Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

万人のためのブログ・マイニング

2008-07-31 08:14:29 | Weblog

先日,テキスト・マイニングを万人に開いた TTM を紹介するエントリで「おねだりした」ウェブ・クローリングのツールが公開された。

TWC: TinyWebCrawler

このツールは Yahoo! ブログ検索を使って,指定したキーワードに言及したブログ記事を収集する。それを適宜クリーニングしたあと TTM にかければ,ブログスフィアからのテキスト・マイニングを誰でも簡単に始めることができる。

素晴らしい! そして,こんな便利なツールを速攻開発された松村さんに感謝!

これで Tiny *er がシリーズ化されたことになる。やはり,三部作(トリロジー)のほうが語呂がいいのでは… などと,またもや厚かましいことを考えてしまう。三作目は… 松村さんにいまのところ予定はないとのことだが, 楽しみである。


現実と向き合う~中国とフリーコピー

2008-07-28 23:42:54 | Weblog
北京オリンピックを目前に,テレビでは中国の現状がしきりに取り上げられている。北京の大気汚染は相当ひどい,地方では暴動が頻発している,などなどネガティブな話題が多い。だが,オリンピックが始まると今度はポジティブな報道一辺倒になるのかも…。などと思っているとき,中国研究者の友人から新著が送られてきた。

この本が類書と違うのは,中国のメディア産業やサブカルチャーの最先端をフィールドワークすることで,中国社会の変化を読み取ろうとしている点だ。メディアのあり方は政治構造に大きく縛られるとともに,それを突き動かす可能性を秘める。それは中国だけのことではない。だから,ぼくは読者として中国事情の本として読むだけでなく,より普遍的な読み方をしたいと思う。

変わる中国 変わるメディア (講談社現代新書 (1951))
渡辺 浩平
講談社

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ほぼ同時に献本いただいたのが,以下の本である。そこでは,コピーが技術的にコストなしに行えるという性質を持つデジタル・コンテンツが,どのような経済的・経営的帰結をもたらすかが各分野の専門家によって論じられている。学術研究をベースにしながらも,「ですます」調の平易な文章で書かれており,実務家や学生にとって読みやすくする配慮がなされている。

フリーコピーの経済学―デジタル化とコンテンツビジネスの未来

日本経済新聞出版社

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こうしたテーマはいろいろな思惑が絡んで,ときとして感情的な議論に陥りがちだ。そんなとき,計量経済学的な実証分析が頭を冷やすのに役立つのではなかろうか。著者の一人,田中辰雄氏の分析によれば,ネット上に私的コピーが流通しても,それが CD や DVD の売上げを阻害するという証拠は見出せなかった。つまり「業界」は,フリーコピーの脅威を過大視していることになる。

コピーといえば,最初の本が取り上げていた中国は海賊版が横行していることで有名だ。それはデジタル・コンテンツにとどまらず,有名ブランドグッズからテーマパークのキャラクターまで多岐に及ぶ。こういう広範囲の不法コピーの問題は,デジタル財のフリーコピーの問題とどう関係づけられるのだろう? まったく別の話といっていいのだろうか?

…より一般的な文脈で,ホンモノとニセモノの競合-共生関係について考えてみると面白いかもしれない。

これらの2冊はいずれも,いま最もホットな「現実」に取り組んでいる。自分の周囲でこうした研究が行われているということは,大いに刺激になる。昨日~今日と「採点」作業をしながら思ったのは,学生の多くは「興味がある現実」抜きに,抽象的論理から出発しても,なかなか理解できないということだ。面白い実証研究や応用があってこその方法論なのだ。

iPhone 売れてるのかな?

2008-07-27 23:41:40 | Weblog

7/24付の日経に,携帯電話の新製品が比較されている。そこで紹介されている Gfk Japan の調査によると,iPhone 3G は発売直後の 7/7-13,16GB が1位,8GB が6位に入った。しかし,翌週の 7/14-20 にはそれぞれ8位,37位に落ちている。いうまでもなくこれは,店頭在庫がなくなったせいである。

ちなみに発売直後の売行きのレポートは GFK Japan のサイトで公開中

予約販売をせず,発売日には店頭に並ばせ,その後も小出しに供給する(かのような)戦術は果たして功を奏するのだろうか? 品薄にして飢餓感を高めるという狙いが外れて,むしろ熱を冷ます結果になりはしないか? タッチパネルを売り物にするドコモの SH906i は,iPhone 発売後も高い水準で売れ続けている。

