Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

インバウンド・マーケティング

2013-02-28 09:20:29 | Weblog
インバウンド・マーケティングとは何か? そのヒントは英文の副題に端的に示されている。Get Found,つまり「見つけてもらうマーケティング」ということだ。顧客が積極的に情報収集する時代では,こちらから見せつけようとすると相手はますます引いてしまうおそれがある。

インバウンド・マーケティング
ブライアン・ハリガン, ダーメッシュ・シャア
すばる舎

この本は,インバウンド・マーケティングの実践上のテクニックを細かく説明する。ブログの活用法,検索エンジン最適化,ソーシャルメディアへの参画,顧客管理,人材育成など・・・。出版後2年以上経っているので,なかには状況が変わってしまったノウハウがあるかもしれない。

しかし,大きな流れは変わっていない。オウンドメディア(自社メディア)やアーンドメディア(ソーシャルメディアなど)を駆使して顧客と対話する。これは大企業ならずとも(でないほうが?)実行できる。つい「マーケティングの民主化」ということばを思い浮かべてしまう。

「見つけてもらう」というのは一見謙虚な表現だが,巨額のマーケティング費用を持つ大企業を除くと,非常に野心的でかつ唯一可能な目標なのである。ただしその前提条件は,見つけた顧客にとって,そのサイトなりそこで提供される製品やサービスに飛び抜けた価値があるということ。

この本の著者の一人は,前回紹介した『リアルタイム・マーケティング』の著者とともに,あの『グレイトフル・デッドに学ぶマーケティング』の共著者の一人である。とはいえこの本は,他の2冊とはまた趣きの異なる本になっている。
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リアルタイム・マーケティング

2013-02-26 08:56:28 | Weblog
『リアルタイム・マーケティング』は昨年発売された,ソーシャルメディア時代のマーケティング・コミュニケーションを論じた本。同じ著者による『マーケティングとPRの実践ネット戦略』,『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』はすでに邦訳されている。

リアルタイム・マーケティング
生き残る企業の即断・即決戦略
デイヴィッド・ミーアマン・スコット
日経BP社

本書の最初に,有名な United Breaks Guitar の話が出てくる。ユナイテッド航空を利用中にギターを壊されが,同社から誠意ある対応を受けられなかったミュージシャンが,その怒りを唄と映像にして YouTube に投稿した。2009年の話だが,いまだに閲覧可能である。

この本で初めて知ったのは,負のクチコミが急速に拡散しつつあるとき,ユナイテッドが何も効果的な手を打たなかったことではない。壊されたギターの製造元の経営者が YouTube でメッセージを発信したこと,壊れにくいギターケースを宣伝する企業が即座に現れたことだ。

著者は主要な企業へアンケートを送り,それにどう反応するかでリアルタイムの対応力を評価する。そもそもそのための窓口が見つかりにくい企業もあるし,メールに対して自動化された返信をしたあと,なしのつぶての企業もある。対応のいい企業ほど株価が高いという。

ソーシャルメディアの時代には,企業は顧客との対話で後手に回ると命取りになりかねない。つまり,即時に(リアルタイムに)手を打たなくてはならない。そのためには,基本的につねに社会との対話の窓口を開き,当意即妙の対応ができる人材を配置しておく必要がある。

口でいうのは簡単だが実践はきわめて難しい。組織が大きいほどリスクや権限委譲を避けたがる。しかし,組織を代表して即時に顧客と対話する能力が必要とされる時代になった。これからのマーケティング・コミュニケーションを語るには,組織論の見識が欠かせない。
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科学の本懐@JIMS部会

2013-02-23 10:25:07 | Weblog
昨日の JIMS 部会では,経済物理学の水野貴之先生(筑波大学)から「価格比較サイトのエージェントモデル」,統計学・マーケティングの星野崇宏先生(名古屋大学)から「ポイントプログラムの長期効果 - 目標勾配仮説は成立するか」というご発表をいただいた。

お二人のバックグランドはそれぞれ物理学と心理学なので,どういう研究をよしとするかの志向性は異なっている。しかし,お二人の話を聴きながら,優れた科学的研究には共通点があると感じた。それを乱暴にまとめてみると,以下の3点に集約されるように思う。

(1) データから「不思議な」規則性を見つける。
(2) それを再現する数理モデルを構築する。
(3) それによってデータに隠された規則性を見いだす。

水野さんの研究では,(1)は価格比較サイトに現れる価格改定の規則性になる。たとえば,日別の価格改定する店舗数の自己相関,顧客の価格の順位に基づく店舗選択,平均価格や店舗数の時系列変動のランダムウォークと値崩れというカスケード現象などが摘出される。

