Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

SMWS2015@支笏湖温泉

2015-11-30 16:12:42 | Weblog
6回目を迎える SMWS ことソーシャルメディア研究ワークショップが、北海道千歳市支笏湖の休暇村で開催された。例年のように物理学、コンピュータサイエンス、社会学、社会心理学、マーケティングの各分野でソーシャルメディアに関わっている研究者と実務家が集まった。



ソーシャルメディア、つまり Twitter とか Facebook ではさまざまな情報が飛び交うが、このワークショップでも、予想もしなかった新たな情報に接することができるのがうれしい。つまり、このワークショップ自体が、大変よくできたソーシャルメディアになっているのである。

本来ビジネスやマーケティングとは無縁の物理学者や社会学者の口から「マーケティング」という言葉が何度か出てきたりする。その意味は、ソーシャルメディアを使って企業、大学、自治体、政府などが世のなかを動かそうとすることで、広い意味でのマーケティングといえる。

このことは、狭い意味でのマーケティングを研究している自分にも、いい刺激になる。たとえば、ソーシャルメディア上の話題の急落をどうモデルするかの議論を聴いていると、本来なら文脈が異なる新製品の売上パタンの分析にこれは使えるかもしれない、という啓示が得られる。

質疑応答の時間が発表時間とほぼ同じだけとってあるので、さまざまな視点や情報に触れることができるのが魅力の1つである。たとえば、大学生の LINE ユーザに対する調査結果について誰かが語ると、小学生に対する同様の調査に関する情報が、別の人からもたらされたりする。

これ以上人数が増えるとそうしたインタラクションが難しくなるが、新陳代謝のためには新たなメンバーを迎えることも望まれる。今後の運営は大変かもしれない。自分としては、今後、ソーシャルメディアに関して何か発表できるか、研究のネタを見つけられるかが課題である。

Complexity in Business 2015

2015-11-16 21:43:09 | Weblog
ワシントンDCのホワイトハウス近くにあるレーガンビルで開かれた Complexity in Business 2015 に参加した。昨年に続く2回目である。前回より参加者、発表数は少なく、一時的現象なのか、トレンドを表すのか、気になるところである。マーケティングに密接に関連する発表も少なかった。

基調講演の最初は、メリーランド大学で地理情報学を研究する Paul Torrens 教授。人間の移動行動(店内の買物も)は3Dでモデリングすべきだとさまざまな研究事例を通じて熱く語っておられた。2Dで十分でないのかという批判に、だって世界は3Dではないか、と返した場面が印象に残った。

もちろん、それだけではなく、人が混雑した道で身体を斜めにしたり、店内で商品を取るためにかがんだり、といった3Dの動きが重要になる場面が指摘された。逆に、道路上のクルマの動きは、2Dモデルでも十分だという。計算量の増加が気になるが、そこはハードの力で乗り切るのだろう。

報告の冒頭に、渋谷の交差点が紹介された。後で聞いたら、日本からの留学生が渋谷の交差点で計測を行う研究していたとのことで、ご本人はまだ日本に行ったことがないという。彼の研究室では移動する人間に対する生理学・神経科学的研究を行うなど、同じテーマに学際的に接近している。



2日目の基調講演は、マーケティングで有名な Hoffman、Novak 夫妻が、IoT (Internet of Things) に関するユーザ調査の結果を報告した。「位相データ解析」での解析結果が、写真の2枚目に映されている。まるで生物学の研究に出てきそうな図であり、独特の視覚化が行われている。

その結果何が分かったのか、あるいは、そこで語られている解釈が分析の結果から自然に導出され得るものなのか、正直よくわからなかった。また、そもそも現在のユーザの IoT 経験にどれだけ意味があるか・・・。しかし、こうした未知の領域に果敢に挑戦している姿勢が、非常に貴重である。

一般の報告で個人的に面白かったのは、Forrest Stonedahl 教授(コンピュータ・サイエンス)による Hotelling の空間競争モデルにエージェントベース・モデリング (ABM) を適用した研究だ。エージェントの数を3以上にすると解析的に扱えないことが知られているので、意味のある適用だ。

2次元空間で多数のエージェントを競争させると、シミュレーションの結果、大域的に1つの均衡に収束しないが、局所的に2人のエージェントが同じ場所で競争する複占的状況が生まれることが示された。なぜそうなるかはともかくとして、一定のパタンが生まれること自体が非常に興味深い。

さらに、競争が行われる空間の次元を増やすことも、ABM にとっては容易である(その結果については時間の制約もあってよく理解できなかったが・・・)。これまで誰もこのような ABM の応用を行ってこなかったのだろうか。実は自分も考えたことがあったが、着手することはなかった。

自分は阿部先生、新保さんとの共同研究 "When Seeding Works in Social Media Marketing: A Hybrid Approach of Empirical Analyses and Simulation "を発表した。Marketing Science Conference での発表を、頑健性のテストのためのシミュレーションを加えて拡張したもの。

セッションには数人の聴衆しかいなかったが、チェアを勤めた大物教授から好意的なコメントをもらえたのはよかった。もう何年も続けている研究であり、そろそろ論文にする時期が来ている・・・とこれまで何度決意したかわからないが、いよいよ機が熟してきた、とここに表明する。(^^)

この会議が開かれていたとき、パリで大規模なテロが起きた。ワシントンDCは、当然こうした攻撃の標的になる可能性の高い場所でもある。Complexity in World は日に日に高まっている。複雑系科学こそがそうした問題を解決する、と「単純に」言いきれないことは、残念なことである。

しかし、こうした問題を少数の要因だけで割り切ったり、違う立場からは全く異なる見方がなされることを無視したり、効果が予期せぬ範囲に波及する可能性を視野に入れないことを戒める上で複雑系の観点は教えに富むはずだ。というか、複雑系科学は、そうした役割を担うべきだろうと思う。