さらに日経は 7/1-2 に,3ヶ月以内に携帯電話の購入予定がある消費者にネット調査を行なっている(N=309人)。それによると,すでに iPod を所有している人のうち,iPhone に「関心がある」のは 46%,「関心がない」のが 54% と,わずかに後者が上回る(iPod 所有者数が記されていないので,統計的に有意な関係かどうかは不明)。

iPhone は通常のケータイを代替するものではない,という観点からすると,このこと自体は悲観材料にはならない。全く新しい市場を構築しようとするのであれば,その成果は長い目で見なくてはならないかもしれない。アップルやソフトバンクは,そのためにどういうマーケティング戦略を考えているのだろうか? その一方で,iPhone の次のモデルが話題になったりしている。

7/21-30 の iPhone の売上げランクはどうなるだろうか? 日経ないし Gfk Japan からフォローアップの情報提供があるとうれしい。


かくも厳正なる世界ありや

2008-07-25 22:46:44 | Weblog
昨日に続き,非常勤先での試験。本部に行って試験問題や答案を受け取り,マニュアルにそって受講者にアナウンスをする。受講者は筆箱やメガネケースまでカバンにしまい,受験証代わりの学生証を机の上に置かねばならぬ。監督員は補助の方を含めて複数。こうしたスタイルは,入試のような本格的試験にかなり近い。そうかぁ… かくも厳正なる期末試験の世界があるんだ… と初めての体験に驚く。

回収したマークシート式カードを機械で読み取り,パソコン上でファイルに落とす。これも初めての経験だ。正確にいえば数十年前,カードにデータをパンチし,それを機械に読み取らせる作業をしたことがあった。当時,パソコンなどというものは存在しない時代だったから,今日経験した作業とは趣きが違う。いまや,カードリーダはパソコンの周辺装置になっている。

だが,驚いたのが,回収されたデータを持ち帰る媒体として,フロッピーディスクを用意したかと聞かれたこと。確かにパソコンには FDD が付いている。えらい昔のパソコンかと思いきや,USB のスロットもちゃんとある。こんな不思議な組み合わせのパソコンがあること自体に驚かされる。

読み取ったデータの一部に欠損がある。元のカードを見ると,どうも学生がボールペンでマークしたらしい。昨日行った3~4年生の試験ではそうした欠損はなかったから,経験不足の1~2年生には,そのへんの注意も必要なようだ。さて,みんなどれぐらい正解しているだろうか? 点数はうまく正規分布してくれているだろうか?

統計学の「よい」入門書

2008-07-23 23:40:12 | Weblog

統計学の教科書でお奨めは何か? それは応用する分野によって,受講者のレベルによって様々だろう。では,数学から何年も遠ざかっている私立文系で,商学・経営学部系1~2年生が対象だとすると,どうだろう?

さる統計学教育の「先輩」が教えてくれたのが,小島寛之『完全独習 統計学入門』。それが手元に届いた。帯に「使うのは中学数学だけ!」と書かれている。確かに,著者自身の「私学文系」での教育経験が生かされているようで,わかりやすく丁寧に書かれている。カバーする範囲は基礎的な記述統計から一変量正規分布を用いた仮説検定と区間推定,そしてt検定まで。ぼくの行った一学期分の講義の範囲とほぼ一致する。ただし,来学期教える予定の重回帰分析がカバーされていないのが残念だ。

完全独習 統計学入門
小島 寛之
ダイヤモンド社

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ちょっと気になったのが「予測的中区間」といった,聞き慣れない用語が出てくること。それは既知の正規分布のもと,平均の周辺に一定の確率でデータが出現する範囲のことで,確かに工夫された表現だ。「信頼区間」との違いもきちんと書かれており,そこをじっくり教えればいいのかもしれないが,初学者がこういう独自の(ぼくが知らないだけ?)用語法を覚えることがいいかどうか,迷うところである。

それでは,吉田耕作『直感的統計学』はどうだろう? 著者は日米でMBAコース向けに統計学を長く教えてきただけあって,実用を強く意識して書かれており,例題がビジネス関連の問題になっている点もありがたい。カバーされている範囲も広く,重回帰分析なども含まれている。以前紹介した『ビジネス統計学 上・下』ほどは分厚くもない。

直感的統計学
吉田 耕作
日経BP社

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ただ,まえがきでいきなり「数学で平均以下の人たちへ」と書かれている点がちょっと引っかかる。これを教科書に使うということは,受講者に,お前たちは「数学で平均以下」だと宣言するようなものだ。それって,バカにするなよ,と思わせはしないか?

