Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

望月三起也を懐かしむ

2019-02-22 15:33:45 | Weblog
『文藝』別冊の「望望月三起也 生誕80周年&『ワイルド7』50周年記念」号。望月三起也の代表作「ワイルド7」は1969年から79年まで少年キングに連載された。それを懐かしいと思うのは当時の10代だろうから、いまや60代に達している。この本は少年時代を振り返る契機になる。

自分にとっては、散髪屋でよく読んだという記憶がある。もちろん本屋で立ち読みしたり、たまに買ったかもしれないが、相当きちんと連載をフォローしていた。50年近く前とはいえ、いま読み返しても絵柄や話の展開をよく覚えている。それだけ少年にとって刺激が強かったのだろう。

望月三起也 生誕80周年&『ワイルド7』50周年記念 (文藝別冊)
河出書房新社

なんせ警官が超法規的に犯罪者を撃ち殺して回る話なので、明るい少年漫画の世界では異色だったかもしれない。一応警官とはいえ、当時の世相を反映して、反戦運動をしていたヒッピーがメンバーにいたりして「反体制的な」フレーバーもあった。清々しい荒唐無稽さに満ちていた。

その後、断続的に続編が描かれた。そちらはあまりフォローしていないが、「グラマーな」美女が強調され、アダルト向けに進化した(それは読者の加齢に適応した進化なのだろう)。といっても基本はアクションに色を添える程度のチラリズムであった(本書・安田理央氏の寄稿参照)。

望月三起也は自分の作品を「劇画」とされるのを嫌ったという。そこでの漫画と劇画の違いは何だろうか。池上遼一の劇画も物語の荒唐無稽さでは負けていないが、その一方で人物や情景のリアルさを追求している。漫画とはそうしたリアルさを否定する、と考えればいいのだろうか。

拳銃や戦車や戦闘機が好きで、戦争ごっこをして遊び、少し大人になるとクルマやバイクにハマり…という少年は昔はいっぱいいたと思うが、いまはどうなのだろう。それほどでもない、とすれば望月三起也的な世界が若い読者を獲得するのは難しい。ジジイたちが愛し続けるしかない。

マーケティング・モデルとAIの架橋

2019-02-19 13:43:14 | Weblog
マーケティング・サイエンスの世界でも機械学習を用いた研究が増えているが、マーケティングの実務では、機械学習(あるいは広義のAI)の普及はもっと急速かもしれない。それを担うのはマーケティングの現場で増えている理工系の学位を持つデータ・サイエンティストだ。

しかし、機械学習等で開発された汎用的なデータ解析手法が席巻すると、独自に研究を蓄積してきたマーケティング・サイエンスの居場所はなくなってしまうのではないか…本書を眺めるとそれが杞憂であることがわかる。選択モデルにも然るべきスペースが与えられている。

AIアルゴリズムマーケティング
自動化のための機械学習/経済モデル、ベストプラクティス、アーキテクチャ (impress top gear)
IIya Katsov
インプレス

本書の冒頭では、マーケティングの自動化・最適化(原題を直訳すると「アルゴリズミック・マーケティング入門」)の歴史的背景の1つが、オペレーションズ・リサーチを源流に持つマーケティング・サイエンスであることに言及している。そこは類書にない特徴だと思う。

著者はデータ解析を専門とする実務家である。アルゴリズミック・マーケティングの様々な適用場面について、様々な手法を基本的な数式をきちんと示しながら解説している。その意味でデータ・サイエンティストだけでなく、マーケティング・サイエンティストにも勉強になる。

選択モデルや生存時間モデルを紹介し、価格設定からカテゴリーマネジメンやイールドマネジメントといった話題まで取り上げるという奥の深さから、マーケティング・サイエンス(あるいは経済学)の研究者がこの領域で仕事をするときの参考書にもなる。役立ちそうな予感。

ワインの知ったかぶりはやめよう

2019-02-06 18:41:14 | Weblog
ワインは栓を抜いたらなるべく早く飲むべし…ずっとそう思い込んでいた。だから本屋で「3日目のワインがいちばんおいしい」という書名の本に出会ったとき、大いに興味を惹かれた。これまで信じてきたことが間違いなら、早くそれを正して、残りの人生を楽しまなくてはならない。

肉には赤ワインで魚には白ワイン、赤を飲んだあとに白を飲むのは邪道、ロゼは何となく中途半端な存在…そうした思い込みもあった。本書は、そうした思い込みの誤りを教えてくれる。肉といってもいろいろ、赤といってもいろいろ。そこで飲食にもクリエイティビティが求められる。

それは凡人にとっては大変なことでもある。親切な著者は、こうしておけば間違いないという新たな定石を教えてくれる。それすら覚えられない自分はどうすればいいか?とりあえずは、どうすればもっと美味しく飲み食いできるか、心でシミュレーションしてみるくらいは必要だろう。

3日目のワインがいちばんおいしい
渡辺良平
新星出版社

著者はフランスのワイナリーで働いた経験もあるワインショップの経営者。本書では徹底した顧客視線に立つ。ワインは好きだが、上から目線のワイン求道者にうんざりしている方にオススメの本。意味なくグラスを回したり、テイスティングのとき「うん旨い」とかいうのはやめよう。