(2)は,水野さんの研究では単純なルールに基づくエージェントベースモデルである。しかし,それによって観察された規則性の多くが再現され,(3)が実現する。このような手順で研究を進めることは,ぼくの知る限り,経済物理学ではかなり一般的のように思われる。

星野さんの研究では,(1)はポイントカード利用者の来店行動である。先行研究では,カードが満了に近づくほど来店間隔が短くなり,カードが替わるとリセットされると主張されている。しかし,選択バイアスの少ないデータで分析すると,別の規則性が見えてくる。

(2)は顧客の異質性を考慮した繰り返しのある生存時間解析モデルである。そこから,来店頻度がそう多くない一般顧客の場合,カードが2枚目以降になると来店間隔が定常化し,いずれかのタイミングで離脱が起きるというパタンが見いだされる。これが(3)である。

膨大なデータから単純な,しかしなぜそうなるのかが不明なため興味をかき立てられる規則性を引き出し,数理モデルを手際よく使って謎解きをする。これこそ科学的研究の王道であり,それをやりこなすのが名人だ。残念ながら,研究者なら誰にでもできることではない。

ただし,実際の研究スタイルには様々な違いがある。マーケティングサイエンスは主体の異質性に注目し,意思決定への含意を求めるが,経済物理学では個々の主体を超えた普遍性を追求する。その溝は簡単に埋まらないが,対論によってお互い得るとことはあるはずだ。

以下に,今回の発表者のご著書を紹介しておく。いずれも骨太の専門書である。

株価の経済物理学
増川 純一, 水野 貴之, 村井 浄信, 尹 煕元
培風館


調査観察データの統計科学
―因果推論・選択バイアス・データ融合
(シリーズ確率と情報の科学)
星野 崇宏
岩波書店
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MOS 経営

2013-02-20 08:30:41 | Weblog
月曜には丸の内ブランドフォーラムで,三菱ケミカルホールディングス社長の小林喜光氏の講演を拝聴。経済財政諮問会議のメンバーでもあり,いま最も注目を浴びている経営者の一人である。しかも,社会性の高い独自の経営手法を提案されている理論家でもある。

その手法とは,以下の著書にも書かれているが,

MOE: Management of Economics *
MOT: Management of Technology
MOS: Management of Sustainability

に時間軸を加えた4次元空間で経営を考えることだ(*著書では MBA 軸とされている)。これらのベクトルとしての KAITEKI 価値を高めることが目標とされる。特にユニークな軸は MOS だが,従来のCSRのように「足し算する」のでなく,新たな次元と位置づけられている。

地球と共存する経営―MOS改革宣言
小林喜光
日本経済新聞出版社

MOE は四半期,MOT は数十年,MOS は世紀の単位で評価されるという。そうなると MOS はお題目に終わりがちだが,三菱ケミカルホールディングスではこれらを指標化して,部門や個人の業績評価に反映させている。デミングではないが,計測なくして改善なし,である。

MOS は Sustainability(環境・資源),Health(健康),Comfort(快適)の3分野からなる。これらの目標に沿って,グループ企業に横串を入れることが課題である。小林社長は,画期的な科学的発見は出にくい状況にあり,シュンペーター的な新結合こそ必要だという。

小林氏は元々化学の研究者であり,イスラエルやイタリアに留学されたのち,当時の三菱化成に入社された。中央研究所で研究に従事されたのち,研究開発部門のトップを経ていまはグループ全体を統括する立場にある。バリバリの理系人間であり,その考え方は論理的である。

しかし,講演を拝聴した印象では,情熱的な方でもある。理性と情熱,長期と短期,夢と現実,それらを包含した上で実現に向かって企業を率いるには,非合理的な力が欠かせない。また,横串が刺せる人材には,いい意味での「いい加減」さが必要,という指摘も奥深い。

講演を聴きながら,最近,理工系大学院でリーダーシップや「教養」の涵養が議論されていることを思い出した。未来に向けたビジョンを持ち,タコツボに陥ることなく複数の技術を統合・融合して開発を行うプロジェクトリーダー・・・大学教育でどこまで養成できるのか?