数学に自信がない学生に,補習・独習用に薦めるには問題ない。しかし,受講者全員に読んでもらうことが前提の教科書にするのは,どうなんだろう? 学生たちがそんなことは気にしない,というのならいいんだが・・・。

しかも統計学の教科書であるからには,そこで使われている「平均」ということばに敏感にならざるを得ない。一体それは,どういう意味の平均なんだろう? 全国の文系大学生の数学力の平均は,理工系のそれより「有意に」低いのだろうか? 

「思い切って」ベイズ統計学を教えるというのはどうか? たとえば松原望『入門ベイズ統計』。ぼく自身,M1 のときに著者の講義を受けて「目からウロコ」の感銘を受けた。この本は MCMC やベイジアン・ネットワークといった最新の話題をカバーしており,しかもその語り口が独特で,通常の専門書よりはるかにわかりやすい。

入門ベイズ統計―意思決定の理論と発展
松原 望
東京図書

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ただ,著者自らがまえがきで語るように,理工系の事例が多く,それなりに数式が出てくるので,文系だと学部学生よりは,ある程度の数学的基礎のある修士クラスでないと理解できないと思われる。

ちなみにぼくが受けた講義で教科書に使われていた『意思決定の基礎』は,いまや大幅に改訂されたようだ。そちらは(申し訳なくもまだ)読んでいないが,旧著と同様,名著であるに違いない。

意思決定の基礎 (シリーズ意思決定の科学)
松原 望
朝倉書店

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だがベイズ統計学をいきなり初学者に教えることは,マーケティングの実務で「正統的な」統計学の手法がすでに深く浸透しているだけに,慎重にならざるを得ない。現状では,従来の統計学を学んだあとにベイズ統計学を教えるというパタンをなかなか崩すことはできないように思う(しかし10年後にどうなっているかは,わからないぞ…)。 

最後に,同時に届いた本に西里静彦『データ解析への洞察―数量化の存在理由』がある。一般的な意味での統計学の入門書ではないが,心理統計学で国際的な有名な著者が,副題が示すがごとく「数量化」の原点を問うている。いまや双対尺度法について日本語で読める貴重な文献であり,コンパクトなブックレットなので,ある程度統計学を学んだ人にはお奨めである。

データ解析への洞察―数量化の存在理由 (K.G.りぶれっと No. 18)
西里 静彦
関西学院大学出版会

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こう見てくると,「使える」(裏返せば「使えない」?)統計手法のレパートリーは,この四半世紀さほど変わっていないのでは,と思えてくる。


万人のためのテキスト・マイニング

2008-07-22 23:28:55 | Weblog

いまや学術的な研究はもちろん,企業の実務でもさかんに使われているテキスト・マイニング。しかし,高価なソフトウェアは,大企業はともかく,中小企業や研究者にはなかなか手が出ない。そうした状況を一変させる革命的な出来事が起きた。それが

TTM: TinyTextMining

である。実は TTM には昨年度わが研究室の M2 がお世話になり,無事修士号を取得することができた。その時点ですでに,コンピュータにさほど強くなくとも,テキスト・マイニングができる便利なツール(しかもフリーウェア)であった。しかし今回,係り受け解析機能が加わるとともにインタフェースが改善され,さらにパワーアップした。

暑い夏の日,卒論・修論の方向性が定まらず悩んでいるマーケティング分野の学生諸君,それを見てイライラしている指導教員諸氏,ぜひ TTM の門を叩いてみたらどうでしょう? テキスト・マイニングがありがたいのは,データがウェブ上にいくらでも存在し,無償で手に入ること。数値データは,政府統計や財務諸表を除き,そう簡単に手に入らない。

もちろん TTM がやってくれるのは,テキストデータの前処理までである(といっても辞書をどう作るかに個人の工夫が生きる)。あとはそれをいかにデータとして解析するかという世界に入るので,何らかデータ解析の経験がある教員にとって,指導の生産性が向上する(はず)。データの前処理に多大な時間をとられて,分析のほうは時間切れという,ありがちな惨事を避けることができる。

