Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ハイダーの悪魔

2006-12-06 22:14:03 | Weblog
人間関係が複雑化するのは,三者関係が成立するときである。そのことを最も端的に示したのが,有名なハイダーのバランス理論であろう。ぼくが最初にそれを知ったのは,もはや廃刊となった仁科貞文『広告心理』であった(学生時代,金に困って友人に売ってしまったことを,いま痛切に後悔している)。

自分の好きな女性が阪神ファンであったとしたら,バランス理論によれば,自分も阪神ファンになるか,阪神ファンになれないので彼女をあきらめるしかない(大人の知恵としては,野球を知らないことにして,そもそも三者関係が生じないようにするという手もあろう)。

そう簡単にいかない場合もある。男女の三角関係・・・太郎も次郎も花子が好きならば,太郎と次郎はお互いに好きになるだろうか? 相手が手の届かないセレブであればともかく,身近な存在だとあり得ないのではないか。だが,別の経路でバランスがもたらされるという解釈も可能だ。いずれにしろ,三者関係から生じるジレンマを「ハイダーの悪魔」と呼んだらどうだろう。

研究室の学生が,卒論でハイダー的な関係を組み込んだシミュレーションに取り組んでいる。社会というものは,二人ではなく,三人揃ったときに生じる。友達の友達は友達かを問うクラスタ係数は,社会ネットワーク分析の重要な概念だ。ハイダーの悪魔が連鎖していくとどうなるのか,どう制御すべきなのか,非常に面白いテーマのはずなのだが・・・。

追記:調べてみると,最近でもこの原理を扱った研究は多数あるようだ。MATLABでの分析ツールまで公開されている。