Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

Amazonランキングの謎

2011-06-30 21:06:05 | Weblog
アマゾンでは「ロングテールビジネスは成立していない」ことが数理モデルによって証明されたと聞くと,このテーマを研究課題の1つにしているぼくとしては心穏やかではない。実はアンコナに行ったのもそのためだし,この週末さる学会でそのことを発表することになっている。これは大変なことだ。

確率論と数理物理学を専門とする本書の著者は,アマゾンのランキングがどうやって決まっているのかという素朴な疑問を抱く。本書でも例に出されるように,過去すべての累積なら聖書がトップになるはずだし,最近1週間の売上順位ならあまりに短期的だし,確かにどうやっているか不思議である。

そこで著者は,いくつかのサンプルについてランキングの時系列変動を見てみる。するとそこに一定の規則性があることに気づく。それを再現するシンプルな確率モデルを構築することで,アマゾンのランキングは驚くべき原理で「説明できる」ことが分かった(これ以上はネタバレなので秘密)。

Amazonランキングの謎を解く―確率的な順位付けが教える売上の構造 (DOJIN選書)
服部哲弥
化学同人

著者の分析はランキングの計算方法にとどまらず,ロングテール・ビジネスモデルへと及ぶ。まず,アマゾンのランキングを単純に売上部数の順位とみなした従来の研究が否定される。著者の方法で推定された売上分布のもとでは,テールのアイテムは,実質的にほとんど売上に貢献していない。

著者はそのことを歓迎しているわけではない。つまり,アマゾンのような巨大オンライン書店でさえ,利益の観点からは理数系の専門書を扱うインセンティブがなくなってしまうのだから。では,アマゾンは利他的な動機で,あるいは無知によりそのような儲からない事業をしているのだろうか?

ぼくの答えはノーである。そもそも,始祖の Anderson がアイテム別の売上分布と費用構造だけからロングテール・ビジネスモデルを提唱していることに,疑問を感じているからだ。ぼく自身は,顧客サイドをもっと深く眺めることでロングテール・ビジネスの成立要件を問えると考えている。

本好きは品揃えで本屋を選ぶので,売れ筋だけ並べた本屋には行かない(だが,彼らも売れ筋をたくさん買う)。つまり,優良顧客への CRM という視点が重要だと。詳細は,実証分析の結果を今週土曜のダイレクトマーケティング学会で発表するので関心ある方はぜひお越し下さい(^^)
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特許情報のテキストマイニング

2011-06-29 22:53:56 | Weblog
河野康成,中山厚穂両先生より最新の著書をご恵送いただいた。本書は表題の通り,単なるテキストマイニングの本ではなく,特許情報のテキストを解析することで企業の技術経営を深めることを狙った,優れた経営書でもある。イノベーションの研究者にとって,学ぶところが多々あるはずだ。

この本を眺めていると,技術経営やイノベーション研究の専門家と,マーケティングあるいはデータ解析の専門家がコラボレーションすることの1つの可能性が見えてくる。一方が得意とするアプローチを他方へ全面的に展開してみると,けっこう予想外のことが見えてきたりするのではないか。

個人的に少し驚いたのが,執筆者のなかに西山賢一先生の名前を見つけたことだ。西山先生は元々生物学の研究者であったが,その後イノベーションの進化経済学的な研究に転じられた。本書を通じて,現在も若い研究者とともに最先端の研究に従事されていることを知り,大変うれしく思った。

本書には,テキストマイニングのツールとして Text Mining Studio と R がそれぞれ詳しく紹介されている。前者は高額な専門ソフトだが,一定期間試用することができるらしい。辞書作りや結果の視覚化など,専門ソフトが力が発揮する余地は大きい。Mac 版が出てくればうれしいのだが・・・。