いいことずくめの TTM だが,もし残された問題があるとしたら,それはテキスト・データをどうやって集めてくるか,ということだろう。確かにウェブ上には無限の「公開」データがあるが,だからこそ,それを網羅的かつ効率的に集めることがだんだん難しくなっている。そこでぜひ,どなたかが Tiny Web Crawler を開発していただけないか・・・。もちろん,データのクリーニングはユーザが責任を持って行うということで。

お願いばかりで恐縮ですが・・・


夜は夏休みモード

2008-07-20 15:48:58 | Weblog
金曜の夜は,神田で元・現同僚たちと飲み会。ぼくを除き30代。ぼくが彼らと同じ年齢の頃,この界隈でたびたび飲んだくれていたはずだが,そのとき何を考えていたのか,よく思い出せない。ともかく何だかんだあって,いつの間にか時が経って,いまここにいる。神田駅周辺のごちゃごちゃぶりは相変わらずで,夏の暑さがよく似合う。

昨夜は山下洋輔スペシャル・ビッグバンドのコンサートへ。客層は,ぱっと見60代以上の男女が目立つ。勤め人なら定年を迎え,そろそろ孫がいても不思議でない年代の人々だ。彼らのヒーロー山下洋輔は相変わらず熱く激しく,明るく楽しい。演奏後,若いバンドのメンバーたちと交わす笑顔が素晴らしい。音「楽」ということばにふさわしい。

今夜は,神宮球場に行く予定。セ・リーグ4位のスワローズと5位カープの対戦だ。カープは勝率5割に達するや否や,すぐに下降した。均衡ラインが5割より下にあるらしい。このチームからオリンピックの代表チームに選ばれた選手は一人もいない。だから戦力低下しない,というコメントが悲しい。今夜は,美しいカクテル光線のもとで,ビールを飲む。ただ,それだけのことだ。

熱い夏が動き出した

2008-07-17 23:31:46 | Weblog

いやー熱い。しかし授業がほぼ終わり,研究に時間を割く余裕が少し出てきた。そして,いくつかのプロジェクトが動き始めた。

クルマ …昨日の会議で議論の末,調査票全面改訂へ(何度目だろう)。そして鋭い指摘に「技術とブランドの統合性」をどう計るか考え直す必要があることに気づく。 秋以降,山が動くかも。

iPhone …調査企画が一歩前に進んだ。うまくいけば非常に面白いことになる。 第二の iPod になるか,それとも Newton になるか,どっちにしたってこの「歴史的」出来事を傍観しているわけにはいかない。

銀行サービス・ステーション …いよいよ(やっと)分析作業へ。論文にするとかいう以前に,現時点で,実務で取り組むべき最もマトモな分析とは何かを追求してみる。 それって想像以上に難しいことだと想像する。

もちろん,研究ばっかり,というわけにはいかない。秋以降の授業の準備がある。

クリエイティブ・マーケティング …いよいよ「本編」に入っていく。イノベーションの創造と普及,具体例としての eマーケティングやエンタテイメントなどがテーマだ。ほとんどすべてが「新曲」になる。

統計学 …重回帰を重点的に教えよう。今学期積み残した検定力,カイ二乗検定あたりをカバーしつつ,ついでに決定木も。分散分析は,商学・経営学系ではプライオリティを下げてもいいだろう。

(サービス・イノベーションを視野に入れた MBA) マーケティング …この5年間で最大の改訂になる。といっても,骨格は変わらない。新たな筋肉がつくだけだ。時間的に余裕があるように思えるが,準備を怠りなく。

そして研究室の大整理。過剰蔵書処分。RA に pdf 化してもらった論文ストックの整理… こう考えていくと,あと2ヶ月でどこまでできるか不安になる。そういえば人間ドックにも行っておきたい。あとは,わざと思い出さない件いくつか。


クルマを広告媒体に

2008-07-16 01:25:06 | Weblog

クルマがステータス・シンボル,あるいは寝食を削って追求する夢ではなくなった時代には,このような「サービス・イノベーション」が必要になってくるだろう・・・

トヨタ、広告を車に取り付けると6万円もらえる新車購入サポート開始

これはイノベーションというより,プロモーションではないか,という向きもあるだろう。だが,クルマを持つことのコストを削減する「金融」技術,というように前向きに捉えることもできる。サービス・イノベーションというのは,こうした工夫の積み重ねかもしれない。