そうした教育でも,いい意味での「いい加減」さが必要になるだろう。ところで,小林社長の言葉を借りると,モノづくりとコトづくりの中間ぐらいで日本企業は頑張るしかない。エンジニアだけでなく,技術に暗いマーケターにも貢献の余地はないのか?それは何だろう?
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価値づくりと共創

2013-02-18 14:41:11 | Weblog
延岡健太郎著『価値づくり経営の論理』を読んだ。2年前に出版された本だが,そこに示された問題意識はいまもまったく色褪せていない。いや,それどころか,いっそう重要になっているかもしれない。特に消費財企業において,典型的には電機産業において。

日本の製造業が付加価値率の低落傾向から脱却するために,著者は「ものづくり」から「価値づくり」への転換を提唱する。特に重要なのは,機能的価値より意味的価値だ。その模範として挙がるのが iPod や iPhone などアップル製品, BMW やポルシェである。

価値づくり経営の論理
―日本製造業の生きる道
延岡健太郎
日本経済新聞出版社

意味的価値は主観的だが,機能的価値は客観的である。野中郁次郎氏によれば,暗黙知がいずれ形式知化されるように,意味的価値は客観化され,機能的価値へと転化し得る。価値づくりで勝ち続けるには,新たな意味的価値をつねに生み出していく必要がある。

意味的価値はマーケティングでいう知覚価値と近い概念だが,「知覚」ということばは受け身な印象を与えると著者はいう。むしろ,サービスドミナントロジックのいう「価値共創」とみなすべきだと。「意味」は,顧客の参加なしには成立しない,ということだ。

iPod の話題から価値共創の議論へと進むあたりが,ぼくにとって最も興奮を覚える箇所であった。iPod やポルシェの意味的価値は顧客と共創されたと考えることで,ラマスワミらが展開した Nike+ に代表される価値共創論とは違う次元の議論を展開できるかもしれない。

本書はその後生産財における意味的価値について語り,さらに価値づくりのための組織能力を論じていく。そこはもちろん本書の白眉だが,ぼくには上述の問題提起が心に残った。ジョブズとぼくが何かを共創してきたなんて,何と素晴らしいアイデアだろうか!
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お奨め Kindle マーケ本

2013-02-15 08:54:57 | Weblog
Kindle Paperwhite 購入後,すぐに買ったのが以下の3冊だ。いずれもページ数はそう多くなく,100~200円程度の低価格。どれもマーケティング関係者には面白い内容で,電子書籍がどういうものか体験するのを兼ねて読むことをお奨めしたい(スマホでも十分読めます)。

最初の本は,日本において定性調査やクチコミマーケティングの草分け手存在であるドゥ・ハウスを率いる稲垣佳伸氏の著書。タイトルが示唆するように,消費者が語ったことを真に受けているのでは誤った意思決定をしてしまう。そのために同社が実践する工夫が紹介される。

消費者の意見を聞いてはいけない。
稲垣佳伸

1つ興味深かったのは,消費者やその接点にいる営業からネガティブな声を募ることに著者が否定的なことだ。それよりは,ポジティブな声を集めるほうが,新しい発想につながるという。これは社内の打ち合わせでも同じであると。この指摘には,目から鱗が落ちた。

次の本は,先ほどの本とタイトルが似ている。冒頭の「日本メーカーがAppleに負けっ放しの理由」という記事で,まさにタイトル通りの教訓が得られている。「自動車はできるのに、家電はなぜできないか?」という記事にも,まさにその通り!という気持ちになる。

素人の顧客の意見は聞くな 永江一石のITマーケティング日記
永江一石
プチ・レトル

著者の永江一石氏はウェブマーケティング分野で活躍するコンサルタントで,本書は氏のブログ記事をまとめたもの。視点や語り口が面白いので,以前からよく読んでいる。本書は全体にウェブ・マーケティングの話題が中心で,しばしば常識を覆す見方が提示される。

最後の本は少し異色かもしれない。アフィリエイトで儲けようとした著者の努力の軌跡が紹介されている。ここ数年,アフィリエイト広告を研究してきた者として大変参考になる。しかし,ある程度成功したにもかかわらず,著者は結局アフィリエイトを止めている。

アフィリエイトは儲からないからやめなさい
ブラッキー 原田

アフィリエイトには持続性があるのだろうか・・・。このブログもamazonのアソシエイト・プログラムに入っており,どなたかが上で紹介した Kindle 本を買えば,1冊数円の報酬になる。あり得ないことだが百人買っても百円ちょい。それでも続けているのはなぜだろう?