特許情報のテキストマイニング―技術経営のパラダイム転換
豊田裕貴,菰田文男(編著)
ミネルヴァ書房

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ESHIA/WEHIA2011 続き

2011-06-28 20:08:52 | Weblog
6月23~25日は,ESHIA/WEHIAの本大会。基本的に3つのセッションが同時並行で進む。その合間に,この分野の大物の先生方による基調講演がある。いずれも,エージェントベース経済学や経済物理学の達成点について概観できる,優れた講演であった。いくつかを簡単に紹介しておく。

Rosario N. Mantegna (University of Palermo)
“Statistically Validated Networks in Financial and Economic Systems”

この方は経済物理学の入門書(以下)を Stanley と共同執筆しており(邦訳は廃刊のもよう),経済物理学の開拓者の一人のようである。今回の報告は,昨年発表された論文に基づき,2部グラフに対して統計的妥当性を調べる方法を提案するもの。Validation ということばに惹かれる。

Introduction to Econophysics: Correlations and Complexity in Finance
Rosario N. Mantegna and H. Eugene Stanley
Cambridge University Press

Alan Kirman (GREQAM)
"Economic Theory in Crisis”

今度は経済学サイドの超有名な研究者で,元々数理経済学のど真ん中で研究してきたが,いまはエージェントベースの経済学を推進する側に立つ。講演の標題からわかるように,正統派の経済学に厳しい批判を加えている。今回の報告内容が詳しく書いてあるという近著は必ず読みたい。

Complex Economics: Individual and Collective Rationality (The Graz Schumpeter Lectures)
Alan Kirman
Routledge

Giovanni Dosi (Sant'Anna School of Advanced Studies)
“Heterogeneous Banks and Technical Change in an Evolutionary Model of Endogenous Growth and Fluctuations”

進化経済学の立場からイノベーションを精力的に研究でしてきた人で,個人的には何度も名前を目にする機会があった。今回の報告はエージェントベースモデルを用いた,しかもマクロ経済学を対象にしたもの。Schumpeter Meeting Keynes というコンセプト。Fagiolo も共著者の一人。

エージェントベースモデルをマクロ経済政策の提案に用いようとするのは,かなり野心的な試みといえる。しかし,マクロ経済を対象に研究をする限り,それはいつかは必ず通らなくてはならない関門だろう。個人的には Schumpeter Meeting Hayek とか Freedman とかを妄想してみたい・・・

Thomas Lux (University of Kiel)
“Modeling 'Animal Spirits' and Network Effects in Macroeconomics and Financial Markets“

この方は分類上は経済物理学者なのだろうけど,経済学もかなり深く理解している感じがした(とぼくがいうのは僭越だが)。最初は景気動向調査に Weldlich のオピニオンダイナミクス・モデルをあてはめるという話で,empirical validation の最前線の1つといえる。その論文は2009年に発表されている。

これに関連して,社会ネットワーク分析における Core-Periphphery(中心-周縁)構造の分析手法(実は初耳だった・・・)を使って,オピニオンリーダーを見つけ出そうとする最近の論文も紹介された。ぼく自身の現下の研究テーマから見てもかなり興味深い。

なお,一般発表も含め,北里大学の守先生のブログでより詳細かつ的確な解説がなされている(1日目2日目3日目)。ちなみに守先生以外にも,日本の経済物理学の第一線の方々が発表されていた。他方,前々回と違い,経済学や情報工学の研究者が日本から誰も参加していなかった(注)。

WEHIA は来年はパリで行われるそうだ。

(注)当地に留学中であった日本人ポスドク,浅沼さんのことを忘れていました。彼は東北大出身のマクロ経済学者で,エージェントベースモデルを用いた研究を行っておられます。

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ESHIA/WEHIA2011@アンコナ

2011-06-23 19:20:12 | Weblog
最初の2日はチュートリアルに参加。最初に聴いたのが,
Annick Vignes 教授による "Social and Economic Networks and Simulations" という講義だ。パリ第二大学の先生で,経済学の領域で社会ネットワーク分析を適用してきた方のよう。