ただ,自分の「愛」車に広告を取り付けたいかというと・・・ ううむ。


試験無間地獄

2008-07-14 23:56:45 | Weblog
ようやく「統計学」の試験問題を「脱稿」。すでに試験が終わった「マーケティング」の最終得点を計算し,入力を終える。だが,もうひとつ作成すべき試験問題が残っている・・・。提出期限は過ぎているが,実施は来週末なのでまだ間に合うはず(これまでは前日ぎりぎりに作ったりしていたのだが,今後はそうはいかなくなったということ)。

参考のため,この5年間に作成してきた学部生向け「マーケティング」の試験問題を眺めると,なんかドツボにはまっている感じがしないでもない。だが,そこからどう脱していいのか,いまのところ何もひらめかない。今日はこのへんで作業を終え,明日仕上げることにする。なすべき仕事はこればっかりじゃないが,こればかりは穴を空けるわけにはいかない。

試験問題の作成作業を楽にしたければ,でかいテーマへの論述式設問(「これからのマーケティングについて述べよ」とか)ですませればいいわけだが,そうすると今度は採点が大変になる。小心者のぼくには,百人を超す論述式解答を公平に評価できる(と言い切る)自信がない。そこでここ数年,できるだけ「択一式」を採用する方向に進んでいる。だが,毎年同じ問題というわけにはいかないから,改訂に相当な時間と手間がかかる。

「クリエイティブ」なことを教えたいのに,教え方,ましてや評価の仕方はまったくクリエイティブじゃない。そもそも「評価」って何だろうか・・・。

などという現実の文脈と関係なく,本が届く。非線形力学を心理学に応用しようという研究グループが著した本だ。そういえば先日の国際非線形会議でも,心理学や教育学の発表があった(この本の著者たちとの関係は不明)。非線形モデルはぼくの数学力では手に余る領域だが,一応目配りをしておきたい。もっとも,この本自体には,さほど数式が出てくるわけではない。

心理学におけるダイナミカルシステム理論
Holly Arrow
金子書房

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早く地獄から脱したい。山積する研究課題を一つひとつこなすだけでなく,いろんな本を気ままに読んでみたい・・・。だが,教員であるうちは,こうした仕事から逃れることはできない。やり方を考えないとなあ・・・。

iPhone 最大の問題点!

2008-07-13 01:49:46 | Weblog

iPhone が発売されて3日目になるが,週末のテレビのニュースで,まだ大きく取り上げられている。TBSのブロードキャスターによれば,タッチパネルの操作性は巣鴨のおじいちゃん・おばあちゃんたちにも好評だが,絵文字が使えないのが渋谷の10代には不評,お財布ケータイがないのと利用料金の高さが主婦層に不評だという。

また番組で紹介されたオリコンの調査では,すぐにでも買いたい人は5%ほどで,残りは様子見と興味なしに二分される(母集団不明)という。これから,実際に使った人々から様々な感想や意見が発せられて,潜在顧客たちはそれを聞き,この独創的で偏りのある製品の特性について頭のなかでトレードオフを行い,選好を形成していくことになろう。

こうしたプロセスに遭遇できたのは,千載一隅のチャンスだといえる。だから,これを何とかトレースしていきたい。一方,西和彦氏によれば,これはPC時代の終わりが始まるという,歴史的な瞬間だという。だとしたら,消費者の選好形成などというレベルにとどまらない,文明史的な変動プロセスを目撃していることになる。今後,そうした議論もウェブ上をにぎわすことだろう。

CNET Japan に「識者」たちが iPhone 発売直後のコメントを寄せている。

iPhone 3G、その魅力とは?

