Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

MITメディアラボの社会物理学

2014-10-25 15:53:05 | Weblog
著者の Pentland 氏は MIT Media Lab の教授で Human Dynamics というグループを率いるコンピュータ・サイエンティストだ。同ラボのウェブページを見ると、Forbes で世界のトップ・データサイエンティストの一人に選ばれたという。

私は著者について全く知らなかったが、何かのきっかけで読み始めたこの本は非常に刺激的であった。タイトルの Social Physics、直訳すると「社会物理学」だが、物理学の数理モデルをそのまま社会に当てはめたような話ではない。

私が理解した範囲では、彼のグループが行っているのは、人間ないし社会の活動を徹底して相互作用の産物として見ること、そのために様々なビッグデータ(ウェブのログからセンサーやGPSで測った位置情報まで)を集めてくることだ。

後者を、彼らはリアリティ・マイニングと呼ぶ。いわゆるビッグデータから様々な知識を得ることは、いまや珍しいことではない。ただそれがリアリティと呼べるには、そこにある複雑な相互作用、そして時間という要素を無視できない。

Social Physics: How Good Ideas Spread?The Lessons from a New Science
Alex Pentland
Penguin Press HC, The

つまり、門外漢ながらあえていえば、物理学のスピリットに立つという意味での社会物理学なのだ。膨大な数の主体の相互作用を扱うとき、個々の主体の「個性」は二の次になる。ビッグデータが喧伝される時代に相応しい視点だといえる。

伝統的な社会科学からは、それは人間の社会行動を単純化しすぎだ、掘り下げが足りない、という反発が予想される。確かにそうかもしれない。しかし1つの研究戦略として、徹底して相互作用に注目するアプローチは面白い。

本書は全体として、一般向けにわかりやすく書かれているが、最後に数理モデルを紹介する補遺もある。問題は、Kindle だと数式の細かい部分が読めないことだ(拡大できない)。数式をきちんと押さえるには、紙の本がお奨めである。

ご存じの方もいるだろうが、Pentland の以前の著書がすでに翻訳されている。チラ見しただけだが、上述の本とそれほどダブっていないようだ。巻末の解説で、安西祐一郎氏が「計算社会科学の出発点の一つ」と絶賛されている。

正直シグナル
― 非言語コミュニケーションの科学
アレックス(サンディ)・ペントランド
みすず書房

Pentland のグループは、メディアラボらしく、人間の接触を測定するソシオメトリクス・バッジというセンサーを開発している。これを用いたコンサルティングを行うスピンアウト企業の経営者が本を出し、邦訳されている(未読)。

職場の人間科学: ビッグデータで考える「理想の働き方」

ベン・ウェイバー
早川書房

こういう研究は日本でも進んでいる。日立の矢野和男氏の本は、ビジネス書コーナーでも平積みされており、読んだ方も多いだろう(私は未読・・・汗)。社会心理学者との共同研究も進んでいるようで、面白い研究がどんどん登場しそうだ。

データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則
矢野和男
草思社

さぁて、こうしたテクノロジーや分析手法は、マーケティングでも力を発揮するだろうか・・・それはどういう領域だろうか・・・などについて考えてみる必要がある。いや、自分が知らないだけで、すでに行われているかもしれない・・・。

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サービスは「女子力」が決め手

2014-10-22 13:23:59 | Weblog
日本マーケティング・サイエンス学会の代表理事で法政大学教授の小川孔輔先生の最新著作。これまで小川先生は、硬軟さまざまな著書を出版されてこられたが、「CS(顧客満足)は女子力で決まる!」というタイトルは、そのなかでも最も一般にアピールしそうである。

小川先生は、JCSI という企業横断的な大規模CS調査に長年携わってこられた。そこで認識したことの1つが、サービス業における接客の質の重要性、それを決める最前線(サービス・フロント)の女子従業員の役割だ。そうした観点から、CSの高い企業への取材が行われた。

顧客満足、従業員満足、企業利益の間に好循環が起きることは「サービス・プロフィット・チェーン」と呼ばれる。著者の観察によれば、それは、サービスの卓越した企業に共通して見られるという。こうした循環の鍵を握るのが、第一線で顧客に接する女子従業員である。

したがって、本書では、サービスが卓越した企業の経営者へのインタビューで終わるのでなく、現場の女性マネジャーや従業員へのインタビューが行われている。しかも、各章を「幕」と呼び、劇場アプローチに倣って仕立てている点、イラストとの連動にユニークさがある。

CSは女子力で決まる!
小川孔輔
生産性出版

CSは女子力で決まる、ということを、サービス・フロントの女子従業員の力を高める、という意味に限定する必要はないかもしれない。企業のサービス活動において、性別を超えた「女子力」が重要だ、といった解釈もあり得るのではないか、などと考えてみたりする。

ご恵贈いただいた著者に御礼申し上げます。
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マーケティングキーワードベスト50