講義は,経済現象におけるネットワークの実証分析をいくつか紹介したあと,ネットワークの基礎理論に進む。基礎理論の部分は,ネットワーク分析の教科書に書かれていることがほとんどだが,復習になったと前向きに受け止めよう。

その間参加者の何人かに自分の研究を発表させるが,これは制限時間がないので,玉石混淆(?)の話を聞かされてややうんざりしてしまう。しかし,これは,チュートリアルを一方通行にしないという教育的配慮なのだろう。

彼女のこの分野での研究業績は,ベンチャーキャピタル間の共同出資やマルセイユの水産市場のネットワーク分析である。それらが必ずしも経済学的な理由で生成されたわけではないことを,計量分析を通じて証明している。

加えて,彼女のサイトに書かれた,Twilight of the Idols : Some Results about a Champagne Experiment, Journal of Wine Research, 2008 とか Fashion, Novelty, Optimality: an Application from Physics, Physica A, 2005 とかいう論文も気になる。

2日目は,Giorgio Fagiolo 教授による "Agent Based Models, Simulation and Validation" という講義。 Agent Based Model (ABM) の経済学への応用では有名な研究者だ。講義は ABM とは何か,経済学への意義から始まる。

次いで,円環上の空間で局所的に相互作用するコーディネーション・ゲームが紹介される。その帰結は条件次第で複数の均衡が分布する。この一見理論上の話は,あとでメインテーマの Empirical Validation (EV) の議論につながっていく。

ABM における EV とは,シミュレーションの出力を観察データに合わせるという単純な話ではない。出力のどの部分を,データの何に合わせるかに様々な戦略があり得る。出力の単純平均が不適切な場合があることが前の例からも分かる。

Fagiplo 氏は様々な EV 戦略を認めながらも,対象に関する Stylized Facts (SFs) をまとめて再現する戦略を好んでいるようだ。最後に紹介された成長モデルについて,この分野で知られた SFs を再現しているかが検討されている。

彼のモデルは技術を島と見なし,イノベーションを航海と見なし,模倣を島での採掘とみなす,きわめて「寓話的」なものである。そうでありながら,適切なパラメタ設定のもとで SF を再現すことを示した点が大変興味深い。

問題は何が当該テーマの SFs かを認定し,それをシミュレーション出力をどのように処理したうえで比較するかなど,多岐にわたる。そもそもシミュレーションが収束した状態だけを見ることについても議論の余地があるはずだ。

ABM における EV の議論は奥が深く,ここではとてもきちんと論じきれない。以前から考えてきた問題が,今回こちらが尋ねるまでもなく提起され,議論されたことで自信が深まるとともに,さらなる挑戦への刺激も受けた。

その結果,これまで行ってきた研究の一部を否定することにつながりかねないと思う。しかし,それは仕方がない。やや大げさにいうと,これは科学とは何か,何のために研究しているのかという,非常に大きなテーマとも関わってくる。
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アンコナを訪れる

2011-06-21 02:36:21 | Weblog
エージェントベースモデルや経済物理学の研究者が集まる ESHIA/WEHIA2011 に参加するため,イタリア半島の東部にあるアンコナにやってきた。人口10万人の小さな街。この学会に参加するまで,その存在を知らなかった。

ミュンヘン経由でアンコナ空港に到着したのは夜の 11 時頃。少し不安ではあったが,空港からタクシーに乗り,NH Ancona まで約40ユーロ。丘の上のそこそこのホテルだが部屋は狭い(先日泊まった熊本のホテルよりも!)。

しかし,朝食の会場である港を見下ろすダイニングはなかなかいい。気を取り直して明日からお世話になる Faculty of Economics ... に出かける。ホテルから旧市街の真ん中を歩いて20分くらいの距離。中庭を囲む小さなキャンパスだ。

そのあと,アンコナ最大の(?)の観光名所であるサン・チリアーコ大聖堂を見に行く。大学からそう遠くはないが,坂沿いに街路が入り組んでいて,まっすぐには進めない。しかし,あちこちに案内板があり,そう迷うことはない。



そこから下界を眺めると,下の写真のような風景が見える。港にはクルーズ用のけっこう大きな船が停泊している一方,見た目あまり美しいとはいえない倉庫が乱立している。この街は,どんな位置づけにある街なのだろう?