このなかで個人的に気になったのが,テクノロジーアドバイザーの及川卓也氏のエントリだ。そのまま引用すると…

本当に「買い」かどうか、以下のような事実をもう一度きちんと見つめなおしてみましょう。

1. お財布ケータイが使えない
2. ワンセグが使えない
3. 購入しちゃってある着うたフルとか捨てなきゃいけない
4. マルチタッチを操作していたり、通話しているとすぐにガラス面がべとべとになる
5. ストラップをつけるところがない
6. 落としたらすぐに壊れそう
7. バッテリの持ちが悪い
8. PCかMacがないと実質使えない
9. 重いし、大きい
10. カメラの解像度が低い

いやー、苦労しました、10個欠点をあげるの (^^;;;;

このなかで,ぼくにとって大いに気になるのはたったひとつ・・・ 6.の「落としたらすぐに壊れそう 」という点だ。ほとんど毎日ケータイを床に落っことすため,表面は傷だらけだが,機能にいささかの障害も起きていない(いまのところ)。iPhone の場合どうなんだろう? 誰か「人柱」になって,どんどこ落としてテストしてほしい。


「統計学」の授業で笑う学生たち

2008-07-12 18:13:19 | Weblog

昨日,統計学の授業では統計的検定の理論について説明をする。話が「佳境」に入った頃,急に何人かの学生たちが立ち上がって退席していく。ああ・・・このへんが我慢(理解)の限度ということなのか,と思う。そして見回すと,何人かの学生がにやにや笑っている。は? ぼくのズボンのチャックでも開いているのか,と一瞬思ったが,時計を見て気づく:

すでに所定の講義時間を過ぎて,次の休み時間さえ,ほとんど終わろうとしている!

あわてて授業を打ち切って,そそくさと教室をあとにした。来週で講義は終了,翌々週には試験を行う。したがって,来週はその「傾向と対策」の講義も必要だろう。

この授業でテキストとしたのは,南風原朝和『心理統計学の基礎』(有斐閣)。隅々まで緻密に考え抜かれた,教える立場にとっても非常に勉強になる本だ。微積分や線形代数が出てこないので,文系の学生でも頑張って自学自習することができるはず。

心理統計学の基礎―統合的理解のために (有斐閣アルマ)
南風原 朝和
有斐閣

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だが,現実は期待通りいくものではない。微積や行列以前の問題として,シグマの計算にすら拒否感を覚える学生がいる。そもそも統計学独自の論理にすぐになじめる者は稀有ではなかろうか(実際,ぼくがそうだった)。統計学の1コースでそれを習得することは無理で,自習も含め,何期かにステージを分けて学習を繰り返していくしかないと思われる。

受講者には,自転車の運転や水泳でも,最初はできそうにないと感じたが,いったん壁を超えると,何も考えなくてもできるようになる,それと同じだと励ました。しかしそれは裏返せば,何とか壁を超えた人間がそれ以前の苦労を想起することが難しいことも,示唆している。

もう一つ,心理統計学は確かに消費者行動研究などと親近性があるが,商学・経営学全般の学生が学ぶべき統計学の知識としてみると,若干齟齬がある。その点では,ビジネスの事例が豊富な『ビジネス統計学』あたりが使えそうだが,学部学生には分厚すぎ,高すぎる。

ビジネス統計学【上】
アミール・アクゼル,ソウンデルパンディアン・ジャヤベル
ダイヤモンド社

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ビジネス統計学【下】
アミール・アクゼル,ソウンデルパンディアン・ジャヤベル
ダイヤモンド社

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最終的には,自分で教科書を書くぐらいの意気込みで,カリキュラムを再構築する必要があるかもしれない。それは,統計学について最低限何を学ぶべきかについての,はっきりしたビジョンを示すということだ。そこまで統計学について考えることができるだろうか・・・。

来学期は,南風原先生のテキストを使いながらも,今学期以上に工夫した講義プランを考えなくてはならない。


エンタテイメントのマーケティング・サイエンス

2008-07-09 13:04:38 | Weblog
昨夜はエンタテイメント科学研究会。最初にぼく自身がエンタテイメント科学についてどう考えるかについて話す。といっても,自分のなかで考えが整理されているわけではなく,話は支離滅裂になる。ともかく,思いついたいろいろな要素を並べてみて,各分野の専門家の反応を見ようと考えた。聞くほうはいい迷惑だったかもしれない・・・。

まず,マーケティング・サイエンスの2大潮流は普及モデルと選択モデルだという前提から,Bass model を紹介,そこから Eliashberg らの映画の興行収入予測モデルの話へ。そして突然 Salganik, Dodds, Watts の実験を紹介。エンタテイメント市場でクチコミやレビューによる社会的相互作用が重要であることはいうまでもないが,それが成果の不均質性・不確実性を生み,予測を非常に困難にすると。・・・ここまではまあ,それなりのストーリーがあるといってよいだろう。

