Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

「後づけ再構成」するあなたは誰?

2015-03-04 19:50:01 | Weblog
JIMS部会を閉じるにあたり、大きなイベントを催した。かねてから念願していた、世界的に活躍されている心理学者・神経科学者のカリフォルニア工科大学・下條信輔教授をお招きし、日本のマーケティング・消費者行動の研究者・実務家を主な対象としたセミナーを実施した。

講演のタイトルは「ポストディクション、意識、自由意思」。ポストディクション(postdiction)とは字面の通り、prediction の逆。下條先生は、この普通の辞書には載っていない専門用語を「後づけ再構成」と呼ぶ。もちろん下條ファンなら、この概念はよく知っている。

講演は、視覚の実験の話から始まった。それはミリセカンド単位の、全く意識されない反応の世界だが、そこでの後づけ再構成が確認される。次いで視線カスケード、選択盲実験へと話が進む。時間スケールが長く、意識された世界でも(当然ながら)後づけ再構成が起きている。

2時間という時間に盛り込まれた話題はあまりにも豊かなので、いきなり最後の議論に飛ぶことにしよう。神経科学的な研究は、人間の意識が生理学的に必然であることを示し、自由意思の存在を脅かす。そのとき、いかにして自由意思の存在を救済できるのか、という問題だ。

下條先生は3つの回答を提示する。それらは代替的なのか補完的なのか、十分咀嚼できていない自分にはよくわからない。ただ、そのなかで語られた、自由意思がイリュージョンだとしたら、それはいつか消えるのではなく、つねに維持されるだろう、という指摘が印象に残る。

講演のなかで「無意識の意思」ということばもあったと記憶するが、「自分」が意識できないところに、意思なり選好なりの源泉がある。それを後づけ再構成している「自分」とは何なのか、進化はなぜそのような二重性を生み出したのか、ますます興味が深まっていく。

その意味で、講演のなかでも言及され、下條先生が翻訳されたリベットの本を読んでおかねばならない。また、短時間だったが、秋山さんとの共同研究についても厳しく、かつ奥深いコメントを頂戴した。この研究は意識の創発の問題と通底すると、楽観的に考えてみたい。

お忙しいなか登壇いただいた下條先生、また、このセミナーの開催にあたり全面的なご支援をいただいた構造計画研究所様に深く感謝いたします。そして、セミナーに参加いただき、議論に加わっていただいた皆様にも(←この謝辞もまた、後づけ再構成か?...^^;)。

マインド・タイム 脳と意識の時間
ベンジャミン・リベット(訳:下條 信輔)
岩波書店


サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代 (ちくま新書)
下條 信輔
筑摩書房