市内を歩き回っている過程で,日本人らしき姿は一人も見かけなかった。確かに,ローマやフィレンチェほど見所がいろいろあるわけではなさそうだし,丘の上の大聖堂もそう印象的なものではなかった。ここまで来る日本人観光客は,かなりのイタリア通だろう(そう思わせるブログを発見)。

明日からは,丸一日をかけたチュートリアルが2日間続く。うまく時差に適応できるかどうかが鍵。にしても,上に掲げた写真は iPhone 3G で撮ったもので,その画質はさすがに劣る。iPhone 5 が待ち遠しい。
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「菅政権、失敗の本質」

2011-06-19 01:28:43 | Weblog
菅首相が辞めるとか辞めさせるとか揉めていたのがだいぶ以前のように思える今日この頃。VOICE 7月号は「菅政権、失敗の本質」という特集を組んでいる。その巻頭を飾るのは組織論の世界的権威・野中郁次郎教授の論文。タイトルは「リアリズムなき政治家が国を滅ぼす」である。

Voice (ボイス) 2011年 07月号
PHP研究所

野中氏は冒頭で,震災後,執筆者に名を連ねる『失敗の本質』が売れたことに触れ,第二次大戦における日本軍と菅政権の「失敗」の共通性に多くの人々が気づいているのではないかと指摘する。具体的にいうと,それは大局的な戦略の欠如,そしてリアリズムの欠如であるという。

菅政権にどのような戦略があるのか,確かにはっきりしない。場当たり的に動いているように思える。なるほどなあ・・・と思って読み進めると、突然「菅政権のイデオロギーとはやはり、マルキシズムであろう」という一文に出くわす。このあたりから,いろいろ謎が深まっていく。

野中氏は,菅政権はマルキシズムの理想主義を引き継ぎ,実践におけるリアリズムを欠いているという。ところがその直後,鄧小平以降の中国は表向きはマルキシズムを掲げながら,実際にはプラグマティズムを貫いていると賞賛される。結局,リアリズムが重要ということなのか・・・。

では,なぜ菅政権はリアリズムを欠いているといえるのか。野中氏が挙げる証拠は,浜岡原発の停止が突然決まったことである。「原子力は悪だから、即停止」という考え方が批判されるが,菅政権の意思決定がそのようなものであったという事実が示されているわけではない。

菅政権の「失敗の本質」について,菅政権の中枢で実際どのようなプロセスがあったかを緻密に実証することなく,一方でチャーチルや鄧小平の偉大さが何度も強調される。印象操作としてはともかく,組織研究としての知見を見いだすことは,浅学のぼくには非常に難しかった。

だが,このことは若い研究者にとって好機到来ではないのか。「菅政権の失敗」(あるいはもっと広く「民主党政権の失敗」)について,事実に基づきながら何が起きたのかを解明し,そこから何を学ぶべきかを考究していく仕事が今後に残されたのだから。
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WIRED 復刊!

2011-06-16 23:06:09 | Weblog
復刊した WIRED,三省堂書店本店では平積みされることなく,発売から1週間も経たないうちに店頭から姿を消していた。同店としてさほど売れないと予測してあまり入荷しなかったのか,取引条件その他の要因があったのか知る由もない(現時点で amazon には在庫あり)。

個人的に WIRED は非常に懐かしい本だ。90年代,当時の職場の1階にあった本屋でよく買った(もちろん日本語版を!)。そこにはメディアの未来について,当時最も進んだアイデアが書かれているように感じていた。よく考えれば,その頃 Google なんて会社は存在しなかった。