次に選択モデルへ。この分野の大物として McFadden の名前をあげ,モデルの概略に触れるやいなや,すぐにこのモデルをエンタテイメント市場に適用するときの問題として,(1) 属性の非線形性・全体性,(2) 選択集合の肥大化・無限定性,(3) 社会的相互作用,(4) 選好の動的変化と不安定性をあげる。そして,自分自身の研究をひとつぐらい,と (3) に関して,消費者間影響関係を考慮したシャンプー購買行動の分析を紹介。これも,そこだけ取り出すと1つのお話しにはなっているが,最初の話との結びつきははっきりしていない。

3番目に,効用概念が変わりつつあると述べて,Kahneman らによる即時的-客観的-基数的効用の研究を紹介。エンタテイメントの評価に対する可能性を示唆する。といっても,仮にそれを計測したとして,何の役に立つのか,といったあたりは何も考えられていない。そのあたりは,コンピュータ・サイエンスを専攻されている西原先生から「柔らかな」突っ込みがあった。そして,この話と選択モデルの関わりはあいまいで,社会的相互作用の話ともつながっていない。

計量経済学を専門とする原田さんからは,選択モデルの適用限界や基数的効用の意義について,いろいろ建設的な補足をしていただいた。最近よく思うことだが,若手の経済学者のなかで非常に柔軟で守備範囲が広い人が増えている(それが多数かどうかは知らない)。彼らがマーケティングや経営学との境界領域に出ていくことで,そうした研究が活性化するのではないかと期待したい。一方,マーケティング研究者はウチに引きこもっていてはだめだ(自戒)。

ぼくのあとは,星野研の M2 中谷さんがゲームソフトのリコメンデーションについて報告。ソフトへのレビューをネットから集めてテキストマイニングし,Shultz の経験価値の類型と対応づけることで,ユーザの嗜好とコンテンツのマッチングを図っている。発表のあと,この方法が従来の協調フィルタリングを超える力を発揮するかどうかが議論となった。実際に比較してみれば,とそのとき軽い気持ちで発言したが,よくよく考えると,利用可能なデータ等の資源に限界がある大学でそれを行うことはそう簡単なことではない。

ゲームに詳しくないぼくにとって,この市場にもテールらしき分野があり,リコメンデーションが力を発揮する可能性がわかったことだけでも勉強になった。購入履歴にしろレビューにしろ,データが非常に少ない「テールの先っぽ」のリコメンデーションは技術的に難しい。Marketing Science Conference で聴いた研究のように,リコメンデーションが消費者の選択の幅をマクロレベルでは狭めている,ということにならない仕組みが望まれる。

話を元に戻そう。エンタテイメント領域で何を研究すればいいのか? オーソドックスな選択モデルを,パッチワーク的に活用する余地はまだ残されている。だが,もっと「深い」レベルへいきなり飛んでしまうという手もある。感性工学の研究者たちがエンタメを享受している最中の感情を測定するのだとしたら,もっとスケールの長い生活時間,あるいは生涯における選好の変化を調べることも考えられる。異なるタイムスケールでの選好の形成プロセス・・・ それを考える理論的枠組みがないものか。

広島ファンの潜在力

2008-07-08 14:10:36 | Weblog
マツダオールスターゲームのファン投票で,何と広島カープから3選手がファン投票で選ばれた。セ・リーグでは,首位独走中の阪神タイガースからは4人,巨人からは2人,ヤクルトと横浜から1人,中日からは0人。つまり,「あの」巨人を抜いての堂々の2位なのだ!

 先発投手 高橋 建  168,136票
 二塁手  東出 輝裕 279,873票
 外野手  前田 智徳 317,170票

驚きは高橋健投手が選ばれたこと。ファン投票で選ばれた投手としては,史上最年長(39歳)らしい。「中年の星」としての活躍が選出の理由かもしれない(・・・最近の成績はいまいちとはいえ)。もちろん,他の部門に比べて,選手間で数字が大きく割れたことも幸いしている(とはいえ2位は「われらが」ルイス・・・しかも彼は「選手間投票」で1位に選ばれている)。悔しいのが一塁手の栗原健太だ。31万票獲得したが,新井貴浩に僅差(1.5万票差)で敗れた。