最後に全体の感想を一言。前出の稲垣氏がいうように、何百ページも費やさないで十分メッセージが伝えられる本はけっこう多い。そこで,これらの本のように非常にコンパクトなサイズで,数百円で買える電子本が「新書」の代替品として次々出版されるのを歓迎したい。
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Kindle 購入後2ヶ月

2013-02-14 10:18:27 | Weblog
Kindle Paperwhite 3G を買って約2ヶ月が経った。決して使い込んでいるわけではなく,まだまだ未知の部分が多いが,それでも徐々に自分の生活に浸透してきた。そこで,現時点で感じていることを整理しておきたい。

Kindle Paperwhite 3G
Amazon.co.jp
最初に,Kindle を買ってよかった点を挙げる。

・カバンが本で膨らむことがない
・厚い本を電車のなかでも読める
・どこまで読んだかが保存される(メディアを換えても)

特に最後の点。電車が混んでいて,かつ片手しか空いていないときは iPhone の Kindle アプリで読む。Kindle Paperwhite は片手で持てるが,スクロールにはもう一本の手が必要。スマホだと,機器を握った手の指でぎりぎりそれができる。そのときでも,読書の継続性が維持される。

一方で,Kindle Paperwhite というより,電子ブックリーダ全般の問題といえるのが,

・ブラウズして全体像をつかむのが難しい
・図表を一望できない

という点。これは,リニアに読んでいく小説や随筆の場合は問題にならないが,専門書の場合ときどき問題になる。詳しく見たり,配布したりするには印刷できればいいのだが,それが簡単にはいかないのも困った点だ。

・印刷はファイルのプロテクトを外さないと無理

これは素人には厄介だ。画面キャプチャは簡単にできるようだが,ページごとに印刷していくのはさすがに面倒くさい(印刷時の品質もよくなさそう)。そこを考えると,紙版も捨てがたい。大学教員の場合,研究費で購入した電子書籍をどうやって事務に検収してもらうかも頭が痛い点だ。

「ある大学」では,検収はクレジットカードの取引明細を提出する以外に Kindle 本体に格納された「本」を見せるか,奥付を印刷して提出するか,だという。「別の大学」では,画面を写真で撮って出すというのだという。技術の進歩に「規制」が追いつかない典型例といえるかも(苦笑)。

私的に買う小説や随筆,コミックの場合は,こうした問題とは無縁である。Kindle(ないし他の電子ブックリーダ)のほうが安く購入できるし,書棚の制約を考えずに購入できるという点でも非常に便利である。しかし,よくいわれることだが,

・まだまだ扱われている本が少ない

最近ぼくは,本屋で興味ある本を見つけると,iPhone の amazon アプリで Kindle 版があるかチェックする(紙版を買ったあと電子版が出たこともあるが)。なお,Kindle 版があると,在庫切れになることはないと思って買い控えることもある。これは出版社には好ましくない効果だろう。
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合理性の個人差

2013-02-12 09:01:07 | Weblog
行動経済学の創始者でノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』の基本的主張は,ファストなシステム1とスローなシステム2の分業で人間の意思決定がなされているというもの。システム1は無意識的で直感的,システム2は認知的で合理的な意思決定を司る。

この分類はカーネマンが考え出したものではなく,スタノヴィッチとウェストによる(とカーネマンの本にも書いてある)。そのスタノヴィッチ氏の近著を購入した。ウェストとの共同論文も収められている。彼らの関心は,合理性の個人差にある。そこがぼくの関心を惹きつけた。

Rationality and the Reflective Mind
K. E. Stanovich
Oxford University Press, USA

この本でスタノヴィッチは,システム2をさらに「アルゴリズム的」と「内省的」(reflective)に分け,後者が合理性を担うと主張する。ちなみに『ファスト&スロー』の訳書では reflective を「熟考」と訳している。どちらがニュアンスとして正しいかは原書を読まねばわからない。

したがって,アルゴリズム的には知的だが,合理的でないバイアスを持つ人間が存在し得る。このことは,現在進めている共同研究と大いに関連するかもしれない。ということで「今後読まねばならない本」リストに入れた。『ファスト&スロー』をまだ読み終えていないけど・・・。
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量子で囚人のジレンマを解く

2013-02-04 12:47:40 | Weblog
ゲーム理論が経済学,政治学,社会心理学などあらゆる社会諸科学に強い影響を与えてきたのは,とりわけ「囚人のジレンマ」といわれるゲームのおかげだろう。それは単純にして社会関係の本質を抉り出す洞察に富み,理論から実験まで,膨大な数の研究を生み出す泉になった。

