一方、多くのパッケージグッズについては、世帯または個人の購買履歴データがつねに収集されている。そこから潜在的なオケージョンによる選好の違いを推測できれば、実務的に大変便利なはずだ。さらにそこから、消費者や製品のセグメンテーション(後者は市場構造分析などと呼ばれることもある)を行うこともできる。

これは、選好の世帯内異質性と呼べなくもない。今回の会議でもこうした現象を取り上げた研究がいくつかあったが、世帯の成員の選好が異なることに注目していた。われわれの研究はそうではなく、一人の個人ですら状況によって選好が系統的に変わり得ることに注目している。独自性の高い研究だと思うのだがどうだろう?

会議全体の話に戻ろう。今回の Marketing Science Conference には、これまでにない変化がいくつかあった。よいことでいえば、最終日を含めて毎晩レセプションがあったこと、ディナーのステーキが見事でワインが飲み放題だったことなど。当たり前のように聞こえるが、ここ数年、残念な思いをすることが多かった。



この会議は来年はフィラデルフィア、再来年はローマで開かれる予定。ローマ大会は日本からの参加者も多そうだ^^