2014-10-13 09:37:58 | Weblog

4A
パーパス・ドリブン
EBM
エンゲージメント
インタースティシャル広告
ネイティブアドバタイジング
AAA

・・・マーケティングに従事しながら、次々登場する新しいことばについていけない人は少なくないはず。逆に、最先端のことばには詳しいが、マーケティングの基本用語に関する理解が怪しい人もいるだろう。本書は、そのいずれの立場のマーケターにもありがたい本である。

著者は、守備範囲の広さや語り口のわかりやすさには定評がある、中央大学ビジネススクールの田中洋先生。本書のもとになったのは、ウェブ上で連載されていた「マーケティングのキーコンセプト」という記事なので、その一部をすでに読んだことがある方も少ないはず。

1ワード3分でわかる! 基本から最新まで マーケティングキーワードベスト50
田中洋
U-CAN

この本を通読すれば、マーケティングの基本から最先端の話題までを概括することができる。題名には「1ワード3分でわかる!」とあり、全部で50ワードの解説が収録されているので、2~3時間で全体を通読できるはずだ。話題が多岐に及ぶので、飽きることなく読めるだろう。

一方、この本を辞書代わりに、わからないワードに出会ったときだけに手を伸ばすという使い方も可能である。忙しいマーケターにとっては、そのほうがありがたいかもしれない。困ったときのために、つねに手元の置いておきたい(その意味では電子メディア化が期待される)。

とはいえ、来年になればまた新語が出てくる。この本の帯には「2020年のキーワードはこれだ!」と書かれているので、とりあえず心配することはない! 

ご恵贈いただいた著者に御礼を申し上げます。
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SMWS2014@箱根湯本

2014-10-05 21:29:56 | Weblog
ソーシャルメディア研究ワークショップ(SMWS)が、箱根湯本で開かれた。文理様々な分野の研究者や実務家が、ソーシャルメディアについて縦横に議論することを目的に設立され、今回で5回目になる。これまでの歴史を振り返ると・・・

第1回 鳥取大学
第2回 湯村温泉
第3回 松島温泉
第4回 道後温泉
第5回 箱根湯本温泉

  うーむ・・・なぜか温泉ばかりだ・・・



今回の参加者は、マーケティング系5人、社会学・社会心理学系2人、コンピュータサイエンス系3人、物理学系5人、という分布。基本的にはどなたも、データ分析や事例分析を通じて、ソーシャルメディアの諸側面を切り取ろうとしていた。

発表テーマを分類すると、最も多かったのが、何らかの意味で、ソーシャルメディア上の発言の時系列パタンを分析した研究だ。タイトルを列挙すると、以下のようになる。そのほとんどが、物理学系の研究者が取り組んでいる研究だ。

■ソーシャルメディアにおける集合現象
■ソーシャルネットワーク上での話題の拡散を推定する
■ヒット現象の数理モデルによるAKB選抜総選挙予測
■最新アニメ映画のヒット~ソーシャルメディアによるヒット要因分析
■大規模ブログデータを用いた書き込み数の予測手法の開発
■大規模ブログデータからの感情抽出

一方、ネットワーク構造に注目したものには、以下の2つがあり、いずれもコンピュータサイエンスの研究者の手による。ただし、そこでも時系列変化は扱われているし、上のグループに分類した研究でもネットワークを扱ったものはある。

■社会的イベント発生時のソーシャルメディアにおける反応の分類
■ニコニコ動画の創作ネットワークからみえてくるもの

一方、社会学・社会心理学系の発表では、サーベイ調査の分析結果が報告された。物理学者が、データに現れる規則性をできるだけシンプルな数理モデルで表現しようするのに対し、社会科学者は、社会的に有意味な仮説の検証を試みる。

■東日本大震災後の情報環境・情報行動が1年半後の適応に何をもたらすか

別の次元でいえば、今回参加されていた実務家による報告では、ソーシャルメディアに関わるビジネスの現場での問題意識が吐露された。数理モデルの対極としてこういう発表があることも、このワークショップの1つの特徴といえる。

■ソーシャルデータのビジネス環境
■顧客クラスタをベースとしたメールマガジンの出し分けと、その反応(結果)のご報告

狭い意味でマーケティング研究者といえる3人は、今回新たに提案された「自著を語るセッション」に登壇した。華麗なるデータ分析と地を這うような事例研究の狭間で、それらをつなぐ役割を果たすべきなのは、おそらく彼らだろう。

以下が、今回「著者によって語られた」著作:

類似性の構造と判断 --他者との比較が消費者行動を変える
澁谷 覚
有斐閣


キーパーソン・マーケティング: なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか
山本 晶
東洋経済新報社


マーケティングは進化する -クリエイティブなMaket+ingの発想-
水野 誠
同文舘出版


なお、私事になるが、今回で私はこのワークショップの世話人を退任した。自分より百倍優秀な後任を得て、この会の今後の飛躍が楽しみだ。その一方で、自分のソーシャルメディア研究は今後どうなるのか、という問題に直面している。
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