WIRED VOL.1
(GQ JAPAN2011年7月号増刊)
コンデナスト・ジャパン

WIRED のコンセプトからすれば,それが紙媒体として復活するのは皮肉にとれなくもない。しかし,地下鉄のなかで復刊した WIRED を眺めていると,かの iPad2 もまだまだこの感覚を伝えきれないな,と感じる。それだけの楽しさ,美しさ,知的な刺激をこの雑誌は持っている。

いくつかの「論争喚起的」な記事のなかで,ぼくの見る Twitter のタイムライン上で最も話題になっていたのは「『ソーシャル』という罠ープライバシーが消えていく」だと思われる。過剰なペダンティズムに彩られた文体は,ぼくにとってある種の懐かしさを感じさせる。
 ザッカーバーグはベンサムの発案を,究極の形態まで推し進め、その結果プライバシーというものを歴史的遺物へと追いやるパノプティコンを生み出している?あるいは、ベンサムの流儀でいえば、Facebook は、「最大幸福の目録」をつくりあげているといえるのかもしれない。そこでは、地球上のあらゆる感情が数量化され,ソーシャル情報化社会の経済圏において、ソーシャルメディアは中央銀行の役割を果たすことになる。
 ソーシャルネットワークは罠なのだ。神をも恐れぬシリコンヴァレーの企業家たちと、理想主義的な共同体主義者たちによって推進されるこのカルト集団は、人間の条件について決定的に誤った信念に根ざしている。なぜならわたしたちは、本来がソーシャルな生き物ではないからだ。フェルメールの絵画がいみじくも描き出したように、人間の幸福は、実際は、社会から放っておかれることにあるのだ。
本当にそうなのか?こういう一見奇をてらった,生硬な主張によって様々な議論を喚起することこそ,WIRED らしさといえる。人間はいかなる意味でソーシャルであり,そうでないのか?それをテクノロジーへの無知ではなく,熟知したうえで論議することこそ,WIRED 読者の愉しみといえる。

もう1つ,ぼくのタイムラインで話題になっていたのが「ぼくの iPhone が17人を殺したのか?」だ。中国で iPhone の部品などを製造しているフォックスコン社の工場で,2010年の3~5月に例年より多い数の自殺者が出たことを取り上げる。

著者は、従業員「100万人に対して17人の自殺者は、それほど多い数とはいえない」と書きながらも、「消費者の購買行動を煽るテキストを書き続けてきた身としては、規格外の罪悪感を背負わされた」と感じて現地へと取材に向かう。そこで彼が見たものは,どれだけ前近代的な労働の実態であったか?

このわかりやすい期待は、現地取材であっさり裏切られる。強いていうと10時間を越す労働時間が問題だというが,日本人から見れば,驚くような話ではない(だから正常だといってよいかは別にして)。米国人の正義感が引き起こす1つの典型的な結末かもしれない(大量破壊兵器は存在しなかった!)。

日本独自の企画として興味深いのは「WIRED 大学 新・教養学部必読書」に掲げられた50冊。ハッカー系から経済書,哲学書まで幅広い。このなかでぼくが「読んだ」本は5冊程度で,WIRED 大学への入学はとても無理。ただ「持っている」本はかなりあり,入学準備だけは怠っていない!
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「球場ラヴァーズ」に元気をもらう

2011-06-06 07:37:40 | Weblog
『球場ラヴァーズ』の第3巻を読む。昨年秋のドラフト会議から日本シリーズ,そして東日本大震災によるプロ野球開幕の延期までがカバーされている。大震災の直前,今年こそカープは優勝すると「断言する」基町勝子の姿に,その後の展開をすでに経験したわれわれは,背筋を伸ばさざるを得ない。

 集団で誰も想像できない未来に向かっている
 それが開幕

 人も自分も戦う前に決めちゃうのはやめやめ!

 毎年本気で信じて始めるの いいでしょ?