囚人のジレンマゲームは,古典的な分析によれば,人間どうしに協調関係が成り立たないことを予言する。これはある意味「現実」に反するように思われるので,協調が持続的に成り立つことを証明することが多くの研究者の挑戦課題となった。その挑戦はいまも続いている。

そこに物理学者が量子力学という超難解な理論を引っさげて参入した。日経サイエンスの最新号に掲載された記事によれば,シュレディンガーの猫ならぬ囚人が,協調と裏切りを「量子的に重ね合わせる」選択肢を導入できれば,二人が協調することがナッシュ均衡になるという。

日経サイエンス
2013年 03月号
日本経済新聞出版社


量子力学を社会科学に持ち込むことは,単なる知的ゲームなのか?筒井泉氏によれば,伝統的なゲーム理論では説明できなかった被験者実験の結果を,量子ゲーム理論は説明できるという。ということは,量子ゲームは人間の社会的行動に関する何らかの本質を捉えている可能性がある。

ただし,それが実際何を意味しているかはまだ明確ではないようだ。数理モデルと実証的裏づけさえあれば科学としては十分かもしれない。しかし,量子力学と聞くと呆然と立ちつくすしかない一般の社会科学者にとって,直感的な解釈や初学者向けの解説はどうしても必要になる。

なお,昨年刊行された川越敏司著『はじめてのゲーム理論』の最終章も量子ゲームにあてられている。それだけ注目を受けている分野だということだろう。そこに書かれているように,いずれオンラインでつながった量子コンピュータに意思決定を委ねる時代が来るのだろうか・・・。

はじめてのゲーム理論
(ブルーバックス)
川越敏司
講談社
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原発をめぐる「沈黙の螺旋」

2013-02-01 15:23:20 | Weblog
昨日の JIMS 部会では,山本仁志(立正大学),小川祐樹(産総研)両先生から「Twitter における世論形成」というご発表をいただいた。取り上げられたのは,東日本大震災後に大きな政治的争点となった,原子力発電の推進-廃止に関する Twitter 上の世論の動きである。

最初に,山本さんからどのような Twitter ユーザが原発について活発に発言したかの分析結果が報告された。この研究では,ウェブ調査によって過去に原発に関してツイートしたりそれを読んだりした人々の特性を把握する一方,彼らの実際のツイートを収集・分析している。

それによれば,フォロワーやフォロー先の数が多いほうが発言が活発で,他方,同じ意見のアカウントをフォローする傾向が強いほど不活発になる。また,政治・経済問題へのオピニオンリーダー性のうち,専門知識があると自認してるほど発言が活発になることも示された。

次いで小川さんが有名な「沈黙の螺旋」モデルの検証結果について報告。まず,自分の意見が Twitter 上で多数派だと認知するほど発言が活発であることが認められた。したがって,初期の時点で自分が多数派だと感じると,ますますその線に沿った意見が増えていくことになる。

ただし,Twitter の場合,フォローする先を自分と同意見の人々で固めてしまうと,全体としては自分を少数派と認知している場合でも,活発に発言する可能性がある。それについても仮説どおりの結果となり,ソーシャルメディア特有の「沈黙の螺旋」が働いている様子が窺えた。

この研究は,宮田加久子・池田謙一両先生と共同で行われたことから,社会心理学の知見が仮説構築やユーザの特性測定に反映されている。分析はまだ継続中ということで,こうした分野横断型のコラボレーションからさらに何が生まれてくるか,今後が楽しみである。

個人的には,今回の研究対象である一般の Twitter ユーザとは別の,膨大な数のフォロワーを持つこの問題の専門家・有名人たちのツイートの影響がどうだったが気になる。原発や放射能の問題を巡って,そうしたインフルエンサーたちが Twitter 上に何人も現れたと記憶する。

おそらくそれが,原発問題が通常の「政治・経済」問題以上に複雑である所以ではないだろうか。とすると,オピニオン・リーダー性を「政治・経済」に限定して測定している点がどうか,と思えてくる。ちなみに名著『沈黙の螺旋』は,近々翻訳が出版(再刊)されるとのこと。

The Spiral of Silence: Public Opinion - Our Social Skin
Elisabeth Noelle-Neumann
Univ of Chicago Pr (Tx)
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