広島の選手が多く選ばれたのは,今回のオールスターのスポンサーがマツダであることが影響したのだろうか? いうまでもなく,マツダは現在,広島東洋カープの親会社ではない! 多少の動員があったとしても,それが大勢に影響したとは思えない。むしろ,広島ファンは想像以上に存在して,それが何らかの理由で活性化されたと解釈したほうが妥当であろう(何をいっても身びいきになるが)。

だが,もう一つの大きな理由は,現在リーグ戦で2~3位に位置する中日と巨人のファンが全く燃えていないことだろう。それに比べ,パ・リーグは全体に盛り上がっている。セ・リーグでは阪神がダントツに独走していることもあり,それ以外のチームのファンがしらけきっている。だが,なぜか元気な広島ファン・・・。かつての阪神ファンのように,勝ち負け以外の楽しみ方を覚えるようになったということか。

それにしても広島球団は,(ふだん市民球場にはあまり来なくても)このようにしぶとく応援してくれる(潜在的な)ファン層が小さくないことを見据えて,そこから大きな価値を生み出す投資にぜひ積極的に取り組んでほしい(それはすでに進行しており,来年オープンする新球場で花開く,というサプライズを期待したい・・・)。いや,その前に,あわよくばクライマックス・シリーズで・・・(といってもチームはこれまで,絶対に5割を超える気がないかのような戦いぶりだ)。

「格差」「階層」本溢れる

2008-07-06 22:12:07 | Weblog
自分の主要な研究テーマではないが,細々と関心を持続させているのが「格差」「不平等」「階層」に関する研究だ。一つには,この分野は社会学にしては計量モデルが積極的に使われていて,個人的に親しみやすいことがある。だがそれ以上に大きいのが,昔からこの問題に関心があることだ。それはおそらく,中学生になるかならないかの頃だから,マーケティングや消費者行動よりはるか昔に関心を持ったことになる。

このテーマに関して,戦後の主な論文を集めたというリーディングスを購入,つらつら眺めてみる。さすがに第1巻(1945~1970年)には思い出深い論文はない。だが第2巻(1971~1985年)ともなると,岸本重陳氏や村上泰亮氏といった「懐かしい」論客の名前を目にすることができる。実際,70年代後半から80年代前半は,いまより多少は本を読んでいた時期だ(といっても社会学者からみれば,何も読んでいないに等しいが・・・)。

第2巻で面白いのは「学歴への関心」という章が設けられ,その筆頭に盛田昭夫「学歴無用論」(1966年)が取り上げられていること。教育社会学者たちの論文で掲載されているのは,その10年後あたりに発表されたものばかりだ。教育の問題は,第3巻(1986~2000年)でも一章が割かれている。第3巻でぼくが読んだ記憶があるのは,佐藤俊樹氏の「不平等社会日本」(2000年)。だが社会学の世界では,世間の「ブーム」とは関係なく,連綿と研究が続けられてきた。

リーディングス戦後日本の格差と不平等 1 (1)

日本図書センター

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リーディングス戦後日本の格差と不平等 2 (2)

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リーディングス戦後日本の格差と不平等 3 (3)

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2000年以降の研究動向を示すのが,以下の本だろう。分析に多項ロジットモデルが使われていたりして,個人的にはより親しみを感じやすい。もっとも,分野が違うことで,おそらく本質的には同じ手法が別の進化の経路を歩むことになる。そうした違いを見つけることもまた愉しみである。ただ,手法が高度に発達した分,一般の読者には近づきにくくなっているかもしれない。

講座社会学 13 階層

東京大学出版会

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研究室の書棚の一角が,社会学関係の本に当てられているが,そこは完全にオーバーフローしていて,これ以上収納できるスペースはない。経済学の本は思い切って処分できるのに,社会学の本はできないのはなぜだろう? 門外漢だから残すか捨てるかの選別が難しいからか,読む「コスト」が低いので将来読む可能性が高いと判断しているのか・・・。それとも実は(計量)社会学が「好き」ってことなのか・・・(だったら,なぜ優先的に読まないのか?)

考えられる動機の一つは,おそらく近い将来,自分の人生を振り返るとき,社会学における良質の実証研究から教わることが多いと期待しているということだと思う。なぜなら,家族のこと,学校のこと,職場のこと・・・等々を振り返るとき,ぼく自身はそれをできる限り一般化・抽象化して理解したいという変な欲望と持つからだ。そのとき役に立つのが社会学なのだ(・・・ということで,当面きちんと読まない理由が完成)。