球場ラヴァーズ 3巻
(ヤングキングコミックス)
石田敦子
少年画報社

開幕以降のカープの大進撃がいかに彼女たちを喜ばせたかは,第4巻で描かれることだろう。そして交流戦・・・数年ぶりの貯金をすべて吐き出し,「いつもの」借金生活に入った現在の姿に,勝子たちが何を語るのか。失望や怒りを一度は吐露しつつも,いつものように前向きなことばが出てくると思う。

勝つことが約束された者しか応援しないというのは,つまらないことだ。起きそうにないことが起きたときほど,快楽の度合いが大きい。交流戦までの戦いは,少なくともここ十年近くの範囲では進歩であった。そうして一歩一歩前へ進んでいくしかない。どのみちファンを辞めることはないのだから。

第4巻が楽しみだ・・・。
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人工知能学会「仕掛学」@盛岡

2011-06-03 22:38:31 | Weblog
盛岡で開かれた人工知能学会全国大会に参加した。東京を発ったのは,授業の関係で昨夜の夜8時。盛岡行きの終電は出たあとなので,仙台で一泊して,今朝早く盛岡入りした。学会は最終日であったが,ぼくの参加した「仕掛学」セッションには,かなりの数の聴衆が集まっていた。

オーガナイザーの阪大・松村真宏さんによる導入,同研究室周辺での研究の報告のあと,「仕掛学」という旗印の下集まった研究者たちから研究発表が続いた。電子メディア環境でのコミュニケーションを分析した研究,少数の実験参加者が克明に自己の(メタ)認知を記録する研究,などなど。

このセッションは Ustream で中継されたほか,ハッシュタグを設けて Twitter 上でも議論された(まとめはこちら)。仕掛学とは何か,そこに何を求めるかには様々な意見がある。フロアからも,単純に行動を変えるというだけでは範囲が広すぎるという懸念が出された。これらは期待の裏返しでもある。

ぼく自身は「選好形成と行動誘導』という報告を行った。博士論文で行った選好形成モデルに関するサーベイをベースに,無意識や社会的相互作用という(自分的に)最近の話題を補足して,概念的な枠組みを提案したもの。無意識的な選好,意識的な選好,社会的相互作用の三層構造で整理した。

それがどの程度の反響を呼んだかは,上述の togetter の14:30-40ごろのツイートを見ていただけばわかる。ごく一部の方の関心を惹いただけであったが,これは想定内であった。恐縮ながら,今回は自分自身の研究の道程を整理するために,発表の機会を利用させていただいたといえる。

驚いたのが,名古屋大学の上野ふきさんによる「マルチエージェントシステムを用いた社会の自律的形成」という発表。タイトルこそありがちだが,内容は哲学者ライプニッツの「モナドロジー」のモデル化に挑んだもの。型破りな発想で,細かい点はともかく,今後の発展が非常に楽しみだ。

そのあと「人と環境にみる高次元のデータフローの生成と解析」を聴講。途中からなので流れはよくわからなかったが,有名なアンドロイド研究者・石黒浩先生の研究者は変態であるべきだという発言や,人工生命の池上高志先生の,捨てられがちな例外事象に目を向けよという発言に刺激を受ける。

このセッションは定刻を超えて続いていたため,主催者から早く終わるようにとの要請があった。その直前,高次元データを扱うツールとしてニューラルネットワークが話題に出た。それは数理的な精緻化に進んでしまったために,本来の可能性を失ったという議論になった瞬間,セッションは終了。

石黒先生の,コンビニエンスストアの全アイテムのデータをニューラルネットに食わせて,そこからパタンを発見させるぐらいのことをしたらどうなんだ,ということばが印象に残った。そういうことを,グーグルなら本気でやるかもしれない・・・。自分の「研究-変態度」の圧倒的不足を痛感する。
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商業学会@熊本学園大学

2011-06-01 09:03:14 | Weblog
5月28~29日に,熊本学園大学で開かれた日本商業学会の全国研究大会に参加した。おそらく10数年ぶりに訪れた熊本は,台風のおかげで雨に祟られはしたものの,大きなアーケードに商店街のある中心街の移動はさして困らなかった。おかげで馬刺や熊本ラーメンも楽しむことができた。

今回参加した主目的は,生稲史彦さん(筑波大学)との共同研究「消費者インサイトをいかに獲得するか~あるクリエイティブ・エージェンシーの取材に基づく考察~」を発表することである。日曜最後の枠のせいか聴講者は少なかったが,何人かの方から質問,コメント,励ましをいただいた。

この研究は,世界的に著名なクリエイティブ・エージェンシーである W+K 社のクリエイティブ/プランナーの方々から,インサイト獲得の方法論や人的ネットワークの影響を取材したもの。ぼくとしては,事実上初めて挑む事例研究だが,突っ込みもまとめもまだまだであることは深く自覚している。

事例研究の難しさの1つは,少数例からどこまで「一般性」を引き出せるかにある。良心的な研究者ほど事例の個別性を尊重し,一般化には慎重だと考えられる。しかし,事実だけを延々と連ねたような発表は面白くない。われわれの研究も現状では「大きな絵」を描くにはいたっていない。

商業学会は4~5トラックが同時に走る。今回,ぼくが聴いた報告のなかで特に刺激を受けたのは,松井剛先生(一橋大学)「言語とマーケティングの相互作用を通じたリアリティの形成:構造的二重性に着目して」と小野譲司先生(青山学院大学)「顧客感動(Customer Delight)の研究」だ。

この2つに共通するのが,ことばの問題を取り上げている点だ。松井さんは集合現象としてのことばの意味に注目する。たとえば「雑貨」「癒し」といったことばの意味の変化が,共起語の分析などにより示唆される。松井さんはさらに,そこにマーケティングが介在している可能性を指摘する。

だが,マーケティングが集合現象としてのことばを完全支配できるわけではない。そこで,社会学における「構造的二重性」という概念が紹介される。ことばが没個性化し,自明視されるプロセスを普及の説明要因としようとする試みだと理解したが,その内実は難解で,ぼくには付いて行けなかった。

小野さんは,サービス・マーケティングの重要な研究課題の1つである顧客感動(Customer Delight)を取り上げる。それは強いポジティブな感情であるが,それを生理反応として計測する以上に,感動体験の記憶を調査して分析することの意義を説く。ここでも,ことばの役割が重要になる。

そうしたことばを収集するため,小野さんは,電通リサーチとカーディラーに対するサービス体験を調査した。得られた感動体験の自由回答を整理し因子分析にかけると,「感銘」と「歓喜」の2因子が見いだされた。それぞれ顧客満足,ロイヤルティ,推奨などの成果変数に異なる影響を与えるという。

この分析に先立ち行われた,サービス・マーケティングと感情心理学の研究動向に関するサーベイも非常に勉強になった。いうまでもなく,感情の役割は消費者行動研究においてますます重要になりつつある。小野さんの研究は近々論文として発表されるようなので,それを楽しみにしたい。

同じ時間帯に発表されていた廣田章光先生(近畿大学)の「『エクストリーム・ユーザー』発見枠組みとリード・ユーザー」を聴くことができなかったのが残念である。製品開発の先端動向に事例研究で迫る廣田先生の研究は,ぼくが商業学会に出る楽しみの1つであったのだが・・・。

初日に行われた「製造業再生とマーケティング理論」に関するシンポジウムは時宜を得た企画であった。MOTやグローバル・マーケティングの専門家である,伊藤宗彦,大石芳裕,黄磷の各先生によるセッションは,狭義のマーケティングの範囲を超えた議論が行われて興味深かった。

若い研究者たちとの交流を含め,なかなか楽しい時間を過ごした。今週末は盛岡で人工知能学会,6月下旬にはイタリアはアンコーナで WEHIA/ESHIA,そして7月に入るとDM学会がある。タイトな時期が続く。
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